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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦5

ここまでのあらすじ


魔物討伐のための仮設陣地にやってきたコウたち。そのままコウは作戦会議へと出ることになった。


テントに入ると今回参加する4部隊の代表が2,3名ずつ出席して指揮官の到着を待っていた。


各代表者は部隊ごとに固まって半円状のテーブルに沿って座り、指揮官を囲む形になっている。

名前も知らない貴族たちに囲まれることになり不安になっていたコウだが、ギラフェット家のトマクを見つけコウは少しだけほっとする。


この場で知っている人が他にいるのは、コウにとって非常に心強かった。


それぞれが実力者ぞろいだからか、クエスが入ってきたところで臆するような者はいない。

4部隊の代表がすべて来ていることを確認し、クエスは皆の視線を集めながら中央へと立つ。


「今回は魔物討伐に集まっていただき感謝するわ。私は今回の討伐の指揮を執る一光のクエスよ」


さすがにこのクラスのメンバーになるとクエスを知らない者など誰もいない。

皆特に反応することなくクエスはそのまま促す様にボサツを見る。


「三光のボサツです。緊急時には指揮を執る可能性もありますが、多分大丈夫です」


ボサツが笑顔を見せると場が少し落ち着く。

一光や三光が笑顔を見せるということは、それだけ余裕があるとも取れるので、場全体がちょっとした安心感に包まれた。


クエスはボサツの行動に感心しながら、最後に軽く左後ろを見る。

左後ろにいるコウは自分の番が来た事を悟り緊張した面持ちで姿勢を正した。


「クエス師匠の弟子、コウ・アイリーシアです。よろしくお願いします」


コウが軽く頭を下げ再び上げると、全員の視線が自分に集まっていることに気づいてびっくりする。

だが、驚いたリアクションを取っていい場ではなので、コウは息を飲み誰とも目を合わさないようにして正面を見続けた。


出席者たちはコウの実力、人となりを見極めるため一挙一動を見逃さないよう

同席者と話し合ったりすることなくコウを見つめ続けた。


そんな状況を見てクエスは軽くため息をつくと、さっさと会議を進行させる。


「じゃ、作戦を説明するわ。大体は聞いているだろうけど各部隊は森の外で待機。我々の部隊が先に森の中へ突撃して相手の巣を荒らす。

 狼どもが四散した場合はこちらが迎撃の合図をするので待機、狼どもが森の中にとどまりそうなら突撃の合図を出す。簡単には以上ね」


クエスがさっさと説明をするので、出席者たちはそちらに注目をせざるを得なくなる。

簡単な説明が終わり質問を受け付け始めたので、エンド・エレファシナがクエスを見て軽く手を上げる。


「エンドです。全体の指揮には当然従いますが、事前の話だと部隊を分けるなど部隊ごとの采配は自由ということでよろしいですか」


「ええ、自由よ」


それを聞き満足そうにエンドは眼鏡のフレームを動かす。


「レンディアート家のユリオンだ。魔物が千匹ほどいると聞いているけど、一光様はどれくらい処理する予定でしょうか?

