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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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幕間:魔物討伐戦 クエスたちの戦い3

ここまでのあらすじ


クエスとボサツは無事に森の中心にいた大木の巨人を倒す。

その後、雑魚狩りを引き受けたベルフォートと合流した。


ボス格を討伐できたので、もう少し森の奥へと進んでみる。

この辺りは戦闘の被害もあまり出ておらず、まだ綺麗な魔木が何本も、ある程度の間隔を開けて立っている。


よく見るとところどころに傷が見られるが、それは巨人が飛ばした魔木の欠片やクエスたちが外した魔法によるものだ。


「すごいですな、こんな光景初めてだ」


「ここは普段ごく一部の人しか入れませんので、今後は見ることのできない貴重な風景です」


そんなのんきな会話をしている横で、クエスは半径100mの範囲内を探知し続ける。

だが、狼たちの反応が全く引っかからない。


「ん~、ここら辺に魔物はもういないわね。どうも狼たちは散り散りに逃げて行ったみたい。それともベルフォートが1000匹くらい狩っちゃった?」


「いやいや、さすがにそんな数片付けるのは無理ですな」


「コウもそろそろ向こうの頭を倒しているでしょうし、そうなれば土の狼は本能で動いているだけになります」


コウの名前が出てベルフォートは戻っていった分隊のことを思い出す。

状況からこちらに戦力を集中させなければいけなかったとはいえ、さすがに彼らが心配になった。


「あっ、うちら戻らなくていいんすか?お弟子さん苦戦してるかもしれませんぜ」


「大丈夫よ、そんなやわじゃないわ。普段から私やボサツを相手に訓練してるもの」


「えぇ、マジですか……」


思わずベルフォートはぞっとする。

クエスたちと戦っているなら戦闘経験は問題ないのかもしれないが、そもそもお二人相手だと勝負にならないだろうにと思う。


いったいどんな拷問を受けさせられているのやら。

弟子とは言え、クエスたちになぶられるコウを想像しベルフォートは同情した。


ちょっと興味のある話だったが、そこにツッコミ入れてもろくでもない話しか返って来なさそうなので、そのまま聞き流す。


「さて、ここに狼たちはいないし少し広範囲を探索するため動き回りましょう」


次の獲物を探すためクエスたちが動き出してすぐ、今度は魔法使いの反応をクエスが感知した。


こんな魔物がたくさんいるところに、のこのこと単独でやってくる者などほぼいないはず。

クエスは他の2人に目で合図をして、ゴーグルで相手の位置を共有した。


相手はクエスたちに気が付いていないようで、森の中をクエスたちとは少しずれた方向に進んでいく。


「これは光属性の魔法使い…あれ、これってヨーグじゃ」


クエスはその魔法使いが、この森を管理するロザングツク家の一門のトップから派遣されたヨーグ・シヴィエットであることに気づいた。


「彼がここへ来たということは、この大事な場所の状態を見に来たということです」


「あぁ~、バックレてもどうせ私たちがやったってバレるし、先に話を付けておくしかないわね」


ベルフォートがこっそり2人の後ろに移動しクエスたちの陰に隠れる中、クエスはヨーグの方へ向かい声をかけた。

それに気が付いたようで、ヨーグが急いでクエスたちのところへとやって来る。


「一光様、三光様、それに傭兵の方、ご無事で何よりです。森が静かなようですが、今どのような状況でしょうか?」


ヨーグの実力や属性から言って、広範囲の状況を把握できなかったのだろう。

クエスたちに会うなりすぐに状況を尋ねてきた。


岩角の狼ならば1人でもなんとか倒せるであろうヨーグだが、魔物が溢れる森の中で1人では得られる情報は少なかったようだ。


「ここに陣取っていたやつは倒したわよ」


それを聞きほっとしたのも束の間、すぐにヨーグは真剣な顔つきになりクエスに質問する。


「魔木への被害はどうですか?この辺りは傷が付いたり穴が開いているものも多少ありましたが……」


「あー、まぁー、戦闘現場を見てもらった方が早いわね」


ばつが悪そうにしながら案内するクエスを見てヨーグはある程度被害が出ているのを悟った。

そしてそのまま1分ほど進むと戦闘現場が見えてきて、ヨーグは絶句してその場で固まる。


