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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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闇の国と魔物の国3

ここまでのあらすじ


魔物の国に攻め込んだ闇の国の指揮官エンデバーたちは、その数に押され撤退することとなった。


各待機部屋に招待された者たちが集まり、定刻通りに会議が始まる。


現在闇の国の部隊は10まであるが、今回会議に出席した部隊は第1~第5までの各隊長と副隊長10名だけだった。


下位の部隊は交代で光の連合とにらみ合いや小競り合いを繰り返しており、この場には出席していない。

また、今回が重要な会議ではなく別働隊の戦果報告に近いことから、下位にはあえて呼び出しをかけていなかった。


ちなみにこの国で最も偉い皇帝は、いつもこの会議の場にはいない。

別室で会議の様子を見、天の声として時々口を出すという体制をとっている。


「では今から魔物の国との戦闘の結果報告を行う」


黒騎士ミョウコクが進行を務め、報告が進む。


闇の国での軍事会議は大体こんな感じだ。

ただ、大規模な内容になると文官が議事進行を進めたり、他の諜報機関などが出席する場合もある。


「まずは第3、第5部隊の動きからだ。魔物の国へ侵攻を開始してから1ヶ月程でこのラインまで戦線を推し進めた。

 だがそこから魔物たちの猛反撃が始まり、1ヶ月ほど戦線を維持し耐え忍ぶもこれを支える兵士たちが疲弊。そして今回撤退する事となった。間違いないな?」


「はい」

「間違いありません」


エンデバーとカサンドラはその説明に同意する。


「次に魔物を倒した数と各部隊の被害だが、こうなっている」


第3部隊は2万ほど倒していたが、第5部隊は4万5千以上の魔物を倒している。

その代わりに第3部隊は8百名ほどの死者に対して第5部隊は3千2百の死者が出ていた。


倍以上の魔物が襲い掛かったことを考えると、無理もない状況だったとエンデバーは考える。

自分たちの死者数も何とか負傷者をやりくりしたおかげで抑えられた数字なのだ。

3千の死者に1万を超える負傷者を抱えては、戦線が崩壊しなかった事の方が不思議といえる。


「おいおい、ひでぇーな」


結果を見た第2部隊の隊長エレシュキルが被害の大きさに驚く。

死者と負傷者が半数を超えている第5部隊は、甘く見積もっても壊滅状態だ。


「それだけの数の魔物を相手にしていたんだ、無理もないことだよ」


非難とも取れる言葉を受けて、エンデバーがすぐに擁護に回る。


「そりゃわかるが…魔石の回収もままならなかったのだろ?3万の部隊は壊滅で成果もなしじゃなぁ」


「それは!……」


思わずこの戦争を始めた事自体が問題だったと発言しようとしたが、(すんで)の所でこぶしを握り締めこらえる。

魔物の国を占領し、中立地帯を放置したまま両側から光の連合を叩くという作戦を指示したのは皇帝陛下なのだ。


その皇帝陛下の作戦を真っ向から否定するのはさすがにまずいので、エンデバーもそれ以上は言葉が続かない。


実際、過去3度の魔法大戦でも大事なところで横やりを入れているのが魔物の国と言われているので

これをまず叩き潰すという発想は反対する者もおらず、魔物の国に出兵する運びとなったのだ。


だが、憎き相手は光の連合であって魔物どもではない。

そういった心理から今回は本腰を入れた第1・第2部隊を派遣する方向にはならず、中途半端な戦略をとってしまったのだ。


「今回は結果報告だ、その辺でいいだろう」


「あぁ、俺も別に咎めるつもりじゃあない。だがなエンデバー、変にかばうんじゃないぜ」


その言葉にエンデバーは黙ってうなずくしかなかった。


エレシュキルはエンデバーのことをかなり高く評価している。

単体の戦闘能力も自分に劣らない程であり、正規兵からの信頼も厚い。


このままいけば、彼の率いる第3部隊は前2つの部隊に続く正規兵のみで構成された上位の部隊になっても良いと思われていた。


今回も死者を最低限に抑え、資材と魔石を回収したことを考えると、彼の部隊だけ見れば言うほど損害は大きくない。

ただ、ここで第5部隊をかばうのだけはまずいとエレシュキルは考えていた。


第5部隊が敢えておとりになったことは知っていたが、それを知った上で踏み台にするべきだった。


カサンドラには悪いが、他人をかばうのならまず自分がかばえるだけの力を付けなければならない。

だが、残念なことに今のエンデバーはそこまでの立場ではない。


