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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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幕間:オクトフェスト家

今話は魔物討伐戦後のオクトフェスト家のお話です。


魔物討伐後の宴も終わり、中級貴族オクトフェスト家の軍の総大将であるオミッドは1人自国の城へと戻る。


今回は実力者だけを選抜するようにと上位に当たるエレファシナ家から通達が出ていたので

オクトフェスト家としてはオミッドだけを派遣していた。


結果的には地の狼という雑魚を狩るだけになってしまったが、立ち回りなどで周囲に一目置かれるような実力をアピールできたので

エレファシナ家にも評価され上々の結果だった。



城内の転移門に飛ぶと、オミッドの姿を確認した兵士たちが直立して整列し、自分たちの上官を迎える。


「大将、お疲れさまでした」


兵士たちの声にオミッドは落ち着いた様子で周囲を見回す。

兵士たちはたるんでいる様子もなく、転移門の警護に当たる人数も通常通りで問題はない。


先ほどまでは魔物を討伐する一兵員でしかなかったが、ここへ戻ってくれば兵士にかかわることのすべての責任者だ。

宴の席で久しぶり1個人として羽を伸ばしたことを思い出し、もう少し味わいたかったと思いながら厳しい表情で声をかける。


「確認手順、問題ないようだな。私は王へ報告に向かう」

「はっ」


転移門の警備隊長にそう声をかけ、オミッドはその場を後にした。



さすがに夜遅いこともあり、国王は自室にいると近衛兵に言われそちらへと向かう。


国王ジェイドの自室はかなり広く入ってすぐは応接室も兼ねており、急ぎの報告はそこで受けることもある。

国王の部屋の入り口を警備する近衛兵に声をかけて取り次いでもらい、5分ほど待たされた後オミッドは中へと入った。


「夜分遅く失礼します。オミッド、魔物討伐への派遣からただいま戻りました」


「そうか、無事に終わったようで何よりだ。それで周りの者たちはどんなメンツだった?」


「はっ、大将クラスに総指揮官、悪くても主力の第一部隊の隊長など、そうそうたる顔ぶれでした」


ジェイドはラフな格好のまま豪華な椅子に座り、立ったままのオミッドの報告を受ける。


「そうか。ならばお前を派遣した我々も十分に国の力をアピールできただろう。誰か、飲み物を持ってこい」


国王の声に部屋の隅にいた侍女が飲み物をもってきて、テーブルに二つの酒の入ったグラスを置く。

国王が目で合図すると侍女は席を外した。


「まぁ、座れ」


指示を受け、オミッドはジェイドの前の席に座る。先に国王がグラスに手を付け、それを見てオミッドもグラスに手を付ける。


「それで、肝心の調査はうまくいったか?」

期待した目を向けジェイドは尋ねる。


「三光様のガードが固く、詳細までは難しい状況でしたがおおよその確認はできました」


「ふむ、で、どうだ」


「はっ。結論から申し上げると、我が国の至宝、シホお嬢様のお相手としては不適格かと」


その報告を聞いてジェイドはいぶかしげな顔をした。

噂になっている一光の初めての弟子。その者を見極めるためにわざわざオミッドを派遣したのだ。


