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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦13

ここまでのあらすじ


コウたちは無事に大物を討伐し、クエスたちと合流して本陣へと帰った。


作戦本部に戻るとまだ一部隊しか戻って来ていないということで、俺たちはルーデンリア光国部隊専用のテントに戻りくつろぐことにした。

出発時と違いテント内に数人が横になれる台が設置してあり、その上には心地よい感触のじゅうたんが敷いてあってくつろげるようになっていた。


俺は靴を脱いで早速横になると、程よい弾力に受け止められて思わず全身の力が抜ける。

それを見たシーラとマナも同じく絨毯の上で寝ころび始めた。


「うーん、こりゃ前言撤回だ。やっぱりコウはクエス殿の弟子だな」


「そう?だらけているとこだけで比較されると心外なんだけど」


そう言いながらクエス師匠も絨毯のある台に入ってきて仰向けになる。


「クエス、報告はいいのですか?」


「今荷物持ちが魔石の数を確認しているところだし、私たちは別にゆっくりしてていんじゃない?

 それにうちを含めてまだ2部隊しか戻ってきてないんだからやる事もないし」


「そうでしたか。それではちょっと外で魔石を数える様子でも見てきます」


そう言ってボサツ師匠はテントから外に出て行った。


「しっかし、コウもなかなかやるもんだな。岩角の狼を1人できっちり仕留めるとは」


「いえいえ、あくまで3人で戦ったからこその勝利ですよ」


実際1人ではもっと苦戦した可能性が高かったし、ここは手堅く謙遜しておく。

過大評価されて無茶な相手に向かわされるのを避けるためにも、自信満々に答えるのだけは避けた方がいいと思った。


「そうは言うけどここだけの話、ほとんどコウが戦っていたんでしょ?」


ある程度俺の性格を見抜いているからか、クエス師匠には戦闘時の状況が読めているようだ。


「まぁ、属性が有利だから確かに俺メインで戦ってましたけど・・要所要所でシーラとマナにはかなり助けられましたから」


俺がそう言うとマナが嬉しそうに近づいてきて、それを見たシーラも俺に近づいてくる。


「まぁ、マナちゃんは火属性だから土の強敵相手は苦手だしそうなるわね。って、3人ともそこであまりイチャイチャしないようにね」


クエス師匠に指摘され、マナは転がりながら離れていき、シーラもちょっと恥ずかしそうに距離を取る。


「謙遜する奴は珍しいが、それはほどほどにしといた方がいいな。力があるというのをアピールすることは悪いことじゃないぜ。

 それが周りに知れ渡るだけで、コウは弟子や周囲の者を守るのが容易になるんだからな」


「そういう・・ものですか」

そのことはある程度わかってはいるが、俺は敢えて言葉を濁した。


「ああ。力があるってだけで優遇されるのが魔法使いという存在だからな、覚えておくといいさ」


「わかりました。ありがとうございます」


この世界の力の価値を師匠たち以外からも聞けたのは収穫だった。

俺が起き上がり軽く頭を下げて礼を言うと、ベルフォートは困りながら笑う。


「礼を言われるほどじゃないさ。結局力が無ければ何の意味もない話だからな」


ベルフォートは目の前のお茶を飲み切ると、背もたれに寄り掛かり口を空けながら天井を見てくつろぐ。

うちらの部隊が一番大変だったんだし、少しくらいいいよなと思いながら俺は寝転がったまま静かに意識を沈めていった。




