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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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幕間:魔物討伐戦 クエスたちの戦い1

今回は2話構成の魔物討伐戦の時のお話です。

クエスたちがコウと別れた後、大木の巨人と戦った時のことを中心に書いています。



魔物討伐戦で森に入ったクエス率いるルーデンリア部隊。

狼たちに包囲されていると悟ったクエスはコウたちに指示を出し、残ったクエスを含む3人は森の中心を目指す。


後方の狼たちをコウに任せる以上、指揮を執っていると思われる本当のボスを早く倒して狼たちの統率を乱さなければ

最悪数百の土の狼と岩角の狼がコウに一気に襲い掛かることになる。


コウたちだけならそれでも何とか切り抜けられるかもしれないが同行している補助要員は厳しいだろう。

荷物持ちたちが死亡すれば今回が初陣のコウは大きなショックを受ける可能性が高い。


今はまだその経験をさせるべきではない、その考えの元クエスとボサツはスピードを上げて森の中心部へと向かう。


「ちょっ、クエス殿早くないですかな」


少し遅れ気味のベルフォートが必死に付いて行きながら大声を出す。


「無駄口叩く暇があるならもっと急ぎなさい。弟子にサポートを任せた以上、こっちも遅れるわけにはいかないでしょ」


「へいへい。まったく無茶を言う」


クエスの探知範囲に狼が1匹もかからないこともあり、3人は敵を気にすることなく全速力で進み続けた。


10分ほど進み続けるとポツポツと土の狼がクエスの探知に引っかかる。

クエスやボサツはゴーグルに映った敵を、こちらに気づく前に遠距離から一撃で倒していく。


「まだ数が少ないわね」


「総数が千匹程度ならこれでもおかしくないですが、おそらくもっと多くの数がいると思います。ならば雑魚は大物の周りに集中していると思います」


「雑魚も数がいると厄介だよな」


クエスたちの言葉に賛同するベルフォート。

だが、クエスからは叱咤が返ってきた。


「だったらあんたも少しは狼片付けなさいよ」


「いやいや、お二人がすごすぎて出番が無いんですって」


ベルフォートは困った顔をして頭を掻きつつクエスたちの後ろに続いた。



それからさらに数分後、森を進んでいたクエスが急に足を止める。


3人のゴーグルには数十m先に40程の赤い点が表示されていた。

その狼たちの奥にはここよりもさらに濃い魔力が漂っている。


「目的地の前の防衛にしてはスカスカね。ベルフォート、ここは任せていいかしら」


「へいへい。クエス殿も無茶しないでくださいな」


「そっちこそ戻ってきたら傷だらけで倒れてたりしないでよね」


「いやいや、こいつら雑魚を片付けたらすぐに援護に向かいますよ」


余裕のあるやり取りを終えるとベルフォートは型を作り始め<千の光矢>を発動させる。

たくさんの魔力の矢が放たれると、狼たちもさすがに気づいたようで、矢を食らいながらもベルフォートの方へ向かってきた。


矢を一斉に飛ばさなかったベルフォートは向かってくる狼たちへそのまま矢を放ち続ける。

その様子を見て左右に距離を置いて待機していたクエスとボサツが、狼たちの突進と交差するように一気に森の中心部へと駆け抜けた。


残されたベルフォートはほっと一息をつくとゴーグルを外し大剣を取り出す。

クエスと距離を取れば、もう探知情報を示すゴーグルなど無用の長物だ。


ベルフォートは周囲に魔力を放出して警戒し、20~30mの範囲内に左右から約20匹ずつの狼が接近しているのを感じていた。


「ちぃ、思ったより数多いな。まじで傷だらけになるじゃねーかよっと」


右側に<光の百矢>を放つと同時に左側へと走り出し、大剣を扱っているとは思えない素早い剣捌きで次々と狼を処理していった。

が、今度は前方から数十の<土の槍>が飛んで来るのに気付き、慌てて盾を取り出しつつ<光の強化盾>を張って攻撃を耐える。


「おいおい、何匹出てくるんだ。こりゃ外れくじ引かされたっぽいな」


愚痴りつつも素早い動きで、次々と狼を倒していくベルフォート。

さらに魔法を織り交ぜ、探知できる20m程先の狼も積極的に狙っていく。


ここで派手に暴れて狼を引き付けることで、クエスたちの突破をサポートするのが今の彼の仕事だ。


「さぁ、いくらでもかかってきな、狼さんたちよ」


飛びかかってくる狼を一振りで切り払うと、大声を上げて狼の注目を集めた。




一方狼の群れをベルフォートに任せて突っ切った2人はそのまま一気に前進し森の中心部へと到達する。


そこは通常時では都市ボーキュトスにいるごく一部の職人と都市を支配するロザングツク家の貴族、そしてその一門の頂点であるシヴィエット家の一部しか入ることが許されていない場所だ。


