表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
165/483

ルーチェ様のご来訪2

ここまでのあらすじ


半年も待ってようやくルーチェはコウに会いに行けることになった。

服装・手土産を次女と色々と話し合い、訪問する当日を迎える。


それから2日後の朝、ルーチェはあまり堅苦しくない程度の服装に身を包み

この世界で高級手土産の定番ともいえる光メロンをアイテムボックスへとしまう。


光メロンはメロンの緑部分が全体的に薄黄色に置き換わっており、甘くて身もしっかりしている上にわずかに魔力回復効果もある超高級フルーツだ。


ちなみに色が光属性の薄黄色というだけであって、別にほとんどの光メロンは光ったりしない。

ごく一部は光るらしいが、そんなレア物は貴族でも早々お目にかかれない。



「再会時の第一印象が大事よね」


準備できたにもかかわらず、ルーチェは鏡の前で何度も笑顔を作って見せていた。

そんな浮かれた様子を侍女はいつものように平静を保ちながら見つめていた。


「お嬢様、時間は決まっていないとはいえ、そのようなことをしていると遅くなりませんか?」


「わかっているけど一発勝負なんだから、もう少し」


「ルーチェお嬢様、今日はお見合いじゃなく視察なのですから」


そう言われて少し浮かれていた自分に気が付いたのか、ルーチェは鏡を見るのをやめ姿勢を正す。


「そういえば、ルルカお姉さまは今仕事ですよね」


「ええ、言われた通りちゃんと確認しております。鉢合わせることはまずありません」


「はぁ、よかった。それじゃ、行ってきます。ルルカお姉さまが来たときはうまく誤魔化しておいてね」


ルーチェはゆっくり歩きながら部屋を出ていき、2名の普段着をした兵士が護衛のため後をついていく。

今回は部外者が簡単に立ち入りできない場所になるため、残念ながら侍女はお留守番だ。


「ふぅ。やっと出かけてくれた。とはいえ同行できればその男の価値を見極められたのに・・残念」


ぼやきながらもベルルーシアは午後戻ってきたらすぐに仕事が行えるよう、書類の束の整理を始めた。



ルーチェは護衛の兵士とともに転移門でルーデンリア光国へと飛ぶと、コウの道場のある占有地エリアへと向かう。

そして占有地エリアの入り口に来ると、ここで兵士に待機しておくよう命令した。


「ここから先は私一人で向かいます。最低1時間、長ければ昼過ぎまでかかる予定です。せっかくなのでルーデンリアの貴族街を見学していても構いませんよ」


「ほ、本当にいいんですか?」


「はい。ですけど、1時間もすれば戻ってくる可能性があるのでそれ以降はここで待機をお願いします」


「はっ」


そう言って占有地の路地へと入っていくルーチェ。

それを見送り見えなくなったのを確認すると、兵士たちはすぐにその場を離れ商店へと向かった。



コウの道場の入り口まで来たルーチェは姿勢を正し扉をたたく。

扉が光り『しばらくお待ちください』の表示が出たのを見てルーチェは少し驚いた。


「これ、面白いですね。っと気を引き締めないと。第一印象、第一印象っと」


ルーチェが笑顔を保っていると、扉が開き中からエニメットが出てくる。

コウではなくて少し残念に思ったルーチェだったが、それが顔に出てしまわないよう笑顔を保ち挨拶する。


ここで出てくるということはおそらくコウに付いている侍女だと推測できる。

侍女への印象が悪ければ、即そのことがコウへ伝わり、コウからの印象も悪くなってしまうので油断はできない。


「本日、監査で父ボルティスの代理できましたルーチェ・ギラフェットです」


あまり圧をかけないよう、やさしく微笑みながら自己紹介をするルーチェ。

それを聞きエニメットは深く頭を下げた。


「私はコウ様の専属侍女を務めてさせていただいているエニメットと申します。中へご案内しますので、どうぞ」


エニメットの案内でルーチェは中へ入り門が閉じられる。

入口から建物へと続く通路は変わった銀の柱が左右に並んでいて、通路外には白い石が敷き詰められている。


先に見える道場は木造の平屋みたいで整然とした雰囲気だが高級感はあまり感じない。

そんな光景を珍しそうに見るルーチェに、エニメットが話しかける。


「ただいまコウ様は弟子のお二人と庭の方で修行中です。お呼びしますのでしばらく来賓室でお待ちいただければ・・」


「いえ、せっかくなのでその庭まで出向かせてください。中断させてしまっては私が邪魔をしに来たみたいですから」


