シーラとマナ お互いの立ち位置2
ここまでのあらすじ
マナが正式な弟子となってすぐ、コウは再びクエスの実験に付き合うために道場をあける。
シーラとマナは仕方なく自主練をしていた。
2人ともおやつを食べ終わり脇に皿とカップを置いてそろそろ再開しようかと思ったタイミングだった。
ふとマナが遠くの空を見ながらまるでひとりごとのように声をかけてきた。
「ねぇ、シーラ」
話しかけられるとは思っていなかったのか、シーラは一瞬びくっと反応したがすぐに落ち着いてマナの方を見る。
「何ですか?」
シーラが振り向いたにもかかわらず、マナはそのまま視線を変えずにしばらく黙ったままだった。
何か気まずいことでもあったかとシーラが少し不安になったころに、マナが口を開く。
「シーラはさ、師匠のことを狙っているよね?」
「えっ?マ、マナ・・急にどうしたの?」
動揺を見せながらも質問をはぐらかし、ごまかし笑いをしながらシーラはマナを見るがマナは振り向いてくれない。
急なマナの質問に意図がわからず、対応に困ったシーラは戸惑ったままだった。
そんなシーラをほとんど気にすることなく、マナは淡々と話し始める。
「えっとね、私ってさこの間まで師匠のことを調べるスパイをやっていたんだよね」
切りだしにくい話題をマナから振ってくれたことにシーラは感謝したが、それと先ほどの質問の関連性がわからない。
仕方がないのでシーラはただ黙ってうなずく。
「それでさ、それなりの訓練も受けてるし、ここにいる人間関係とかそれなりに確認してたんだけど
シーラはメルティアールル家代表として、エニメットはアイリーシア家代表として師匠を取り合っている、という認識であってる?」
「え、えっと、それは・・別に代表ってわけじゃなくて、えっと・・」
「あれ、違った?クエス様とボサツ様がガチで取り合いなんてやったら、それはそれで大騒ぎになるから代理争奪戦でもやってるのかと思ってたんだけど」
突然のマナの鋭い切込みにシーラは防戦一方というか、既に防御も出来ていなかった。
その動揺した様からは、どう見てもマナの質問を肯定しているとしか思えないほどだ。
とはいえ、シーラは別に家を代表してコウを奪取してこいとまではいわれていない。
どちらかというとシーラの認識では釣り堀に大魚がいるので釣ってきて言われ釣りに来た。
だけど行ってみたら向こうにも釣りに来てるライバルがいたってくらいだ。
今回の件では期待されているっぽいとはいえ、シーラは才のない自分を家の代表と名乗るほど身の程知らずではない。
「さすがに私が家の代表ってのはないよ。そんなに才気あふれる期待された存在じゃないから」
照れながら、しかしどこか寂しそうに笑って答えるシーラ。
「じゃあ、私もそれに参加するけどいいよね?許可なんて要らないんだろうけど、こういうことはちゃんと言っておいた方がいいと思うから」
不意打ちのような参加表明をさらっとマナに言われて、シーラはショックと共に強い焦りを感じた。
シーラにとってはマナは自分よりもはるかに強大な存在だった。
今までのマナは親しく接しながらもコウと一定の距離を置いている感じがあって、シーラにとってはライバルにはならないありがたい存在だった。
だが、マナがこうやって切り出してきた以上、シーラにとって強敵となることは間違いない。
マナは元気で明るく、積極的で行動力もあり、その辺はシーラと比べるまでもなくマナの圧勝だ。
唯一勝負できるかなと思っていた真面目にコツコツとやる部分も、意外と互角のようだと先ほどの練習風景で考えさせられていた。
シーラにとってそんなマナが本気で参戦すれば、自分が勝てるとはとても思えない。
負けたくないという気持ちはあるものの、現実を見ると負けるとしか思えない。
とはいえ期待されている以上、負けるからと言ってただ譲るわけにもいかない。
せめて出だしを潰せばまだ勝機はあるのでは?その思いでシーラはマナに尋ねる。
「マナは、その、師匠に助けられたし・・一時的にそういう気分になっているだけじゃない?」
自分でも何を言っているんだろうと思いながらも、精一杯牽制するシーラ。
だが、マナは全く揺れるそぶりすら見せない。
「ううん、私は元々師匠のことを尊敬していたけど、前は仕事だったから。でも今はただたんに師匠に一番弟子。
師匠のことは前以上に尊敬してるし、師匠のために生きたいと思ってる。だからずっとあの人のそばにいたい。私は負けるつもりはないよ」
シーラの方を見て、強く、はっきりと語るマナに彼女は思わずあこがれを抱いてしまう。
自分もこうはっきりと言えれば、もっとコウとの仲も進展していたんじゃないか。
いやもっと違った生活を歩んでいたんじゃないか。
マナのまぶしさと自分の情けなさの違いに、不満をぶつけたくなってしまうがそれをぐっとこらえる。
