シーラとマナ お互いの立ち位置1
<今話は挿絵付きです>
ここまでのあらすじ
日常が戻ったコウのいる道場。コウはすぐにクエスたちの元へ行くことになった。
翌朝、朝食を食べ終わるとコウは全員の前で軽く挨拶をして、すぐに自室の奥にある転移門から道場へと飛んで行った。
弟子たちが心配するか無理できないと主張しておく、なんてコウは言っていたがここにいる3人はその発言をちっとも信用していない。
「あーあ、師匠行っちゃった。大丈夫かなぁ」
「心配、ですね」
不安そうに机に伏す2人をしり目に、エニメットは黙々と朝食の後片付けを進める。
そんな彼女をマナは伏した格好のまま目で追う。
「ねぇ、エニメット」
「はい。どうしました、マナさん」
答えながらもエニメットは皿を洗う手を止めない。
コウ相手だったら簡単な呼びかけでも仕事を中断してでも話を聞くが、マナやシーラ相手だと大きな話でない限りこのような調子だ。
エニメットはあくまで2人のサポートをする役目であって、彼女たちに使役される立場ではない。
「エニメットは・・師匠が心配じゃないの?」
「心配ですよ!」
思わず大きな声で返してしまい、仕事を止めマナに謝る。
「いいって。こっちもぶしつけな質問をしちゃったんだから。でも本当に心配だよね。そばにいられたらいいんだけど」
「でも私たちの同行は許可されていないから」
2人の不安な気持ちと同じ思いのシーラも話に入って来る。
「あー、自主練するしかないってもどかしい。私にとって師匠はとても大切な存在なのに・・」
その一言を受け、シーラとエニメットがピクッと反応する。
するとマナはその反応を察知し、ほうほうと思いながら席を立った。
「それじゃ私は先に庭で自主練始めてるね~」
そう言って周りの雰囲気を知らんふりして一足先に外へ出ていく。
「あっ、そういえば・・」
エニメットが何かを伝えようとしたが、マナはすでに大部屋を出て行った後だった。
仕方ないので彼女はシーラに話しかける。
「シーラさん、今日はメルティアールル家から試作品のスイカというものが届いていますので休憩の時お出ししますね」
「えっ、本当?それなら是非。あ、でも師匠が帰ってきてからがいいかもしれません」
「確かにコウ様にも食べていただきたいですが、まずは私たちで先に味見をと思ってまして。
試作品と言われていますし、いかんせん聞いたことのない食べ物ですから」
そう言ってエニメットは冷蔵庫から丸いスイカを出す。
それは地球のものとほとんど変わらない外見をしていた。
「シーラさんはご存じなんですよね?どんな感じの味なんですか?」
「いや、私もだいぶ前の試作品しか口にしたことが無くて、今の出来具合とかは全然わからないですね」
「そうでしたか。メルティアールル家はこういった新商品の開発を家をあげて注力しているとは聞いていましたが」
「いや、ほら、私は光属性しか使えないので・・そっちの方の仕事には携われなかったのです」
軽めの地雷を踏んでしまったかなと思い、エニメットは即座に謝罪する。
それを見たシーラも慌てながらそんなに謝罪しなくていいと彼女をなだめることになった。
「では、シーラさんも知らないのでしたら試食も兼ねて休憩時に出せるよう準備しておきますね」
「うん、お願い。いまいちだったら師匠に出すのもちょっとね。家の代表として先に味見しておきましょう」
シーラはエニメットにお願いすると、マナの後を追い庭へと出て行く。
エニメットはスイカと共に付いていた切り方の説明書を見つつ、朝食の後片付けを終わらせるべく皿を拭き始めた。
先に庭へ出て自主練をしていたマナはずいぶんたくさんの魔核を出して
あーでもない、こーでもないと悩みながら動かしていた。
シーラは何をやっているのか気になりはしたものの、今声をかけても邪魔になるだけかと思い
仕方なくマナのいる方とは反対方向で魔法書とコウから借りたノートを見ながら自主練を始めた。
以前のマナだったら30分もすれば集中力が切れ話しかけてくるのだが、今日はやけに集中しているのか1時間以上黙々と練習を続けている。
そんな状況に逆に気になってマナの方を見ていると、マナが60個以上の魔核を出しては型を組み上げて霧散させると
再び魔核を60個以上出しては組み上げている。
魔核を60個も組み上げるとなると、相当な大技だ。
そんな大技の練習を横で見て集中できなくなり、シーラは思わずマナに声をかける。
「ねぇ、マナ。それ魔核多いけどすごい魔法?」
シーラが話しかけるが、マナはきっちりと型を組み上げると比較用のスコアを見て、魔核を霧散させてから振り向く。
その様子にずいぶん集中していたんだなと思いつつ、なんか普段のマナと違ってシーラは戸惑った。
