魔物討伐戦14
ここまでのあらすじ
狼たちの討伐を終え各部隊が戻ってきたので、クエスたちは結果報告の場へと赴く。
辺りはすっかり暗くなっていたが、この陣内は各所に使われている光の魔法で暗さを全く感じない。
作戦会議用の大きなテントの周りにいる兵士たちも、無事討伐が終わったからか心なしか晴れやかな笑顔をしている。
クエス師匠が近づくと兵士たちは腕を軽く前に出し頭を下げて一斉に声をかける。
「皆様、お疲れ様でした」
その言葉は師匠達だけでなく、大物を狩った俺にも言われているような気がして心が緩む。
ダメだ、ダメだ。
一瞬照れ臭くなり表情までもが緩んだが、すぐに落ち着きを取り戻し平静な気持ちへと戻る。
テント内で先によいしょされまくったのが意外とよかったのかもしれない。
魔王を倒した勇者でも王様の前でニヤニヤしたりしないもんな。ここはしれっとしておいた方がむしろ印象がいいだろう。
そもそもちょっとだけ活躍した俺がニヤついているとか、普通に考えて気持ち悪いったらありゃしない。
テントに入る直前、ボサツ師匠が少し振り返って俺の様子を見、大丈夫そうだと思ったのか落ち着いた笑顔を見せる。
今は師匠達にちょっとだけ認められればそれでいい、そう思いながらテントの中へと入った。
テントの中へと入ると各代表の席には酒の入ったグラスが置かれているようで、既にテント内が酒臭い。
一応全員がまだ正常な状態を保ってはいるが既に祝賀ムードになっているところが、魔物討伐が無事に終わったことを物語っている。
総指揮官として中央の席に向かうとクエスは立ったまま話し始めた。
「今回は皆の協力のおかげで、死者を出すこともなく無事に魔物の討伐が完了できた」
「まぁ、俺たちは一光様の小間使い程度しか協力できなかったけどね」
そう言いながらユリオン・レンディアートが満足そうに酒の入ったグラスに口をつける。
「それじゃ全員が酔って聞き逃さないうちに、今回の討伐数を公表しておくわ。魔石の数から算出した結果よ」
そう言うとクエス師匠の頭上に黒いパネルが集まり、各部隊ことの討伐数が表示される。
ルーデンリア光国部隊:1270+3☆
融和派部隊:279
シヴィエット家一門部隊:223
エレファシナ家一門部隊:339
支配派部隊:370
俺たちの部隊の討伐数が群を抜いているのを見て、歓声や関心の声が上がる。
「私たちの部隊に近い配置だった融和派とシヴィエット家の部隊は少し討伐数が少なめ、逆に遠い部隊はやや多い討伐数になってるわ。
全て狩りつくしたわけじゃないことを考えると、森の中に狼は2500近くいたと考えられるわね」
「さすが一光様、鬼のように狩りつくしてるじゃん」
「大物に雑魚が多めにくっついていただけよ。それと狼の魔石代は既に部隊長に渡してあるので、山分けの仕方は各部隊に任せるわ」
既にご機嫌なリヒト・ポンキビーンが調子よく褒めるがクエス師匠はさらっと話を流し説明を続ける。
自信があるからこそ、少々褒められても動じることなく流せるのだろうか。
師匠を横目で見ながら何となくそう思った。
「大物は全て一光様の部隊が討伐されたようで。本当に感謝します」
今回の当事国のヨーグ・シヴィエットが丁寧に礼を述べる。
「元々それが私たちの役目だったから気にしなくていいわ」
そう言ってクエス師匠はパネルに森全体の概略図を表示し、自分たちの部隊の動きを表示した。
森に侵入しある程度進んだところで岩角1体を撃破、その後進み状況から判断して二手に分かれ、片方が岩角のもう1体を撃破。
そしてもう一方の師匠たちが森の中心部で魔物の全体指揮を執っていたと思われる大木の巨人を撃破したことを説明する。
それを出席者たちは素直に感心したり、酒で上機嫌になりながら聞いたりしていた。
「さすがですね。一光様はAランクとされる巨人をも簡単に倒しますか」
クエス師匠とはよくぶつかっているらしいルルー様の配下、エンド・エレファシナが感心しつつ眼鏡を触る。
隣にいるエレファシナ家の最高戦力と言われるドストがそれを聞いて黙ってうなずいた。
「となると、別れた部隊が岩角の狼を討伐したというのは三光様ですかな」
更に隣のオミッド・オクトフェストが何気なく尋ねる。
『そこに触れるかぁ』
