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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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魔物討伐戦3

ここまでのあらすじ


最高会議、進行中。


次の議題、闇の国との境界付近にある都市への兵士派遣は、スケジュール確認と何か問題がある場合調整をする場だ。

前回は魔物の大量発生を調査・確認していたシヴィエット家一門の兵士の問題が上がったが、今回は特に何の問題もなく話が進む。


「スケジュールは今表示してある通りよ。会議後各一門の相談役は受け取って帰りなさい」

女王の一言で、この議題は問題なく終わった。



そして最後の議題となった。


「最後は闇の国の動向ね。皆もある程度聞いているでしょうけど、先日境界付近にある都市の近くで小規模な衝突があったわ。

 持ち回りで兵を出していたバカスとシザーズのところに被害が出ているけど、死者はこちらが二十名ほど、向こうは三百は超えていたとの報告よ」


「やけに闇の被害が大きいのね。向こうが油断していた・・わけじゃないわよね?向こうが突っ込んできているんだし」


「なんかやけくそって感じだったらしい。おかげで僕のところも被害出ちゃったんだけどさ」


「闇の国の前線指揮官に無能が就任したんじゃない?」


「それはないです。いくら兵が我々より多いと言っても、捨てる程いるわけではないでしょう」


小規模の戦闘とは言え、にらみ合った状態からいきなり闇の軍勢が突っ込んできて、それをわずかな損害で撃退できたのなら本来は喜ぶべき話だ。

だが、あまりにおかしな動きなので当主たちは色々と意見を出し合う。


ルルーなんかは短絡的に相手の指揮官が無能だっただけだと考えたが、レディは即座にその意見を否定した。

長い間闇との血みどろの戦場を見てきた者ほど、そんな短絡的な考えを受け入れることはできなかった。


各当主と女王や三光の2人の前にはその戦闘の報告書が表示される。

バカスはそれを見ながら顔をしかめると、急に一光の方を見て話しかける。


「クエス、なんかおかしな話は聞いていねぇか?」


光の連合と闇の国は激しく対立していることもあり、相手の国の詳細な情報はなかなか手に入れにくい。

スパイという存在もいるにはいるが、闇の国では光を使えることを隠そうとしても難しく、光の気配が目立つためばれやすいという難点がある。


だがクエスはそれなりの情報を手に入れる伝手を持っている。

以前光の連合に復讐するために潜伏していた時、中立地帯で闇側の魔法使いや商人等複数と接触していたその繋がりが今も生きているのだ。


ただ情報の質が安定せずに役立たないこともあるため、完全に信用して動けるほどの精度の高い情報は時々しか手に入らない。

それでも何か掴んでいるかもしれない、そんな期待を込めてバカスは尋ねる。


だがクエスの表情は浮かないものだった。


「何も。そもそも兵を無駄死にさせるなんて向こうでも批判の的よ。たとえ良質な魔石入手のため兵士を処分するとしても、その辺の地面掘り返した方が割がいいわ」


「そりゃそうだな。しかし、向こうでも批判の的か。それでも千の兵を突っ込ませ全滅に近い状態で退却、退却時は後方の四千の兵が援護・・ふーむ」


何かあるのは間違いない。バカスはそう思うが正直その理由が見当もつかない。

結果だけ見れば完全に間抜けが突撃して、こちら側が完勝しただけだからだ。


「クエス、確か闇には死を司る魔法もあったはずだな」


今度はボルティスが何かヒントを探るようにクエスに尋ねる。


「えぇ、けどその場で退却してしまえば何の意味もないわ。それにその場で三百の命を元に何かしようとしても

 反属性である光の魔法使いが魔力をぶつければすごい勢いで相殺されて無に帰すと思うけど」


「そうだな。すまん、時間を無駄にした」


ボルティスは目を伏して軽く謝罪した。

そんな状況でルルーが意見を述べる。


「難しく考えすぎなんじゃない?馬鹿な指揮官を実地を使って鍛え上げているだけだと思うわ」


「確かに、そうかも」


メルティアはこれ以上話しても無駄だと思ったのか、話を終わらせるために軽い感じでルルーに賛同する。

結局明確な答えが出ないまま、このまま強めに警戒を続けることで女王が話をまとめた。


付け加えて、実力のある魔法使いを相手にぶつけるのは慎重になるよう指示をした。

相手が無駄に兵を捨てているわけじゃないとなると何か強力な隠し玉がある可能性もある。


そんな隠し玉にこちらの有能な魔法使いが巻きこまれ死亡したならば、向こうの数以上にこちらが損害を受けることになるからだ。

強者を使わなければこちらも犠牲が増えることになるが、何もわからない以上やむを得ない手だと判断し全員が納得した。