少々の被害は覚悟していたが、現場は何一つ無事な魔木が無く、すべてが根こそぎ破壊されていたからだ。


「がっ、がっ……」


「それじゃ何を言いたのかわからないわよ」


平然と言いのけるクエスに怒ることも出来ず、なんと言えばいいか困っていたヨーグを見てボサツが声をかける。


「まぁまぁ、クエス。さすがにこれは驚きます。ですが想定以上の敵がいたのでこの被害もやむを得なかったのです」


「いやっ、んっ……その、想定以上というのは……」


息を乱しながらも混乱から何とか落ち着きを取り戻し、怒りを抑えながら必死に言葉を絞りだすヨーグ。

さすがにクエスも少し申し訳ないと思ったのか困った顔を見せるので、代わりにボサツが答える。


「ここにいたのは大木の巨人、ランクAクラスの魔物です。と言ってもただの大木の巨人ではなく

 魔木を食らって表皮が固い木の皮から結晶に変化していた、魔木の巨人と言った感じの魔物でした」


巨人系の魔物は非常に強力で再生能力も持っており、大規模な討伐隊が必要な相手だ。

しかも魔木でパワーアップしていたともなれば、そのランクは討伐不能で放置すべきとされるSランク指定にもなりかねない。


それならこの惨状も仕方がないと思ったが、さすがにここまでの被害は簡単な文書報告だけでは済まされるものではない。


自分たちの一門、下級貴族のロザングツク家にとって稼ぎ頭である魔木が半壊したとなれば

さすがに彼らも黙って『わかりました』と納得するはずがないからだ。


だからと言ってここで実力も地位も上位である一光や三光に噛みついたところで、よくて無視される。

最悪ぼこぼこにされても文句を言えない状況だった。


少なくとも自分たちが助けてくれと救援を呼んだのだし、ある程度は被害をやむなしと伝えていたからだ。

まぁ、さすがにこれはあんまりだと言いたくなるほどの被害が出ているが。


さらに自分たちが事前に確認できていなかった強敵がいたのは、明らかにシヴィエット家一門の落ち度でもある。

想定外の強敵がいるというのは、命に関わる情報の不足と取られかねない。

それにより死者が出れば相手側から猛烈な抗議を受けるだけでは済まない場合もある。


そういった抗議もなく、とりあえず倒したという報告を受けるのはある意味不幸中の幸いだ。

さんざん森を破壊された挙句、巨人が強くて倒せないとさじを投げられる最悪のシナリオよりはましなのだ。


厳しい立場に追いやられ、この後どうすればいいのかわからず戸惑っているヨーグを、見るに見かねてクエスが声をかける。


「まずはこれ、大木の巨人の魔石ね」


そう言って討伐の証拠の品を見せる。

この場でレアな巨人系の魔石を見せられてもヨーグでは鑑定できないが、それでもLV30くらいの魔物の魔石よりも大きく、強い魔力を感じることくらいはわかる。


さらにクエスは映像が見られる小さい黒いパネルを取り出すと、先ほどの戦闘シーンをそれに映し出した。

背中に2つの背の低い魔木が生えており魔木と同じ結晶で覆われた巨人が、暴れては周囲の魔木を破壊し、さらに魔木を食らっている。


「すごっ、クエス殿とボサツ殿はこんな奴を相手にしていたんですか……」


横から覗いていたベルフォートもかなり驚いていた。

ましてや一光たちの実力をあまり知らないヨーグは、その映像を見てただただ驚いていた。


映像はあくまでクエスたちが全力で行く前までのものだ。

魔法使いというのは奥の手をむやみやたらに他人に晒すことを避けるので、全力で戦っているシーンがないのは仕方がないことである。


「まぁ、でたらめに強かったけどね。もう1度こいつが出てきたら、次は絶対にパスさせてもらうわ」


「それには賛成です。法外な金と暇がもらえるのなら、考えてもいいというくらいの相手です」


2人の言葉にヨーグは何も言えない。

巨人系との戦闘は見たこともなかったが、この巨人の再生力がでたらめすぎて、シヴィエット一門総出でも討伐できるか怪しい魔物に見えた。


わざわざクエスが出してくれた助け舟。

ここはその映像を証拠に森を所有するロザングツク家を納得させるしかない。


「その、申し訳ないのですが、この映像は魔石とともに提出願えませんか?見せたくない場面は消しておいても構いませんので」


「いいわよ。戻ったら編集して魔石とともに提出するわ」


「助かります。あと……その…」


「何よ、別に怒らないから言ってよね。こっちだってここまで滅茶苦茶にしたの少しは悪いと思っているのよ」


クエスがそう言いながらボサツを見ると、ボサツも軽く頷いた。


