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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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シーラとマナ お互いの立ち位置5

ここまでのあらすじ


クエスと1対3の戦闘訓練を行い、コウだけが回復カプセルに入らずに済んだ。

侍女と2人っきりになったコウは侍女にも実戦に則した練習をするよう提案した。


夕食が終わってすぐエニメットはコウとともに庭へと向かった。

普段、コウとこうやって2人っきりで過ごすことはないので、エニメットは若干テンションが上がっている。


「まずは動かない目標を守る形式で行こう」


コウは防衛対象となる人形を置いてエニメットにそれを守るように指示する。

彼女が防ぐべき攻撃が飛んでくる方向は守護対象の後ろ90度の角度からのみという想定だ。


普段は魔法の使い方や早く防御魔法を作る練習ばかりやっていたので、エニメットは戸惑いながら人形に背を向ける。

コウを守る役目を負っているのは自覚していたが、練習とはいえ実戦に近い状況で訓練をやるのは初めてだった。



侍女や近侍という貴族階級の者のそばにいて、お世話をする者の練度というのは国によってさまざまだ。


立場上スパイが潜り込みやすいと考え、害のないよう身の回りの世話に必要な魔法だけを知った低LV、もしくは魔法が使えない者しか置かない国。


そばにいる者だからいざという時の重要な護衛役として期待できるため、かなり鍛え上げるタイプの国。


緊急時は張り続ける盾役や固定砲台にさえなればいいと判断し、一定の魔法までしか教え込まない国。


ちなみにエニメットのいるアイリーシア家は一番最後のパターンに近い。

正確には教育する側の人材の不足、さらに侍女や近侍を兵士と同等程度にしか考えておらず、一定の魔法までしか習得していない者が多くなってしまっているだけだが。


またアイリーシア家は過去の経緯から、スパイを警戒する傾向が他国より圧倒的に強く

教育をする者と受ける者、両方の選定基準が厳しく人材確保に苦心してるというのもある。


そのためコウから魔法を指導してもらっているとはいえ、今のところ早く固く魔法障壁を作ることにしか重きを置いておらず

エニメットは未だに固定盾の役割しかできない。


そんなだから、エニメットはただ大きい<光の強化盾>を張り突っ立ったまま攻撃を受け続ける。

そんな彼女をコウはただ黙って見つめていた。


これでも実戦では後ろ90度を守っているといえるので、役に立たないということはない。

アイリーシア家の使い捨ての盾という考え方で言えば上出来ともいえる。


「うーん、まさに使い捨ての消耗品になってるな」


彼女の献身的な防御姿勢も、コウから見ればかなり不満なものだった。

とはいえ、小さな盾をホイホイと動かして防ぎ続けることができるのなら、最初からこういうことはしていないはずだ。


(これは一から教えないといけないのか。ほとんど最初の自分だな)


