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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦8

ここまでのあらすじ


森に入ったクエスたちの部隊。多くの魔物が前方にいることが分かり、コウは分かれて右側を探知する。


そんな中、クエスとボサツがすぐに異変に気がついた。

コウがサーチした敵であるの緑色の表示がクエスのゴーグルには150m先と表示されている。


「ちょっとコウ、離れすぎよ」


「無理な単独行動は危険です」


だが2人の声は集中するため音声を切っているコウには届かない。

代わりに側にいるシーラがすぐに返答した。


「いえ、コウ師匠はすぐそばにいますし動いていません」


それを聞いたクエスとボサツ、それと話を聞いていたベルフォートは疑問に思った。


宙属性と風属性は探知に関しては2トップともいえる属性だ。

限界値であるLV45での探知範囲はおよそ半径100mちょいとなり、宙属性は素早く全体を把握でき、風属性は相手に気づかれにくく周囲を把握できる。


だがコウはまだ風がLV45に到達していないので、クエスからボサツを経由して情報をやり取りする20m+20m離れた状態であっても

クエスの位置から150mも先を探知できるはずがない。


コウの側にいるマナもこの会話で気が付いたのか、ゴーグルの表示を見て驚いていた。


「うわ、すご・・師匠120m先も探知できてるし」


「うそ、あ、ほんとだ・・」


思わずシーラも驚いて口に出てしまう。


「えっと・・とりあえずコウにはそのまま探知を続けさせて。コウが見つけた右の集団は大きいけど正面と似た配置になっているわ。

 となると正面も奥にそれくらいいる可能性が高いわね。となるとこの2集団だけで80を超える・・ベルフォート!」


「わかってますよクエス殿、すでに後ろは左側に移動開始してますぜ」


「よし、他はいったんボサツのところに集合ね。しょっぱなから討ち漏らしは避けたいし状況をまとめたいから」


数分後クエスの指示により5名が元の位置に集合した。


「初段で一気に数を減らしたいわね」


「それならもう少し近づいた方が助かります」


「俺も相手の動きを探知しながら少しはやれます」


「私も<光一閃>数発なら」

「私だってやれます」


全員のやる気を見て少し考えた後クエスは簡単な作戦を立てた。


「まずはさらに20mほど近づくわ狼の40~50m内に入らない限り簡単には気づかれないでしょう。その後私とボサツで一気に20ほど正面を削る」


「なら、そろそろ木へのケアは不要ですね」


そう言うボサツはここまで1発も木を魔法で傷つけていない。

まっすぐのレーザーだけではなく、<4光折>を使って光を1度曲げて当てたりする芸当を見せている。


それはこの森が都市への木材供給の場として使われているからだ。

あまり派手に木々を破壊すると都市への将来的なダメージになってしまう。


この森の外周部では木々の間隔が広くなっているのも、普段から切り出したり植林を繰り返して管理しているからだ。


さらに中心部には魔力が濃く溜まっているエリアがあるらしく、魔法耐性や魔力通しの良い木材が取れるということでこの都市の特別な商品にもなっている。

この魔物討伐を計画した際にも、そこはできるだけ傷つけないようかなり強い要望があった。


そのようなことから、ここまでクエスやボサツは大暴れして敵をせん滅するのではなくちまちまと敵を片付けていっている。

だが、この数相手では森へのケアより部隊が怪我するのを防ぐことを優先すべきと判断した。


「おおむね私たちの攻撃に反応して狼どもは突っ込んでくるでしょうね。特に右側からくる狼をコウたちは一気に迎撃しなさい。第一波の後シーラは防御と補助に回ること。

 あと探知は任せるのでコウはできるだけ広めに敵の位置を把握しておくこと。後、万が一大物が来たら大声で教えなさい」


「了解です」


小声でコウを含む3人が同時に答え、小規模ながら本格的な魔物討伐が始まった。