昨年、精霊の御子として一気に注目されたジェイドの娘シホ。

優秀な精霊の御子である娘をぜひ指導してほしいと、オクトフェスト家は家を上げて様々なルートでクエスやボサツに指導を依頼したが全て断られていた。


その2人が指導している弟子ともなれば、さぞかし優秀に違いない。

ならばぜひ自分の娘の相手に、婿として来てもらえないかと期待していたいのだ。


「どこが不適格なのだ」

不満と怒りがこもった低い声でジェイドは尋ねる。


「はっ。まず性格ですが野心的ではなくへりくだる様子が多々見られ、力強さを感じられません。

 あれでは将来我が国の王夫となる者として、いささか頼りなさを感じます。周りの者も敬意を持てぬやもしれません」


「馬鹿者、それこそわが娘の相手としてふさわしいのだ。でしゃばることなく付き従う、これこそが害のない素晴らしい夫の存在だ」


「なるほど、そう言われればそうですが……」


「必要なのは優秀な種であり、目立とうとするのは害でしかない」


それを聞きオミッドは自分の考え方を反省した。

扱いとしてはひどい話にも聞こえるが、外部の者が国をかき乱すというのはあまりいいことではない。


うん、うん、とうなずいて素直に従うような扱いやすい者の方が、無害でありシホが次の国王となった時に動きやすくなる。

そういった点で考えれば、ジェイドの主張も真っ当なものだと言える。


「それで肝心の才能の方はどうだ。わが娘を断ってまで指導しているのだろう、その才は見られたか?」


「そこに関してもいまいちかと。岩角の狼を倒したそうですが、弟子との3人がかりということでLVは35~38といったところでしょう。

 主属性は風で間違いなさそうです」


「それは目立とうとしないから嘘をついているのではないか?それかこれからもっと伸びるのやもしれんぞ」


精霊の御子である娘を断ってまでその者を指導している、この状況がジェイドを疑り深くさせていた。

だが、オミッドはさらなる証拠を上げる。


「リヒトが実力を図ろうと後ろから近づいた時もすぐに気がついていたので、その辺の将官クラスよりは優れているやもしれません。

 ですが、彼のことをよく知っているであろうギラフェット家のルルカ様はさほど興味を示しておらず、継承6位のルーチェ様がくっついていた程度でした」


その報告にジェイドは渋い顔をして肩を落とす。

実力・才能だけで人を評価するルルカのことは知れ渡っており、彼女が興味を示さない=大したやつではない、が最近では常識となってきている。


「どういうことだ……彼は才能で弟子に採用されたわけではない?」


「正確にはわかりかねますが、状況からそうではないかと」


「んむぅ……見当違いだったか」


しばらくは納得のいかない様子だったジェイドだったが、これ以上の情報はなく仕方なくオミッドを下がらせた。



国王の部屋から退席し、報告も終え、後は寝る前に兵士たちの様子を見に行こうと歩いていると

廊下の先には2人の少女がオミッドのことを待っていた。


1人は14歳の橙色のロングヘアの少女、名はシホ・オクトフェスト。

オクトフェスト家の至宝とも呼ばれる精霊の御子と認定された王女だ。


もう1人はその妹、11歳の薄い橙色のショートヘアの少女、シホの妹に当たるネネ・オクトフェスト。

彼女はまだ11歳であることから体は素体であり、魔法使いになるための精霊との契約はまだである。

(契約可能なのは12歳から)


