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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
5章 貴族への階段(190話~255話)
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闇の国と魔物の国1

ここから5章のはじまりです。

まずは闇の国と魔物の国の衝突のお話から。


ここは闇の国の西方に位置する、魔物の国と接する境界付近。

そこに黒い服を身にまとった大勢の兵士がいた。


闇の皇帝の命により、闇の国第3部隊の正規兵1万と民兵2万、計3万の部隊が魔物の国に足を踏み入れていた。

数km離れた先には同じ規模の第5部隊も進軍し始め、計6万人の兵士により闇の国は魔物の国へと侵攻を開始する。


この圧倒的な数の兵士たちに対する魔物の国の防衛は火の狼2千と、それをサポートする風の小鳥約千匹程度が2セットいるだけ。


前方の魔法使いが魔法障壁を張り、後方の魔法使いが圧倒的な物量による面に対する魔法攻撃を繰り返す。

そんな単純な戦術で、3千もの魔物たちは闇の部隊を押しとどめることが出来ず殺されていった。


侵攻直後は圧倒的に有利な闇の国が前線をどんどん押し進めていき、この調子ならば簡単に魔物の国を制圧できると考えられていた。


だが闇の国の兵士たちが倒しても倒しても、魔物たちは次から次へとどこからともなく現れ、昼夜問わず恐れもなく襲ってくる。

さらに魔物の国に深く侵攻すればするほど、魔物たちの数と強さが増していく。


そして時間が経つにつれ状況は逆転し、疲労が増した闇の兵士たちは次第に崩され、負傷者が量産されていった。



第3部隊の隊長エンデバーはこの状況に頭を悩ませる。

最戦線はまだぎりぎり優位が保たれているが、そこを守る兵士全体の疲労が激しい。


疲労回復のために兵士を入れ替えようにも、負傷者がかなり出ていてローテーションがうまく機能しない。


とはいえこのまま魔物を駆逐できなくなれば、戦線を元の境界線まで下げるしかなく、何も得るものがないまま死者だけを量産した結果だけが残ってしまう。

それは首都でこの作戦を決定したものたちが納得しないだろう。


だからといって、このままこう着状態を強引に続けては、負傷者が増え続け仕舞いには退却すら困難になる。

状況から言って残された時間はあまり多くはない。


難題山積でエンデバーが頭を悩ませていたとき、1日の結果を報告する兵士がやってきた。


「本日の状況を連絡します。戦線は命令通り維持、負傷者は530名、死者45名です」


「結構な死者が出たな…」


魔物の国との戦いが始まった最初の1ヶ月は、負傷者は出るものの死者はほぼ出なかった。

だが今や、死者は毎日2桁、負傷者は3桁が当たり前だ。


本国の作戦本部に撤退の許可を3度申請したが2度拒否され、3度目の回答はまだ返ってきていない。

あくまで作戦本部のせいではなく現場の責任ということで撤退を申請しているが、今のところそれも望み薄だ。


3度目の申請はもう10日前になるが早く許可が下りないと取り返しのつかないことになる。

エンデバーは焦りと苛立ちを募らせていた。


光の連合という巨悪と戦うために兵士となった者たちをこんなところで死なせるのは申し訳ないと思っているが

3万という巨大な部隊を扱う隊長であれ、本国の指示には逆らって勝手に行動することはできず、この場にとどまるしかないのが実情だ。


「本国からの連絡は?」


もう何度目になるか、エンデバーは周囲に尋ねるが誰も何も答えずただ首を横に振るばかりだ。


「仕方ない、今夜も我々が出る。負傷者は後方の補給拠点に移動させておけ」


悔しそうにしながらも、エンデバーは優秀な兵士100名を率い押し込まれそうな地点をサポートする遊撃隊として戦線へと向かった。



昼夜問わず散発的にこちらの戦線を突いてくる魔物たち。

ちゃんと統制が取れているようで、同じ場所を2時間おきに叩いてきたり、急に場所を変えて薄いエリアを狙ってきたりと油断ができない。


むきになって進軍しようものなら、強敵を混ぜてカウンターをくらわしてくる。

だからといって黙って防御に徹すると、回復させまいとねちねちと遠距離攻撃を続けるなど、魔物とは思えない想定外の攻撃が多い。


