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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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マナの送別会

ここまでのあらすじ


マナは1隊と別れの挨拶をするために会いに行き、送別会をやることになった。


ここでの仕事は暇な時も結構ある。1隊の実働は月平均15日程度だ。

1回の仕事で数日かかることも多いが、いつも何か活動しているというわけではない。


とはいえすぐに動けるよう常時待機状態でいるのも彼らの仕事のうちであり、パーティーで飲んで食っての大騒ぎなんてことは一度もない。

せいぜい大仕事を終えた後に軽く打ち上げをする程度だ。


仕事の後は大体1日程度は空くのが暗黙の了解となっている。

良い状態で次の仕事に臨めるようにと配慮というやつだ。


あとは新人が入ってきたときは必ず数日は暇がもらえる。

だがこれも歓迎会をするためではなく新人をチームに慣らすためにある時間だ。


新人が足を引っ張り問題が発生すれば全滅することもありうる。

それは全員認識していることなので、歓迎会でのんびり一杯やろうという気になる者など誰もいない。




食堂に着くとマナが皆に尋ねる。


「そう言えば、ここって宴会用の料理って用意されてないですよね?」


「それは仕方ないわ。だってただ腹を満たすための食堂だもの。それでもそれなりのものは出てくるんだから、この際贅沢は言えないでしょ」


マナは何を言ってるんだかと返すフィルフィーだったが、その会話を聞いていた厨房から1人の男が出てきた。


「本日はいつもとは違った食材も用意されております。もしご希望でしたらお出しできますが」


それを聞いたメリシアとフィルフィーが目の色を変え、慌ててその男に近づき色々と質問し始める。

それを見たドンギュオが呆れていると、ふと隣に来たマナに声をかけられた。


「ごめんね、ドンギュオ。急にこんなことになっちゃって」


「マナが謝ることじゃないよ。むしろここよりいいところに行くんだろ。大変だろうけど頑張って」


「うん、すごくいいところなんだ。本気で居たいって思った場所だったんで、許してもらえて私もびっくりしてるくらい」


「そっか・・」


ドンギュオは歓迎したくて無理に笑って見せるが、どうしても悔しさや寂しさがにじみ出てしまう。


何とかそれを抑えようと両手で顔をたたくとマナの顔を見る。

喜びを抑えられない彼女の表情に、自然と諦めの気持ちがわいてくる。


「今までありがと。特に最初のころは何度もフォローしてもらってたし。色々とドンギュオには教わったよね」


「その時はマナもこういう仕事をチームでこなすの初めてだったし、フォローくらい当然だよ。最近じゃフォローもいらなくなったからなぁ」


「向こうで立派になってみせるから。ドンギュオも今度会う時はせめて副隊長くらいにはなっててよね」


「それは勘弁してくれって。でもマナの活躍が耳に入るの楽しみしてるから。あと、敵になったりはしないでくれよ」


その問いにマナは笑って軽く否定した。

と、ちょうど質問が終わったのか2人が戻ってきた。


「結構いいのがあったわ」


「ええ。宴会用の大皿も追加で用意されたらしく、マナちゃんは上の人にも愛されてるみたいね」


「そっ、そうかな?」

メリシアに言われて照れるマナ。


それを見たフィルフィーがすぐに突っ込みを入れる。


「そうやってすぐにおだてられて舞い上がるのがマナの悪いところだから、これからは気を付けなさいよ」


「いいじゃんかよ今日くらい」


ドンギュオがフォローするとフィルフィーの言葉を肯定しつつもマナは笑っていた。

と、ドンギュオが近づいた隙にフィルフィーはこっそりと耳元で尋ねる。


「どう?2人っきりにしてあげたんだから話はできた?」


