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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦6

ここまでのあらすじ


全体での作戦会議が終わりテントへ戻る途中、コウはボルティスの娘ルルカとルーチェに捕まる。

そんな時、当主の2人がコウに接触しようとしていた。


背中から誰かが近づいて来ていたが、コウは悪意を感じなかったので敢えて振り向くことはしなかった。

上級貴族の方々と会話中に後ろを振り向くのは失礼でしかないからだ。


だが目の前にいる2人が会話を止め驚いた表情をするので、もっと偉い人が来たのかと思い正直逃げ出したくなる。


「談笑中に悪いね、ちょっと彼と話をしたくて」

コウの後ろから男が声をかける。


「いえ、シザーズ様がお話したいのであれば構いませんわ」


さすがのルルカも当主相手にはコウをキープすることも出来ず、大人しく譲らざるを得ない。

その名前を聞いてコウはかなりげんなりしたが、表情を整え振り返るとすぐに頭を下げた。


「私はクエス様の弟子、コウというものです。お見知りおきいただければ光栄です、シザーズ様、バカス様」


「あぁ、安心してよ。僕はちゃんと覚えているよ」


「ほぅ、ちゃんと挨拶できるとは驚きだ。クエスは弟子から学んだ方がいいんじゃないか?」


バカスは少し驚いていたがすぐに笑顔になり、本人の前で言ってやりたいと言わんばかりにその場で笑いだす。

コウは頭を下げたまま苦笑いするしかなかった。


「あくまで僕たちは陣中見舞いで来ただけだよ。出発前の精鋭をビビらせていたと言われたら悪評が立っちゃうからね。

 そんなにかしこまらないでくれよ」


「しっかしぱっとしねぇな、こいつは。クエスのサポート務まるのか?」


バカスの厳しい言葉にコウは申し訳なさそうに再び頭を下げる。


「とてもサポートが務まる実力ではありませんが、わずかでもお役に立てるよう精一杯頑張る所存です」


「ほぉ、自分の実力をちゃん理解しているならいい。さすがに無能な弟子じゃないようだ。試して悪かったな」


「いえ、まだ未熟なのは確かですから」


コウの答えを気に入ったのか、バカスはさらに機嫌が良くなる。

貴族社会では下心なくこれくらい清々しく下手に出る者は少ないので、バカスは新鮮な気持ちになれた。


ルルカはコウとの話を邪魔されて悔しかったものの、コウの価値をばらすわけにもいかず大人しくせざるを得ない。

もし余計なことを口にすれば、自分と同等レベルのライバルが出来てしまう。

それだけは絶対にやってはいけない事だった。


そんな中、ルルカの横にいるルーチェはこの状況を大いに歓迎していた。


ルーチェとコウの会話が進まず、状況が停滞することこそ彼女が望んでいた状況だったからだ。

とはいえ、追い込まれているコウを少しは手助け足したいと思い、会話が止まったタイミングでルーチェがコウに声をかける。


「コウはそろそろテントに戻らなくても大丈夫なのですか?準備の時間もあるでしょうし」


「あぁ、確かに・・」


なぜか急に助け舟を出してくれて、疑問を持ちつつもコウは救いの手を差し伸べられ心の中で感謝する。

お偉いさんの中でも一番上と言える当主が2人も来て、コウは既に身動きの取れない状況に追い込まれていたからだ。


だが、それでも面と向かって自分から失礼しますとは言いにくい。

そんな困った状況の中、クエスたちがテントから出てきた。


「まだ話して・・ん?」


コウがお嬢さんたちとは別の人物と話しているのを見てクエスは不思議に思う。


上級貴族で継承第2位のルルカがいれば、他の者たちは会話にすら加われないだろうから

コウは放置していても大丈夫だろうと思っていたのだが、まさかあの中に割って入れる人物がいるとは予想もしていなかった。


まずいなと思ってクエスが急いでコウの元へと行くと、その男たちがバカスとシザーズとわかり、クエスは思いっきり呆れた。


「バカスさまぁ、シザーズさまぁ、いーったい何をやってるんでしょうかー?」


抑揚のない声と白けた目をしてクエスはバカスとシザーズに声をかける。

それを聞いたコウは助かったと言わんばかりに、クエスの方を見て目で感謝を伝えた。


「やぁ、クエス。自分のところを励ますついでにちょっとぶらついていただけだよ。陣中見舞いってやつさ」


「偶然シザーズから、彼がクエスの弟子だと教えてもらってな、ちっと話しただけさ」


「っそ。もういいかしら、私たちが動かないと全体が動けないのよね」


「ああ、構わんぜ」

「僕も来た甲斐があったよ」


そう言ってバカスとシザーズはその場から離れていく。


「2人ともコウの話し相手になってくれてありがとう」

「いえ」


クエスはルルカとルーチェにも声をかけると、コウを連れてその場から離れた。



もはや捕らわれていたとも言えるコウを合流させ、そのまま森へ向かうべく少し歩くと、離れたところにいたバカスが軽く手を振ってクエスを招く。

それに気が付いて部隊の足を止めると、クエスがボサツに話しかけた。


「はぁ、ちょっと行ってくるわ。ボサツ、コウにさっき話したこと伝えておいて」


「ええ、いいですけどコウはすでに聞いていたのではないですか?」


「解釈にずれがあったり、忘れていたらまずいでしょ」


「了解です。クエスもあまり時間をかけないようお願いします」


「それは向こうに言ってよね」


ぼやきながらクエスがバカスたちの方へ向かうと、ボサツは笑って見送りコウにこれからの行動の詳細を伝え始めた。



クエスがバカスの元へ向かうとその後ろにいたシザーズが笑顔で迎える。


「はぁ、いったい何の用?もう出発だから急いでるんだけど」


「悪いな、少しだけ確認したくてな」


「彼の、コウのことなんだけど・・ぶっちゃけ彼はかなりの才能を持っているだよね?」


クエスはそれを聞き、ボルティスの娘たちがコウの才能の事を話したのかと疑ったが、すぐにそれはないだろうと否定した。


彼女たちがどこまで正確にコウの実力を掴んでいるかは知らないが、トマクとの戦いも見ているだろうし

これだけ必死に寄ってくることから考えて、ある程度コウに才能があることはわかっているのだろう。


だとすればよほどことがない限り話すことはしないはずだ。

話せばライバルが増えるので、コウに会う機会の少ない彼女たちには自滅になりかねない。


ならばこれは引っかけか?