「えっと、ごめん。さっきの魔法の事?」
「うん。なんか魔核がたくさんあったのですごい魔法なのかなって思って」
それを聞いてマナは少し考えるとちょっと恥ずかしそうに答えた。
「すごい魔法、のつもりなんだけどね。この間師匠に完全に受け止められちゃって。私の切り札だったんだけどちょっとこのままじゃダメかなって」
一体いつ?と思ったが、すぐにこの間の一件と時かと気づきシーラは少し気まずそうにする。
あまり触れない方がいい話題に自分から触れしまったかな、と。
そんなシーラの様子を気にすることなくマナはシーラの前で型を再び作って見せる。
「こんな感じの型なんだけどね。今はこれだけに集中して一から作るのに15秒ちょっと。
自分では結構早く作れているつもりだったけど、師匠に遅いと指摘された時はショックだったなぁ」
「そ、そうなんだ」
気まずい話が続くのと、自分はそんな数の魔核を作って並べるのに15秒じゃ無理だという力量の差を感じ
シーラはこの話にちょっと引き気味になる。
「ん~、シーラも一度この魔法見てみる?」
「えっと・・いいの?」
決め技というのはそうそう他人に見せびらかすものではない。
メルティアールル家にいた時も、優秀な兄弟はあまりそういった奥の手を見せてはくれなかった。
人に伝われば事前に対策されやすくもなるので、手の内を見せないのは当然の対応だったが。
「うん、それじゃシーラは私の前方に全力で障壁を張るように操作して。8割くらいの威力でやってみるから」
「ちょ、ちょっと待って」
そう言われたシーラは慌てて目の前にパネルを呼び出し、修行で使う一番固いターゲットをマナの50m先に置いて起動させる。
さらに周囲に被害が出ないよう、ターゲットの周囲にも魔法障壁を発生させた。
「これで大丈夫?」
「うん、それじゃちょっと離れてて」
シーラが距離を取るとマナは型に魔力を充填し始めて魔法を発動する。
「行け!<火蛇渦・収束>」
マナの声とともにマナの周囲にものすごい魔力が発生しそれが大きな炎へと変わる。
その炎がすぐに渦を巻く炎のワームへと変わると、その7匹のワームが一斉に目の前のターゲットへと向かっていった。
少しずつタイミングをずらしながらワームがターゲットへとぶつかりそのまま巻きついていく。
全てが巻きついたと思った時には大きな炎に変わりとても近づけない状態になっていた。
シーラの手元にあるパネルには、ターゲットが破壊されたとの表示がされる。
ターゲットの周囲にある被害拡散防止用の障壁にもかなりの負荷がかかって警告が出ており、シーラは慌ててマナに告げる。
「マナ、それ止められない?周囲の障壁も壊れそうなんだけど」
「えっ!?ちょっ、ちょっと待って」
そう言うとマナは両手を突き出して魔力を散らすように調整をする。
だんだんと火が弱くなっていき、しばらくすると完全に消失したが、その場には置いてあったはずのターゲットは燃えカスも残らず消滅していた。
恐ろしい威力にシーラが固まっていると、庭へ出る玄関からエニメットが慌てて出てくる。
「強力な魔力反応がありましたが、何が起きたんですか?」
焦っているその様子から危険状態を知らせる警報が鳴ったのだろうとマナは推測した。
「ごめん、シーラに私のとっておきを見せようと思って魔法を使っちゃって」
「すみません、ここまでとは思わなくて。一番固いターゲット、壊してしまいました・・」
それを聞き周囲の状況を見てひとまず問題なさそうだと判断したのか、エニメットはほっと胸をなでおろす。
「問題がないのならよかったです。それでは戻らせていただきます」
そう言ってすぐにエニメットは戻っていった。
怒られることもなくほっとするシーラだったが、さっきの魔法の威力を思い出し慌ててマナを見る。
「すごいね・・マナ。あのターゲットLV40クラスの魔法でも壊せるかどうかの代物なんだよ」
「う、うん。でもこれを師匠は真正面から受け止めちゃったんだよねぇ、まだまだだよ」
褒められて喜ぶかと思いきやマナは少し気落ちした雰囲気で答える。
そんな師匠と全力で渡り合えるマナを見て、シーラは置いていかれているように感じ寂しくなった。
「そんなことないよ。私なんて・・何もないんだから」
なぜかうつむいてしまうシーラにどう声をかけようか悩んだマナだったが
魔力を大量に使いちょっと休憩したいと思っていたので、いいタイミングだと思って声をかける。
「ねぇ、ちょっと一息入れない?私もさっきのでだいぶ疲れちゃって」
「そうですね」
そう言って2人は縁側まで行き並んで腰かける。
マナとの実力の差が思ったよりも大きくショックだったのか、腰を下ろしてもシーラは元気がないままだった。