そして会議が終了し、解散となった。




最高会議が終わり、ルルーがさっさと会議室を出て行く。

それを追おうとした相談役のエリオスの進行方向を遮ってバカスが声をかける。


「よぅ、エリオス。ちょっといいか」


「何でしょう、バカス様」


落ち着いた雰囲気で答えるエリオスだったが、何を言われるかは既に見当がついていた。


「ルルーの件だ。いい加減あいつを矯正しろ。このままじゃどう見ても当主の資格はない」


格下とはいえ、当主の相談役に軽く凄みを利かせて注意するバカス。

だがその態度は正直言って無理もない。


闇との本格的な全面戦争の兆しが見えている中、周囲と対立し安易な判断を見せるルルーを放っておくことは利敵行為にしかならないからだ。


「少しずつ悪い点は直っております。クエス様を見てすぐに噛みつくようなことも最近はなくなりました」

「ふっ」


帰ろうとするとき偶然エリオスの発言が聞こえたのか、クエスは鼻で笑って会議室を出て行った。

少し気まずそうにするエリオスだったが、それを見たバカスは更に圧をかける。


「もう闇の奴らとのにらみ合いの段階は過ぎている。悠長なことは言ってられんぞ。同じ中立派のシザーズですら肩を持つ気もないくらい馬鹿にしているんだぞ」


「ひどいなー、バカス。馬鹿になんかしてないよ。僕はあれを当主だと思っていないだけさ」


それだけを言うとのんきに部屋を出て行くシザーズ。

ボルティスとリリスが遠巻きにその様子を見ていたが、特にその場に加わるつもりはないのかすぐに出て行った。


「やらかして一門全体に害を及ぼせば、恥なんて言葉じゃ済まんぞ、いいな」


低い声で脅しをかけながらバカスは警告すると、不機嫌そうに会議室を出て行く。

そんな様子を離れた場所で見ていたレディがエリオスにそっと近づいて話しかけた。


「彼なりのアドバイスよ。頑張りなさい」

そう言ってバカスの後を追っていく。


確かにルルーは未熟な部分が多々ある。

特に対クエスに関しては意地を張りすぎる部分が多いが、それは彼女の過去に原因がある。


当時ルルーはルーデンリア上級魔法学校を首席で卒業し、周りから将来を嘱望され丁重に扱われていた。

精霊の御子でもあったルルーは将来は国を継ぐか三光の1人となるかとはやし立てられて、自分に自信を持ち順風満帆な人生を過ごしていた。


だが、そこに突然立ちはだかったのがクエスという存在だった。


ルルーが三光への挑戦を受ける直前、当時の女王からの推薦を受けたクエスが当時の二光であるボサツと当時の一光で現親衛隊長であるカルマに勝利し鮮烈なデビューを果たす。


ならばクエスを倒してしまえば自分は最強の存在であることを世界に証明できると挑んだが、三戦三敗という不名誉な結果に終わり

ルルーはそこで初めて大きな挫折を味わった。


その後周囲に励まされ期待をかけられた彼女は奮起し当主にまで上り詰めたが、今でもクエスは彼女にとって目の上のたんこぶになっているのだ。


闇の国からの情報で小規模な戦争を有利に運んだ功績、新型の転移門で緊急時の大勢の兵の移動を可能にした功績など

ルルーが当主になる間にクエスはさらに功績を立て続け彼女との差を広げていた。


もちろんクエスにそんな意図などなく、むしろルルーの存在など完全に忘れていたが、それがさらにルルーを怒らせている原因になっている。


そんなルルーが当主になってまだ数年、甘い部分が出るだろうとは思っていたが長い目で見てもらえばとも思っていた。

だが闇の国とのいざこざが激化していくこの状況では、周囲にそういう余裕はないとエリオスは思い知らされる。


去っていくバカスとレディにエリオスは黙って頭を下げた。



◇◆◇◆



会議が終わった後すぐに、クエスは転移門でコウの居る道場へと飛んだ。

もちろん先ほど発表した魔物討伐の参加を連絡するためだ。


転移門のあるコウの部屋の奥から大部屋へと向かうと、ちょうど昼食時だったのか部屋には4人全員が揃っている。

クエスが部屋に入って来るのにすぐに気が付いたコウが口に含んだものを飲み込み挨拶する。


「お疲れ様です、師匠。・・ちゃんとした格好ということは、何か重要なことでもあったのですか?」


「あぁ、昼食中だったのね。時間帯から言えばそっか。で、そうそう朝から最高会議があってそこに出てたのよ」


以前誰からか師匠たちは会議にあまり出席しないと聞いていたコウは、クエス師匠が出たとなるとよほど大事なことがあったのかと思い少し緊張する。

しかも会議後すぐにここに来たということは、自分にも関係するということだ。


闇との戦争?出兵?急激に日常が変わるのではと思いコウは少し怖くなる。

そんな様子のコウを見てクエスは少し困った顔をした。


(またネガティブに考えすぎているわね。もう少し分析能力をつけさせた方がいいかしら)


