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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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ルーチェ様のご来訪3

ここまでのあらすじ


監査としてやってきたルーチェをマナとシーラは危険な相手だと認識した。


一通り訓練を終えたのか、戦いを止めてコウと弟子たちがルーチェの座る縁側へと戻って来る。

ルーチェが何を話せばいいか迷っていると、コウがルーチェのそばまでやってきて声をかける。


「ルーチェ様、どうでした?以前よりは少し強くなった雰囲気くらいは・・見せられたかなと思ったんですけど」


少し恥ずかしそうにしながらやや謙遜気味にアピールするコウ。


以前ルーチェと会った時のコウはトマクとただがむしゃらに戦っただけなので、コウ自身あの時よりは良くなったんじゃないかという感覚はある。

ただ、コウは練習相手が限られている環境にいるし、相手がクエスとか強敵ばかりなので、以前より格段に実力が上がったという実感は得られていないかった。


なので、あまり自慢できる程ではないが少しは成長したかな、という心持ちで照れながら話しているだけだった。


だがルーチェの目にはこう映る。

格段に腕を上げたにもかかわらず、威張り散らすこともなく謙虚なまま自分を立ててくれている、と。


貴族社会における魔法の実力や戦闘技術は役職や地位に大きく影響するので

相応の実力がある人物はあからさまに威張り散らしたりはせずとも、それなりの自負を持っている事をアピールすのが常識だ。


なので、今のコウの態度を普通の貴族が見れば、自信が無い奴だと軽んじられる可能性もある。

だがコウの才能を知っているルーチェからすれば、その謙遜は来客である自分を立てているようにしか見えなかったのだ。


「素晴らしい成長ぶりを見せてもらいました。正直、私もコウに指導して欲しいくらいです」


「いえいえ、私ではとても。トマク様の方が実力も指導力も上ですよ。それに私は既に手がいっぱいですし」


少し困ったような、でも少しうれしそうな表情で笑うコウ。

それを聞いていたマナとシーラがコウの両側にやって来る。


「師匠はかなり忙しいからね」


「師匠は色々と用事もありますから」


やんわりと渡さないぞとアピールするマナとシーラ。


「そうですか、それはとても残念です」


対して、残念と言いながらもにこやかな笑顔で返すルーチェ。

あなたの入る枠はないと言った2人に余裕を返すことで、上の立場の威圧と度量の広さを見せる。


それでも負けるつもりはないと、マナとシーラは少し不満そうにしながらルーチェを見返す。


2人の弟子たちは少し後ろにいるので表情は見れないが、コウはこの場の不穏な空気を感じつつも

何もない、問題ない、とにかく無事に切り抜ける、と自分に言い聞かせながらルーチェに笑顔を向けていた。


そんな水面下でのにらみ合いが行われているときに、侍女のエニメットが大部屋と庭に面する縁側を隔てる壁を開いて声をかけてくる。


「コウ様、ルーチェ様から頂いた光メロンをお出しできますので座って休憩になさいませんか?」


それを聞いたコウは驚いて小さく何度も頷いた。

反応したのは光メロンというワードだ。


コウだってメロンくらい当然知っている。

地球にいた頃、家が貧しくなったのは中学の頃からなので、それまでは庶民向けのお値段のメロンくらいは食ったことがある。


がさすがに光メロンなんて聞いたことが無い。


すぐに自動翻訳の誤訳かなと思ったが、メロンっぽいものが光っていればそういう名前になっていてもおかしくはない。

神々しいメロンを想像したコウは、ちょっと心を躍らせながら縁側のルーチェの隣に座ってエニメットを待つ。


そんなコウの浮かれた様子をマナやシーラも気が付いたが、先に声をかけたのはルーチェだった。


「コウは光メロンは初めてですか?」


「ええ。もともとあまり色々なものに触れる機会が無かったもので」


下手な発言で別の世界から来たことがばれると大きな問題になりかねないので、コウは無難な答え方で返す。


それを聞いてルーチェは不思議に思う。

そもそもルーチェはコウの出自などを含め彼の今までの生い立ちをまったく知らない。


とはいえ貴族や準貴族の生い立ちなど、次期国王として期待されている立場でもない限り大して変わらないので、そうそう気にすものではないのだが。


ただ、あの金持ち貴族のアイリーシア家で光メロンを見たこと無いというのは少し引っかかった。

一応彼は準貴族だから、そう言うこともあるかもしれないとも思ったが。


「そうでしたか。それは手土産として持参した甲斐があります」


さりげなくアピールするルーチェにマナは目を光らせる。

なんせコウは果物に目がない。


前回もスイカがあると聞いて、夕食前にもかかわらずすぐに食べたいと言い出したくらいだ。

ただ、コウが思っていたよりも甘くなかったのか、その時はちょっと辛口な批評をしていたが。


