初めての魔法使い
初めてのおつか……ではなく、初めて魔法が使えた回です。
ここからいよいよ主人公の快進撃が!というのは難しそうですが。
とりあえず頑張って書いていきます。
「一つ言っておきますが、詠唱は別に声に出さなくてもいいですし定型でもありません」
師匠が補足みたいに付け加えた言葉を聞いて俺は驚いた。
イメージしていた魔法の詠唱は一言一句間違ってはいけない、みたいなものだったのにどうやらそうではないらしい。
「そ、そうなんですか」
「もちろん適当ではいけませんが、その魔法の発動の手助けを願う形なら問題ないです。あと魔法のイメージはしっかり持っておいてください
それでは突風の魔法を使ってみましょう」
師匠の言葉を真剣に聞いているうちに先ほど作った3つの魔力が強さも位置もずれていたので霧散させ、再度3つの魔力を正しく配置する。
配置が終わったので次は詠唱だ。
精霊という神にささげる祝詞という表現もなかなか悪くはないと思うがここは個人的に詠唱と定義することにする。
やはり魔法と言えば詠唱だろうと思っていたからだ。
格好つけて詠唱するのも恥ずかしかったので心の中で「風よ巻き起これ!」とシンプルに唱えた。
心の中で唱え始めたころからその3つの魔力の周辺に大きな風の魔力がどこからともなく発生した。
3つの魔力を保持していたはずがその全体の魔力を保持しているように変わっていく。これを前に解き放てば発動するのだろうか?
やはり魔法の名前は言わないと格好つかないよな、そう思いながら声に出して魔力を解き放った。
「<突風>」
先ほどの師匠には劣るものの、強力な風が起こり土埃を巻き上げる。だが100mほどで風が急激に勢いを失い消え去った。
明らかに自然ではありえない現象だった。
それから遅れて自分が魔法を使えた実感が少しずつ湧いてくる。
徐々に興奮が抑えられなくなり、すげぇ、すげぇと言葉が漏れる。それ以外言えないのかと言いたくなるくらいすげぇを無意識に連発していた。
「すげぇ、マジすげぇ、これ。すげぇわ・・」
「んー、確かに初めてでこれはすごいわね」
聞きなれた声が玄関の方からしたので振り向いたら、クエス師匠がいつの間にか家から出てきていた。
気がそれて少し落ち着いたのか、興奮し過ぎた自分に気が付き、少し恥ずかしくなって言葉を発するのをやめる。
ちょっと子供みたいにはしゃぎ過ぎてしまった。
「くーちゃん起きてしまいましたか」
「そりゃね、こんな楽しそうなものを見逃すほど抜けてると思わないでほしいわ」
二人とも楽しそうに話している。改めて思うが二人とも見た目は二十歳そこそこの女子大生に見えなくもない。
いや、ボサツ師匠は背が低いのでもっと下の年齢に見える。
それなのに・・本当にすごい二人なんだよなぁ・・この二人が。
そう思いながらぼーっと見ているとクエス師匠から何よ?と言わんばかりに軽く睨まれた。
見ていたのが悪かったのか。ぼーっとしていたのが悪かったのだろうか。
決していやらしい想像をしながら見ていたわけじゃないんですけどね。
「では、先ほどの突風を連続で放ってみてください。魔法発動の速さも大事ですから」
そう言ってボサツ師匠が先ほどと同じ土エリアの奥を指さす。あちらに放てということなのだろう。
その後、しばらく突風の魔法を使い続ける。
とにかく早くと言われたがどうしても最初は慎重になってしまう。
魔力を配置して、確認。風よ巻き起これ、で発動。発動間隔は10秒ほどだろうか。
そうして20回ほど放つうちにかなり慣れてきて、魔力の配置確認も大体で済ませながら発動ペースを上げる。
気が付くと大体5秒間隔で突風を使えるようになった。
「なかなかいいわね」
「そうですね。いい感じだと思います」
ちらっと見ると二人の師匠も嬉しそうにしている。初日の俺の出来は、ひとまず合格というところなのかな。
少し疲労感も感じたので魔法を使うのをやめ休憩しているとボサツ師匠から声をかけられた。
「真夜中ですからこれで最後にしますね。最後は全力で放ってみてください。今度は3か所の中心に全力で魔力を込め上下の2つは中心2/3の魔力にしてください」
俺は師匠の言われた通り魔力を込める。