20mほど前進するとクエスとボサツが魔力を後ろ側に展開しながら型をいくつも用意していく。

コウたちも少し離れ右側からくる援軍に備えて型を準備し始めた。


「始め!」


クエスが軽めに掛け声を上げると、クエスとボサツは同時に<8光折>、続いて3本の<光一閃>を放つ。

木々を貫きながら20以上の光線が放たれ、次々とゴーグルに移る緑の光が消えていく。


派手に貫かれた木々は音を立てながら倒れていった。

その倒れる音の中、狼たちの遠吠えが森の中に響く。


「来ます!正面20以上、右・・50以上・・しかも飛んでる?」


探知していた狼の位置が地上ではなくなり一瞬戸惑うコウだったが、木々を足でけりながら移動している事が分かると<風刃>を3発放ち次々と落としていく。

それに続きシーラが<光一閃>を3発放ち、4匹の狼に命中。内2匹がその場に倒れた。


「うわ、いっぱい来るし」


マナは驚きつつも用意していた<散弾爆>を目の前から狼の大群へと放った。

赤い球が飛んでいき少し進むと10個に分裂する。


そしてそれぞれがさらに飛んでいき、8発が狼の近くで爆発、残り2発が木々に命中して爆発し大木を吹っ飛ばす、

爆散したその効果で狼が飛ばされたり、体の一部がもげたり、飛ばされた木々に当たりながら20匹ほどが後方へと飛ばされていった。


その状況に合わせてボサツが<8光折>を2つ同時に放ち、その中を突進してくる狼どもの頭を的確に射抜いていく。


「右3匹突破してきます」


コウの掛け声とともに1匹の狼がコウを狙ってとびかかるが、回避用にとっておいた<加圧弾>を自分の肩と足にタイミングよく使い

回避しつつその場で回転しながら1匹の狼の首を剣で切り落とす。


残りの2匹はそのまま通り抜けていき背中を向けたまま<土の槍>をそれぞれが飛ばしてくるが、シーラが<光の強化盾>を広範囲に張って攻撃を防いだ。


「しまった、突破された」


狼がこちらを向くことなく走っていくのでコウは慌てる。


「後ろにはベルフォーとがいるから問題ない。前に集中」


クエスの強い一言によりコウたちは前方に集中しなおす。

コウたちが突破した3匹を対処している間も、クエスは正面をボサツは右側から来る狼を的確に射抜き数を減らしていた。



◆◇



一方後方のベルフォートは先方で戦いが始まると周囲20mに魔力を散らして警戒しつつ

ゴーグルに映る光を見ながらいつでも動けるように警戒態勢をとっていた。


補助要員である4名もすでに武器を抜きベルフォートに背中を預けながら周囲を警戒して立ち止まっている。

彼らには残念ながらレーダーがないので、ベルフォートからの情報だけが頼りの状況だった。


「正面から2匹、俺がやる」


<斬撃光>を付与した太刀を振るい光の斬撃を飛ばすと木とその奥にいた狼1匹を真っ二つにする。


そのすきを狙ってかもう1匹の狼が飛び込んでくるが、振りぬいたたちをすぐに回転させ振り上げるようにして狼を切り落とし

1テンポ遅れて飛んできた<土の槍>を<光の盾>で防ぎ切った。


「ふぅ、準備運動でもしとけと言うクエス殿の親切心だろうな。さっ、全員気を抜くなよ」


そう言ってベルフォートは自分の太刀に<斬撃光>をかけなおすと、いつでも迎撃できる体制をとりなおした。



◆◇



後方に走っていった2匹が消えたのを確認しつつ、前方にいる5人は断続的に近づいてくる狼を迎撃し続ける。


「次やや右から十数匹、さらに左前方からも数匹来ています」


「了解、左は任せて」


「では右は私とマナちゃんで片付けます」


「こちらは障壁の準備、いつでも出来ています」


近距離とはいえ魔法による爆発音や狼どもの吠える音の中でも、ゴーグルにより指示がはっきりと伝わるので

各自が適切な行動をとり向かってくる狼を対処し続けた。


「これでもくらえって」


マナが<破裂槍>を2本飛ばし20m程先の狼に突き刺すと、そのまま狼は爆散し即魔力の粒子となり霧散していく。

こういった森で木々の破壊を抑える戦いとなると、火属性のマナとしては少し戦いにくいようだ。