「つっ。できたよ、ありがとさん」


視線を合わせずにドンギュオは感謝の言葉を雑に投げる。


「これくらいはフォローしてあげないとね」

「うるせぇ、俺の方が先輩だぞ」


思わず大きな声で反応するドンギュオに話していたマナとメリシアが何事かと振り向く。

ドンギュオは慌てて何でもないとアピールしていた。



とりあえず注文してしばらくすると、多数の料理が運ばれてきて軽めのお酒も用意される。

どれもこれも普段ではここで食することのできない一品ばかりだった。


隊長はまだ戻って来てないが、料理が冷めるともったいないということでメリシアの号令の下、全員が待ってましたと豪華な料理に飛びついた。


それからしばらくしてアルディオスが戻ってきた。

全員がすでに飲み食いし盛り上がっているのを見て呆れつつも席に着く。


「たいちょー、お帰りなさーい」


すでにご機嫌なマナがアルディオスを出迎える。


「あぁ。ところでお前たち、手を付けるのが早くないか?」


「だって料理が冷えちゃったんじゃもったいないんだもん。それに盛り上がってきたところに来るのが隊長の役得だし」


マナの言い分にアルディオスは呆れかえる。

「ぁのなぁ。それは全然役得じゃないだろう」


「まぁまぁ、隊長。大変だと思いますがそれも役割ですよ。それよりどうでした?」


すでに酒が入ってご機嫌なマナと違い、まだ冷静なメリシアは隊長がお願いに行った結果を尋ねる。

副隊長として休暇の許可が下りていない状況では、マナほど盛り上がるわけにはいかずブレーキをかけていたので早く結果が知りたかった。


「あぁ。明日の夕方まで仕事は無しだ。思う存分楽しんでくれ」


「さすが隊長、説得力もナンバーワンっすね」


「私はこの料理がある時点でこうなることが読めてましたー!」


「マナ、うるさい。調子に乗りすぎ。あっ、お酒追加お願いしまーす。できれば高いやつ」


いつもは小うるさいフィルフィーまでもが調子に乗っていて、普段見ない光景にアルディオスは少しうれしくなる。

マナによってこの部隊も随分明るくなったものだと。


「マナには感謝しないとな」

「ですね」


つぶやいたアルディオスの言葉をメリシアが拾った。

メリシアを見て一度軽く笑うと、アルディオスがグラスを持ち上げる。


「さて、マナを我々なりに盛大に送るぞ」


「おーっ」

「我々なりに、は要らないっすよー」


そして地下での小さな宴は盛り上がっていった。




一方2隊の隊長シュビリアスは仕事がなく暇なので腹ごしらえでもしようと思い食堂へ向かう。

2隊は女隊長シュビリアスを中心とする1隊よりさらに裏の仕事をこなすことが多いチームだ。


2隊の仕事内容から、食堂で2隊のメンバーが愚痴っていると内容が重くて1隊は近づかないことが多く、あまり交流は盛んじゃない。


そんな2隊の隊長が食堂への扉へと近づくとずいぶんと賑やかな声が聞こえる。

この地下でばか騒ぎすることなど聞いたことが無いので、シュビリアスは不思議に思った。


「こんな時間から仕事終わりの宴会?ったくうっさいわねぇ」


ぼやきながら仕方なく扉を開けると、1隊全員とマナが飲んで食ってでずいぶんと盛り上がっている。

よく見ると料理も酒も普段より豪華で、いつもは頼んだところで出てこない代物ばかりが並んでいた。


特に酒に目がいったシュビリアスは普段は相手にしない1隊の居る席へと向かっていく。


「よぉ、ずいぶん盛り上がってるじゃないか。何かの祝いかい?」


「あぁ。マナの送別会だ。上の方の計らいでなかなかのものを用意してもらっているからシュビもどうだ?」


アルディオスの誘いに、美味い酒が飲めるのなら乗らない手はないと遠慮なく席に座る。

1隊のメンバーは少しテンションが下がるが、そんな雰囲気を吹き飛ばす様にマナが遠慮なく絡んで行った。


「あっ、シュビ隊だ!」


「その呼び方は止めろと言っただろ」


「え~、じゃあお酒あげなーい」