ちょっと微妙な雰囲気になってしまったので、どうにか雰囲気を変えられないかとマナは考える。
「うーん、そうだ。なんか口に入れるもの持ってくるね。せっかく一息入れたんだし丁度いいタイミングでしょ」
「あっ。だったら私が・・」
「いいって、ここは私が行くよ。シーラはそこでゆっくりしてて」
靴を脱いで放り出すとそのまま大部屋へと走っていくマナ。
座ったままのシーラはその後ろ姿を見ながら、気を使わせてしまったと思いさらに落ち込む。
「マナは明るくて積極的で・・いいなぁ。師匠もやっぱりああいう子が好みだよね」
小声でぼやくと真っ直ぐと庭を見る。
実力でも負け性格でも負けているのはわかっているが、自分はコツコツとやるしかない、自分にはそれしかない。
そう言い聞かせて自分に頑張れと言い続ける。
女王の娘として生まれてきた世間的には恵まれた立場のシーラだったが、兄弟の中では魔法の才能がない方だった。
圧倒的な魔法の才能を持ったボサツ以外にも、メルティアールル家ではそこそこの才能を持った子が多く生まれたが、シーラはその中では下の方だ。
そのため、特に期待をされていない空気のような存在だったものの、そんな状況にめげることなくシーラは魔法・作法・内務など色々な分野で努力を重ねた。
そんな時にコウの元へと行くことが言い渡される。
最初は乗り気じゃないどころじゃなく、なんで自分がという気持ちだったが
詳しく知るにつれこれは大きなチャンスと知り、自分が期待されている事が嬉しくて全力でやってやると乗り込んだ。
が、生来の引っ込み思案のためコウとつかず離れずの距離を保ち今に至っている。
どちらかというと、その距離間はシーラというよりもコウの方に責任があるのだが。
そんなことを考えているうちにマナがスイカとアイスを持って戻ってきた。
先ほどと同じシーラの隣に腰かけるとスイカの乗った皿を渡す。
「はい。シーラにはこれをってエニちゃんに言われたから持ってきたよ。でも、これ何?」
皿の上には半月上に切られた赤い身のスイカが置いてある。
まだ試作品であり、世に出回っていない代物なのでマナも興味津々だった。
メルティアールル家の開発品だからシーラは当然知っていたのだが
そのことが知らないマナよりちょっとだけ優位に立てた気がして、シーラは少しだけ機嫌が良くなる。
「これはうちの家の試作品『スイカ』ですね。3年ほど前にだいぶ形になってきたと聞いてから全く見てなかったのですけど」
「ふーん、おいしいの?」
「以前のは少し甘いかなって感じだったんですが、今はどうなっているのかわかりません」
「そっか。で、シーラが試食ってわけね」
その問いにシーラは頷くと魔道具で<風の板>を使って目の前に即席の台を作りスイカの乗った皿を置いた。
それを見たマナは何かを思い出したかのような反応をする。
「ひょっとして、マナはこれをお願いするのを忘れてた?」
「うん・・師匠と色々あるうちにすっかり頭から消えてたや。今度お願いしておこーっと」
マナはそう言いながらそばに置いた銀のカップからアイスを取り出し口にくわえる。
冷たく甘いアイスを口にしてマナはご機嫌な様子だ。
一方シーラもスプーンでスイカを一口サイズに取るとゆっくりとその味を確かめる。
「前より甘くなってるし赤身も濃くなっているから、そろそろ商品化できそうなのかな?」
シーラにとっては満足できる味だったのか、一口また一口と上品に食していく。
その言葉にマナも興味があるらしくふとスイカの方を見てみるが、すぐにアイスの甘さに満足して悦に浸る。
(※イラスト著作権:グリコーゲン様 twitterID:guri_coooogen)
そうやっておやつの時間は過ぎて行った。
今話はブクマ100超え記念のイラストを(やっと)載せる回となりました。
本当に遅くなってすみません。私のスケジュールミスです。反省しています。
次チャンスがあればもう少しスピーディーにイラスト掲載してみたいです。
(挿絵もっと増やしたいですねぇ、時間もお金もないですねー)
今回もキャラ設定+服装設定は苦労しました。イラストはお金出して依頼したものですが
その設定を考え依頼するのにやっぱり時間はかかりますね。
そんな作業に数日取られて、ストックが数話飛んだのは今となってはいい思い出……。
(マナの白Tシャツの裏面のデザイン設定もあります。5年に1度開かれる火属性のお祭りでの公式グッズです)
今話も読んでいただきありがとうございました。
次話は11/23(土)更新予定ですね。ストックたまりません。追われる毎日です。ふひぃー
感想・ブクマ色々頂けらたらうれしいです。誤字脱字も『うりぃぃ』と指摘してくださいませ。
では。