そう思いながらコウは2分間耐えきって肩で息をするエニメットに近づいていった。


「お疲れさま、エニメット。とりあえず2分間は何とかなったな」

「はい」


短く答えるとそのまま肩で息をするメイド姿の少女。

短時間とは言え初めての実戦に近い訓練で必要以上に力が入ってしまったのか、なかなか呼吸の荒さが治まらない。


そんな彼女にコウはゆっくりと話しかけた。


「だけど、その守り方だと魔力の消費が大きいだろ。例えばこんな風に小さく作りつつ障壁を動かせば効率よく守れない?」


「その方法では私の実力だと防ぎきれる自信がありません。ならば確実なやり方をと思いまして」


「なるほど、それなら今から練習しなきゃな。今度は60度角と狭くして攻撃を飛ばすから、小さい障壁を作って動かしなら防いでみよう」


エニメットのできるできないを問うことなく強引に話を進めるコウ。

それを聞き少し迷った様子だったが、しばらくしてコウを見上げ答える。


「それは今の私には難しすぎます。私の役目はあくまでコウ様が逃げるまでの時間稼ぎです」


エニメットはもちろんそれが素晴らしいことだとは思っていない。

だが、自分の与えられた役割はこれなんだと信じ込んでいてコウに強く主張する。


そんな真剣な言葉をコウは軽く笑いながら一蹴した。


「いやいや、エニメットが耐えられそうにないから俺が逃げなきゃいけないって完全に意味不明でしょ?俺の方が強いんだから。

 俺がエニメットに期待するのは俺が戦っている間、一定方向からの攻撃を防ぐこと。それには当然、耐久性が重要になる」


「ですが、とてもそんな役目私には・・」


「できないのをやるのが練習、出来るならもっと発展したことをやらせるよ。発展性のないただ魔法障壁を作って突っ立っているだけじゃ、これ以上何かする意味はない」


彼女にとって今の主人はコウだ。

コウがそう言うのなら、できるできないを抜きにして従わざるを得ない。


「わかりました。お願いします」


「ああ。と言ってもすぐにできるようになる必要はないから。その分しっかりと練習には付き合うから頑張ろう」


こうして夕食後のエニメットの時間に新たな練習項目が追加された。




翌日の朝食後はマナもシーラもいないので、コウは一人で色々な練習をしながらエニメットの特訓に付き合っていた。

弟子たちがいない時間は貴重なので、今日のエニメットの仕事は食事の準備以外は休みにしている。


マナが起きるのは夕方までなので、それまでにある程度一人で練習しても上達するラインに乗せようと

コウが他の仕事を無理やり中止させたのだ。


少し離れた所でコウが2つの属性を各掌で交互に出しているのを見て、エニメットは属性の切り替えの修行かと思いつつ自分の訓練に集中する。


守護対象に向かって放たれる魔法は弱めでエニメットに当たっても大けがをすることはないが、それでも当たると痛い。

もちろん守護対象に当てるのは一番いけないことなので、集中しながら訓練を繰り返していた。


昼の1時間半前になると昼食の準備に戻りまた夕食の準備前まで訓練を繰り返す。

結果、今日は普段は高価なので飲むことのない魔力回復薬も2本も飲んで集中特訓した日になった。


「おぉ、最初と比べて守護対象に当たった数が三分の一にまで減ったじゃないか、さすがだなエニメット」

嬉しそうに褒めるコウだったがエニメットに笑顔はない。


「いえ。まだ2分間で8発も当ててしまっています。これではとても・・」


「はいはい、本番じゃないんだから気にしない。この調子でやっていけば上達していくさ。今は着実に減ってることを喜ばないと」


コウにそう言われるがエニメットは困惑していた。

少なくとも最初にやっていた全面バリアを使えば1発も通さずに済むのだから。


「不満なのはわかるけど、このやり方なら全面で障壁を張り続けるより何倍も時間が稼げるし、もう少し上達すれば2枚重ねでより強い攻撃も防げる。

 やっていることはとても意義のあることなんだからさ」


そう言ってコウはエニメットの頭にポンと手をやった。

主人の優しさに対して自分のふがいなさが際立つのを感じ悔しく思うエニメットだったが、もちろんこのまま優しさだけを享受するつもりはない。


「わかりました、時間があるときにはこまめにやってみます」


「ふふっ、数か月もしたら背中はエニメットにお任せできるかもな」


そう言ってコウは笑ってその場を離れていく。

やるしかない、そう思いながらエニメットはいつもより遅い夕食の準備をするために道場へと戻っていった。



夕方19時過ぎ、コウがカプセルの前へと行き出てくるマナを迎えた。


マナはカプセルから出ると目の前にコウがいるのに気づき、嬉しそうに抱きつこうと歩く。

だが、1日以上動かなかったことで足取りのおぼつかないマナを慌ててコウは受け止めた。


「大丈夫か、マナ。そんな慌てなくても俺はここにいるって」


「ううん、師匠が回復を待っててくれてたのが嬉しかったの」


回復カプセルに1日籠る経験はマナも何度もあったが、こうやって待っててくれた人がいたのは初めてだった。

傷の回復なんてよくあることなので、マナがよく絡んでいた1隊ですら缶詰なんていつか出てくるだろうさ、という感じだったからだ。


そんなマナを抱きしめつつ、コウも次は師匠たちの好きなようにさせるものかと強く決意を持つ。

まぁ、決意くらいで実力差が埋まるようならば誰も苦労などしないのだが。



そしてマナとエニメットとコウの3人での遅めの夕食が始まり、夕食後はマナは調子を取り戻すための自主練

エニメットはコウの指導の元で光の強化盾を正確に動かす練習に時間を費やした。


翌日にはシーラがカプセルから出てくるところをコウが迎える。

シーラにとって学校や城内での練習で数時間回復カプセル行きになった経験は何度もあったが、数日なんてのは初めての経験だった。


また、今まで侍女が待っていてくれた経験はあったものの、まさか師であるコウが待っていてくれるなんて思わなかったようで

軽く涙目になりながらふらふらと歩き、コウに抱きついてくる。


ちなみにコウは隠れ家で修業中何度もカプセルにぶち込まれて、出る時師匠が待っていてくれたことも多かったが

即やられた時の直前の復習に入るので、カプセルから出ることにあまりいい思い出はなくちょっと気持ちにずれがあったのだが。


とは言え大切な弟子に喜んでもらえるのはコウにとって嬉しいことだ。

これからもちゃんと出待ちしておかないとなと思いつつ、同時に、自分が重傷を負わないようにしないといけないことを考えさせられた。


戦場では誰かが瀕死の仲間をカプセルまで運んで戻らなければいけない。

戦場ではその場で治療を続けるという事は難しく、皆が重傷を負えば味方は回復することなく死亡してしまう。


そう考えると、コウがこうやって彼女たちを迎えることができる程度のけがで抑えられたことはとても大事なことなのだ。



ようやく3人揃ったことで改めてクエスとの戦闘を思い出して、改良すべき点を並べ、1つずつ実行できるか試すために体を動かす。

自分に足りないものを自覚し、反応速度、連携、判断力、1つ1つを磨いていく作業が続く。


各々がカバーの必要性を瞬時に判断するためには、互いの強さを正確に理解しておかないといけない。

過剰なカバーは全体の戦力ロスに繋がるし、必要なカバーを怠るのも全体の戦力ロスに繋がる。


その為に戦闘の時だけでなく、普段から相手がどう動くかをコウとマナとシーラはそれぞれ考えるようになっていった。


互いの強さ、性格、癖、それらを知るだけでなく認め合い、チーム内での自分の立ち位置を決めていく。

それが1+1+1を3以上にする事へとつながっていくのだ。



そうやって練習を重ね、数日経つとまたクエスが、時にはボサツがやってきてコウたちを再びぼこぼこにしていく。

それを受け3人はまた精度を練度を上げていく。そんな日々が過ぎていった。


今話も無事に更新できました。読んでいただき、感謝であります。

下書きからだいぶ修正を重ねたので、いつもより時間がかかってしまった。


ブクマや感想、色々頂けると嬉しいです。返信もさせていただきます。

また誤字等お気づきでしたらご指摘いただけると助かります。(何度読み返しても抜ける誤字の恐怖)


次話は12/09(日)更新予定です。 次の話しに入ります。次章は次の話を入れて後2つの話の後の予定です。そろそろ見えてきた。(見えただけで書いてはいない)

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