たとえ正しい主張だとしても、軍において自分の立場を超える行動はわきまえなければならない。

闇の国は『大いなる闇の中では共に一つ』という考えがあるため、ある程度仲間に甘いところが見られるが、それでも何度も繰り返すようではいつか足をすくわれる。

エンデバーも仕方なく注意せざるを得なかったのだ。



その後は、魔石の入手状況や資材の損耗状況が表示される。


第5部隊は資材を気にすることなく撤退したので、魔石や資材関係の回収率は悪い。

だがその時の状況なども同時に記されており、ミョウコクも詳しく説明していたので、皆渋い顔をしつつも不満は言わなかった。


「状況は以上だ。厳しい結果となったが、まずは両名、ご苦労だった」


「ありがとうございます」


「はっ、もったいないお言葉です」


エンデバーもカサンドラも渋い表情で答える。

そんな中、第4部隊の隊長ファニータがミョウコクに尋ねた。


「これですと、第5部隊は立て直すだけでもかなりの時間がかかるでしょう。これから光の者達を叩く予定だったのにどうするのでしょう?」


「第3、第5は立て直しを優先するので抜きでやる。残念だがあまり時間に余裕はない。今やっている時間稼ぎも、そろそろ向こうがしびれを切らしてくる頃だ」


ミョウコクの一言にエンデバーとカサンドラは悔しさをかみしめる。

光の連合の悪鬼どもを倒すべく腕を磨いてきたのに、いざ本番という時に留守番で軍の立て直しをさせられることになったからだ。


とはいえ、第3部隊の状態でも半年以上、第5部隊は正規兵に多数の死者が出てるうえ、小隊や中隊の指揮をとれる者にも死者が出ており、少なく立て直しに数年はかかる。

それがわかっているからこそ、2人も文句は言えなかった。


「いいけどさぁ、こいつらの処分はどうするんだ?」


「それについては皇帝陛下からお言葉をいただく」


ミョウコクの声に反応するかのように、薄暗い部屋がさらに暗くなりお互いの顔も見えなくなる。

そして会議の場が皇帝の魔力に包まれた。


しばらく沈黙が続き皆が緊張する中、静かにお言葉が告げられる。


「エンデバー、カサンドラ、両名は今回の戦いで素晴らしい活躍を見せ、厳しい戦局の中、味方を鼓舞し多くの命を救った。素晴らしい活躍だった」


皇帝の言葉を全員が黙って聞く。

当人たちは緊張して軽く体を震わせていたが、強い意志でどんな処罰でも受け止めようとしていた。


「だが両名は多くの命を失った責任を取らねばならん。エンデバーは半年間首都ナトロンから出ることを禁ずる。部隊の立て直しに当たれ」


「はっ、ありがとうございます」


降格の処罰もなくほっとするエンデバー。


「次にカサンドラ、部隊を半壊させた罪は負わねばならん。お前を第5部隊の副隊長に降格させる。現副隊長を隊長とし部隊の立て直しに尽力せよ」


「はっ、ありがとうございます」


皇帝の命で無茶な作戦を押し付けられようが、結果に対する処罰は負わなければならない。

カサンドラはきつく目を閉じ自分を納得させて、皇帝からいただいたお言葉に感謝を示した。


「陛下、1つ発言をお許しください」


彼女の処罰を聞き、我慢できずエンデバーは発言する。


この時のタイミングは重要だ。皇帝の言葉を遮ることは許されないし、だからといって処罰が確定した後に意見を述べたところで覆ることはほとんどない。

その絶妙な隙間にエンデバーは言葉を挟んだ。


「なんだ、申せ」


「カサンドラは私たち実力のある第3部隊の方を残すことが闇の国全体にとって利があると考え、あえて自分たちを盾にして大きな損害を受けました。

 指揮官として、共に一つという闇の教えにおいて、彼女は非常に優れています。それに気づけなかった私にこそ、厳しい罰が与えられるべきだと思います」


こぶしを握り締め、事前に考えていた言葉を丁寧に話す。

周りの者たちはカサンドラを含め誰も意見を述べず、しばらく沈黙が続いた。


すると部屋全体の魔力の圧が強まり、会議に出席したメンバーは皆、それを黙って耐える。


「ほぅ、ならば半年後にカサンドラの働きぶりで再び評価しよう。そしてお前たち2人にはさらなる罰を与える。

 立て直しが終わり次第、その命が闇に同化するまで光の者どもを狩りつくせ。今回の処分は以上だ」


そこまで言うと会議の場から皇帝の魔力は消え失せ、部屋が元の薄暗さに戻る。

座っていたミョウコクが再び立ち上がると、再び全体に向け話し始めた。


「処分は決まり、これで魔物の国との一件は終了だ。国境線の向こう側に魔物の姿は見られないので今は第7部隊に任せておけばいいだろう。これより我々は光の連合へと注力するぞ」