既にご機嫌なマナは調子に乗ってガンガン攻める。

普段なら1発ぶん殴っているところだったが、酒を人質に取られたシュビリアスはこの場の状況を考えて強気に出れない。


「この会の主賓はマナだからな。マナがいうのならこの特別な酒は渡せないな」


アルディオスまでマナの援護をしたこともあり、シュビリアスもしぶしぶ大人しくなる。


「くっ、しょうがない。今日だけだ」


「私は今日までしかいませんけどねー」


「ぐっ、こいつ」


マナのおかげで再び場が盛り上がる。

そして1時間程経った頃だった。マナがふと自慢し始める。


「そういや私結構強くなったんですよ~、今ならシュビ隊にも勝てるかもしれませーん」


「へぇ、言うじゃないか」


酒が進んだ2人がにやつきながら火花を散らす。

良くない方向に進みそうだと周りが止めに入るが、面白そうだと思ったのかアルディオスが1つ提案をしてきた。


「ならどうだ。いったん酒を抜いて2人で戦ってみては。1隊の仮想戦闘装置を貸すぞ」


「ほほぅ、この生意気な奴が去る前に忘れないよう上下関係を叩き込めるいい機会だ」


「痛い目に合っても知りませんよ?」


より盛り上がる2人に周りは必死に止めるが、結局アルディオスの一声で仮想戦闘をすることに決まった。

1隊のメンバーは最後まで止めようとしたが、隊長の『いい酒の肴になる』という言葉に押し切られ渋々と引き下がる。


「シュビが負けたらマナに何か送別の贈り物を送れよ。少なくともタダ酒呑んでるんだからな」


「おいおい、このシュビ様が負けるわけないだろ?」


「いいから早く行きましょー」


そのまま2人が出て行き、しばらくすると食堂に設置されたモニターに2人が戦う様子が表示された。


戦いが始まるとさっきまで止めようとしたのは何だったのかと言いたくなるほど、1隊全員がマナを応援して盛り上がる。

酒も入っていることからかなりの盛り上がりだった。


この地下ではありえない盛り上がりに、思わず食堂の中にいる数名をその様子を見ようと外へと出てくる。

2人の戦いは完全に娯楽と化していた。



試合は最初からマナが押せ押せの攻勢で圧倒し、今までとは違うマナの攻撃への対応に後手に回ったシュビリアスは

認識と現状のずれを修正する間もなく防戦一方の展開となる。


食堂ではそれの様子を見てさらにギャラリーが盛り上がる。


「やっべー、マナちゃん2隊長を押し切ってる。いけー!」


「マジであの子強くなってるじゃない。そのままやっちいなさいよ!」


ドンギュオとフィルフィーが盛り上がる中、副隊長のメリシアはその映像を見て酒を飲みながらうれしそうにしていた。


「メリシアがマナの事でうれしそうにするのは珍しいな」


「そうですか?こんなに成長したあの子を見ると、ちょっとね。けど勿体無いですね、こんな優秀な子を手放すなんて」


「本人が希望したのだから、あの方も止められなかったのだろう」


そう言ってアルディオスは一気に酒を流し込みグラスを空ける。

メリシアはその様子を見て、隊長だって惜しんでるじゃないと思いながらグラスに口をつけマナの戦いぶりを楽しんだ。



5分もすればだいぶ慣れてきたのか、疲れを見せつつもシュビリアスがマナの攻撃に対応し始める。

とはいえマナの魔法ラッシュに大きな隙は見当たらず、互いにけん制しながら削り合う戦いへと落ち着いていく。


食堂では盛り上がりが一転し1隊は酒をちびちび飲みながらも固唾を飲んで状況を見守っている。


そしてついにシュビリアスの放った3つの<収束砲>の内の1つがマナの左肩に命中して負傷し

この機会を逃さんと言わんばかりの槍の突きと魔法のラッシュに耐え切れず、マナの敗北が決定した。


「さすがにマナが押し負けたか」


ある程度予想はしていたのか納得したような表情のアルディオスだったが、それでもずいぶん楽しめたようで

始まる前には満タンだった数本の酒瓶がすっかり空になっている。


「追加お願いしておきましょうか?」

「ああ、頼む」