その横でボサツが使った<8光折>が木々の間を縫うようにして的確に狼の頭や体を貫いていく。

コウは探知を続けながら時折<削りの風>を使って木々の間にトラップを設置する。


不幸にもそこを突破しようとした狼は一瞬で血まみれになりその場で動けなくなる。


「こういう場面ではコウのトラップもなかなか有効のようです」


動けなくなった狼にシーラがとどめを刺すと、それを見ていたボサツがコウを軽く褒めた。


「ありがとうございます」

そう言いながらもコウは探知に集中する。


クエスの代わりに行っている探知はこの部隊の迎撃の要だ。

直前までどこから来るかわからないのであれば、とっくに全員が精神的に疲労しきってしまっているだろう。


十数分続いた断続的な狼の猛攻は、150匹超を倒しきったところでようやく止まる。

さすがに探知役のコウは気を抜けないが、他の者たちはゴーグルのレーダーに何も映らない状況を見てほっと一息ついた。


「変わるわよ、コウも少し休みなさい。慣れなくて結構きてるでしょ」


「ん、すみません。助かります」


かなり余裕がなかったのか、コウは意地を張ることなく疲れた顔を見せながらクエスに探知役を譲った。


「いいのよ、おかげでこっちも助かったわ。まさか私が思う存分動けることになるとは思ってなかったもの」


「そうですね、これは思わぬ収穫です。今回の戦闘でコウの価値はうなぎのぼりです」


「いや・・撃破数は稼げていませんから」


「何言ってるのよ、コウのおかげでのこの撃破数の上、皆無傷なのよ。今はしっかり休んでなさい、次また頑張ってもらうから」


コウはそれを聞いて腰を落とすと、マナが飲み物を手渡しシーラがタオルを取り出して汗を拭いてくれる。

そんなものをアイテムボックスに入れていたのかよと言いたくなったが、今のコウにとってはありがたかったので言うのは止めておいた。


状況が落ち着いたと判断し、クエスがベルフォートと補助要員4名を呼んで合流する。


「どう、そっちは無事だった?」


「ええ。前線がほとんど狼を通さないので5匹しか狩れず暇でしたね。皆不満がたまってるところですな」


茶化すかのように笑いながらベルフォートが報告する。


「コウが思ったより使え過ぎたので、不満ならコウに言いなさい」


それを聞いてコウが眉間にしわを寄せるが、ベルフォートは笑いながらコウに感謝を述べた。


「現状敵の一角を削っただけだとは思うけど、止まったところを見ると本隊とは別れていた集団だったみたいね」


「だとすると厄介ですな。本体とぶつかればあれ以上の数が来ることになる」


「まぁ、このメンバーならさばけるとは思います。けど大物が混ざっているのは確認されているので、それが疲れきった時に来られると厄介です」


クエスたちがこの後の行動を相談している間、補助要員たちは近くに落ちている魔石を次々と回収していく。

クエスが周辺をサーチして魔石の位置をマナとシーラに知らせ、彼女たちは補助要員を護衛しつつ場所を教えていた。


コウもだいぶ復活したが、探知に慣れておらず継続すると疲労感が大きいと判断し、十分に休むよう言われ座り続けていた。


先ほど倒した魔物からの魔石回収を終え、もう少し休むかこのまま進むかを議論していた時だった。

コウが急に立ち上がり森の奥を見る。


「師匠、多分何か来ます。嫌な雰囲気を感じます」


それを聞き一気にクエスが半径100m範囲まで探知を広げるが何も感じない。

が、1テンポ遅れて何かを感じたのかクエスとボサツは立ち上がり魔力を展開する。

その様子を見て補助要員達は慌てて後方に移動した。


とっさに全員が魔法を感じ互いに距離をとり障壁を準備する。そんな中、クエスが目の前に大きな<光の集中盾>を張った。

その障壁に数十発の石が弾丸のように当たるが障壁は割れない。


「来たわね・・大物」


探知範囲に入ったことで相手の魔力に気づきクエスがつぶやいた時ボサツが叫ぶ。


「左右に!」


とっさにボサツが引いた魔力のラインを境目に左右に部隊がわかれる。

