魔物討伐戦7
ここまでのあらすじ
作戦会議を終え、立ち話も終え、ついにクエスたちは魔物討伐へと向かう。
クエスが部隊に戻ると、ボサツはすでに作戦の説明を済ませており全員が待機していた。
その様子を見てクエスは申し訳なさそうにする。
「小話で済みました?」
ちょっと気になったのかボサツが尋ねる。
「いや。討伐戦が終わったら説明するわ」
簡単に会話を交わすと、クエスたちの部隊はすぐに森の手前にある前線の待機所へと向かう。
作戦本部のある大きな本陣からは1kmほど離れているこの場所まで、クエスは先頭に立ち軽く警戒しながら移動する。
ここから先はいつ魔物が森から出てくるかわからないエリアになるからだ。
そのまましばらく進むと前線基地とは言い難い、かなり簡易な臨時の待機所と兵士たちが見えてくる。
この待機所は1つだけ屋根だけの大きめのテントが設置してあり、中には4名の軽装の者が座っていた。
そして周囲には重装の兵士が8名、森の方を警戒している。
「待たせたかしら?異常はない?」
「異常は特にありません。狼どもはここ数日は静かですね」
報告を受けながら、クエスは当たりの様子を軽く見渡して確認する。
「そう。それにしても警備が8人とは少ないわね」
「いえ、一光様方が来られるということで兵を展開し広めに警戒に当たっております」
「なら私たちが森に入った後はこの場のみを集中して守っていなさい。連絡役を飛ばしてもここが全滅していたら意味がないわ」
「はっ」
クエスの言葉を受け、兵士はテントのそばにある道具を操作する。
するとテントの屋根からまっすぐ伸びた柱の先が紫色に光りだした。
それを少し見届けてから、クエスたちはテントの中にいる4人に声をかけた。
「待たせてしまったわね」
「いえ、問題ありません」
クエスが入ってきたのを確認するとすぐに椅子から離れ、片膝をつき答える者たち。
彼らは兵士ではあるが、いわゆる荷物持ちと連絡役をこなす補助要員だ。
戦闘で小隊や中隊を組むときに必ず部隊に組み込まれるメンバーで、主力のメンバーの予備の武器や道具を代わりに持ったり
緊急時後方へと走り前線の様子を伝えるために同行するのが主な仕事となる。
転移門という便利なもののおかげか、何もない場所での通信手段があまり発達していないこの世界では
部隊に連絡役が組み込まれるのは一般的な光景になっている。
「それじゃ、皆はすぐに使うわけじゃない道具を出して預けましょ。預け終わり次第すぐに出発するわ」
クエスの号令でコウを始め部隊のメンバー全員が様々な道具を取り出す。
魔力回復薬は1本だけ所持して他は預ける。予備の武器も預ける。
他にも休憩時に使う道具などは全て荷物持ちの補助要員に預けておいた。
ちなみに休憩時に使う周囲警戒用の魔道具や、屋根が魔法障壁になっていて周囲の木々の影響を受けずに張れる簡易テントなど
彼らが初期から持っているものもあるので、あまり多くの荷物を渡してしまうと彼らの負担も結構大変なものになる。
だからと言って文句を言える立場ではないので、黙って預かってくれるのだが。
3人に荷物を渡し終え、いよいよ森の中へと入ることになった。
「ご武運を」
複数の兵士たちの声を背に受け、クエス率いるルーデンリアの部隊が森へ侵入し魔物討伐が開始された。
森に入って数分、思ったよりも木々の間隔が広くて歩きやすく、結構日が差し込んで遠くも見渡せるくらい明るい。
と言っても、沢山の木の幹に視界が所々遮られており遠くの状況は把握しにくく、コウたちは狼の突っ込んでくる速度を考えながら常時警戒して歩く。
部隊の先頭を歩くのはレーダー役でもあるクエス・アイリーシアだ。
彼女の宙属性の魔法により半径100m程の範囲は常時把握できるらしく、進む速度は決して遅くない。
それでも戦場のような、いつ会敵するかわからない状況から、部隊の後方に位置している補助要員ですら気を抜けない状況が続く。
「ん・・2匹100m程先にいるわね。まだ気づかれていないわ」
クエスの敵を発見した一言に、全員が透明のゴーグル型の魔道具に魔力を流し起動させる。
すると正面に赤い点が二つ表示され、それぞれが92m、91mと距離まで表示された。
この魔道具は近距離の仲間にしか情報が伝わらないのが欠点だが、レーダー役が確認できた対象をその人の位置から見た場合どこにいるか表示してくれる非常に便利な代物だ。
物自体が結構高価な上、シンプルな機能の割には思ったより魔力を食うので一般の兵士たちにはあまり支給されていない。
「ボサツ、お願い」
それを聞き、ボサツは少なめに魔力を展開すると2つ同時に型を作り<光一閃>を発射する。
赤い点めがけて放たれた2本のレーザーは見事に対象の地の狼を射抜き絶命させたようで、ほどなくすると赤い点が表示から消えていく。
「こりゃ、楽できそうですな」
ベルフォートは暇なのが嬉しいのか笑顔になる。
「すごい。ボサツ師匠はどうやってあの赤い点だけでうまく狙えるんですか?」
コウは感動して自分もやってみたいと思ったのか、ボサツにコツを聞き出そうとする。
あくまで見えるのは赤い点であって、ゴーグルに狼の輪郭が見えるわけではない。
それなのに急所を射抜いて2匹とも一撃というのは、さすがは三光と言ったところである。
赤い点は一応対象の体の中心付近が表示されるとなっているが、狼の場合、縦向きか横向きかで致命傷を与えられる場所が当然変わる。
レーザー系の貫通タイプの魔法なら腹をぶち抜くだけでもしばらくすれば狼は死に至るが、今回のボサツのように即死させられるとは限らない。