「その、討伐報酬はあまり期待しないでいただけると助かるのですが。ある程度ロザングツク家に補償として回すことになりそうで」


それを聞いてクエスがボサツを見る。

ベルフォートはかなり悔しそうな顔をしていたが、ボサツが笑顔で頷いたので口を挿むことはできなかった。


「それで問題ありません。こちらもただお金のために動いた傭兵ではないのです」


ボサツが答える横で、ベルフォートが『俺は金で動く傭兵です』と言いたそうにしているのをクエスが睨んでいた。


「ありがとうございます。それではすぐにここの対応にかかりたいので、もしよければ一光様たちはこの周囲に残っている魔物を狩っていただけると助かるのですが」


「まぁ、それくらいはいいわよ。じゃ、私たちは早速行かせてもらうわ」


そう言ってクエスたちはさっさと狼を探しに動き始める。

残されたヨーグは板挟みの立場に胃を痛めながら、すぐに戻って魔木の回収へと動くことになった。




その後クエスが本陣へと戻り魔石と映像を提出した際、ヨーグが自分たちの部隊の動きを実際とは違うよう表示してもらうよう願い出てきた。

魔物討伐を依頼しておきながら真っ先に魔木の様子を見に行ったということがばれると、ばつが悪いでは済まない。


クエスたちも自分たちがやらかした事後処理でもあったので、さすがにそこは柔軟に対応した。


ちなみに魔木の被害は全体の6割にほどに上り、ロザングツク家の家長ドッコはその報告を聞いて頭が真っ白になり倒れたそうだ。

その後、状況を理解しさすがにルーデンリア光国やクエスたちへの抗議は行わなかったが、生気の抜けた状態で帰っていったという。



◇◆◇◆◇



魔物討伐完了から数日後


この大陸の左端、中立地帯のさらに左側にある魔物たちが多く生息しているエリア、通称魔物の国。

数多くの魔物が住み着いているがあまり国境の外へは出てこないことから、光の連合も闇の国も放置しているエリアでもある。


この国の中央、巨大な山の中腹にある入り口から奥に入ったところにある広いエリア、そこの玉座に3m程の人の形をした竜人が座っていた。


この者が魔物の国を治めている竜人。名をファフニールというが配下からは『王』とだけ呼ばれている。

その王の前にとても体格の良いオークが片膝をついて王とその玉座を見上げた。


「報告します。先日配置した大木の巨人ですが、どうやら討伐されたようです」


「そうか…」


「狼の言伝なので、誰に倒されたかは不明です。事前の状況から光の連合の者たちかと思われます」


倒されたことが残念なのか、王は少し寂しそうにする。


「ふむ、それだと巨人が森にいたのは3カ月くらいか」


「はい、千と少しばかりの兵を倒した報告は以前ありましたが、それ以降の戦果は確認できません」


王は岩肌の天井を見上げ目を閉じる。

そして再び報告に来たオークを見た。


「他にはないか」


「はい、他に有用な情報は何も」


「……そうか。下がれ」


王に命じられ、立ち上がり一礼すると報告に来たオークはこの玉座の間から立ち去っていった。

虚空を見つめ、むなしそうに王は呟く。


「愚かな。これではまた別の手を打たねばならぬ。彼らはいつまであいつらの手のひらの上で踊っているのだ」


しばらくそのまま座っていたが、立ち上がると豪華な杖を取り出す。


光の連合の者が使う魔方陣とも、闇の国の者が使う魔方陣とも違う、一切精霊のマークの刻まれていない様々な色に光る魔法陣を

先ほどまでオークがいた玉座の前の広いエリアに展開させた。


「ふぅーっ。あれほどの存在を殺れるのは光の連合が誇る3つの光の柱だろう。力押しがダメなら、次はもう少し手の込んだ方法を使わねばらんな」


そう言うと魔方陣を消して再び玉座に腰を下ろす。


「こちらの苦労も知らず……嘆かわしいことだ。世界のために動くにはこちらも少し時間が必要だが、果たしてそこまで世界は待っていてくれるか」


悩みながらも先を見据え次の一手を考えるファフニールは、王というよりも難題に悩む孤独な賢者のようだった。


これで4章のおまけ話はおしまいです。

この閑話は本編に入れる予定で書いていたのですが、途中に挟むとコウの活躍がしょぼく見えそうだったのでおまけ行きになりました。


次話からは5章になります。2/24(月)更新予定です。

誤字・脱字の指摘、ブクマ、感想、色々と大歓迎です。

これからもよろしくお願いいたします。 ではでは。

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