メリシアがそう言われて食堂のカウンターへと注文しに行く。

そうしているうちにマナとシュビリアスの2人が食堂へと戻ってきた。


「よぉ、アル。シュビ様勝利でのご帰還だぞ」


「ふっ、さすがだな。あそこから挽回できるとは。とはいえ、マナがもう少し鋭かったら負けていたんじゃないか?」


「おいおい、と言いたいところだがそれは確かだな。ずいぶんと腕を上げていて驚かされたわ。

 あれよりやばかったらこっちが慣れる前に深手を負っていたぜ」


普段から口は悪いが、認める相手には割と正直に話すシュビリアスだったが

それを初めてみた1隊の面々はかなり驚いて固まっていた。


そんなシュビリアスの後ろからマナが戻って来る。

負けたことをさほど落ち込んでる様子もなく、嬉しそうに席に着くと料理を一口つまむとともにグラスの酒を一気に飲み干す。


「あー、楽しかったぁ。もう少し決め技を師匠と練習できてれば勝ちもあったのになぁ」


そう言いながらもさらに料理を口に運ぶ。


負けたにもかかわらずマナがいつものように悔しがらないのが(しゃく)に障ったのか

楽しそうなマナにシュビリアスが絡んでいく。


「強がっても負けは負けだぜ、マナ」


「それはそうだけど、師匠の時よりやばいってかんじなかったんだもん。何回かやれば勝てる気がするし」


むっとするシュビリアスにアルディオスが酒を注ぐ。

その行為に言いたいことを察したのか、シュビリアスは反論を諦めて注がれた酒を一気に飲み干した。


その後はマナが来た頃の話題を中心に隊長同士が盛り上がり、マナが止めようとするも暴露話のような昔話で宴の席は盛り上がる。

そのまま1時間以上楽しい時間が過ぎテーブルの皿も空きが目立ってきた頃、マナからの最後の挨拶が始まった。


「今までお世話になりました。この日を迎えられたのもここにいるみんなのおかげです。ありがとうございましたー!」


酔った席でのあいさつという事もあり、固さのないマナらしいあいさつで宴会が閉じる。


「簡単にくたばるんじゃねーぞ」

そう言ってシュビリアスは2隊のエリアへと去っていく。


「シュビ隊もだよ」

そう反論するマナに、彼女は振り向くことなく軽く左手を上げて答えるだけだった。


そして1隊全員とそれぞれ2,3回言葉をを交わし、うれしそうに手を振りながらマナは地上へと戻っていった。



マナを見送るとそれぞれが部屋へと戻っていく。

そんな中フィルフィーがドンギュオに話しかけてきた。


「必死に止めたりしなかったわね」


「あぁ、俺をなんだと思っているんだ。俺達は陰から支えるのが仕事なんだよ」


「じゃ、もっと腕を上げないとね」


それを言われたドンギュオがちょっと怒ってフィルフィーを追いかけまわす。

そんな様子を見ながらメリシアが隊長に話しかけた。


「いい形になりましたね」


「そうだな。だがマナがここまで気を回せる奴だとは気づかなかったな」


「あら、隊長も意外と見落とすことがあるんですね」


「だからこそ君がいるのだろう」


そう言ってアルディオスは自分の部屋へと戻っていく。

少し間をおいて笑うと、メリシアも部屋へと戻っていた。


今話も読んでいただき、ありがとうございます。

元々は幕間のお話にしようかと思いながら書いた今話でしたが

あんまり後でやってもいまいちかなと思って本編に入れることにしました。

半モブみたいな1隊の皆にもっと光を当てたくて作った話です。


ブクマや評価、感想などお時間あれば頂けると幸いです。

誤字脱字も、チェックしつつ投稿していますが見つけた方はビシッとご指摘ください。


では次話は11/17(日)更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通召喚主よりされた側がメインだろうに。
2019/11/15 05:39 退会済み
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