そう思いつつも、さっさと本題に入ろうとコウに魔物討伐の件を話し始めた。


「今日の議題に出たんだけど、光の連合のある都市の付近に多数の魔物が現れたのよ。んで、私たちがコウと一緒にそれを殲滅することになったわ」


「はぁ、そうなんですね。わかりました」


戦争などという最悪ケースを考えていたので、コウはほっとすると討伐の内容も聞かずあっさりと了承する。

魔物狩りなら過去数度クエスたちと一緒に経験しているコウにとっては、さほど怖いものではなかった。


だがその気の抜けた態度を見てクエスは少し不機嫌になる。


「あのねぇ、普通は同意する前に先に内容を聞くものよ?」


「うっ、すみません。えっと、それで内容はどんな感じなんですか?あと、参加するのは俺だけです?」


「行くのはコウの弟子たちも一緒よ。連携の練習の成果期待しているわ」

「はいっ」


クエスがマナとシーラを見てそう言うと、2人は喜んで了解する。

コウもそれを見て嬉しそうにしていた。


「それで内容なんだけどね・・」


クエスは3人に狼の魔物が千体ほどいること、全体の配置や自分たちが巣を突っつく突撃役になることなどをパネルのモニターに図を映しながら説明する。

思った以上に重要な役割だったので、コウたちは驚きつつも真剣な表情で話を聞いていた。


特に千という数はコウにとって完全に未体験。

考えようによっては戦争と言えるくらいの戦いの規模になる。


クエスに怒られるのは無理もない。そう思いコウは心の中で反省した。



その一方、食事は中断になるし自分は参加できない話ということでエニメットは完全に蚊帳の外だった。


魔物討伐と言っても今回の規模は小規模な戦争と言っても過言じゃないので、ほぼ非戦闘員であるエニメットはお留守番するしかない。

だが、残念そうな様子の彼女を見てコウはクエスにお願いしてみる。


「師匠、エニメットも連れて行けないでしょうか?後方で食事の支援をするだけでも使えるとは思うんですが」


エニメットに気を使ったコウだったが、当の本人は気を使われて慌てて待機で問題ないと訴える。

その様子を見てクエスはため息をついた。


「コウ、その子を連れて行きたい気持ちはわかるわ。でも戦場で甘えはダメ。たとえ魔物討伐とはいえ、大規模なものになると何が起こるかわからない。

 後方だって安全とは限らないわ。その子の今の実力じゃ自分の身さえ守れないのよ」


「うぅ・・」

クエスの言うことに反論できないコウ。


戦場の経験がないコウなのである程度甘い考えになるのは仕方がない。

だが戦場では足手まといのお荷物ほど危険な存在はないのだ。


「あくまで彼女を使い捨ての盾として連れて行きたいなら了承するわよ、でも違うでしょ」

「すみませんでした」


観念したのかコウは素直に謝罪する。

コウのそんなところはクエスも買っていた。


わがままを無理に通すことなく納得できれば素直に受け入れる。これは簡単なことに見えるが、人はなかなか自分の間違いを受け入れられない。

今の貴族連中にはあまりないこの柔軟さは、間違いなくコウの成長に欠かせない要素だとクエスは考えている。


「いいのよ、コウは大規模な魔物討伐戦なんて経験ないんだし。それを経験させるのも今回の目的なんだから」


「はい。って、『も』ということはほかに目的もあるんですか?」