その場にいた全員が待っていましたと言わんばかりに強く頷く。

闇に属する者にとって、光に属する者は生まれた時から滅ぼすべき相手なのだ。


我が強く互いに争い合う醜い光の者たちは、滅してこそはじめてこの世界に平和と安寧が訪れる。

闇の国では多くがこのような考えを持っており、軍に属する者に至ってはほとんどがこの考えに賛同している。


「構わんぜ、だがせめて第3部隊の復帰は待った方がいいんじゃないか?今回の光の奴らは兵の質が高い。

 小規模の突撃を繰り返してる第8部隊からはそんな報告が出てるぜ」


「確かに…そういった報告も出ていました。それならばこちらも少し質を上げるために時間を使ってはどうでしょう。

 急ぎ兵を集めたこともあり、その2部隊以外も兵の質も下がっていることでしょうから」


ファニータに提案にこの場にいる一部が関心を示す。

今回、魔物の国との戦で急遽傭兵や素体の者を民兵としてかき集めた分、練度が低いことは否めないからだ。


「しかし、それだと金も期間もかなり必要になるな…」


ミョウコクは難色を示すが、他はおおむね同意の雰囲気だ。


「いいんじゃねーか。光との境界線は順番で守って裏で鍛錬って寸法さ。こういう時こそ俺たちに有利な数を使わないと損だぜ」


「1つ懸念があります。私たちが戦争中に時間を稼ぐため、ずいぶん光の悪党どもを挑発していたようですが、そのまま防御に徹して大丈夫ですか?」


罰を受け発言しにくい立場だったエンデバーだが、懸念に感じることがあればさすがに黙っていない。

目の前の資料には、闇側がちょくちょく兵を出しては挑発し小規模な戦闘を繰り返したと表記してあった。


ちなみにそこそこの被害が出ているのだが、この資料では伏せられている。

だが相手は互いに攻撃特効の光の者、被害が出てないことは誰だってわかっていた。


「結構好き勝手やられていたからな、俺のところが一発カウンターかましてくるぜ。そうすりゃあいつらも大人しくするだろ」


「なら、境界線はまず第2部隊に任せて、その後順番で防衛に当たることにする。しっかり委縮させろよ、エレキシュル」


「あぁ、任せとけよ」


直近の対処も決まり、全体的に部隊の強化と立て直しを計りつつ、再び1ヶ月後に会議を開くことにして解散となった。




会議が終わりカサンドラが慌てて話しかける。

エンデバーが皇帝陛下に物申してまでかばってくれたからだ。


「本当に感謝する、エンデバー殿。私は打ち首も覚悟しておりました…」


「あくまで闇の国のためだよ。君ほどの使い手を失うのは陛下も痛手と思ったから、了解してくれたんだと思うよ」


「それでも…」


心から感謝するカサンドラにエンデバーも少し照れながら話しかける。

そこへエレシュキルが話に割り込んできた。


「お前ら、いちゃつくために陛下がお許しになったんじゃねーんだぞ」


その声に2人はびしっと姿勢を正す。


「もちろんです、この身は闇のために」


「光を討ち平穏を得るためにこの身を捧げます」


急に真剣な表情になる2人を見てエレシュキルも少し驚いていた。


「……あぁ、闇のために身をささげるのは当然だ。だが、命は大事にしろ。向こうの手練れはこっちより多いんだ。

 簡単に死んだら残ったものに迷惑かけるだけだからな」


甘ったれた対応を注意したら思ったよりも真剣に受け止めており、罰が悪くなったのかエレシュキルは一方的にまくし立てて出て行った。


その後ろ姿に2人は軽く頭を下げ感謝する。

彼がちゃんと自分たちの命を気にかけてくれていたからだ。


「皆、2人が早く戦線に戻ることを期待している。頼むぞ」


ミョウコクはそれだけを告げるとエレシュキルの後を追うように出て行った。

ほっとしていると後ろから第4部隊の隊長ファニータが声をかける。


「お二人とも、これかしばらくは鍛錬で顔も合わさなくなるでしょうし、今日は奢りますので飲みに行きましょう」


「いや…さすがにそれは……」

エンデハーは少し遠慮気味になるがカサンドラは酒が飲みたかったようで賛成する。


「彼女だけでは生還祝いになりません。来てくれますよね、エンデバー殿?」


「わっ、わかったよ」


戦いと戦いの合間の休息。

それは仲間を失った悲しみ、これからやって来る恐怖に耐えるために必要なものなのかもしれない。


今話も読んでいただきありがとうございます。

現在、挿絵用のイラスト依頼も行っており、色々とスケジュールが大変ですが、頑張って乗り切っていきます。

今回の話もあと1話で終わる予定なので、次の次からはまた主人公が出てくる予定です。


誤字等ありましたらご指摘いただけると助かります。

ブクマや感想など頂けると嬉しいかな。

では次話は3/4(水)更新予定です。

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