そう思いながら俺は少し目を閉じ、何があってもいいよう気持ちを落ち着けた。
「ボサツは私と同行して巨人と戦っていたわ。もう1匹の岩角の狼をやったのは私の弟子よ」
さすがに酔っている人もいるからか一斉ではなかったが、出発前と同じく俺の方に視線が集まって来る。
視線を浴びた俺は軽く息を吐き、目を閉じて軽く会釈をした。
「おぉ。確かコウ、だったかな。どうだった、大物の強さは?」
同じ融和派のユリオンから質問が飛んできた。
俺がどう答えればいいか迷っていると、すぐに師匠が横やりを入れ質問を止める。
「ここはあくまで全体の報告の場なので・・話を進めてもいいですか」
「わかったよ」
ユリオンは笑顔であっさりと引き下がった。
他の人たちも聞きたかったのか、この場の空気は明らかに質問させろと言わんばかりだったが、クエス師匠は無視して話を進める。
「さて、その後森に突入した各部隊がこのように動き、これで森の中にいたと思われる大半の狼は片付けられたと言えるわ。
これで今回の作戦報告は終了とします」
黒いモニターに各部隊から報告された動きが矢印で表示される。
ちなみに立ち位置の都合上、俺から師匠の頭上後方に表示されている映像は見えないが、裏側にも同じ図が表示されていたので見ることができた。
この裏側って、俺とボサツ師匠だけが見るために表示してあるんだよな。
かなり贅沢な使い方だ、これ。
師匠の説明も終わり全体が満足した雰囲気になる。
俺もほっとして少し肩の力が抜けた気になった。
「それでは、何もないようならこれで終わりにしましょう」
「少し、よろしいですか」
「ええ」
クエス師匠がこの場を終わらせようとすると、当事国の部隊を率いていたヨーグが急に手を上げる。
ちなみに彼は当事国の一門代表ということもあってか、目の前のテーブルにある酒には手を付けていない。
「一光様とコウ殿には大物の討伐として、我が国からささやかな討伐報奨金が出ています。授与式はどういたしましょうか?」
「いいわ。そんなのに手間をかけなくても」
「私もそんな手間をかけていただくのは心苦しく思います」
師匠が断るので俺もやんわりと断った。最初俺と言いそうになったのを踏みとどまれたのは自分でもナイスだと思う。
まぁ、自動翻訳では同じ言葉に訳されるかもしれないけど。
「そうですか。ではせっかくのご配慮ですし、ありがたく頂戴させていただきます。
それと出発前トマク様から依頼のありました打ち上げをささやかながら用意いたしました。ぜひご参加いただければと思います」
マジかよと思ったが、師匠も聞いていなかったようでトマクの方をにらみつける。
睨まれたトマクは慌てて首を横に振っていた。
「はぁ、そこで表彰でもやるつもりだったの?」
「まぁ、一光様がお望みなら、とは考えておりました」
「早く帰ってゆっくりしたい者もいるだろうに」
師匠がやんわりと不満をぶつけるが、この場の多くが完勝の結果に酔いしれ賛成ムードだからか、ヨーグも師匠の圧に押されずに踏みとどまる。
「もちろん参加は自由ですし、ささやかなものなので小一時間程度のものになりますが是非一光様たちも」
クエス師匠が後ろを振り返るが、ボサツ師匠も苦笑いで返すしかなかったようだ。
「分かったわ。自由参加ということで。それじゃ解散」
「後15分ほどしたら準備が終わりますので、しばらくは各部隊のテントでお待ちいただけると助かります」
クエス師匠はやられたと思いながら片手で顔を軽く隠しうつむく。
正直、俺個人としては貴族の打ち上げに興味があったが、先ほどの視線の集まり方を見るとあまり出席したい気分にはなれなかった。
困って立ち尽くしているとボサツ師匠が近づいてきて声をかけてくれる。
「クエスは話があるようなので先へテントへ戻りましょう」
「わかりました」
俺は全体に軽く頭を下げるとボサツ師匠とともに先にテントへと戻った。
◆◇◆◇
皆が退席する中、クエスはトマクにこっちに来いと手で呼ぶ。
トマクは嫌そうにしながらクエスへと近づいた。
「いや、俺あれから何もしてませんから。他国の腕利きが金銭に関わる打ち上げの開催を強引に進めさせるなんてできるわけ・・」
こっそり自分のことを腕利きと自称しつつ、自分の関与を否定するトマク。