攻撃をくらった後に吠えられたら仲間が大勢来る可能性もあるので、会敵前の初期段階では一発で即死させられるかどうかはかなり大きなアドバンテージとなるのだ。
すごくコツ知りたがっているコウが尻尾を振っている犬にでも見えたのか、ボサツは嬉しそうにゆっくりとコウにアドバイスを始める。
マナとシーラも興味があるようで、コウの側にいて聞き耳を立てていた。
「動きです。あの赤い点がどう動くかを見て体の向きを想像するのです。そうすればある程度頭や首の位置が想像できます」
「なるほど・・」
といったものの、とても急ごしらえで身に付く技術とは思えず、コウはその後の言葉が続かなかった。
「一応拡張機能を使えるようにしてますので、それを使えばクエスがへばらない限りは赤い点を狼の形にできます」
「それを使えば!いや・・でも」
一瞬コウは喜ぶがすぐに言葉を濁す。
「えぇ、さすがにコウは気づきますね。かなり遠い距離だと点も狼の形もさほど変わりませんので、結局は動きを読んだ方が早いです」
にこやかに説明するボサツにコウは何も言えずただ頷くしかなかった。
マナとシーラに至っては試そうという気にもなれず、とりあえず原理を理解したで止まっている。
その様子を見ていた傭兵のベルフォートはクエスとボサツは別格だなと首をかしげながら感心していた。
その後も数匹単位の見張りと思しき狼を遠距離からボサツが射抜いていく。
コウやマナそれにシーラも何とか手伝いたい気持ちはあったが、あそこまで正確に狙える自信が無く、ここはボサツに任せざるを得なかった。
急所を外せば援軍を呼ばれ大惨事を招く可能性を考えると、ここは功を焦る気持ちをぐっと抑えるしかない。
そんな状況が続き1時間程警戒しながら進んでいたとき、クエスの足が止まる。
「あと10mほどゆっくりと進むわよ。あまり音をたてないようにね」
クエスの指示により全員が緊張しながらゆっくりと進む。
それぞれのゴーグルには30を超える赤い点が正面に表示されていた。
10mほど進んで部隊全員が足を止める。
この状況も出発前には想定される1つとして、この場合どうするかある程度は作戦を練ってきている。
が、常に想定通りの状況が訪れるわけではないのも戦場の常識だ。
「ベルフォート、あなたは補助要員と20mほど下がって待機しておいて。御守、任せるわよ」
「了解、クエス殿」
そう言ってゆっくりとベルフォートと4人の補助要員は下がっていく。
「コウは2人を連れて15mほど右へ行き索敵を、私も15mほど左へ行って周囲をもう少し索敵をするわ。ボサツはここで待機を」
クエスの指示が出て全員がその通り動き始める。
コウは右に移動しながらスイッチを発信側に入れ替える。
これでクエスが発見したものは赤色に、コウが発見したものが緑色に表示されることになる。
そしてゴーグルの通信距離20mから外れないように移動して、コウは風の魔力を展開し周辺の魔力反応をサーチした。
風の魔法に周囲の物体を探索する魔法はあるが、魔物に気づかれないようここは慎重を期して風の魔力を極薄にして展開し周囲を索敵する。
この方法だと地形は把握できないが、どこに魔力の反応があるかは探知できる。
コウが魔力を伸ばしていくと、正面右側にもたくさんの反応が引っ掛かる。
多すぎてごちゃごちゃしているので正確な数は把握できないが、クエスが索敵した数とさほど変わらないくらいの数が右側にもいることが分かった。
「結構いるし固まっているし、いまいち把握できないなぁ」
コウの探知した情報がぼやけているので、全員のゴーグルにももやっとした塊が表示される。
もう少し慎重に続けるか、近づいて<風のサーチ>を使えばもっと正確に把握できるのだが、いったんここは隊長の指示を仰ぐことにした。
「クエス師匠、もやっとですがここから右側80m以上先に20~30の魔物がいます」
通信相手を全員にしてコウは話しかけた。
「こっちにはいないわね。とはいえ全部で50超えとは・・結構な数ね。もう少し時間かけていいから最大限の距離まで詳しく索敵してみて」
クエスも全体に対して情報を整理しながらコウに指示を飛ばす。
コウは指示を受けマナとシーラに自分の護衛を頼むことにした。
「これから索敵に集中するから万が一のため護衛を頼む」
「お任せください」
「任せて」
やっと出番だと2人は張り切って答えた。
環境を整えコウは目を閉じて集中する。
魔力をばらまくタイプの探知は道場でも練習はしていたが、限界まで距離を伸ばすという練習はあまりやっていない。
だが今は戦場、やっていないから無理だと諦めるわけにはいかない。
情報があればあるほど、こちらが有利に事を進められるからだ。
集中しながら、薄く広く、魔力を伸ばしていく。
先端が相手の魔力に反応して相殺し素早く消えることで魔物の存在を感じ取っていく。
薄く弱くなって自然消滅する場合との区別をしっかりつけないと魔物なのか判別できないため、コウは必死にそれだけを感じ取るようにしながら魔力をどんどん放出していった。
今話も読んでいただきありがとうございます。
ついにブクマ150を超えました。沢山の方に読んでいただけるとは本当にうれしいです。
また、挿絵を考えておこうかな……だけどいいネタが無いんだよな。
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次話は1/10更新予定です。よし、頑張ろう!