辺りの景色は一変し、今までは普通の土色の地面に草が生えている光景だったのが、地面は紫色になり木以外は何も生えていない。


その生えている木もこのあたりだけはまるで結晶化したかのような半透明の柱のようになっており、もはや植物には見えない。

表面は凸凹があり触った感じも鉱物のようだった。


「おぉ、これが魔木の原型?初めて見たわ。あれって特殊な加工して結晶みたいにしているのだと思ってたけど、実はこのまま生えているのね」


「私も初見です。魔木はこのよう生えていると知り驚いています」


よく見ると上の方は普通に葉が生い茂り、地面から途中までは結晶の塊のような柱で、途中から徐々に普通の木になっている。


「これ、1本こっそり持って帰れないかしらね」


「ばれると相当怒られると思います」

クエスの意見にボサツは呆れている。


この結晶のような木を切り出し丁寧に加工して綺麗に仕上げたものが、この森の近くにある都市ボーキュトスの特産品として高値で売られている魔木の魔道具だ。


しばらくこの変わった魔木に感心していた2人だったが、クエスが大きな魔力反応を感じ警戒するとボサツもすぐに警戒モードに移る。


「それで、私たちを歓迎してくれているのはどのような相手です?」


「ん……あっ、ギガースだ。巨人ね」


「なるほど、それならばこざかしい知恵が働くのも納得です。それで種別は硬岩の巨人ですか?ここまで土属性のオンパレードですし」


「んー、待って。この形状は……えっ、もしかして大木の巨人っぽい。やばっ」


クエスの言葉を聞きボサツも思わず困った顔になる。

巨人シリーズは魔物の中でもランクAに相当する非常に強力な相手だ。


ランクAとなると一般的な傭兵では討伐不可とされており、国が抱える優秀な魔法使い数名と最低数百の兵士で消耗戦を仕掛けつつ仕留める程の大物だ。

討伐するためには、目安として第1属性がLV42以上の強者数名が必要とされている。


「ちょっと……巨人がいるだなんて。これはさすがに聞いてないわ」


「んー、しかもここは場所が最悪です。確か大木の巨人は木を食べることで再生や魔力を回復する植物属性の魔物です」


「えっ、さすがにこの結晶化してる物体は木じゃないでしょ?」


「いえ、木だと思います。先の方はちゃんと木の形をしていますし、葉もたくさんついています。ロザングツク家も魔木として輸出してます」


それを聞いてクエスは絶句する。


大木の巨人は表皮の一部が固い木の皮で覆われているが、ここの木を食べているとなると表皮がさらに硬い結晶になっている可能性もある。

少なくとも自分たちが知っている大木の巨人じゃない可能性が高いと思い、クエスはため息をついた。


「その上この貴重な木を傷つけずに倒せとか、無理筋じゃない?」


「手加減している余裕もなさそうですし、貴重な魔木はギガースが全て食べたということにしておくのが楽そうです」


「そうね。周囲の被害より今はこいつの討伐……って気づかれたっぽい」


そんな言い訳が通じないことくらい2人ともわかってはいたが、今は目の前の魔物を討伐することが優先だ。

どうせこの魔物を放っていたらその辺の魔木を全部食い尽くされるだろうし、今更魔木を守ることを考える意味はない。


巨人が魔法を発動させる程の魔力放出したのを感じ、視線を合わせて互いに頷くとクエスとボサツは左右に分かれるように飛ぶ。

先ほどまでいたところには直径1mはある緑の光が森の中を貫いていた。


木々にはまったく影響のない光だが、光の当たった地面には小さな草が生えてくる。

だが草はすぐ枯れてしまい、元の紫色の地面へと戻っていく。