そう思いながらクエスは対応する。


「変な推測はしないで欲しいんだけど」


何から推測して言っているのかわからないクエスは、急ぐふりをしてとにかく誤魔化す。

エリスの件さえ知られなければ、今更コウの才能はばれても構わないと思ってはいるが、敢えてこちらから明言する必要もない。


「ふぅ、そんな警戒するな。あの男に才能があると判断したのはルルカが言い寄っているからだ」


バカスに言われたが、クエスはピンと来ないのか首をかしげている。


「あのルルカは価値のない相手に対しては冷たい奴だからな。それに対しコウというやつは地位も金もない。となると才能しかないだろう」


「あー、言われてみれば・・そうね」


まさかそこから発覚するとは思わず、クエスは思わず頭を抱える。


「想定外のことはよくあることさ。それで彼はどれほどの才能があるのかな?」


「別に詳細は知らなくてもいいでしょ?」


さすがにクエスも必要以上に情報を開示するつもりはなくガードが堅い。

だがバカスやシザーズにとっては大事なことなので、これを機にはっきりさせておきたかった。


闇の国との戦争が近い今の状況では、有能な駒ならばたとえクエスに多大に配慮してでも保護しておきたい。


さらにこの先彼が戦局を大きく左右できる存在になるのなら、つまらぬ取り合いで彼の気分を害させる事は避け

手厚い保護下に置いて大事な切り札の一つにするのがベストだ。


バカスたちから見てクエスも同様に考えているとは思ったが、いかんせんクエスは敵を作りやすいタイプ。

このまま彼女にだけ任せておくのはリスクが大きいと言える。


「別に詳細までは教えてもらわなくても構わん。だが大戦が近い状況で有能な人材を問題に巻き込むのはこちらだって避けたい」


「きみは敵が多いからねぇ、味方が増えるのは悪くないでしょ?」


「心から味方だと信じれるお二人じゃないんだけど・・」


バカスはクエスの過去の件で一番やらかしている人物だし、シザーズは割と時流に乗りふらふらとしているように見えるタイプだ。

クエスが面と向かって信用ならないと言わないのはまだ気を使っているだけであって、それくらいクエスの彼らに対する信用度は低い。


「ぶっちゃけ俺らが信用ならんのはわかっとる。だが今一番大事なのは闇との対戦に向けてちゃんとした戦力を少しでも確保することだ。

 大戦がはじまるまで早くて数年、遅かったとしても10年以内、そして始まれば数十年戦いが続くことになる。

 それだけの期間があれば、あの男が十分に成長しきる時間はあるだろう」


バカスにはっきりと信用してもらわなくても構わないと言われ、クエスもだいぶ本音で話しやすくなる。


「育成の面は私もその期間を見て動いているわ。問題はあなた方を信用するメリットを感じないということよ」


クエスの怒りを込めた厳しい表情に、バカスは思わず口が止まる。

その合間を見てシザーズが軽い感じでクエスに話しかけた。


「僕たちは彼に要らぬトラブルが起きないように動く役をやらせてほしいだけさ。ただ前提としてその価値があるのかをちょっと知りたいんだよね。

 別に正確じゃなくても構わないさ。どれくらい使えそうな見込みかってね。もちろん少しくらい盛っても構わない。あくまでいい手札を傷つけずに持っておきたいだけだから」


「よくまぁ、べらべらとしゃべる」


クエスは冷たい目で睨むが、シザーズにはあまり効果が無いようでさらに話し続ける。


「まくし立てないとクエスから睨まれちゃうからね。まぁ、もう睨まれちゃってるけど。

 もちろん彼を君から取り上げる真似はしないし、そういう動きもバカスとともに防ぐつもりだよ」


