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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦12

ここまでのあらすじ


マナとシーラのサポートを受け、こうはなんとか大物『岩角の狼』を倒した。


完全に動かなくなった岩角の狼を見下ろしていると、自分が息を切らしていることに気が付く。


「師匠、やばい、めっちゃ狼来てる!」


突然ゴーグルの通信からマナの慌て叫ぶ声が聞こえると、俺は少し落ち着いて自分の感知したレーダーを見る。

怒りとそれに反する冷静さ、さらに強敵との戦闘が故にその狼一点に集中してしまったため、自分がちゃんと探知できていたかどうかすらわかっていなかった。


確認すると自分の正面に10匹ほど、周囲をぐるっと見回すとざっと100近い点が見える。


「シーラ、マナの方に合流後、3方向に百矢を放つ」


「了解」

「えぇ、森燃えるよ・・ん、了解」


先ほどの岩角の狼の絶叫に反応したのだろうか、それとも頭を失って指揮系統が無くなったからなのか、周囲の狼が一気にここに集まってきているようだ。


<風の百矢>

<光の百矢>

<火の百矢>


それぞれの属性を帯びた百本の魔法の矢が3方向に放たれる。

その矢が木々をなぎ倒しながら20m程まで近づいていた狼どもを次々と射抜いていく。


マナの正面には炎が広がるが、狼の足を止めるためにも消さずにそのままにするよう指示をした。


「来る」


俺の声と同時に、各方向から矢の雨を抜けた狼たちが飛び出してきた。

3方向を向いた俺たちの間に、荷物持ちだった兵士が防具を装備し隙間をフォローする。


その陣形のまま俺たち全員は、向かってくる狼や飛んでくる魔法を盾や魔法障壁で防ぎつつ、魔法と武器で次々と片付けていった。


「多すぎだって、これ~」


「マナ、横だ」

「しまっ」


マナは腕を爪で引っかかれるが、その直後俺の<風の槍>が刺さり狼は遠くへと吹き飛ばされた。


「マナ回復は?」


シーラが尋ねるがマナは傷口を見ることなく前を見たまま答える。


「今はいい、片付けてから」


「シーラ、さっきの大物からの受けた傷は大丈夫なのか?」


「大丈夫です、今は正面の敵を」


マナの傷を見て急に思い出したので、俺はシーラに傷の具合を聞いてみたがそっけない返事を返される。

確かに今は傷の確認をしている場合じゃないが、気遣いが遅れて怒ってるんじゃないかと思い俺はちょっと不安になった。


狼がやってくる中、マナと俺は正面120度シーラは正面90度をカバーして、それでも討ち漏らした狼を荷物持ちの兵士が槍で処理し続ける。


「こういう時、槍がうらやましいな」


魔法の型を組みながら思わず俺はぼやいてしまう。


「突き刺したのを抜くのが結構手間で案外不便なんですよ」


兵士たちも必死に狼に対処しながら、正面を向いたまま答えた。


「そっか。さぁもう少し耐え抜くぞ」

「了解です」


過剰にやってくる狼は統率など取れておらず、後方の狼が放った<土の槍>が前方の狼に突き刺さり狼ごとこちらへ飛んでくることもある。

そんな想定外の攻撃もあってか敵の攻撃を完全に防ぐことなど出来ず、時間が経つにつれ全員傷が増えていった。


また狼が闇雲に突っ込んできているからか緩急のつけ方も無茶苦茶で、一瞬間が空いたとしても油断が出来ずこちらは精神的に休む暇がない。


そんな状況のまま15分ほど経過すると狼たちもだいぶ静かになって来る。

数字にすればわずかな時間だが、ものすごく長い間向かってくる狼から身を守っていたように感じた。


「まだあっちにいるし」


ぼやきながらマナは<火の槍>を放ち狼をしとめる。

数分前まで周囲の木々を焼き尽くす勢いだった炎は既に鎮火させたが、マナの目の前には奥の方まで焼け焦げた光景が広がっていた。


「派手に・・燃やしたね、マナ」


「だって・・師匠が許可したし、狼がうざかったから・・」


「まぁ、何かあったら俺が謝っておくから今は油断をしないようにしよう」


会話している間、シーラが<光一閃>で50m先の狼貫く。


「ふぅ、当たった。これで見えるやつは終わりですね」


シーラもかなり疲れたのだろう、肩の力を抜いて地面に突き刺した杖に軽くもたれかかっている。


「シーラもお疲れ様。俺はもう一度広範囲を探知するからちょっと休んでていいよ」


「師匠がせっかく調べてくれるのなら、もう少し行けるので頑張ります」


シーラのちょっと強がる笑顔に癒されつつ、目を閉じて集中し周囲の魔力反応を調べる。

