正式な弟子になるために6
ここまでのあらすじ
マナは別れの挨拶をするために、1隊のいる地下へと向かった。
地下へと続く長い階段を下り大きな門の前にたどり着く。
ここから先は特殊任務を行う部隊の待機するエリアにつながっている。
マナは軽くあいさつをし、門の前にいる兵士に対して身分証を見せる。
「1隊の皆さんに会いに来たんだけど」
2人の兵士は魔道具でマナの魔力パターンをチェックし、身分証も確認し終えると扉を開いてくれた。
夕方が一番活発なこのエリアだが、それぞれ部屋に籠っているのか仕事で出ているのか、目の前の広場には誰の姿も見られない。
しばらく立ったままどうしようか悩んでいたマナだったが、その間も誰も来ないので仕方なく隊長の部屋へと行くことにした。
地下にある各隊員の部屋は割と広めに作ってある。
各自リラックスできるように一通りの家具も揃っており、戦利品等が飾ってあることもある。
もちろん人によっては最低限の物しか置いておらず、寝る以外はトレーニングをするための部屋や資料部屋に籠っている場合もある。
この辺は個性が出るところだ。
隊長の部屋の前に来るとマナはノックすると同時に声をかける。
「隊長、いますか?」
「いるぞ。どうした?」
久しぶりにアルディオスの声を聴いて笑顔になるマナ。
そのままうれしそうに扉を開けるが、その直前アルディオスは何気なく答えた相手の声がマナだと気付いて驚いた。
「マナか!?」
と言い終えた時には扉は開きマナが目の前にいる。
アルディオスは驚きのあまりに息をのんだが、マナうれしそうに手を振っていた。
「隊長、お久しぶりでーす」
彼の気持ちなど察するつもりもないのか、のんきにあいさつをするマナ。
その行動が間違いなくマナだとアルディオスを確信させた。
マナの元気そうな様子に少し力が抜け深く椅子に腰かける。
「ふぅー、相変わらずだな。ともかく無事で何よりだ」
「ん?あっ、あの戦いのこと?」
「あぁ。まったく・・心配したぞ、あの傷は。もう治っているところを見るとすぐに治療できたようだな」
「うん、というかお恥ずかしいところを見られちゃったみたいで」
マナは少し恥ずかしそうにしていたが、事情をほとんど知らないアルディオスは内心では戸惑うばかりだった。
少なくともここに戻ってきているということは仕事は終わったと思っていいのか。
だとしても今のマナの目的がいまいちはっきりしない。
やや能天気に見えることから、いつものように仕事の失敗で大目玉をくらって、愚痴を言いたくてここへ降りてきたという風には見えない。
「とにかく無事で何よりだ、それで何の用だ?」
「えっとその前に、ついこの間は三光様をそのまま行かせてしまってすみません。その・・大丈夫でした?」
「あぁ、肝を冷やされたが損害は出ていない」
被害ではなく損害と答えるあたりにアルディオスの考えがにじみ出る。
マナがそれを聞き安心していると再度アルディオスが尋ねる。
「それで今日はどうした。挨拶だけか?」
「えーっと、そんな感じ。挨拶です」
マナは笑顔で誤魔化しながらアルディオスに答える。
その様子から何となく勢いで来たんだろうと思いつつも、そんなマナらしいところが変わっていなくて安心する。
「なら、皆も呼んだ方がいいだろう。その後マナがどうなったか心配していたからな」
「あっ、そのぉ、その後なんだけど」
言いにくそうにするマナを不思議に思いつつそのまま発言を促す。
「どうした。その後何かあるのか?」
「えっと、明日からここを離れることになったので、そういう挨拶に来たんです」
「離れる?今後戻らないという事なのか?」
「うん、基本的には・・そうかな」
言いにくそうにしながら話すマナを見て、アルディオスは考える。
この間の仕事が失敗だったのはわかっていたので、もしかして罰として追放処分になったのではないかと。
しかしマナはとても優秀だ。
確かに物事に対して過剰に対応することが多いが、それは指揮する側の使い方が悪いのであって修正が効く範囲だ。
今回の失敗がどれほどの損害かは知らないが、何も彼女を追放までする必要はないとアルディオスは考える。
「ちょっと待て。いくらマナが失敗したとはいえそこまでの処分を下すべきではないはずだ。私が一緒に行き説得してこよう」
