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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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正式な弟子になるために5

ここまでのあらすじ


マナがちゃんとしたコウの弟子になるために、フラウーの元へと報告に向かった。

仕事の失敗はあっさりと流され、いよいよ本題へと入る。


「まっ、待ってください。その・・私から、もう一つ話しがあるんですが」


それを聞いたフラウーは仕事に戻るために立とうとするのを止め、テーブルに両肘をつき指を組むと少し前かがみになりマナを見た。

威圧とも取れる態度に圧されることなく、マナは両手を握り締め唇を強く結ぶと、思い切って話を切り出した。


「えっと、今日はお願いがあるんです」

それを聞きフラウーは特に表情を変えることなくマナを見つめる。


「マナからお願いとは珍しいわね」


「本当に身勝手なお願いなんですが、どうか・・私がコウ師匠の本当の弟子となることを認めてください!」


マナは緊張しながらも強く主張すると、そのまま深く頭を下げる。

フラウーは落ち着いた様子でマナのお願いを聞いていたが、内心は結構驚いていた。


マナは少なくとも自分を信じてくれて、今回の仕事もコウを気に入っていたそぶりを見せながらも戦闘まで実行した。


事前にボサツに聞いていたとはいえ、そんなマナが本当にコウの元に行きたいと言い出すなんて半信半疑だったため

その言葉と態度を目の前にして、すぐには何と答えていいのかわからなかった。


フラウーが混乱している間もマナは頭を上げない。

それだけ必死なお願いだと言う事も伝わってくる。


フラウーは目を閉じると軽く息を吐いて自分を落ち着け、ゆっくりとマナに話しかけた。


「マナ、顔を上げなさい」


顔を上げたマナは強い意志を込めた目でフラウーを見続ける。

それに対してフラウーは特に感情をあらわにすることはなく、淡々とマナに尋ねる。


「それはつまり、ここを正式に離れたいというのね。どうしてそうしたいと思ったのか聞かせてもらえないかしら?」


「その・・あの場所は居心地が良くて・・強くもなれるし・・師匠もちょっとほっとけない人で・・」


急にぼそぼそと理由を並び立てるマナに、フラウーはその本気度をある程度察した。


今いくつも挙げている理由はそれ自体嘘ではないが、言い出しにくいもっと明確な理由を混ぜる為のものだと。

つまりはそれだけあの男の元に行きたいという意志が強いのだと。


これまた以前のマナらしくない態度を見せるので、フラウーも少し意地悪したくなった。

それはほわっとした理由を並べるのではなく、ちゃんとした理由を言いなさいという気持ちも込めている。


「と言う事は、絶対に聞かなきゃいけないお願いを言われたから仕方なく、という訳ではないのね」


それを言われてマナは何でそんなことを知っているんだと驚愕して言葉が出なくなる。

思考が停止してしまったのかそのまま微動だにしない。


「どうしたの?」

少し意地悪そうにフラウーが笑顔で尋ねる。


「い、いえ・・フ、フラウー様は・・どこで・・それを?」


「私の情報網を甘く見ないで欲しいわ、と言いたいところだけどこれは彼本人から色々経由して私のところにね」


それを聞いてもマナに反応はない。

あまりにびっくりしたのかマナはまだ現実に戻りきれていないようだった。


「それで、そのお願だけじゃないのよね」

「も、もちろんです!」


マナは思わず立ち上がって両手を握り締め主張する。

それを見て思わずおかしくなったフラウーはこらえきれず『ふふっ、ふふふっ』と笑い声を漏らした。


今までマナが不満を言うことはあったが、フラウーが否定すればマナはそれにしぶしぶ従っていた。

そんな言いたいことがあったとしても我慢する様子にフラウーは少し心配していた。