その点光メロンは問題ない。あれを美味しくないと言える者などほとんどいないと言われる程の貴族の中でも有名な贈答品だからだ。


シーラも自分の家では作っていない特級品を持ってこられて、軽く精神的ダメージを受けている。

この戦いはルーチェに軍配が上がった。



そんな戦いに目を向けることなくコウが楽しみに待っていると、エニメットが4人分の食べやすくカットした光メロンを持ってくる。

定番の月型ではなく角切りにカットした光メロンが皿の上に10個ほど盛って置いてあった。


コウが薄黄色い身をみて光ってないじゃんと落胆する中、シーラとマナは魔道具を使って<風の板>で目の前にテーブル台を作る。

コウもそれを見て真似をし自分の前に<風の板>を使った。


「コウは風属性が使えるんでしたね。魔道具使わずにテーブルが作れて便利ですね」


コウの動作を見て少し羨ましそうに声をかけるルーチェ。

それを聞いてコウは自分だけじゃなくてお客様の分も作らないとと思い話しかける。


「ルーチェ様の分も作りますよ」

そう言うとコウはルーチェの前に<風の板>でテーブル台を作った。


ずるい!とマナとシーラは思うが、自分たちはその手が使えないので苦々しくその様子を見るしかなかった。

特にマナがそれをねだった場合、せっかく買ってもらった魔道具のことを指摘されかねないからだ。


マナやシーラをしり目にルーチェはコウに笑顔でお礼を言う。


だが光メロンを目の前にしたコウは、もはやマナやシーラの気持ちやルーチェを相手する余裕もなく

わくわくしながら小さい銀の棒を刺して角切りの光メロンを口に運んだ。


「甘い!うまい!これおいしい」


一つ食べるとコウはちょっとはしゃぎながら感動していた。


角切りの実は地球のメロンのような外側の少し硬い部分と内側の柔らかい部分という硬さの差が少なく

全体的に程よい硬さで食感が心地よく、噛めば甘い果汁が口の中であふれる素晴らしいフルーツだった。


手を止めることなく次々と口に運んでいくコウ。

食べ物で懐柔されているコウを見て、マナやシーラはここではルーチェと張り合う手が無いと判断し、割り切ってゆっくりと味わいながら光メロンを堪能した。


実はマナだけでなくシーラも光メロンを食べたのは初めてだった。

かなり手間のかかる高価な果物らしく、シーラですら現物は見たことあっても口にしたことはなかったのだ。


隣にいるルーチェが3つ目を食べる頃にはコウはすべて食べ終わってしまっていて、満足とともに正気に戻ったコウは自分がやらかしてしまった事に気づく。

目上の相手がいる前で目下の者がガツガツと先に食べ終わってしまうのは、さすがにマナー違反と言わざるを得ない。


さっきの感動から一転、コウが自分の失態をどうしたものかと迷っているとルーチェがフォローしてくれる。


「そんなに喜んで食べてくれるなんて、持ってきたかいがありました」


「いや、ほんとに申し訳ない。あまりに美味しくて、つい・・」


「いいんですよ、コウ。むしろ喜んでもらえて嬉しかったくらいです。また可能だったら持ってきますね」


喜ぶルーチェにコウは申し訳なく思いながらも、またお願いしたいと思い恥ずかしそうに軽く頭を下げた。

シーラはその様子に少し不機嫌になっていたが、マナはコウと同様に光メロンのおいしさに感激してコウの様子は目に入っていなかった。




全員食べ終わりエニメットが皿を持って大部屋へと戻ると、コウたちは訓練の続きをしようかと立ち上がる。

その時ルーチェも追うように立ち上がりコウに声をかけた。


「コウ、すみませんが少しお話をしたいのですが、今いいですか?」


無茶なことを言われない限り、上の立場であり監査の立場でもあるルーチェのお願いを拒否するわけにはいかない。

ましてや先ほどたいそうな一品を頂いたばかりだ。


嫌な予感はするものの、コウは笑顔でルーチェの方を振り向く。


「ルーチェ様なんでしょうか?」


その笑顔を見て安心したのか、ルーチェも笑顔を見せ話し始めた。


「その、ちょっとコウに相談したいことがあるんです。2人で、では駄目でしょうか?」


そう言われてコウはちらっと後ろを振り返る。

マナはいいアドバイスが浮かばないのか困惑の表情を返し、シーラは露骨に不満そうにしていた。


弟子たちにそういう顔をされたところで断るいい口実も浮かばないので、コウは仕方なくルーチェの話に付き合うことにする。


「マナ、シーラ、すまないが先に行って基礎練でもやっててくれ。話が終わったらすぐ戻るから」


「はーい」

「はぁ」


不満そうな弟子他の返事を聞いてコウ少し困り顔でルーチェの顔を見る。

彼女は少し申し訳ない表情で見つめ返してきたので、コウは少し警戒を緩めてしまった。


「では、ゆっくり話ができるよう来賓室にでも行きましょうか?」


コウは気を使って提案したが、そこまで迷惑をかけるつもりはないとルーチェは首を横に振る。


「いえ。ちょっと離れたところで構わないので」


そう言われ、2人はマナたちに話が聞こえないよう、最初にルーチェが来た外門へとつながる通路の方へと移動する。

マナやシーラの属性から言って遠くの会話を盗み聞ぎするような魔法は持っていないだろうから、ここまで離れれば十分だ。