しばらくするとマナの声が聞こえて目を開ける。


「師匠、起きて、起きてよ~」


「ん~何?って、あっ」


ここが本部のテント内だったことを思い出し慌てて飛び起きる。

周りを見渡すとボサツ師匠が戻ってきており、どうやら完全に寝てしまっていたようだ。


「起きました?では、まずは各自の討伐分の魔石の数がわかりましたので伝えておきます」


荷物持ちの方々は俺たちがだらけている間も、どのグループが倒した魔石なのかを仕分けして数えていたらしい。

なんかのんきに寝ていた自分が少し恥ずかしく思えてきた。


ちなみに今回の討伐で入手した魔石の内訳は以下の通りだ。


部隊全員が対象:358個

クエスとボサツとベルフォート:515個

コウと弟子の部隊:397個

※補助要員の兵士たちへの配分は差し引き済み


岩角の狼:コウと部隊全体にそれぞれ1つ

大木の巨人:クエスを中心とした3人の部隊に1つ


ちなみに俺と共にいた荷物持ちの兵士たちもそれぞれ十匹程は確実に倒したのだが、各員に魔石5個ずつ配布ということで決まったらしい。

俺が寝ている間にシーラとマナが状況を説明して兵士たちが納得の上で決まった数だそうだ。


立場上反対はできないだろうし心から納得しているかは不明だが、そこに今更突っ込むのは野暮ってものだろう。

そもそも寝ていた俺に異議を唱える権利などない。


しかし寝ている間にそんなことが決まっているとは。

いくら慣れない探知を使い続けていたとはいえ、戻ってくるなり爆睡していた俺は本当に恥ずかしい。


同じくらい疲れている兵士たちはちゃんと残った仕事を片付けていたのにな。


「それで・・この魔石ってどうするんですか?」


「普通は換金するわよ。持って帰る人もいるけど・・めったにいないわね。加工しないと使いにくいし、加工は面倒だし」


「そっかぁ」


だったら俺の分も換金を、と言おうとしたがさっきまで寝ていた人間がいうのも厚かましいと思って、それ以上言葉が続かない。


「それで、俺の分はどうなるのかな?」


俺が戸惑っている中、横にいるベルフォートがボサツ師匠に尋ねる。


「メンバーの稼いだ分の2割が報酬と聞いていますので、土の狼の魔石174個分と岩角の狼1匹、大木の巨人1体の魔石価格の2割の5千ルピです」


「となると合計で・・いくらなんだ?」


土の狼の魔石の価格は知らないが、174×○○は確かに暗算しにくいので彼もパッとは出てこないようだ。

傭兵って金勘定がうるさいイメージだったけど、ベルフォートが変わっているのか、それとも皆こうなのだろうか。


「31000ルピです」


「それに大物は討伐報酬があるからそっちの分もちゃんと20%渡すわよ」


「おぉ、ボランティア気分で来たら思った以上に稼げて助かるな」


3万ルピと言えば、日本円で言えば600万ほどか。

すごい額だと思うが、ベルフォートが思ったより冷静に受け止めているのを見てるとこれでもまぁまぁなのかもしれない。


ベルフォートは俺より実力上みたいだし、そんな人がリスクを負ってやる仕事だと思えば、600万円でも安い・・のかな。

俺が彼の金勘定をしていた時呆けた顔でもしていたのか、ボサツ師匠が俺の前にやってきて手を振る。


「コウ、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です。こういう時の相場観とかが全くなくて、すごいのかすごくないのかわからなかったから」