「分かっているわよ、それは。そうじゃない、別件よ」
クエスはバカスとシザーズにコウの才能が漏れた原因がルルカであることを説明する。
打ち上げが行われるとなれば、今回大物を討伐した功労者であるコウが出席しないわけにはいかない。
その場でルルカが出発前の時のようにガンガン迫って来ると、今度は大勢の目のある場所になるので、多くの者がバカスたちのように気がつく可能性がある。
クエスとしては今回十分にコウの実力をアピールできたので、それ以上の情報を敢えて開示したくはなかったのだ。
「あぁ・・なるほど。それは参ったなぁ。ルルカお嬢様はここがチャンスと言わんばかりに飛びつくだろうからなぁ」
「だったらこう言っておきなさい」
クエスが説得の仕方を教えるとトマクは渋い顔をした。
「それ、俺が泥をかぶることになりそうなんだけど」
「貴方のところの王族なんだし、当然じゃない」
そう言われトマクは辛そうな顔をしながら肩を落として帰っていった。
「これで懸念の一つは潰せたけど・・もう帰ってゆっくりするだけだったのに、やってくれるわね」
誰もいなくなったテント内でクエスはため息をつく。
ルーデンリア部隊用のテントへと戻るが、その足取りは重かった。
30分後、今回の討伐完了を祝して祝勝会が開かれる。
会議ではヨーグがささやかと言っていたが、いくつものテーブルの上には参加人数に対してどう考えても過剰な量の料理が並んでいた。
一光・三光だけでなく、各門閥から腕利きの貴族たちが集まっているので、さすがに手を抜くわけにはいかなかったのだろうか。
ここは中立地帯との境界が近くルーデンリア光国からはかなり離れているため、すでに周辺は暗くなっているが
この会場は周囲の兵士たちが周辺警戒するとともに<明かり>や<明かり付与>の魔法を使っているので、昼間とさほど変わらない明るさになっている。
さらに貴族仕えの侍女や近侍たちがスタッフとして飲み物を配ったり料理の側にいて配膳のような仕事をしていた。
「おぉ、すげぇ」
コウはその光景を見て感動していた。
この世界の貴族たちはパーティーを時々開催していて、こういった野外の立食パーティーもないわけではない。
もちろん野外のパーティーは屋内のパーティーに比べてやや格が落ちるのだが、今回のような戦闘終了後すぐに行われるものは、だいたい野外開催になる。
出席者のほとんどは戦闘後なのでラフな格好だし、中には武器を腰に携えている者もいた。
そんな中、コウの日常は一般的な貴族の生活とは縁のないものなので、今回のようなパーティーでも滅茶苦茶感動していた。
その横にいるマナもこの光景に感動している。
マナもこう言ったパーティーに参加したことが無かったので、ちょっとした憧れがあったのだ。
「こういう時はマナと師匠が共感できてて羨ましい」
シーラはコウの元に来るまでは貴族として生活していたので、お見合いや門閥内外の交流を含めたパーティーの経験が十分にある。
そのためコウとマナのように純粋な感動ができず、ちょっと寂しく思う。
師匠が感動しているなら、自分もそばで共に感動するという気持ちの共有をしたかったのだ。
そんな残念がる様子を見てボサツが声をかける。
「シーラ、その分コウをリードしてあげればいいのです。経験は武器ですよ」
「あっ、ありがとうございます、姉さん」
シーラは元気が出たのかコウの側まで走っていった。
「なかなか面白いチームですな。あれで強いんだから、見た目だけじゃ実力はわからないものだな」
部隊の仲間というより子供でも見守るような目でベルフォートが3人を見つめる。
「ボサツ、多分私はあちこち引っ張りだこになるからコウのガードよろしくね」
「ええ、任せてもらって大丈夫です」
「じゃ、俺はぶらぶらさせてもらうかな。こんなご馳走、傭兵やってたんじゃなかなか味わえないからな」
そう言って3人はバラバラに行動し始めた。
今話も読んでいただき、ありがとうございます。
タイトルを打ち上げにしようと思ったけど、結局通し番号にしました。
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では次話は、1/31(金)更新予定です。 今忙しい時期ですが、金曜なら大丈夫。