20㎝程先にできるだけの魔力を込めるということで、全身から放出した魔力を風属性に変え先に中心の魔力の塊を作る。
それを維持したまま上下の魔力の塊を作り配置した。
全力で作ったせいか維持しておくのが結構辛い。
心の中での詠唱中に今までより多量の魔力が俺の作った型に流れ込んでくるのを感じる。
配置する魔力の塊を強力にすることにより、魔法もより強力になるというのが実感できた。
「行きます!<突風>」
自分の目の前から猛烈な風が吹き荒れ凄い土ぼこりを発生させながら100mほど行ったところでやはり沈静化した。
どうやら距離は変わらないらしい。今回は本当に大事なことを多く学んだ気がする。
「おお、なかなかの突風ね」
「風レベル25はありそうですね」
師匠がレベル25という気になる言葉を発してはいたが、俺はその事は気にならず満足してしまった。
あんな突風を生み出せるなら、軽自動車くらいなら横から倒せそうな気がしたからだ。うん、これはすごい。
間違いなく魔法使いはすごい、多分これはまだ基礎の部類だろうから、これから学んでいく魔法は本当にやばそうだ。
明日も座学と魔法の実戦練習があるから今はゆっくり休むように言われて家に戻る。
玄関から入ると少しひんやりする石のエリアがあるのだがそこに両足を付けた途端足元が光って…おさまる。
何だろうと思ったが、ふと違和感を感じ足の裏を見るとすっかり綺麗になっていた。
昨日も裸足で出るように言われたので今回も裸足で外に出たのだがこれなら裸足で問題なさそうだ。
つくづく魔法の便利さに驚かされる。
どこの家にもこんな魔法が組み込まれているのだろうか、そうなるとこの世界はかなりの文化水準かもしれない。
家に上がるとき、さっきのボサツ師匠の発言が気になっていたので、この薄暗さが本当に真夜中なのか聞いてみる。
「あの、師匠」
「なんでしょう?」
後ろから声をかけた俺にボサツ師匠が振り返る。
「今って、真夜中なんですよね。この世界では真夜中の暗さはこんな感じなのでしょうか?」
俺の質問が何か変だったのだろうか?ボサツ師匠はクエス師匠の方を見る。
クエス師匠はなぜかわからないが頷いた。
「色々と説明することがありますが、この地域は真夜中がちょうどいまくらいの薄暗い暗さになります」
実際に見たことはないが地球にも白夜があるし、別段おかしいとは思わない。
というかそれ以上何の説明があるんだ?と思ったがとりあえず黙って続きを聞くことにする。
「光の連合の盟主国であるルーデンリア光国では真夜中も昼間より少し暗い程度ですが、ここは光国からかなり離れているため薄闇のようになりますね」
「そ、そうなんですか」
どうやら光の国は夜がないらしい。どうやって寝るのだろうか?
生活習慣がかなり変わるなと思いつつ、ここが地球とかなり違う環境だということに今更ながら驚いた。
「そうですね…明日朝は、魔法より先に国や環境のことを教えます。それでは私も寝ます。コウも疲れを癒してください」
そう言ってボサツ師匠はさっさと行ってしまった。
俺も大人しくいつもの大部屋に戻って、さっきまでダウンして寝かせられていた布団に入る。
だが初めて魔法を使った興奮からなかなか寝付けなかった。
一方、寝室に戻ったボサツとクエスはいつものように部屋を防音化して話し始めた。
「コウの魔法をこの目で見ると改めて驚かされますね」
「そうね、2日目であれはないわ、本当に」
クエスはやや呆れた笑いを返しながらボサツの感想に同意した。
「あの突風の威力は優秀な才能を持つ者でも1月は必要ですからね、2日目でできたと言っても信用する人がいるとは思えません」
「確かに」
互いに笑いあいながらもコウの修行の方針を話し合う二人。
思った以上に魔力のコントロールもよく、魔法を早速使いこなせていたので少し基礎を外して魔法の実践をもっと取り入れることとした。
細かい部分を相談しているときに、ふとクエスがつぶやく。
「コウは……私の弟のようなものよね、そう思うと何だかコウの才能がすごく嬉しく思えて来たわ」
クエスの急な弟発言に少し驚いたボサツだったが、クエスのコウに対する感情が気になっていたボサツは