 いやぁ、全部持っていかれると俺たちがほとんど成果無しのただ飯ぐらいって言われちゃうんで」


ユリオンのちょっとしたジョークを交えた質問に作戦会議内に軽い笑いが起こる。


「確か魔石は倒した者が所有権を持つだったわね。さすがに全部は私たちでも無理。やばくなったら向こうは逃げ出す可能性が高いんだし。

 まぁ、万が一相手がこもるようなら早めに突撃の合図は出すからその点の心配しないで」


「了解です。それは助かります」


ユリオンはクエスの答えに満足そうに返事をした。

続いて隣にいるトマクが質問する。


「一光様、終わったら打ち上げあるんでしょうか?」

「は?」


いきなり打ち上げのことを聞かれてクエスは不快そうにトマクを見る。


「いやいや、せっかく来たのに片付いたらとっとと帰るんじゃちょっと味気ないなと思ったんですよ」


ユリオンといい、トマクといい、融和派の部隊は少し軽いノリのメンバーが集まっているようで、クエスは大丈夫なのかと不安になる。

だがクエスはこの討伐の総指揮官、トマクのくだらない質問にもとりあえず答えざるを得ない。


「人数は少ないけど、舌の肥えたメンバーばかりだからね・・難しいんじゃない?」


そう言いながらクエスはシヴィエット家一門で構成された部隊の代表、ヨーグ・シヴィエットの顔を見る。

だがヨーグ本人は突然自分に振られて慌てるしかなかった。


確かに今回の依頼はシヴィエット家一門からなので、勝利の宴を開催するならシヴィエット家が執り行うのが当然だ。

しかしあくまで自国では軍の副隊長という立場でしかないヨーグは、そんな話など聞いていないし、そもそも自分にそんな事を決定する権限もない。


「いや・・私は・・何も聞いて・・」


困った様子を見せるヨーグを見てクエスがおどけながら残念そうなふりをする。


「ダメみたいよ、残念ね」


「マジっすか。交流の場くらい欲しかったんですけねぇ・・いやぁ、残念だ」


トマクは開催を促す様にヨーグを見ながら過剰に残念そうに語る。


この会議が終わればクエスの率いるルーデンリア光国の部隊は作戦通りとっとと森へと突入することになる。

彼女たちの部隊が突入しないと何も始まらないので、出発前にゆっくり会話する時間がないのは仕方がない。


ただそうなればトマクはコウと話す時間もないし、何よりボルティスから隙を見てねじ込めと言われていた

お嬢様方とコウの接触する時間を作ることすら難しいことになる。


だからこそ早めにこの場で打ち上げという名の交流会の確約を取りたかったのだ。

打ち上げが開催されれば、森に最初に突入し一番活躍したルーデンリア光国の部隊が出席しないわけにはいかない。


出席すればコウも当然出てくるし、ボルティスからの依頼も果たせるというわけだ。


もちろん討伐数や戦闘の様子もコウ本人から直接聞けるので、コウの成長度合いもある程度測ることができる。

これはただ飲み食いがしたくてトマクが質問したわけではないのだ。


もちろんクエスもその真意をすぐに理解して、何も権限のないであろうヨーグに尋ねた形にして開催を否定したのだが。


そんなせめぎ合いをしているとは知らず、コウは貴族でも打ち上げをやるのかと感心しながら

野外に豪華な食事が並ぶ様子をのんきに想像しながらその様子を見ていた。



他の者でトマクの意図を理解した者がなんとかならんものかと考えるが、要であるヨーグがあの調子では押しても上手くいきそうにないし

貴族側だって討伐が終わればさっさと帰りたいものも多い。


討伐戦外の問題ではあったが、難題が発生し会議が少しの間ストップする。

そんな中、ルルー・エレファシナの一門から来たオミッド・オクトフェストがさっさと会議を終わらせるべく声を上げた。


「どうやらこれ以上意見もないようだし、終了してはどうかな?ここでこうして座っているよりは、作戦を早めに決行した方がいいかと」


がっちりとした体型で姿勢よく座っているオミッドが作戦の決行を促す。

それを聞いて出席者から慌てて2つほど質問が出たが、クエスは簡単に答えてこの会議の場を閉じた。


「では、皆の健闘を祈るわ。誰一人欠けることの無いよう、討伐を終わらせるわよ!」


クエスの掛け声に皆が立ち上がってこぶしを上げる。

コウはその様子を見て一テンポ遅れながらも拳を上げて何とか状況に合わせていた。



会議を終えてテントを出て、コウは一気に肩の力が抜ける。

視線を浴びる以外は特に何かしたわけではないが、慣れない場だったのでどっと疲れが出てきたようだ。


「もう疲れたの?あまり緊張し過ぎるのは良くないわ。この後の動きが悪くなるわよ」


「すみません」


「まぁまぁ。コウはああいった場は初めてだったのだから仕方ないです」


そんな感じで軽く雑談しながらクエスたちが自分のテントに戻ろうとすると

その進行方向にギラフェット家の第2王女ルルカと第7王女ルーチェが立っていた。


いや、立っていたというよりは待ち構えていたというべきか。


クエスはそれを見て露骨に不快な顔をしたが、トマクが失敗した時の想定も用意してあったのだろう

2人は臆することなくコウを見て笑顔を見せる。


「あら、これは困ります」


思わずボサツからも軽い愚痴が出るが、どこか楽しそうにも見える反応だ。