そんなことをしてもますますみじめになるだけだと、経験からわかっていたからだ。
「マナはすごいよね。はっきりとしているし、明るくて一緒にいて楽しいし、なんか、全然、私じゃ勝負にならないや」
最初はマナを褒めるだけのつもりだったが、不満を抑え込んだ結果ただ自分の弱さを吐露した形になった。
突然涙ぐみながら弱さを見せるシーラに、マナは驚いてしまう。
マナはあくまで真っ向勝負をしようと宣言しただけのつもりだったが、シーラが傷ついてしまったようで困惑した。
「ごめん、私そんなつもりじゃなくて。ただちゃんと言った上で正々堂々と頑張ろうってつもりだっただけで・・」
「私こそごめん、いきなりこんな。私って駄目だよね、本当に魅力もないし」
マナがしおらしさを見せたので、シーラも思わず素に戻りマナに謝る。
だがマナはシーラの言葉に驚きつつ彼女の目を見る。
「シーラが魅力ないなんてそんなわけないじゃん」
「えっ?いや、私なんて・・マナみたいに明るくないし、行動力もないし」
急にライバル宣言をした相手から持ち上げられて、シーラは驚きつつなぜか自分の欠点をアピールしてしまう。
ただ自分はマナに完敗している、その認識を間違いだと思いたくなかったのだ。
だがマナはそんな意図など意に介さず、純粋に思ったことを口に出す。
「いや、それは私の武器だからシーラが持ってなくても別にいいんじゃない?シーラにはシーラの武器があるんだから」
そんなことを言われてもシーラは何も思いつかない。
すぐネガティブな方向に考えてしまう今のシーラにはそんな武器なんて何も想像できなかった。
「もう、本当にわかってないの?それじゃ教えてあげるから。シーラの最大の武器はその胸。
初日とか師匠ガン見だったんだから。私の方なんて見向きもしてなかったんだよ?」
「いや、マナとちょっとしか変わらないと思うんだけど・・」
「あー、シーラは全然わかっていない。ちょーっとでも負けてる時点でもう完敗なの。負けた方は見向きもされない。胸の大きさってそういうものだから」
マナの力説にもかかわらずシーラは思わず呆れてしまう。
その知識はどこから持ってきたのか聞き返したくなるほどだった。
とはいえ、最初のころは師匠に胸をよく見られていたことはシーラも自覚している。
確かに言われてみれば強力な武器なのかもしれない。
「それにシーラはしっかりしているから、本の整理とか大事なことをちゃんと任されていて信頼されているでしょ?
私はなぜかそういうところはダメなんだよねー。前の場所でも私に任せてっていても遠慮されてばっかだったし」
思い返してみると、魔法書の整理とか道具の片付けとかコウはシーラにばかりお願いしていた。
小間使いにされていると言えなくもないが、確かに見ようによっては信頼されていると言えなくもない。
マナの話を聞いているうちに、シーラはひょっとしてマナと勝負できるのでは?という期待がわいてきた。
と同時に不思議に思うこともある。
なぜわざわざマナがシーラに長所を教えてくれたのか。
スパイとして冷静に外の視点から物事を見ていたマナなら、何も言わなければ師匠を簡単に奪えることくらいわかっているはずだからだ。
「何でマナはわざわざ教えてくれたの?」
「うん?あぁ、さっきのこと?だって、私が後から参戦することになったし、ここはフェアに行かないと」
マナの言い分を聞いてもさっぱりわからないシーラ。
その表情を見てかマナがさらに説明する。
「だって私たち同じ弟子でしょ?だったら2人とも正々堂々、全力で挑むのがいいと思うんだよね。バトルって感じで燃えるし」
「んっ、う~ん」
ライバルがいればお互い磨き上げられる?ってことかなと思い、とりあえずシーラは何となく自分を納得させた。
話したいことを終えたと思ったのか、マナが立ち上がり自主練を再開しようとする。
自分もと思いシーラが立ち上がった時、少し先まで歩いていたマナがシーラの方を振り返った。
「最後に一つだけ聞いていい?」
今までさんざん聞いたじゃんと思ったが、よく考えるとアドバイスとか宣言とかで言うほど質問されていたわけじゃない。
不安になりながらもシーラは頷く。
するとマナは感情を感じさせない表情でシーラを見つめながら尋ねた。
「シーラが師匠を欲しいのは、自分の気持ちから?それとも家のため?」
その質問に思わずシーラは冷や汗をかく。
なんだかわからないが女の勘というやつだろうか、決して間違えてはいけない質問だと感じた。
最初はもちろん家のためだった。
一番尊敬する姉のボサツに直々にお願いされたことだから、家のためにやり遂げて見せる、そんな意気込みでここに来たことは間違いない。
だけど今は少し違う。