「この辺りでいいですか?」

「はい」


少し遠慮がちに答えるルーチェ。

2人っきりになると、ルーチェの雰囲気がさっきとは急に変わった。


「その、コウは素晴らしい才能を持っておられるのですね」


「えっ?」


「いえ、先ほどの戦闘訓練です。以前お見かけした時よりずいぶんと成長されていて」


何の話をするのかと思えば、いきなり褒められたのでコウは恐縮そうにしながら軽く頭を下げる。

ルーチェは以前メルベックリヌ城で会った時みたいに、少しおどおどした様子を見せていた。


「それで、そのぉ、身勝手なお願いがあるのですが・・」


「はっ、はぁ。何でしょうか?」


「その、私を弟子として指導してはいただけないでしょうか?」

「えっ?」


思わず驚いて聞きなおすが、ルーチェが頭を下げるのでコウは驚いてそれを止める。

彼女を弟子にするというのは、明確にルーチェをコウより下にするという行為でもある。


弟子と師匠の関係はクエスやボサツに色々と聞かされていたので、コウも知識としてはちゃんと押さえていた。


ルーチェは上級貴族になるのでお互いの立場から期間限定の師弟関係になるだろうが、上級の王女が下級のコウの所へ弟子入りするとなれば

当人2人で勝手に決められるような簡単な契約では済むはずがない。


むしろここで勝手に了承してしまったら、個人の問題なんてものじゃ済まず師匠であるクエスやボサツにまで迷惑がかかる。


なのでルーチェに何と言われようとも、この件は了承するわけにはいかなかった。

そう考えていたコウだったが、目の前で申し訳なさそうに頼み続けるルーチェに厳しい言葉を投げることもできず、コウはただ戸惑う事しかできない。


コウが戸惑っているのを見て申し訳なさそうにしつつも、ルーチェはさらに言葉を続ける。

彼女にとってはここが一番大事な勝負どころなのだ。


「私、今の兄弟の中では魔法の実力は下の方なのです。もしコウに指導していただければ、もう少し伸びるかもしれないって、そう思ったんです」


「そのような高評価、本当にありがたいのですが、こればかりはボルティス様にもお話をしておかないと」


「お父様が許可してくだされば、コウ様の指導を受けられるのですか?」


うれしそうに飛びつくルーチェにコウはしまったと思ったが、ここで首を縦に振るわけにはいかない。

何か良い口実はないかと考えていると、もう1人許可の必要な人物を思い出す。


「えっと、それに俺の師匠の許可も必要になります」


それを聞きルーチェは落胆する。

前回父からお願いした時はクエスが断ったという事を聞いていたからだ。


とはいえコウの断り方も苦しまぎれのはすぐにわかった。

もう1歩踏み込めば、そんな思いでルーチェはさらにコウを説得しようとする。


「ですが、コウはもう立派な師として独立されているじゃないですか」


「指導しているのが師匠たちの秘技という事でここで保護されながらやっているんです。なので自分一人の判断ではさすがに・・」


とても残念そうにするルーチェを申し訳なく見つめるコウ。

こればかりはコウの裁量の範囲に入っていないので仕方がなかった。


正直に言うと、コウはルーチェを弟子にするうんぬんよりもあの厳しそうなボルティスと接点を持つことを避けたかった。

前回強引な手を使われていたので、コウが警戒するのも無理はなかったが。


話は終わりかなと思ってコウが少し気を抜き庭の方を見ると、ルーチェがさらに食い下がって来る。


「その、それなら今日だけ1時間ほど指導していただくことは・・難しいでしょうか?」


その問いにコウは思わず返事が詰まる。


先に厳しい条件を出しておいて、後から本命の緩い条件を提示する。

こういった交渉のやり方くらい、ルーチェだって当然知っていた。


コウの反応に一筋の光明を見出したと思ったルーチェは、ここだと思ってダメ押しの言葉を続ける。


「もちろん、秘匿とされる技術を教わりたいわけではありません。ただ、指導を受けた感想をお父様にも報告できればと思って」


監査としての仕事にもなることをにおわせる一言。

論理的に断ろうとするコウには、なかなか有効な一撃だった。


ルーチェは申し訳なさそうにお願いを続けるが、本来は上の立場だ。

強く出られればコウだって反発気味に師匠へ確認すると簡単に言えたが

条件を下げた上に丁寧にお願いされると、コウとしては断る目的で師匠に相談する手も使いにくくなっていた。


仕方なくコウはエニメットを呼んで、ルーチェに簡単な指導することは問題ないか本家の方に確認を取ることにした。

師匠のことを出したときルーチェが落胆しているのを見ていたので、ついクエスたちにコウ自身が確認するという手を避けてしまったのだ。


今話も読んでいただきありがとうございます。

下書き修正してばかりで・・少し遅くなりました。すみません。


ブクマや感想など頂けるととてもうれしいです。

また誤字等ありましたら、ご指摘いただけると助かります。


次話は12/17(火)更新予定です。

では。

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