魔物討伐戦1
これがこの章、最後の話になります。
ここは2月1度、光の連合のトップが集まって行われる最高会議の議場。
既に7名の当主たちは集まっており、女王が来るのを待つ間、情報交換という名の探り合いが行われていた。
この会議では女王が本日の議題を発表することになっているが、その内容は各地から情報を吸い上げてまとめたものがほとんどで
ここにいる当主たちが事前に話をすれば、今回の議題などは大体察しが付く。
ではなぜ、待っていればわかる内容を事前に探り合いをしてまで情報収集するのか。
それは部下と相談したい内容があれば、事前に相談したうえでスムーズに会議で意見を言えるからだ。
会議における立場はわずかに女王が上だが、当主たちと女王に大きな差はなく発言や賛同などが早い者勝ちになりがちだ。
ならば事前に相談して決めておけば優位が取れることもある。
それに非戦争時における最高会議は、税収や兵力など数値の報告などが多く深刻な議題は少ないため、さっさと終わらせたいものでしかない。
どちらにしても事前に相談できることはメリットでしかない。
そんな中、当主たちの雑談が始まるとすぐに魔物の話が出てきた。
「ほう、魔物が大量に出やがったのか」
「そう。女王様には既に依頼済み」
中立派の当主メルティア・シヴィエットの配下が治める都市の近くで魔物が出たという話に、支配派の当主バカス・ライノセラスが食いつく。
小規模の魔物なら傭兵たちに依頼したり兵士の訓練代わりに討伐を行うのが一般的だが、数が多い場合は多大な犠牲を払うことになる前に
こうやって最高会議の場で協力を募ることになる。
ライバルが無駄に兵力を減らすことは悪いことではないが、それは結果的に光の連合全体の損失とも言える。
闇の国という大きな敵がいる以上、1門閥に押し付けて兵力を減らすより協力して片付ける方が合理的なのだ。
「うちの息子を含め千程度の兵士くらいなら出してやりたいが、どうだピルピー」
「構いませんが、予算の問題がありますね」
隣にいる相談役でありバカスの本妻であるピルピーは、やや渋った答えを返す。
その答えにバカスがやる気を失っても困るので、メルティアはすぐにフォローする。
「なら、うちの一門からも金銭面の手当はする」
「ありがたい話だが、兵士を出すのはうちだけじゃないし、メルティアのところだけが金を出していたらすぐに資金が枯渇するぞ。
闇とのにらみ合いも最近厳しくなってるからな。ったく、タイミングわりーな」
ややイライラした様子を見せるバカスのところへ中立派の当主ルルーが会話に混ざって来る。
「武闘派のバカスがダメならうちに任せなさい。あと、いつも暇しているクエスとか行かせればいいのよ」
「お嬢様、クエス様にケンカを売る真似だけはおやめください」
相談役のエリオスが余計なことに首を突っ込むのを諫めるが、ルルーは不満そうに口をとがらせる。
「いいじゃない、どうせクエスは今日の会議もいつものようにサボりでしょ」
「かもしれませんが・・それにうちも予算の問題がありますので、簡単に参加を決められない事情も理解しておいてください」
いちいち絡みたがるクエスと仲の悪いルルーだが、予算に関しては相談役のエリオスに対して頭が上がらないようで黙ってしまう。
同じ中立派として存在感をアピールしたい、さらに言えば中立派の中でも優位に立ちたいルルーだったが
討伐隊の数によってはかなりの戦費が必要になるので、さすがに好き勝手言うのはまずいとわかるくらいの頭はあったようだ。
「まぁ、ここは女王の出方次第だが、最低でも自分の手駒の三光の1人くらいは使ってくるだろ」
バカスはルルーの相手するのも面倒だと言わんばかりに言葉を投げると、相手の反応を見ることなく相談役の妻と再び話し始める。
周りにいた他の当主たちも今日は少し荒れるかと思いながら
どれくらいの規模なら自分たちも人材を出せるか、隣に連れている相談役や参謀と話を始めた。
その状況を見て、融和派のボルティスとリリスは自分たちの連れている相談役と4人で話し始める。
現状、融和派としては次期女王の選定を控え中立派に恩を売りたいところだった。
メルティアが魔物討伐を依頼しているというのは、まさに渡りに船の状況だ。
次期女王は順番である程度決まっているとはいえ、融和派が推薦する者を確実に当選させるには
中立派をしっかりと取り込むことが必要となる。
様々な思惑をもって話し合いが行われる中、インシー女王が会議室へと入って来る。
当主たちは全員話を止め、着席したまま女王の方を見た。
「皆揃っているわね、定例会議始めるわよ」
女王の一声で会議が始まり、それぞれの当主の前に今日の会議のお題が表示される。
最初に魔物討伐の件、次に財政状況、広範囲にわたる重大犯罪情報、兵士派遣スケジュール、そして最後に闇の国の動向となっていた。
各当主はこの順番を見てほっとする。
最後に闇の国の動向が来るということは、すぐには闇の国との戦争が始まることはないとルーデンリアが判断したことになる。
重要な議題は一番最初に持ってくるのが、この会議の習わしとなっているからだ。
「まずは魔物討伐の件ね。すでに聞いているだろうけどシヴィエット家一門のところで多数の魔物が確認されているわ」
女王がメルティアを見ると彼女は軽く頷いて話し始める。
「確認されているのは地の狼。数はおよそ千匹ほどと推測」
「でかいのはいるのかい?」
メルティアが言い終えるとシザーズが何か問題ごとを期待するかのように聞く。
地の狼、ランドウルフは1匹相手にLV20台前半の新兵たち2,3人で対処すればほぼ危険なく倒せる程度の魔物だ。