コウは師匠としてだけでなく自分をちゃんと一緒にいる仲間、大切な家族のように扱ってくれた。
マナがスパイだと発覚した時も、コウはシーラが傷つけられそうならマナを殺すとまで言ってくれた。
マナのことを何とか守りたいと思っていたにもかかわらずだ。
メルティアールル家ではどうでもいい扱いでしかなかったシーラだったが、ここでの扱いはとても気を使われ本当に幸せだった。
だから今ではシーラにとってコウとずっと一緒にいるのは自分のためであって、それがただ家のためにもなるという認識になっていた。
「私は師匠の近くにいたいから、だから、私のため。だけど、それは家のためでもある。だから・・両方」
恐怖を感じながらもゆっくりと答えるシーラ。
それを聞いたマナは雰囲気を急に和らげて笑顔になった。
「両方かぁ。シーラは見た目に似合わずなかなか欲張りだね。でも、簡単には負けないから」
「う、うん」
「それじゃ、私は先に始めるねー」
そう言ってマナは少し離れた場所まで走っていく。
「マナ、ちょっと怖かった。でも、そんな相手に私は勝たなきゃ・・」
そうつぶやいてシーラも自主練に取り掛かった。
◆◇◆◇
昼が過ぎ夕方になる頃、俺はようやく師匠たちの実験から解放されて道場へと戻ってきた。
今回は事前にお願いしたこともあってか、前回よりだいぶ緩めのテストになったので倒れるようなことはなかった。
だが、今回も徐々に真綿で首を絞められているような感覚を味わわされ、精神的にだいぶ削られたと思う。
俺も頑張った分いいデータが取れている・・といいんだけどなぁ。
最後の2時間は回復に当て元気な状態で戻ってこられたので、さすがに心配させることはないだろう。
そろそろ夕食の時間なので準備の進み具合を見ようと大部屋へと入ると、すぐにエニメットが俺の存在に気づいた。
「コウ様!」
エニメットが近づいてきて不安な表情でペタペタと触って来る。
「大丈夫ですか、コウ様。痛いところとか調子の悪さはございませんか?」
心配そうにして引っ付いてくるエニメットの両肩を掴むと、少し距離を離してちゃんと顔を見て話す。
「今日は本当に大丈夫だって。次かその次にもう少し厳しめの実験をやる予定だけど、それも問題ない」
「で、ですが」
「師匠達を俺は信じているから」
そんなやり取りをしていると声が庭まで届いたのだろうか、2つの足音が近づいてくる。
シーラとマナにも心配かけているだろうなと思って笑顔で迎えると、2人はやって来るなり俺の両手を掴んできた。
「大丈夫ですか、師匠」
「お、おぅ。大丈夫だって」
気迫に押されてやや力のない返事になってしまったが、2人ともほっとしている様子を見て俺も安心した。
しかし、こんなに熱心に心配されるとは思わなかった。
マナは、まぁ、この前必死に説得する時に色々と言っちゃったし仕方ないかもしれないが
シーラが負けないと言わんばかりに張り合ってくるのは予想外だった。
だからと言って2人が喧嘩している雰囲気は感じないし、ここはあまり触れないで置いた方が身のためかもしれない。
そう考えながら俺は自分の席へと座る。
「エニメット、あとどれくらい?」
「20分ほどで出来上がります。お疲れでしょうからゆっくりされたままお待ちください」
そう言われたので俺は背もたれに寄り掛かる。
するとマナとシーラが俺の近くまでやってきてお願いしてきた。
「師匠、夕食後は私の型を見て相談に乗って」
「あぁ、いいよ」
「師匠、私も型の動かし方で見て欲しいのですが、お願いできますか?」
「もちろんシーラのも見させてもらうよ。一緒に考えよう」
それを聞くと2人はまた庭へと出て行った。
マナはあんな感じで違和感ないが、シーラからはやはり違和感を感じる。
積極的になってくれるのはいいことなんだが、なんか発破でもかけられたのだろうか?
焦っている感じではなさそうだし放置してていいのだが、こうも違和感を感じ続けるとやはり気になってしまう。
「なぁ、エニメット。2人に何かあった?」
「い、いえ。私は・・特に存じ上げておりません」
「そっか」
エニメットの態度は何か知っているけど俺には言わない方がいいという判断のように見える。
色々と気にはなるが、下手に触れてやる気を下げる結果になっても勿体無いしこの件には触らないことにした。
今話も読んでいただきありがとうございます。
しばらくまったり話が続きます。(展開だけがまったりです)
シーラもイラストで紹介できたし、個人的には満足しています。
感想や質問等ありましたら、書いていただけると嬉しいです。
ブクマ・評価・誤字報告なども時間があればよろしくお願いします。
次話は11/26(火)更新予定です。ブクマ150はまだかかりそうなのでまったりイラストネタ考えておきます。
では。