エニメットは驚いて一瞬言葉に詰まるが、ルーチェにそう言われれば了解するしかない。


今日は現場を直接見られても問題ないように、型をいじるような練習や各人の奥の手などは見せないよう事前に注意はしてあったが

まさか上級貴族のお嬢様が本当に庭に様子を見に来るとは思っていなかった。


「庭は・・砂ぼこりも立ち御召し物が汚れるかもしれませんが・・」


後でいちゃもんをつけられるとかなわないので、エニメットは一応伝えておくが


「えぇ、構いません」


とルーチェは笑顔で答えて道場へと向かわずにそのまま直進して庭へと向かう。

が、例の物を思い出し、急に立ち止まると振り返ってエニメットに話しかけた。


「忘れていました。手ぶらではどうかと思ってこちらを持ってきました。休憩の時などに食べてください」


そう言ってアイテムボックスから高級そうな布に包まれた丸いものをエニメットに渡す。

エニメットが両手で受け取った後にルーチェが上部の布の結び目をほどくと光メロンが現れた。


光メロンを見たエニメットは相当驚いたのか、目を見開いて固まっている。

ルーチェにとっては入りの掴みは完璧だと思わせる反応だったので、心の中でガッツポーズを決める。


「これは・・まさか光メロンでしょうか。こ、このようなものを頂き・・」


「ぜひ、コウとみなさんでどうぞ」


ルーチェは満面の笑みで答える。

侍女と色々と論争したが、やはり手土産は必要だったとルーチェは自信を持った。


光メロンを手に持ったまま感動して固まっているエニメットを置いてルーチェは庭へと出る。

少し先の方に、コウと2人の女性が1対2で実戦訓練をしているようだった。


コウが押されてはいるが攻めている2人も決め手に欠けるのか、押しているようで焦りも見える。

ルーチェは頑張れと心の中でコウにエールを送りながら、その戦闘訓練と思しき戦いをじっと見つめていた。


コウがマナの直接攻撃とそれをサポートするようなシーラの攻撃を一通り受け止めた後、2人に急に待ったをかける。


「ストップ。一旦止めよう」


「はい」

「いいけど、師匠どうしたの?」


マナが不思議そうにすると、コウは庭から外門へと通じる場所にいる正装した女性の方見る。

それにつられて2人とも視線を動かした。


「あれ、お客さん?」


「ひょっとして、今日の監査の方でしょうか?」


「ギラフェット家の方が来るとは聞いていたんだけど・・あっ」


コウはやや離れた位置にいる女性がだれかを理解し、マナとシーラに待機を命じるとその女性の方へと向かった。

そして急いでその女性の前までくるとやや深めに頭を下げる。


「お久しぶりです、ルーチェ様。以前は魔法書を選ぶ際にアドバイスをいただきありがとうございました」


コウの言葉で自分を覚えていてくれたことがわかり、ルーチェはテンションが上がる。

忘れることは失礼と言えなくもないが、1年近く前に1度短い時間会っただけなので忘れられていても無理はないと思っていた。


覚えているのならあの時の好感も少しは残っているのでは、そう期待してルーチェは嬉しそうに話す。


「覚えていただいているなんて嬉しいです。今日はお父様の代わりに私がコウの様子を見に来ました」


「あまりお見せできるほどのものは無いと思うんですけど、何かあったら遠慮なくご質問ください」


ルーチェが丁寧な口調で話すので、身分が下であるコウはさらに丁寧な口調を意識して話す。

笑顔を保っているコウだったが、正直やりにくいなとは思っていた。


以前会った時は、どちらかというと消極的な雰囲気だが話しかけると笑顔を見せる害のない感じの人だったが

今日のルーチェの様子はあの時とは明らかに違う。


戦闘訓練中の自分たちにいきなり声をかけてくるようなことはなかったが、コウの記憶ではこんなに良く話す人ではなかった。

何かあるのかと思いつつも腹を探るような真似をするわけにもいかず、とりあえず相手の出方を窺ってみる。


「ええと、どーう、しましょうか?」


「そうですね、コウの実力がわかるよう先ほどの練習を続けていただき、それを見学させてもらえれば十分だと思っています」


少し高めのテンションが続き、普段とは見違えるほど饒舌に話すルーチェ。

侍女のベルルーシアがそばにいたらびっくりして2度見するほど、普段とは違う雰囲気だった。


「ありがとうございます。それでは練習を続けますので、何かありました呼んでください」