そこに2m程の高さの岩でできた壁が突如地面から生えてきた。


「<細断>」


ボサツが岩壁に触れながら魔法を使うと横幅4mほどの部分が10cm角の細切れの岩となって崩れ落ちる。


「警戒です。補助要員はもっと後ろです」


ボサツが真剣な顔で叫ぶと全員体制を整え、すぐに魔法を連射する。

コウは風刃を放つとすぐに探知モードに入り、コウの緑の光が表示されたのを見てクエスは全力戦闘モードに移行する。


「岩角の狼のようね、かなりの大物がいるじゃない」


「また土属性?炎が効きにくくて困るのに・・」


マナは愚痴りながらコウのサポートに就きつつ爆発魔法の型を仕込み始める。


岩角の狼は土の狼の最上位個体で大量に土の狼がいると、時々生まれてくると言われている。

小さいものでも高さが1mを超え全長が2m以上ある巨大な個体ながら、土の壁などを使い器用に動く上に賢く厄介な魔物だ。


クエスは先制攻撃のお返しにと<収束砲>を両手で2発遠慮なくぶっ放す。

直径10cm以上ある高出力のビームが木々を遠慮なく貫きながら岩角の狼へと飛んでいくが、狼は目の前に2重の岩の壁を作り出しさらに2重の<土の強化盾>を張る。


岩壁は楽に貫いたが、強化壁を貫くのに手間取っているうちに狼は横ステップで回避した。


「これだから土属性は」


クエスが愚痴るが狼は突進してくることなく<岩弾連射>を使い、再びこぶし大より一回り大きな岩を20発ほど発射してきた。


「ここは私が」


シーラがそう叫ぶとすぐに<光の集中盾>を大きめに展開して岩の弾丸を受け止める。

所々にひびが入りながらも受け止めている間に、ボサツは<加圧弾>を繰り返し使って狼の横へと素早く移動し<千の風矢>を横っ腹にぶつけた。


かなりの個所から出血し木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる狼。

ボサツがとどめを刺そうかと思った時、森の奥からかなりの数の狼が来るのをコウの探知が捕らえた。


「師匠、援軍です」

「もう一発はこっちです」


ボサツは右手を狼の大群へと向け<千の光矢>を放つ。

木々は数十本なぎ倒されすさまじい音が鳴る中、多くの狼がボサツの放った光の矢によって倒れていく。


その合間をなんとか抜けてくる狼にはマナの<破裂槍>が次々とプレゼントされ爆散していく。


それでも抜け切る狼たちには、コウの<風刃>とシーラの<光一閃>が的確に命中し処理されていった。


混戦と爆音、そして土埃などが舞うこの状況でもコウの探知は的確にその場所をとらえていたため

援軍として一気に100匹以上やってきた狼どもはなす術もなく散っていった。


「さてこちらですが」


振り返ると何とか立ち上がろうとしている岩角の狼。

それを見たボサツが<空気砲>を上空から叩きつける。


薄緑色に輝く魔力の球が命中して狼の巨体が地面にめり込み、さらに2段目の圧が発動すると狼の体が軽く弧を描きながら地面に押さえつけられた。


その隙にクエスが狙いを定めて<正義の処断>を使う。


狼の首の真下にある地面に1m程の光の線ができると、その線から真上に光の細い壁のような刃が伸びる。

一瞬首に当たって止まったが、すぐに首を貫き頭部を切り落とした。


「ふぅーっ、全力でぶっ放せば土属性の奴でも案外切れるものね」


クエスは少し驚きながらも笑顔を見せる。

と同時にコウが探知した新手の狼に向かって<光一閃>と<8光折>を使って次々と仕留めて行った。


しばらくするとコウの探知範囲から狼たちが逃げていく。

茶色に光る粒子となって消えていく岩角の狼からクエスが魔石を回収すると、それを補助要員の1人に渡しつつ腰を下ろした。


今話も読んでいただきありがとうございます。

ブクマとか評価頂けると嬉しいです。


次話は1/13(月)更新予定です。

ブクマ150超え記念のイラスト案が思いつかない・・普通の立ち絵にしようかな。


修正履歴

20/01/12 一行追加


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