今度はクエスが避けた場所に結晶化している大木が飛んできた。

単純な攻撃なので余裕をもってかわしたクエスだが、当の本人は怒っている。


「ちょっと!私たちが破壊した扱いになるじゃない。大木投げるのやめなさいよ」


「クエス、ここは本気で行きましょう。もはやこの森の特別な力を得ている別種と思った方がよさそうです。破壊どうこうより討伐を優先です」


「そうね、確実に殺るわ」


ボサツは<加圧弾>を使い自分の体を前方へと押し出して一気に巨人との間を詰める。


クエスは剣を構えたまま薄い正五角形の金属板を数枚取り出し背中に装着する。

そして<位置交換>を使いクエスも一気に巨人のそばへと瞬間移動した。



突然近くに現れた2人に動揺することなく、大木の巨人は手に持った魔木を振り下ろす。

巨人が振るう魔力を帯びた魔木は、周囲に生えている魔木をなぎ倒しながらクエスやボサツに迫るが2人は上手くかわしながら攻撃へと転じた。


「まずはこれ、<収束砲>」


クエスの周囲から直径50cmはある2発の極太のレーザーが巨人に向けて発射される。

だが結晶で硬化した部分で受け止め、表面の結晶部分だけが光の粒子となって消えていく。


「かった。収束砲がほとんど効いてないじゃん」


表面だけは削れたと思いきや、すぐに巨人の表皮に結晶ができ始める。

巨人シリーズの魔物の多くは魔力を消費して即時に体を再生することができるのだ。

そんな再生能力を持っているうえに、皮膚の一部はかなり硬いとなれば厄介極まりない。


「こっちはこれです」


<散弾爆>を使いボサツの正面から赤い光の球が放たれる。


巨人がその魔法を受け止めようと左腕を前に出し顔を守ろうとするが、その赤い光が10個に分裂し爆発を引き起こして巨人の左腕をのみ込んだ。

巨人の腕は健在だがあちこち欠けており出血している。


だがすぐに再生し傷が消え、結晶化した表皮が元通りになった。


「これも駄目です。魔木は燃えないと聞いていますし火属性はいまいちかもしれません」


爆発に気を取られている隙にクエスは巨人の足元に強化した<光の軌跡>を放つ。


足元から2本の光の直線が肩まで進んで、その軌跡の下を光の刃が食い込むように切り裂く。

結晶化していない部分では最大5cmほどの切り裂き跡ができ出血するが、またもやすぐに再生して傷痕が消えていく。


「これ、効いているのかしら?」


「資料で見た大木の巨人の情報より再生速度が速いです。魔木の影響の可能性があります」


2人が通信機能で話している隙に巨人は<巻き蔓>で蔓を作り出しクエスの足に巻きつかせ動きを封じる。


「あっ、やば」


そうクエスが口に出した時には、すでに叩きつけようとする魔木が眼前にまで迫っていた。

クエスはすぐに<光の強化盾>を張り威力を殺しつつ両腕に魔力を集中させて、斜めから振り下ろされた巨人に一撃を受け止める。


蔓はちぎれクエスは勢いよく吹き飛ばされるが、<位置交換>で自分の位置と方向を変え真上へと飛んでいき、そのまま落下して着地した。


「骨は折れてないから大丈夫よ」


それだけをボサツに伝えると、クエスは再び<収束砲>を放って巨人をけん制する。

その後もクエスは光属性の魔法を、ボサツは風属性の魔法を中心に攻撃を繰り返す。


高レベルの魔法なら光属性でもダメージを与えられるが、すぐに再生するのでこのままでは削り合いの持久戦になりそうだった。


それでもかまわず削り続けようかと考えていた時、先ほどまで大木の巨人が手にもって振り回していた魔木を食べ始める。