大量に落ちている魔石が引っ掛かりうざかったが、100m超えた先に狼が2匹引っかかる。


「ふはぁ、まだいるよ」


正直狼はしばらく見たくない気分なので思わず愚痴をこぼしてしまう。


「私が狩ってきますよ」


「いや、あくまで俺も100mちょい先までしかわからないんだから、マナ単独で行くのはまずい。

 それに真横の方向だから今は無視して連絡兵がいた場所へと向かおう。ずいぶん足止めをくらったけどその分狼はこっちに引き寄せれたはずだし」


『生きていれば』という言葉は敢えて使わずに指示を出す。

マナとシーラはそれを聞いて仕方がないかという顔をした。


俺だって本音はもう少し休んでいきたいが、いくら強敵に足止めをくらって時間が経ったとはいえ、やはり連絡兵の状況は気になる。


「コウ様。その、この魔石の山はどうしましょうか」


荷物持ちの1人が恐る恐る尋ねてくる。

狼たちを二百は倒した気がするが、今そんなものを回収していたら時間がかかり過ぎてしまう。


「あの大物の奴だけ回収して先を急ごう。連絡兵の無事が確認できれば、またここに戻ってこればいいんだし」


魔石の回収した数は功績の証になるので、普通の者なら回収を優先するのかもしれない。

だが、今の俺はクエス師匠の部隊の一員。ならば仲間の無事を確認する方を優先する。



少し無理を言って疲れたメンバーを鼓舞しつつマナを先頭にさらに森を進んだ。

あれだけ倒し続けたからか、その後10分ほど進んでも狼の存在が探知の範囲内に感じ取れない。


「いないな、狼」


「ん~、あれは後方で私たちを逃がさないための群れだったのかな」


「だったらなんで連絡兵はその先まで行けたんだ?」


何となく答えるマナの言葉に俺は疑問を持つ。

俺たちを逃がさないつもりなら、先に戻った連絡兵だってさっきの集団に襲われていたはずだ。


この場にその答えを知る者などおらず、結局疑問は宙に浮いたままになった。


「そろそろです、師匠」


「多分この辺だよ」


弟子たちの言葉に俺は足を止めて周りを見回しながら<風のサーチ>を行う。

この魔法なら魔力を展開するのとは違って範囲内の物体を把握できるので、剣や盾など装備品が落ちている場合も把握が可能だ。


と言っても半径80mの状況が一気に把握できるので逆に頭の情報処理が追い付かないんだけど。


周囲には土の狼のものと思しき魔石が数個ほど落ちていたので、ここで戦闘が行われたことは間違いない。


「魔石は落ちてるけど・・全部狼の物だし武器や盾が落ちている様子もなさそう」


もし、連絡兵がここで狼と戦って死亡した場合、彼も当然魔法使いなので死ねば魔石になる。

だが装備品はそのままそこに残るので、それをこの魔法で発見することは可能なはずだ。


「じゃあ無事なんだよ。だったら森の奥に戻って最後まで狩りつくそう」


「そうですね、ほぼ無事ということなら私たちは仕事に戻った方がいいと思います」


個人的には森の外にある前線の待機所まで戻って確認したかったが、マナとシーラがそういうなら仕方がない。

ほぼ無事を確認できたのなら、本来の狼を狩るという仕事をするべきだろう。


「分かった、まずは戻って先ほどの魔石を回収しつつ周囲を探索して狩りを続けよう」


道具持ちの兵士もかなり疲弊しているが、腹を据え同行する意気込みを見せる。

今も疲れた様子で魔石を回収していて大変なのはわかるが、ここまで来たら最後まで踏ん張ってもらいたい。


「大物も2匹倒したし、もう後は小物だらけだ。あと一息、やりきるぞ!」


「おぉー」


俺の下手な鼓舞に皆が声を上げてこの場を盛り上げる。

そして俺たちの部隊はその掛け声とともに今度は森の奥へと進み始めた。



魔石回収と狼討伐のために先ほど戦闘した場所へと戻り、回収しつつ探知範囲にかかった狼を狩っていく。

その後移動を開始し、探知範囲に入って来る狼を確実に仕留めていき、数時間かけて70~80匹ほど狩り終えた頃だった。


だんだんと暗くなっていく森の中、荷物持ちたちが<明かり>の魔法を使ってくれた。


6個の明かりが2つの軌道で俺たちの周りを周回しながら照らし続ける。

さすがに遠くは見通せないが、そこは俺の探知がカバーするので問題ない。


そうやって歩きながら場所を変えて探知した時にその網に普段と違うものを感じた。


「ん・・多分クエス師匠の探知範囲と被ったっぽい」


「ということは中央にいると思われた魔物も全部片付いたということですね」


「たぶんね、ふぅ、やっと終わりかぁ・・疲れたー」


思わず漏れ出た俺の言葉にシーラも安心したのか、疲れた体を休ませるために俺に肩を寄せてきた。