さらに厄介なのが火の狼の大軍に、わずかに混ざっている光の狼だ。

燃え盛る火の槍が数百飛んでくる中、狙いすましたかのように十数本だけ光の槍が混ざっている。


ただ燃え盛る火の明かりで目視では見分けがつかず、一斉に飛んでくる魔法を闇の強化盾で防ぐと、少なくとも十数名が光の槍に貫かれ負傷してしまうのだ。



エンデバーの部隊がいつもどおり巡回していると、魔物から攻撃を受けている箇所を発見した。

既に少し押し込まれており、周囲の味方が援軍に出ている。


「我々は横をつくぞ!」


エンデバーの指示の元、突撃している魔物の集団の横へ向かって距離を詰める。


「百の矢、用意!」


<風の板>に20名ずつ乗った中隊5つが一斉に型を組み始め、近づいて一斉に発射し、万に近い闇属性の矢が魔物たちに降り注いだ。

強力な攻撃を受けた魔物たちの勢いが落ち、押し込まれていた味方から歓声の声が上がる。


「隊長が来てくれたぞー!今のうち負傷者は下がれー!戦線を整えろ!」


味方の歓声が響き、エンデバー率いる部隊にも笑顔が広がる。


「よし、そのまま第2射いくぞ」


隊長の声に合わせ、前方で慌てる魔物たちから一定の距離を保ちながら2射目の準備をしていた時

横から魔力反応を感じた兵士が慌てて大きな声を上げる。


「隊長、左に敵の反応が!」


その声に反応したエンデバーと兵士たちが左側を確認すると、50m程先に100匹を超える燃えネズミが近づいていた。

燃えねずみは大きさが20cmほどもあり、スピードと攻撃力を兼ね備えた危険な魔物だ。


エンデバーの部隊が反応するより早く、前方の燃えねずみたちが<中爆発>を使い数名の兵士たちが爆発に巻き込まれ吹っ飛ばされる。

左側にいた2つの中隊は風の板が破壊され、兵士たちが地面に落ちてしまった。


さらに後方のねずみたちが一斉に<火弾>を使って、百発近い火の玉が兵士たちに襲い掛かる。

しかしそこは優秀な兵士たち。すぐに無事な兵士たちが地に落ちた味方の兵士たちの前に何重もの<闇の強化盾>を張り巡らせ飛んでくる火球を防ぐ。


さらにねずみたちは突っ込んできて<火吹き>を使い、口から一斉に炎を吐く。

それに対しエンデバーを皮切りに数名が<闇の波動>を使い、炎の威力を弱め兵士たちの魔法障壁が破壊されるのを防いだ。


さすが選りすぐられた優秀な部隊と言うべきか、全員すぐに体制を整え燃えねずみと距離を取って<闇の槍>を放つ。

動きの速いねずみたちは上手く回避していたが、何匹かは食らって逃げたりしていた。


「ダメだ、削りに切り替えろ」


エンデバーの指示で兵士たちは<闇の槍>から<百の闇矢>に切り替えて削り攻撃に移る。


1発の威力はかなり下がるが高密度の矢が降り注ぎ、燃えねずみが1匹、また1匹と倒れていく。

ただ倒れたネズミは爆発し、残ったねずみが爆風で前方へ飛ばされ、3匹ほどのねずみが兵士たちの近くまでたどり着いてしまった。


接近した燃えねずみは<中爆発>や<小爆発>で兵士たちを吹き飛ばそうとしたが、後衛の兵士が待ってましたと<闇の強化盾>を使い爆発を防ぐ。


が、後衛まで防御に回った分攻撃が手薄になり、今度は後方の燃えねずみたちが一気に突っ込んできた。

仕方なく兵士たちは槍を取り出し、魔力を込め突き刺して対処する。


「無理をするな、下がれ。障壁張りながら下がれ」


エンデバーが指示を飛ばした時、槍で貫かれ負傷したねずみたちが何匹も自爆する。

数が多くて耐え切れなかったのか、張られていた魔法障壁が割れ、前衛でねずみを対処していた兵士20名ほどが後衛を巻きこみながら吹き飛ばされる。


「ぐぁぁ」

「くそっ」


それでも訓練された優秀な精鋭たち。

すぐに風の板を再作成して残った人員でまとまり、魔法障壁を張りながら攻撃を再開しつつ距離を取っていく。


エンデバーの指示通りある程度距離を取ると、ねずみたちからの攻撃は止んだ。

何故かはわからないが向こうも必要以上に追って来ない。


「報告通りだな。必要以上にこちらに押し込んでは来ないようだ。飛ばされ負傷したものたちを回収し味方に合流する」


幸い死者は出なかったので大きな損害には繋がらなかったが、優秀な兵士が6名重傷、15人ほどが軽傷を負った。


「重傷者は後方の補給拠点へ運ばせろ。それ以外は前線の拠点へ戻るぞ」


周囲で他に戦闘が起きていないこともあり、負傷者を抱えての戦闘継続はリスクが大きいので