落ち着くところに落ち着いたと思い少し安心した。
「そうですね。エリスさんが中にいるのですし、そういう意味では弟でも間違っていないかもしれません」
「でしょ?」
喜んでいるクエスを見て少し意地悪したくなったボサツは爆弾を投げ込んでみることにした。
「それなら、私がコウを夫として迎えたらくーちゃんは義理のお姉さんになりますね?」
いつものように微笑みながらとんでもないことを言い出すボサツにクエスは思わず固まる。
「え?さっちゃん今なんて……」
「くーちゃんが私の義理の姉になる日も近いですね、といいましたよ?」
「え、え、ちょっと、まさかのまさか、コウを狙っていたの?」
本気かどうか確かめる間もなく、動揺したままクエスはボサツに少し顔を近づけて再度問い直す。
慌てているクエスを楽しみながらも、ボサツはクエスに切り返した。
「全く眼中にないと言えば嘘になります。あれほどの才能を持った男性はなかなか見つかりませんし。だからこそくーちゃんもその危険性から外部に存在を隠しているのでしょう?」
魔法の才能は全体で見ると女性の方が高い。
もちろん男性にも才能のある魔法使いはいるが、上位の魔法使いの男女比は1:2くらいで男の方が少ない。
そして子供は両親の才能を受け継ぐことが多いので、この世界では魔法の才能のある男は貴重な存在だ。
しかもコウはどこかの貴族直系の子供とかではないどころか今はどの貴族の手垢すら付いていない。
この時点でかなりの優良物件なのだ。
「さっちゃん、ちょっと、ちょっと待ってね。確かにそれも存在を隠してる理由の一つだけど……よーく考えてよ」
「ええ、よく考えてます。今はまだ才能の限界点が見えませんがあの精霊の啓示の結果を見るだけでも十分です。これ以上あれこれ考えるより彼を見逃す方が惜しいです」
さっきよりもクエスに近づきながらボサツはクエスに返答した。
ボサツが思ったよりも本気みたいでクエスは頭を抱える。
エリスの秘密を知るボサツがコウを捕まえるのは決して悪い話じゃない。
そう悪い話じゃないのだが、見つけたのは自分なんだけど、という思いがどこかにありそれがクエスの心の中で引っかかる。
その時クエスはあることを思い出した。
「さっちゃん聞いて」
「ええ、了解の話ですか。嬉しいです」
どこまで本気かわからないボサツはからかうようにクエスに追撃を入れる。
「コウは、男女関係に強い願望があるのよ……ハーレムの」
は?と一瞬呆れた顔をするボサツ。親しいクエスとはふざけ合ったりすることもあるボサツだが、いつも落ち着いていて不意を突かれることはほとんどない。
だがハーレム願望と聞いてさすがに呆れてしまったようだ。
「ハーレム…ですか。それはまたなんとも言えません。まぁ、彼の才能ならうまくいけば引く手あまたでしょうけれど。
私は結婚となると家を継ぐ立場ですし、それはちょっと…難しいです」
「そうなのよ、まぁさっちゃんがしっかり手綱を取れればコウの願望も抑えられるかもよ?」
そう言ったクエスは主導権を取り返したようでしたり顔だ。
ボサツは参りましたね、といった表情を浮かべる。
クエスにはボサツの本音はわからなかったが、今は大して気にならなかった。
エリスを元に戻せる確証どころか方法すらまだわからないが、エリスの精神体は自分のすぐそばに確保できているし、今は穏やかな時間が流れている。
あの辛い日々を思えば、今は幸せ過ぎるくらいだ。
そう、あの辛くて地獄のような、エリスをそして皆を失い復讐するためだけに生きていた日々に比べれば。
クエスは辛かった過去を少しだけ思い出し、ふっと一笑すると再びコウのことについてボサツと語りだした。
ここで1章は終了です。
2章は少し時間軸が動きますがわかりにくくならないように書いていきます。
これからもよろしくお願いいたします。
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本当にありがとうございます。励みにして頑張ります!
修正履歴
19/01/30 改行追加
19/06/30 誤字修正
20/07/15 ボサツの口調を変更。一部表現修正。