「えっ!?違う違う!」
フラウーの元へと向かおうとするアルディオスを、マナは慌てて右腕をつかみ止める。
「隊長、違うって。私が今の師匠の下へと行きたいってお願いして許してもらったんだってば」
マナが全然詳しく話そうとしないものだから勘違いしたアルディオスだったが
その後ちゃんとマナに説明をさせ、大体の流れを理解できた。
「なるほど、そう言うことか。しかし追い込まれた状況とはいえ、調べる対象と戦闘に持ち込むとか、もう少し落ち着いたほうがいいぞ」
「はい、そこは反省してます・・」
「まぁ、いい。終わったことだ。にしても良く許可が下りたな。この後すぐに行くのか?」
「ううん、あの方に焦らすために1日くらい待たせた方がいいって言われてて」
不満そうに言うマナだったが、その方が有効だろうとアルディオスも思う。
まぁ、火属性の代表格みたいな直線突撃タイプのマナにはできない芸当だろうなとも思い思わず笑ってしまう。
それを見たマナは不満そうだったが、ある程度効果があると理解はしているのか、それ以上突っかかっては来なかった。
「それでは作戦室にでも行くか。皆にあいさつするのならあの場がいい」
「了解です」
アルディオスの指示に笑顔で頷くマナ。
そうして2人は隊長室の隣にある作戦室に移動して、1隊全員に呼び出しをかけた。
その頃食堂ではドンギュオとフィルフィーが軽めの食事をしていた。
夕方から夜にかけて動くことが多いこの仕事では、この時間は軽く流す程度に体を動かしておくか
緊急の仕事のために前もって軽めに腹に入れておくことが多い。
がっつりと腹ごしらえしてもいいのは主に真夜中過ぎになる。
今日も汁ものと小さなパン1つを食べながら2人は話していた。
「今日は暇かなぁ。あんまやる気でないし暇だったらいいんすけどね~」
「まだ引きずっているの?仕事の気分じゃなければ早めに隊長に言っておけば?」
「仕事はするさ、それがここにいる意味なんだから」
2人は直接マナの名前を出さないようにしつつ、会話しながら互いの状態を確認する。
仲間とはいえやる気の出ない者や調子の悪い者を連れて行けば、チーム全体に危険が及ぶからだ。
それをわかっているからこそ、ドンギュオは問題ないアピールをしつつ牽制している。
これ以上は互いに踏み込みたくないのか、静かなまま食事の時間が過ぎていった。
これでも雰囲気はまだましになった方だった。
マナの戦いを見た直後はまるで仲間を一人失ったかのような雰囲気で、1日隊の中での会話がなかったほどだった。
ムードメーカーでもあったマナを失ったとなれば、さすがに彼らとて平静ではいられない。
だがこういう仕事をしている以上、だらだらと引きずらないよう全員で心がけている。
ドンギュオが先に食べ終わり、席を立ちどこかへと向かおうとした時だった。
食堂にも聞こえる1隊全員召集の音が鳴る。
「ちっ、もう仕事か」
「悪党はこっちの気持ちがわからないから悪党なのよ」
追い抜きざまにドンギュオの肩を軽く叩いてフィルフィーはそう言いながら食堂を出て行った。
「・・だな」
気乗りしない様子を見せながらも、ドンギュオはフィルフィーの後を追った。
ドンギュオが作戦室に来ると他のメンバーはすでに全員集まっていた。
前の方にいつものようにアルディオスが立っており、横には壁にも見えるほど大きい黒いパネルが置いてあるが何も表示されていない。
「急な招集、いつも悪いな」
「いいっすけど、今回はどんな仕事ですか?どうせなら、今は思いっきりやりたい気分なんですよ」
ややいら立っているかのようにドンギュオが語る。
少し困った顔を見せたアルディオスだったが、すぐに全員を見ながら話し始めた。
「悪いが今日は仕事じゃない。挨拶があるということで集まってもらった」
そう話すとアルディオスは黒いパネルの後ろに視線をやる。
その話と様子から1隊のメンバーは新人が来たのかと思い皆不機嫌そうな顔をする。
人員補充は助かる面もあるが、それの面倒を見て育成するのはメンバーの仕事となる。
そいつがどこまでできるかを見極め、連携をとれるよう練習し、と一気にやることが増え自分を鍛える時間が取られるので歓迎ムードにはならない。
さらに言うとマナの代わりに来たとも取れるタイミングなので、ドンギュオとトラブルになるのは目に見えている。