そう言ってコウはマナ達の方へと向かった。



一方のマナとシーラ。

2人が話す様子を遠くから観察して、2人の今の関係をチェックしていた。


「うーん、恋人・・じゃないね、全然」


「師匠が頭下げてるしただのお偉いさんですね。監査と言っていたしそうなのでしょう」


「とは言え、なーんか見に来ただけって感じがしない」


観察眼の鋭いマナは2人の関係に不穏な何かを感じていた。


「なるほど。でしたら、余計なライバルは早めに退けておいた方がよさそうです」


マナの言葉に警戒感を強めるシーラだったが、言い出したマナはそこまでの警戒感を持っていなかった。


「んー、でもたまーに1回来るだけの人なら別に大丈夫じゃない?」


「ダメよ、マナ。権力持ちは何をするかわからないわ。こういう時にきっちり白黒つけておいた方がいいんですよ」


今まで見たことのない気迫を見せるシーラに、マナは驚きながらただ頷くしかなかった。


この世界の貴族同士の身分は上級・中級・下級とざっくり3つに分けられているが

細かいところで言えば国内で就いている職、魔法の実力、直系の本家の者と分家の者、直系内でも継承順位などではっきりとした上下関係が出る。


互いに上級貴族で国王の子だとしても継承順位が違えば、魔法学校などでも自然と継承順位が上の方が偉いという風潮が出てくるのだ。

もちろん魔法の実力とか様々な点が加味されるので、1つの要因だけで決まることは少ないが。


シーラはそういう関係性の中で長年過ごしてきたので、マナと違って上下関係への警戒心が強い。

マナはその辺には疎いので、ここはシーラの意見を尊重した方がいいと思った。


「うん、そうだね。私たちはもうライバルって関係じゃないけど、あれはライバル」


「ええ、ライバルというよりむしろ敵ですね」


そんな警戒心を高めている2人のところにコウが戻って来る。


「中断して悪かった。どうも彼女が監査役としてきたらしい。以前1度だけ会ったことのある人なんだ」


コウが簡単に説明すると、マナがコウの左手を握ってぶらぶらさせてくる。


「うー、それはいいけど師匠はさっきあの人を感知しながら戦っていたでしょ。そんなに私たち相手じゃ余裕?」


「いっ、いや。そんなことはないって。たまたま気配を感じただけだから」


いつもの訓練中では見せることのないマナの行動に、コウは少し慌てて言い訳に徹するしかなかった。

さらにそこへシーラが体をゆっくり揺らして、コウへくっついたり離れたりしながら追い込みをかける。


「師匠。まだ訓練やりますよね~」


「あっ、ああ。もちろん。ってどうしたんだよ2人とも・・」


突然、普段は見ることのない態度をとる2人にコウはどぎまぎしていつものようなびしっとした指導ができずにいた。


そんな光景を少し離れた場所で見せられていたルーチェは、いちゃついているように見える弟子たちの行動を見て

思わず右のこぶしを強く握りしめてしまった。


それを見逃さずに見ていたマナは、ちょっと嬉しそうにシーラに目で合図すると

そのままコウと距離を取り戦闘訓練を再開した。


最初は弟子の2人にイライラしながら見ていたルーチェだったが、2人のしっかりとした動きに次第に感心していった。

そしてもっと驚かされたのがコウの動きだった。


以前見せてもらった映像のコウは、まだまだ拙いところがあり今の自分でも勝てるかも程度の相手だと思っていたが

今、目の前で見ているコウは自分では勝てないと思わされる程の強さに成長していた。


コウの才能を父に聞かされていたとはいえ、ちょっと信じがたい話だったので心のどこかで疑問を抱いてはいたが

これはまさしく本物だという証拠を目の前で見せられ、ルーチェは再びテンションが上がる。


だが問題もある。それはあの弟子たちだ。

さっきの様子から、最終的にこちらの思惑とぶつかる事になるのは間違いない。


「強引に2人っきりになるべきかな、でも印象悪しなぁ・・」


考えていることが思わず口に出てしまうルーチェだったが、戦っているコウたちにその声が届くことはなかった。


今話も読んでいただきありがとうございました。

意外と書いてて楽しかったり、こんなのほほん?話。


ブクマや感想など頂けると嬉しいです。誤字脱字の指摘もいただけると助かります、本当に。

次話は12/14(土)更新です。

頑張って書かなきゃ、心の余裕のためにもストック作らなきゃ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