「へぇ、そういやデビュー戦って言ってたっけな。俺は2割だが、コウは全額だから結構な額になるだろう」


「そ、そうですか?でも俺師匠にお世話になりっぱなしだし、全額師匠が持って行ってくれていいですけど」


「おいおい、お前さんそりゃいくらなんでも欲がなさすぎだろう」


ベルフォートは呆れているが、俺からすれば住居だけでなく普段の生活費まで全部出してもらっているんだし

アイリーシア家か師匠たちが全額貰っていくと言われても、文句が言える立場じゃないことくらいはわきまえている。


実際それ以上の額を投資してもらっているのは、日々の生活を通じて十分理解しているし。


「まぁ、コウはこういう子なのよ。でもちゃんと渡すから弟子との配分は3人で話して決めなさい」


「はぁ。それなら1/3でい・・」


「師匠、後で話し合って決めましょう」


3等分が妥当だろうと思ってそう発言したが、マナが真剣な表情で俺の言葉を遮るように被せてくる。

シーラも慌ててこっちに駆け寄ってきたので、どうも3等分は受け入れてもらえなさそうな雰囲気だ。


この場合は俺がもう少し貰えってことだよな。

普段からアイリーシア家のお金で生活しているので、使い道なんて特にないんだけど・・困った。


「コウの部隊は全体で動いていた時の4割と単独で動いていた分の全部の合計になるわね」


「はい。ですので額にすると魔石分だけで、岩角の5千ルピを含めて77900ルピです」


「えっ、マジ?だって全員でいた時4割じゃ、師匠達と半分ずつじゃ」


さっきの倍以上の額、かなりの大金だ。そもそも師匠達と半分はさすがに分け方がおかしい。俺たちが貰い過ぎだ。

しかし魔法使いってお金がかかるものなのだろうか、約8万ルピとか1日で稼いでいい額とは思えない。


「マジよ。コウはそれだけの仕事をしたのだから。それを自覚してちゃんと自信を持ちなさい」


「まぁまぁ、お金に関してはコウの態度も仕方がないです。私たちがコウに真っ当な金銭感覚を教えてきませんでしたから」


「おいおい、貴族とはいえそれでいいのかよ」


ベルフォートさんがさらに呆れているが、俺は喜んでいいのかどうかすらわからなかった。


「じゃ、コウも換金でいいわよね?」

「あっ、はい」


まぁ、魔石なんてもらってもどう使えばいいか知らないし、シーラやマナにあげるにしてもお金の方がいいだろう。

俺が了承するとクエス師匠は俺の手の甲を触れてお金を移動させる。


左腕の上に四角のモニターみたいなものが現れ、所持金が2万ルピから97900ルピへと増えて行った。

目の前で数字が増え、今回かなり稼げたことを実感する。


あくまで俺だけの力ではなくマナやシーラがいたおかげなのはわかっているが

目の前で所持金が増えていくのを見るとなんか嬉しくなってちょっと顔が緩んでしまう。

と言っても普段使う機会が全くないんだけど。


「あと少ししたら、全体への結果報告が始まるわ。大物を倒したコウも当然出ることになるんだから、堂々としなさいよ」


「えぇ、うそ・・」

師匠の一言が浮かれた気分の俺を一気に現実へと引き戻す。


「嘘ではないです。せっかく活躍したのだからここはアピールする場です」


師匠たちがこれだけ押すのだから、もはや俺に拒否権はないと言っていい。

岩角の狼くらいの強さならルトス様だってやれそうだし、俺をそんなに晒し者にしなくてもいと思うんだけどなぁ。


今までのような穏やかな日常がなくなる、そんな危機感を覚えたが流されるしかない自分がちょっと悲しくなった。

同時に師匠たちがいかに力で自由をもぎ取っているのかもわかった気がした。




それから30分後、テントの外から兵士の呼ぶ声が聞こえた。


「ご休息のところ、失礼いたします。部隊の代表の方が皆そろいましたので、そろそろおいでいただければと」


「わかったわ、もうすぐ行くと伝えておいて」


「はっ。失礼いたしました」


寝転がったまま答えたクエス師匠はすぐに起きると身なりを整える。

俺もそれに合わせて背筋を伸ばし身なりを整えた。


「それじゃ、行ってくるわ。コウもあまり緊張しないように堂々と、ね」


「大丈夫です、はい」


あくまでラッキーパンチ、隙を見せないよう有頂天にはなるな、ただ淡々とだ。

何度も自分に冷静になれと言い聞かせるが、うまく乗り切ろうと思うほど体がぎくしゃくする。


最初はそこまで気にしていなかった今回の大物の討伐だが、討伐報酬の額や周りから褒められているうちに俺はどうしても冷静になれなくなっていた。

とはいえここで氷の心を使ってやり過ごそうとすると、すぐにバレて師匠達に指摘されるだろう。


それに今後のことを考えるとこういう場も慣れておかないといけないから、魔法で冷静になって切り抜けては多分経験にもならないはず。

そう考えて落ち着こうとしても、喜びが湧き上がり落ち着けない俺の状態を見てボサツ師匠が笑う。


「コウは普段私たちが褒めても案外冷静に受け流すのに、こういう時にはダメだとは意外です」


「いや、なんかじわじわと後から来るタイプなんですよ、多分」


「もぅ、手のかかる弟子ね」


クエス師匠は俺を茶化しながらも喜んでいるように見える。

実際大物を軽傷程度で討伐できたんだし、喜ばしいことには違いない。


今までこっちに来て周りに認められるような目に見える功績をあげたのは初めてだったので、なんか照れ臭かったのかもしれない。

そう思うとなぜか少しだけ気分が楽になった。


「さっ、あまり待たせると雰囲気悪くなりそうだし行くわよ」


俺が少し落ち着いたのを見抜いたのか、師匠たちが歩き出し俺もその後を追ってテントを出た。


今話も読んでいただきありがとうございます。

遅くなりましたが、無事更新です。


誤字・誤用等ありましたら指摘してもらえると助かります。

ブクマや感想、評価などなど頂けると嬉しいです。


では次回は1/28(火)更新予定です。

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