「今更俺たちを全面的に信用しろとは言わんさ。だが使える駒が必要な時に足りなくなれば大勢が死ぬという事実は変わらん。

 現状ではそれ上手く確保しておくのが当主としての使命だからな・・って、まぁ、それができないアホも混ざってるが」


名前を上げることはなかったが、その場の全員が誰のことを言っているのかは瞬時に理解した。

そういう問題児がコウを巻き込むのを防ぐ役目としてバカスやシザーズが動いてくれるのはクエスとしても助かる。


仲が悪いため女王にあまり相談できない立場のクエスとしては、これはありがたい申し出でともいえる。

ボルティスだけを味方にしていても足りない可能性が高い、そう思うと苦々しいがこの提案に乗るものありだとクエスは考えた。


「いいわ、こっちだってごたごたにコウを巻き込みたくないのは確かだし。だけど条件があるわ」


「おぅ、とりあえず言ってくれ」


「彼を守るためのことなら何でも構わないよ」


にこやかに答える2人にちょっと躊躇したが、クエスは割り切って条件を提示する。


「ボルティスのところみたいにコウの相手を押し付けてくることだけは禁止してくれない。修行の邪魔にしかなってないのよ、今のところ」


クエスは愚痴りながら言うが、バカスとシザーズは思わず笑ってしまう。

言い方からもっと厳しい条件が出てくると思っていたからだ。


「あはは、構わないぜ」


「僕も了解だ。で、どうなんだい彼の才能は」


安心したのか一息つくとクエスは話し始める。


「まぁ、私からの感想じゃ私見が入りすぎるのでボサツの感想を使わせてもらうけど

 『将来的には連合の主力の1人になりそうなので、今から楽しみです』だそうよ。私はまだ判断がつかないと思ってるけど」


なかなかの高評価に思わずバカスとシザーズの口元が緩む。

ボサツ程の実力者が期待しているということは、それだけで貴重な戦力になるのが決まったといってもいい。


闇との戦いに確実に必要な戦力だと断定できたので、2人は当主として可能な限りコウを保護することを約束した。


「となれば、早くあの男を貴族まで上げておいた方がいいぞ。準貴じゃトラブルのもとになりかねん」


「わかってるわよ。今回の成果だけじゃさすがに難しいだろうけど、ちゃんと次の手も考えてあるのよ」


「そうか、言うまでもなかったな」


「もういいわよね、行くわ」


あまり時間に余裕がないのか、クエスはすぐにバカスたちの元から離れていく。

その後姿を見ながらバカスはシザーズに尋ねた。


「さっきの話どう思う?」


「何が?今更クエスが僕たちをだます理由はないんじゃない。すでに実戦投入もしてるんだし」


「違う、低く提示した可能性だ」


バカスの指摘にシザーズは思わず目を見開く。


「なぁんだ、バカスも想定していたのかぁ」


「ったく、あのひねくれもののクエスだぞ。それくらい想定しとるわ」


シザーズは笑みを浮かべるがその後は沈黙し、それ以上は言葉を交わすことなくその場から別々に立ち去っていく。

今はクエスを刺激することも避けたい情勢なので、互いにそれ以上は詮索すまいという方針を確認したが故の行動だった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

5,6話で閉めようと思っていた話が、どんどん長くなっています。。すみません。


ブクマや感想、評価など頂けるととてもうれしいです。

また、誤字脱字や誤用を見つけたらご指摘いただけると助かります。


次話は1/7(火)更新予定です。では

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