エンデバーの指示で部隊は急ぎ拠点へ戻ることとなった。




拠点へ戻ると兵士たちはすぐに腰を下ろす。

こういった遊撃は隊長のエンデバー率いる部隊が夜を、副隊長のロンドン率いる部隊が昼を交代制で行っている。


常に出ずっぱりなわけではなく、出張っては休憩を挟むことを繰り返す。

そうしなければいくら優秀な兵士たちといえども、体力も魔力も集中力ももたなくなるのだ。


休憩とはいっても魔物が押し込んできた場合は連絡が来て、援軍としてすぐに出発しなければならない。

そのため隊長を含め兵士たちは休憩時でも気を休められるわけではない。


俺たちがこの戦線を支える要なんだ、その自負が彼らの気力を支えていた。


「お前たち、ゆっくり休めよ。いつ連絡が来るかわからんからな」


「了解です」


疲れた様子を見せながらも、はっきりと返事を返す兵士たち。


「次の遊撃見回りは2時間後だ。腹減ったやつは適当につまんでおけ。魔力回復薬は6割切ったやつだけ使えよ、1日1回しか効果ないからな」


指示を出すとエンデバーは自分のテントへと戻っていく。


隊長がいなくなると、待機所はすぐに意見というなの愚痴が出始める。

優秀な精鋭とはいえ所詮は一兵士。指示される側としては順調に行ってないと、不満は出てくるものだ。


「もう2週間以上、戦線動いてないよな」


「だよな。とはいえ、無理に突き進んでも戦線が維持できないだろ。しゃーねーよ」


「だからと言って退却も許可が下りてないんだろ?」


「それは一般の兵士には秘密の話だぜ。あまり口に出さない方がいいぞ」


「だからといってこのままじりじりと削られるのを待つだけとか、勘弁してほしいぜ」


「だったらお前は重傷でも負って補給拠点まで戻ってろよ」


一応周囲に声が漏れないよう気を付けながら話しているが、内容は愚痴ばかりだ。

特に最近は遊撃に出る回数も増えていて、半日の休憩では疲労が抜けきれず、兵士たちも苦しい状況が続いている。


「あいつら愚痴ばっかだな」


離れた場所にいる第3部隊内の大隊長クルトスが大勢の兵士たちの様子を見てぼやく。

彼は大隊単位で運用する場合1000人の正規兵を任されるほどの実力者だが、今は強力な遊撃隊が必要とされるため精鋭部隊の1人として動いている。


「仕方ないさ。進むことも戻ることも出来ずもう16日目だ。それ以前もほとんど前進できない状況が続いていたからね」


側にいたもう一人の大隊長であるディエナスが水を飲みながら答えた。


「皇帝陛下の勅命には不満なく動くのが、闇の国の精鋭ってものだろう」


「お前さんのようなやつばかりじゃないのが軍隊さ。愚痴ぐらいは聞き流しとけよ…」


少し理解はできたのか、クルトスはそれ以上何も言わず軽く食べ物を積まむ。

そんな休憩時間を過ごしている時、精鋭兵が待機している場所に1人の兵士が走ってやってきた。


「隊長は、エンデバー隊長はおられますか?至急連絡を取りたいのですが」

慌てた様子で発言する兵士。


この時点で多くの者が悟った。その場の部隊だけでは受け止められない規模の襲撃があったのだと。

また出撃かと思い兵士たちの中から小声の愚痴が出る。


「おいおい、まだ1時間も立ってないぞ…マジかよ」


普通なら咎められそうな愚痴だったが、皆も同じ気持ちなのか注意するどころかそれぞれが心の中で同意した。


「エンデバー隊長なら向こうのテントで人員の調整中だと思う。急用なら直接行ってくれ」


クルトスが立ち上がって教えると、その兵士は急いでテントの方へと向かった。

その様子を見て兵士たちが各自立ち上がり準備を始める。


愚痴はこぼすが各自精鋭の自覚があり、部隊の危機は自分たちが防いでいると自負を持っている者たちだ。

必要とあらば指示が無くともすぐに動ける準備くらいは始めるのだ。


今話も読んでいただき、いつもありがとうございます。

いよいよ5章に入ったので、気合いを入れなおして頑張っていきます。ペースは変わりませんが。

大きな分岐点になる章にする予定なので、今からifも書きたいなと気の早いことも言ってみたり…。


誤字脱字等ありましたら、ご指摘お願いします。とても助かっています、本当に感謝です。

ブクマや感想等あると嬉しいかな。参考にしたりすることもあるので、ありがたいです。

では。

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