声に出すと離れて遊撃しているマナに聞こえるので、念話で『お疲れ様』と声をかけるとシーラもうれしそうに笑顔を返す。


コウとシーラの会話が聞こえたのか、荷物持ちの兵士たちもかなり安心しきった顔をしている。


「師匠、もうほとんどいませんし一光様との合流待ちでいいですか?」


「そうだね、マナも戻ってきてここでゆっくり休みつつ待つとしよう。だらけていると怒られそうな気もするけど、本当に疲れたからなぁ」


「は~い」


しばらくするとマナが戻ってくる。

俺たちが組み立て椅子に座っているのを見て、マナはすぐに荷物持ちたちに椅子を要求していた。


「しんどかったけど、マナの明るさにも結構救われたよなぁ」


「そうですね。あとは・・帰ってゆっくりしながらおいしいご飯が食べたいですね」


シーラと話しているところにマナが椅子をもってやってくる。


「もう終わりかな?さすがに終わりであって欲しいなぁ。こんなに長い時間戦ったのは初めてだよ」


「さすがに終わりだよ、最後までマナお疲れ様」


笑顔でそう声をかけたが、マナはじっと俺の顔を見つめてくる。


「師匠は今でも探知しているんでしょ、早く一光様と合流して楽にならないと」


「いやぁ、向こうと合流しても俺が探知やらされそうな気がするんだよね」


疲れ切った表情でぼやくと、シーラとマナが納得したのか笑い出す。

こんな精神的にも肉体的にも疲れるような仕事の中、信頼できる仲間がそばにいるということは本当にありがたいことだと思った。


クエス師匠の探知範囲と被りが大きくなり向こうも気づいたのか、3つの魔力反応がこっちへと近づいてくる。

20m程まで近づいてきたので俺は椅子を自分のアイテムボックスに収納し大きな声を上げた。


「師匠!お疲れ様でーす」


声が届いたのか、ボサツ師匠が勢いよく加速し一気にこっちへ飛んでくると目の前の地面に着地する。


「全員無事のようでなによりです」


「はい。多分連絡兵も遺物が無かったので無事だと思います。魔物討伐を優先したので待機所へ行って確認まではしてませんけど」


「多分コウはそこも気にするだろうと思っていました。では一緒に戻り確認することにします」


ボサツ師匠がうれしそうにするので、俺もうれしくなる。

どうやら期待された役目はちゃんと果たせたようだ。


「ボサツ、先に行きすぎだって。で、軽い傷は見られるけどその様子だとばっちり仕事はこなせたみたいね」


「大物相手は2人にかなりフォローしてもらったんで、何とか倒せました。本当にマナとシーラ様々ですよ」


そう言って俺はテンションが上がって2人を抱き寄せる。


「い、いえ・・ほとんど師匠が1人で、戦っていましたよ・・」


シーラは目をそらして否定するが、マナは抱き寄せられてうれしかったのかそのまま黙ってしまう。


「まぁ、コウがやったのには違いないわ。弟子の助力は師匠の功績の内よ」


「そんなことないですよ・・んっ?なら俺の討伐もクエス師匠の手柄ってことか・・」


それを聞いてボサツとクエスが笑う。

その言い方だったら俺の手柄も全部クエス師匠の手柄になるはずなのに笑われると思わなかった。


「コウの手柄を取ったりしないわよ。むしろ私の指示通りきっちり倒しきったのだからコウは誇っていいわ。

 今回作戦全体が上手くいけばそれだけで総指揮である私の手柄になるんだし、それ以上は求めないって」


「むしろほっとしながらクエスに手柄を譲ろうとするところがコウらしいです。ですが、そんな態度では弟子が困ってしまいますよ」


ボサツ師匠の言葉にマナもシーラも首を横に振る。

思ったよりしっかりした師弟の絆が出来ているのを感じて、今日これに参加して本当に良かったと思った。


「ささっ、もう戻るわよ。そんないちゃついているのを本部で見せつけると、いらぬ敵を作るからほどほどにね」


クエス師匠が笑いながら先頭に立ち元の9名の部隊として森の外へと向かった。


本部に向かう前に前線の待機所へと寄ると、連絡兵がかなりの傷を負って戻ってきたものの命に別状はないことを聞きほっとする。

これでクエス師匠の言葉通り、誰一人欠けることなくうちの部隊は討伐を終えることができた。


今話も読んでいただきありがとうございます。

ちょっと忙しい時期になりますが、更新はなんとかやっていきたいと思います。がんばる。


ブクマや感想など頂けるとすごく嬉しいです。テンション上がります。

最近誤字報告を頂いてます。ありがとうございます。そして、気を付けます。


次話は1/25(土)更新予定です。 多分23時くらいになるかな、と。 では。

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