「もう戻られていたのですね、オミッド」


「どうだった、どうだった?」


二人の幼い王女から声をかけられ、少し照れながらオミッドは答えた。


「はい、思いのほか作戦が上手く行き1日で魔物は討伐できました。残念ながら私はあまり活躍できませんでしたが」


「あなたほどの人が活躍できないなんて、世界は広いのですね」

少し驚いた様子を見せるシホ。


「言い訳がましいですが、作戦内容から我々は一光様のサポートが主目的でしたので、配置からして雑魚掃討が役目だったかと」


驚くシホにオミッドは少し申し訳なさそうに話す。

すると妹のネネが『一光様』という言葉に興味を示した。


「一光様って、あの有名な貴族殺しの?怖い人なの?」


「私も今回初めてあの方にお会いし、直接の指揮の元動いたのですが、思っていた以上に的確な判断のできる優秀な方でした」


「えぇ~、逆らうとすぐに切って捨てる恐ろしい人だと聞いていたのにぃ」


クエスが過去にやったことは尾ひれがついて伝わっているので、会ったことのない貴族のイメージは大方こんな感じである。


もっとトンデモ話になると、配下になったものは生きて帰っても不自然な死を遂げる、なんてものまである。


現実は、アイリーシア家が下級貴族であり兵も潤沢でないことから、クエスはあまり兵に被害が出ないよう気を使うことが多いので、兵からの信頼はとても厚い。

また亡国の経験を乗り越えた古参の兵士たちからは、国を再興したということで絶大な信頼間を寄せられている。


ちなみに妹、ミント・アイリーシアは周囲を巻き込む幻術を度々使うことから、味方の兵士たちからも恐れられている。


「一光様のお話、もっとお聞きしたいです」

「私も、私も~」


シホの話に妹のネネも乗っかって土産話をねだる。

だがすでに遅い時間、若い王女たちをこんな遅い時間まで起こしておいては、この国の兵士全てを任せられている総大将として、兵士への見本としてさすがに問題がある。


「では、またの機会にいたしましょう。さすがに今日は夜遅い時間ですから」


「えぇー」


駄々をこねるネネだったが、それをシホは優しく抱き寄せる。

これ以上は駄々をこねても無理だと思ったのか、ネネはすぐに大人しくなった。


「オミッド、明日の夜は空いていますか?魔法の練習に付き合ってほしいのですが」


「今のところは空いております。とはいえシホお嬢様、この間も魔法学校で圧倒的な才能を見せつけたと聞き及んでおりますが」


「あくまで同年代にライバルがいないだけです。オミッドは私より圧倒的に強いじゃありませんか。私はまだまだの存在です」


「いや、それは…まぁ」


シホの言葉にオミッドは感心しつつも少し呆れてため息をつく。

精霊の御子である以上、才能が他者より優れているのは言うまでもないが、それでもその才に胡坐をかくことなく更なる上を目指す姿勢にオミッドはいつも驚かされる。


それと同時に、この方なら将来この国を力強く引っ張っていく存在になるだろうと思った。

この方が立派になるまでお守りする役目を与えられたその幸運に、オミッドは心の中で精霊に感謝した。


そんな時、シホがオミッドに笑顔を見せると、ふわっとした口調で尋ねてきた。


「それでオミッド、一光様の弟子はどうだったのですか?」


それを言われて1テンポ遅れて固まってしまうオミッド。

なぜそれを、と思わず声が出そうになるがそこは何とか飲み込んだ。


今回の魔物討伐参加の目的の一つがシホの将来の相手候補を探るためだということは、部下の兵士たちはおろか、誰にも知られていないはずだった。

それを自然に質問されてしまっては、さすがのオミッドもさらりとかわすことが出来ず、思わず反応を見せてしまう。


父である国王が娘の気持ちなど一切考えず、ただ国のため彼女にあてがう優秀な種馬を探していることは

シホが余計な動きをしないよう、オミッド以外には誰にも伝えれていない極秘事項だ。


なのに当の本人にずばりと言われてしまったため、普段は落ち着いているオミッドも取り乱してしまったのだ。


「あら、驚かせてしまってごめんなさい。ですけど、そんな反応をしてしまってはその通りだったと証明することになりますよ」


かまをかけましたと落ち着いて笑顔を見せるシホ。

それを見てオミッドは何と声をかけていいのかわからない。


「お、お嬢様…」

「それでは私たちは部屋に戻ります。オミッドも今日は休まれた方がいいですよ。実戦は魔力以外にもいろいろと消耗すると聞きますから」


何事もなくいつもの笑顔でシホはネネを連れて部屋へと戻っていく。

残されたオミッドは固まってしまった自分の失敗をただ悔やむしかなかった。


「この国のためとはいえ……あの優しいシホ様の気持ちを、国王様も少しは考えていただけたら」

ゆっくりと歩いていく彼女の後姿を見ながら、思わず右手のこぶしを強く握ってしまう。


だが、考えたところでオミッドがどうこうできる話ではない。

軽くため息をつき、気を紛らわすついでに場内を巡回してから、今日の疲れを取り明日へと備えるため眠りについた。


お読みいただき、ありがとうございます。

この話は出さないでもいいかなと思いつつ、やっぱり出すことにしました。

ほとんどキャラ紹介にしかならないお話ですが、登場させるなら、とりあえずこの辺かなと思いまして。


誤字など発見されたら、ご指摘いただけると助かります。

ブクマ・感想・評価など頂けるとありがたいです、本当に。


次話は2/15(土)更新となります。 魔物討伐戦の時の別サイドのお話で2話構成です。では。

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― 新着の感想 ―
[一言] 武を重んじるとか武に精通してる輩が実物見て分からず噂に踊らされてるだけなら大したことないわな。
2021/10/07 13:03 退会済み
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