「ええ、もちろん。今回の一番の目的はコウのお披露目よ。まぁ、来ないとは思うけど各当主の顔は必ず頭に入れておきなさい。

 それと寄って来る人の払い方も少し慣れておくといいわ」


「は、はぁ。とりあえず当主様の件は大丈夫です。既に記憶しています」


少し前に当主たちの突然の訪問があってから、コウは各当主とその側近の顔はばっちりと記憶している。

階級社会である貴族社会では失礼な行動一つでひどい目にあうこともしばしばなので、あれ以来コウはかなり気をつけていた。


クエスのその答えに感心していたが、戦場では防具などを身に着ける者がほとんどだ。

ぶっちゃけ兜や帽子なんかをかぶっていると、クエスですら一瞬誰かわからないこともある。


そのことも指摘しようとしたが、一回は怒られて学ぶのもいいかなと思い、ちょっとした意地悪心が働いたクエスはそのことは教えないことにした。


「そうね、後は日程だけど明後日の朝からになるわ。なので明日の練習は軽く流す程度にしておきなさい」


「はい、そうします」


「じゃ、後は・・私たちの部隊のメンバーがこんな感じね。それと必要と思う道具があれば今日中にエニメットに言っておきなさい。

 間に合う分だけでも手配しておくから」


そう言われてもコウは今回のような大規模な戦闘や部隊での戦闘など経験していないので、必要な物と言われてもピンとこない。

コウが悩んでいる様子を見て、マナが話しかけた。


「師匠、私ならチームでの戦闘経験があるので後で色々と提案できると思うし、それから相談して決めようよ」


「そっか、そうだな。早い方がいいだろうから昼食後すぐにやるとしよう」


マナとコウが話す中にシーラも混ざり色々と考え始める。

その様子を見たクエスは、結構いいチームになったんじゃないかなと笑顔をその様子を見つめていた。

話に夢中になりだした3人はその笑顔に気づくことはなかった。


「それじゃ私は戻るわね」


コウがクエスの声に気が付き、その方向を見るとすでにクエスは大部屋を出てしまっていた。


「コウ様、とりあえず先に食事を済ませてはいかがでしょうか」

「あぁ、だね」



そして昼食後は予定通りマナの経験から必要そうなものを上げてもらい、3人で相談して要不要に分けていく。

部隊には補給兵のような道具持ち2人が参加するらしく、すぐに使わない物はその道具持ちに預けることになる。


自分のアイテムボックスには状況に応じてすぐに必要になる物だけを入れるべきだというマナのアドバイスを受け

コウとシーラはあーでもない、こーでもないと吟味していった。


自分のアイテムボックスにたくさんの物を詰め込むと、ただそれだけで魔力を多く消費してしまう。


こういう時は必要最低限にするべきなんだとマナが持論を語り始め、それに対してコウとシーラが真剣にうなずいていたのが

エニメットには微笑ましい光景に見えたのか、1人話題に入れずに昼食の後片付けをしていたにもかかわらず、彼女は少し笑っていた。


今話も読んでいただき、感謝感激であります。

5,6話の短い話の予定が導入部で既に3話・・まぁ、いいか。


誤字脱字など見つけたら遠慮なくご指摘ください。とても助かります。

またブクマや感想・質問など頂けると光栄です。


では次話は12/29(日)更新予定です。 ありがとうございました。

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