「ふぅ、早く出てこい。変な空気になっているぞ」
アルディオスがせかすと、黒いパネルの後ろからちょっと恥ずかしそうにマナが出てきた。
「えーっと、お久しぶりです、かな?」
「マナちゃん!」
「えっ、マナ?」
「あら・・」
予想外のマナの登場に三者三様の反応を見せる。
それを受けたマナはどう答えていいか困ってた。
「マナ、挨拶だろう」
「うん」
ちょっと寂しそうにしたが、すぐにまっすぐ向き合ってマナは話し始めた。
「えっと、本日をもって、私はここの所属を離れることになりました。今まで色々と世話になりありがとうございました」
そういうと深く礼をして顔を上げた。
マナの表情は笑顔であふれ、心からこの場の全員に感謝しているようだった。
だが、突然そう言われた1隊のメンバーは頭がこんがらがる。
つい一昨日の早朝には、仕事を失敗して殺されかけていたはず。
もう治っているということは思ったより傷が深くなかったのだろうが、それでもここを離れるというのは話の展開が急すぎて理解が追い付かなかった。
「えっ・・なに、なんで?」
ドンギュオがひどく動揺しているのを見てマナは困った顔をしながらなんて話そうか悩んでいたが
あまりにマイペースすぎるマナの対応に呆れたのか、アルディオスがマナを差し置いて説明し始めた。
「もういい、俺から話す。この間マナが戦った我々の保護対象は知ってるな、その彼の元へマナが正式に移動することになった。
これは別に罰ではない。マナ本人が強く希望した結果行くことになった」
「えっ、嘘でしょ?この間あんなに本気でやりあっていた相手のところに??」
フィルフィーは驚いてとっさに疑問を投げかけるが、マナは嬉しそうにうなずく。
それをみてフィルフィーは口を半開きにしたまま首を傾け全く理解できないという態度を示す。
いつも冷静に物事を見ている副隊長のメリシアも、さすがに驚いたらしく口を閉じたまま視線すら動かさず固まっている。
ドンギュオに至っては泣けばいいのか喜べばいいのかわからずにおかしな表情になっていた。
皆の様子を見て何とか事情を説明したいマナだったが、仕事がらみの内容になるので軽々しく漏らすわけにもいかない。
全体が変な空気になってしまいマナが助けて言わんばかりに見つめてくるので、アルディオスは困りながらも大きく息を吸い込んだ。
「いいか。これまで何度も仕事を共にしてきたマナが、本人の希望でここを去ることになった。我々はそれを祝って送り出そうではないか」
それを聞きフィルフィーとメリシアはそれもそうかと深く考えるのは止めて納得する。
が、ドンギュオはそれでも納得を見せず、何か言いたそうにしている。
そんな彼にアルディオスは近づいて尋ねる。
「お前はマナがこの地下にいた方が幸せと思うのか、それとも日の当たる外にいた方が幸せになれると思うか、どちらだ?」
「納得しました。すみません・・」
「あぁ、それでいい」
小声で説得し終わったアルディオスは再びマナの隣へと戻る。
「せっかくだ。マナも時間があることだし食堂で軽く送別会と行こうか。葬別じゃない別れは私も初めてだからな」
「いいですね、それ。じゃ、さっそくみんなで食堂にでも」
アルディオスの案にフィルフィーが早速食堂に向かってパーティーだとはしゃぎ始めるが
それに対し副隊長のメリシアが待ったをかける。
「待って。この後仕事が入るかもしれません。あくまで我々は待機中の身ですから」
「んー、だったら私があの方にお願いしてみるよ」
それを聞いたマナが少しでも楽しんでもらおうと、上司に訴えることを提案するがそれをアルディオスが止める。
「まぁ、待て。主賓がそういうことをするものではない。私が話をしてくるから先に皆で食堂へと行っておけ」
「はい」
アルディオスの一声に、マナを含め4人が嬉しそうに返事をした。
今話も読んでいただきありがとうございます。感謝です。
今話と次話はおまけみたいな話だったので、間延びを避けるため省く予定でしたが
打ち上げ的な話もいいかなと思って書いていくうちに載せることにしました。
もし時間があるようでしたら、ブクマや評価、感想や誤字脱字の指摘、頂けるととてもうれしいです。
では、次話は11/14(木)更新予定です。