「はぁーっ。どうせ簡単には逃がしてくれないでしょうね。コウ、軽く話してきなさい。私たちは先にテントに戻って作戦の詳細を詰めてくるから」


「えっ、いや、それじゃ俺が作戦内容聞けないじゃないですか」


「そうは言うけど、この状況ならしょうがないじゃない。移動中にでも伝えるわよ」


「うへぇ、マジですか」


コウは本気で勘弁してほしかったが、さすがに本人たちを前にそんな表情はできないので

普通の表情でクエスに愚痴をこぼす。


「マジよ。そもそもルーチェに上手くつながりを作られたコウが悪いんじゃない?」


「えぇ・・これも俺のせいなの?」


困惑するコウを獲物として狩人たちへ差し出すと、クエスとボサツは先にテントに向かっていった。


餌として仕向けられたコウは仕方なくルルカとルーチェに挨拶に行く。

立場から言えば向こうが偉いので、コウ単体では無視して通り過ぎるわけにはいかないのが辛いところだ。


「お久しぶりです、ルルカ様、ルーチェ様」


ちゃんと継承順位の順番に声をかけるコウ。


ルーチェとはあれからも1月に1度くらいの頻度で道場へと来ているので、言うほど久しぶりではないのだが

2人と同時に会うのはという意味で深く考えず『久しぶり』と声をかけた。


その何気ない一言によってルーチェは救われる。

ルーチェが出し抜いていることはまだルルカに知られていないからだ。


ここでのルーチェのミッションはコウと親しくなることではなく、出し抜いていることをばれないようにしつつ姉のルルカのコウへの接近を阻み

大した進展もなくこの場をやり過ごすことだ。


ルーチェ本人はこの場でなくてもチャンスはある。

ならば、今はこっちを疑われない程度に妨害することの方が大事なのだ。


簡単なあいさつ程度でスルーしたいコウ、姉をやんわりと妨害したいルーチェ、これを機により良い関係になりたいルルカと

全く違う思惑がぶつかったままで立ち話が始まる。


「コウ、お久しぶりです。今回は大役と聞いたので心配ですわ」


「いえ、お気遣いありがとうございます。あくまでサポートとしての参加ですが、皆様のお役に立てるよう頑張りたいと思います」


以前のそっけない雰囲気とは全く違うルルカの態度に困惑しつつも無難な答えを返す。


だがルルカはここぞとばかりに一歩踏み込んでくる。

コウの悪意のない返答にさほど嫌われてないと判断し、ここは押しどころだと思ったのだ。


「もしコウが望むのなら私も一緒に同行しますわ。私ならコウにも一光様の部隊にもお役に立てます」


「えっ、いや・・もう部隊分けは決まっていると聞いてますので。さすがにそれは無理かと思いますけど」


コウは気を使ってやんわりと断るが、その断り方からルルカはまだ押せると張り切りだす。


「コウが望むのでしたら私から一光様に直訴しますわ」


「お姉さま、さすがにそれは枠組みを乱しかねません」


「交渉してダメなら諦めますが、交渉前から諦めるならあなたは1人で部隊に戻っていればいいわ」


雲行きが怪しくなりなんだか姉妹喧嘩に発展しそうなので、慌ててコウは止めに入る。


「ちょっと落ち着いてください。お気持ちはありがたいんですが、うちの部隊用に三光様が道具を用意していたので、さすがに今からはルルカ様の参加は難しいですよ」


それをきいて2人は言い争いを止める。


「そう・・でしたか。以前は失礼をしたので何かお役に立てればと思ったのですが」


「私もお役に立てれば良かったのですけど」


「気持ちだけでも本当に嬉しいです」


そう言ってコウは逃げようとするが、相手も簡単には逃がそうとしない。


今度はコウのために持ってきたという品物を渡そうとする。

だが何か王族から下賜されるようなこともしていないので、コウはそれを必死に断っていた。


ルーチェに付け込まれた件を何度も突っ込まれているコウは、さすがに安易な行動をとらないように気を付けていたのだ。



そんな様子を2人の男が遠間から見ていた。

陣中見舞いと称して様子を見に来た、当主のバカス・ライノセラスとシザーズ・リオンハーツだ。


「ふーむ、ひとまずクエスには見つからずに済んだが・・あれが例の弟子か?」


「ああ、そうだね。僕は1度見ているから間違いないよ。それに側にいるのは・・あぁ、ボルティスのところのお譲さんだね」


男1人と女2人が楽しげに?会話しているのを遠間で観察しながら語り合う。


「片方は見たことあるな。確かあれは・・結構性格がきついが価値のある相手には態度が軟化する奴だ。うちのが1人ふられてたからな」


「つまり、彼にはそれなりの価値があるということかな」


「だが、見た感じただの優男にしか見えんぞ。クエスはあんなのが好みなのか?」


それを聞いてシザーズは苦笑いする。

別に好みで弟子を取ったとは限らないと言おうとしたが、少し面白そうなのでそれ以上突っ込むのは止めておいた。


「少し接触してみるか、今はクエスもいないようだからな」

「いいね、僕も行くよ」


そう言って2人はコウへと近づいた。


あけましておめでとうございます。

今年も更新していきますので、どうかよろしくお願いいたします。


次回は1/4(土)更新予定です。

読者の皆様に、幸多からんことを。では。

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