クエスたちが攻撃しても食べることを優先し、食べ終わるとその辺に折れて倒れている魔木を拾い振り回し始めた。


「うへぇ、ここはあいつにとって強力な回復アイテムだらけってこと?」


「そのようです。ちまちました削りは効果薄と言っていいです。ですので大技連発で行きます。幸い相手の攻撃は今のところ雑ですから」


「はぁ、そうね。仕方ないわ」


作戦を変え大技の魔法の型を作り始めた時、巨人の足元が濃い緑色に光る。

膨らんだつぼみを複数持った植物が8本巨人の周りに生えると、それぞれから一斉に種が吐き出される。


クエスとボサツはストックから集中盾をそれぞれ取り出し、その連射される種の攻撃を防いだ。

種は障壁に当たると爆発するが、その程度では2人の障壁は突破できない。


「爆種の花まで使ってくるの?」


「そのようです。本来から使えるのか、この環境だから使えるのかはデータになかったのでわかりません」


だが種を吐き出し始めて5秒もしないうちに紫色の地面に発生したその花はすぐに枯れてしまった。


「ん?霧散じゃない、枯れてる」


「どうやらここの地面は植物が生えないようですから、私たちに有利な面もあるようです」


「とは言ってもね……<宙の千矢>」


クエスは移動しながら宙属性を帯びた魔法の矢を放ち、周囲の魔木とともに巨人にも矢が刺さる。

それに対し矢を食らいつつも巨人が<魔蔓の壁>を使い、地面から太い蔓が上へと延びて壁を作り、途中からその矢を受け止めた。


だがすぐに蔓の壁は枯れてしまった。

その間もクエスは次の魔法の型を作り続ける。


そこに後ろからボサツが<竜巻刃>を使う。

巨人を10mはある竜巻が飲み込み、その中では周囲から強い風が巨人の体を揺さぶりつつ鋭い刃が体全体を切り刻んでいく。


さすがにこのままではダメージを負いすぎると感じたのか、巨人は<植のドーム>で自分を囲む巨大な深緑の球体の障壁を張るが、ボサツの作った竜巻がそれをがりがりと削っていく。


その間にクエスは強化準備まで終えた<宙断切>で魔法障壁の中にいる巨人の体の内部を大きく切り裂いた。

この魔法は指定の空間に空きを作ることで切断する魔法で、相手の抵抗が失敗すれば体の内部だろうが切ることができる。


2人の猛攻にさすがに手を焼いたのか、大木の巨人は大声で叫び手に持った魔木にかじりつきながら<癒し木の結界>を使った。

竜巻を割って入るかのように4本の大木が巨人の周囲に一気に生え緑に光ると、傷がみるみる癒えていく。


そうはさせるかと二人が動いたところに、巨人は先ほど生えてきた大木を殴りつけ吹き飛ばし飛び道具にした。

慌てつつもボサツは<加圧弾>で一気に真横に飛んで逃れ、クエスも<位置交換>を使い短距離のテレポートで攻撃を逃れる。


「うっっっざ」


「ですが、慌てているのは効いている証拠です。このまま全力で押し切ります」


「りょーかい。ここからは本気で行くから、ボサツも手を抜かないでよね」

「ええ」


そして2人は目の前の敵に集中するためゴーグルを外した。

互いに味方を気にすることなく全力で行くという合図だ。


今話も読んでいただきありがとうございます。

要らない話かな~と思いつつも書いたので載せることにしました。

少しでも楽しんで盛られると嬉しいです。


誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。ブクマとか感想とか貰えると嬉しいです。

次話は2/18(火)更新予定です。ではでは。

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