ただし遠距離では<石つぶて>・<土の槍>を使ってくるし、移動速度が速く逃げ足も速いため一旦距離を取られると厄介な相手には違いない。
とはいえ地の狼は単体だと突っ込んでくる性格のため、遠距離戦はあまり考慮しなくていい。
ただそれはあくまで1匹相手の場合であって、数十匹の群れとなると話は変わる。
数十匹相手では熟練した兵士たちが隊列を組んで挑まないと、遠距離からの魔法と四足獣の動きの速さに翻弄され続け消耗させられてしまいがちだ。
また群れの指揮をとれる大型の魔物がいるかどうかも大事だ。
これがいるとさらに難易度が跳ね上がる。
他の一門のことだからなのか、気楽な笑顔を見せるシザーズにちょっとイライラしつつ、メルティアは吐き捨てるように答えた。
「大型もいるわ。確認されてるので2匹」
「ほほー、それじゃ傭兵どもは使い物にならないねぇ」
「雑魚が千ほどにボス格が最低2匹か。魔物の突然発生にしてはずいぶんな規模だ」
ボルティスも興味を示し、発言後話を進めるよう女王を見る。
その行動に女王は軽くため息をついて話を始めた。
「規模から言って放置すると都市が致命的ダメージを受ける。とはいえ多数の兵士を動かすとなると予算の問題が生じる。なのでここは実力者だけで迅速に対処するわ。
費用は一部はシヴィエット家の一門から、残りの大半は対闇の国用の予算から出すけど反対意見はあるかしら?」
「いや」
「ないな」
「ないねぇ」
皆が頷いたり軽く右手を上げたりして同意することで、女王の提案は満場一致で了承される。
大量の魔物を放っておいたらそれこそこちら側の隙になりかねないので、やむを得ない判断だった。
「後は編成ね。最低3組、多くても5組で1組5~10人編成の実力者で一気に片を付けて欲しいところだけど」
「それは闇の国を警戒してですか?」
それまで黙っていた支配派のレディ・ポンキビーンが女王の方を見て尋ねた。
「ええ、場所が中立地帯との境界付近だから多数の兵を引き連れると目立って、闇の国を刺激しかねないからよ」
「だからと言ってその編成だと相当の実力者が必要だぞ。誰がそれを引き受けるんだ?」
今度は女王の答えにバカスが突っ込んだ。
確かに数十人でもメンバーの質によっては、この数の魔物に対応することは可能だ。
ただ千を超える魔物の群れを数十人で対応する場合、それこそ一騎当千クラスの人材が多数必要になる。
しかし光の連合内でそんな人材をホイホイと出したがる国はない。
特に今回は連合全体の存亡の危機ではなく、表面上は1都市が危機に面しているだけだ。
光属性を主とするこの連合内の国々は、連合を組んで表面上は協力しているが、水面下では互いを警戒しいがみ合っている。
当主たちのいる上級貴族が治める国はそこまでいがみ合っていないが、下の方は争いの火種があちこちにくすぶっている。
そのため、ある程度の数の兵士を出す分には予算の面以外ではあまり問題はないが、自国の秘密兵器である高LV魔法使いを出すとなると
その者の詳細が他国に漏れやすくなり自国の危機にもつながるため、どの国も二の足を踏んでしまうのだ。
こういった連合内でのいがみ合いこそが、光の連合の泣き所であり闇の国に今一つ対抗できない原因でもある。
この場に居る者達もこの問題をわかってはいるが、あくまで強大な闇の国に対するための連合を維持するのが第一であり
無理を通せばこの連合自体が瓦解する危険があることから、どうしてもこれを改善できないでいるのだ。
バカスのそんな問いかけに、女王は口を閉じ少し考える態度を見せる。
その様子を見て調子に乗った中立派のルルーが女王に向かって発言した。
「女王、あのいつもさぼってくるクエスを使いなさいよ」
それを聞いた相談役のエリオスは慌ててルルーを諫める。
当主というのはこの連合を安定させるために尽力するべき立場であって、むやみやたらに争いごとを招くようでは他の当主から蔑まれかねない。
当主が未熟と判断されればその一門自体が未熟と見なされかねないので、一門に所属する貴族たちから不満が噴出し内紛につながる可能性もあるのだ。
「まぁ、言い方は何だが確かに三光のメンバーは使ってもらわないと困る。女王はクエスと仲が悪いが、今回ばかりは相談してるんだろ?」
ケアしてないとは言わせないと言わんばかりにバカスは女王を睨む。
平時とはいえ、同盟の盟主である女王までがルルーのように好き嫌いを前面に出す未熟な態度をとるのなら
いざという戦時ではとてもじゃないがまとめ役を任せられない。
そんな考えの元、バカスに続いてほとんどの当主が女王を見る。
同盟の盟主であるルーデンリアの女王とはいえ、盟主として致命的な問題があると判断されれば当主全員の賛成で辞職勧告をすることができるのだ。
「はっ。私もそこまで愚かではないわ。もう少し話をまとめて呼びたかったけど・・いいわ。クエス、ボサツ入ってきなさい」
女王がそう呼びかけると、クエスとボサツが会議室に入ってきた。
この会議室は音が外に漏れない仕組みになっているので、女王が手元のスイッチで外部に伝えたのだろう。
声が届かないのにわざわざ呼びかけたのは自分の威信を示すためだ。
それに気づいた一部の当主はこれはこれで問題だなと思いつつも、今は片付けるべき問題に集中するためそこに突っ込むのは止めておいた。
今話も読んでいただきありがとうございまっす。
投稿がかなり遅くなり申し訳ない。。。帰ってくるのが遅かったのと修正に手間取ってしまって。
ブクマや感想など頂けると、マジで嬉しいです。
誤字や誤用など発見したらご指摘いただけると助かります。
では、次話は12/23(月)更新予定です。