それが今は慌ててとっさにだが向きになって主張している。

これも成長かとフラウーは心の中で思った。



それだけコウのことを思っているのなら、フラウーはこれ以上とやかく言うつもりはなかった。

が、やはり聞いてみたいことはある。


「それで、彼のどこが良かったの?」


「へっ!?えー、いやぁ~」

マナは視線を逸らしつつもじもじしながら答える。


「そのぉ、師匠の風が・・心地よくって、何ていうか私の炎をより燃え上がらせてくれる感じというか・・」


マナのよくわからない表現にフラウーは顔をしかめながら首をひねる。

ただ割と勘の良いマナがそう言うのなら、コウという男はただのいい人というだけじゃなくマナとの相性も良いのだろう。


思った以上に良い出会いとなったことをフラウーは心の中で祝福した。

そして長年背負ってきた肩の荷が下りた気がした。


「本来ならこういう仕事をしている者が抜けるなんて言えば、確実に始末するように他のメンバーに命令するところよ。でもね、マナは特別。

 マナが選んだ道を私は邪魔するつもりはないわ。それとこれから先、もし何かあったら連絡しなさい。可能な範囲で力になるわよ」


「えっ・・本当に、いいんですか?」


「ええ。マナがどうしても行きたいと思ったんでしょう?なら、いいわ」


「あ、ありがとうございます・・」


半信半疑で感謝を述べるマナだったが、フラウーは席を立つと準備していた書類を取り出しマナの前に並べる。


1枚はここに来た時に結んだ契約の解除を示す書類で、もう1枚は秘密保持の魔法契約書だ。

書類を目にしてマナはようやくフラウーが了解したという実感がわく。


既にフラウーの名前は記入してあったので、マナはペンを取り出すとフラウーを見る。

それに対しフラウーは笑って頷いた。


取り出したペンに魔力を込め名前を書くことで、書類にマナの魔力パターンを記録させる。

これはいわゆる本人証明の役目を果たす。


魔法契約書にここでの内容を他に言わないことを同意して記名すると、契約書が穏やかに光り効果が発動する。


<誓いの印>と似た効果で、相手が、この場合はマナがここでの仕事内容やメンバーなどを話した場合

この契約書に近づくと、マナが約束を破ったことが表示される仕組みだ。


書き終えた書類をフラウーに渡すとき一瞬迷いを見せたマナだったが、すぐに笑顔になり手渡す。

それをフラウーも笑顔で受け取った。


「これで今日の25時をもって貴方との契約関係は終わりになるわ。あ、そうそうこれまでの仕事の代金として多くはないけど渡しておくわね」


そう言ってフラウーはマナの手の甲の上に自分の手を置く。

計130万ルピがフラウーからマナへと渡された。


「えっ、これ。私、これまで世話になりっぱなしだったのに」


「心配しなくてもその分はちゃんと差し引いているわよ。それにこれからは金銭面で私を簡単には頼れないんだからこれくらいは持っておきなさい」


「・・はい」

マナは少し涙ぐみながら笑顔を見せる。


「まぁ、アイリーシア家にはマナの生活費と指導料くらいタダにするように言っておくわ。

 なんせこんな優秀な子をずっとそばに置けるんだから。金持ちの家が金でグダグダ言う方が間違っているもの」


それを聞いたマナは困った表情をするがフラウーは楽しそうに話し続ける。


「それに何かあったら、いつでも戻ってきていいわよ。遠慮しなくていいから」


マナはフラウーの心遣いと自分ことを考えて様々な準備をしてくれていたことに

心の中で感謝しあらためて深く礼をした。


「それじゃ、残った荷物でも取って・・」


「ちょっと待って。そう慌てるものじゃないわ。マナ、こういう時は少しじらすのも必要よ」

「?」


「まずは1隊の皆と、2隊のシュビリアスにくらいは挨拶していきなさい。結構世話になったでしょ。あとは1泊して翌朝にでも戻るといいわ」


「それ忘れてた!あっ、でも・・」


「今日までは私のとの契約も続いているし、明日以降もいつでも戻ってきていいよう立ち入りを許可しておくわ。

 それがいつかあなたの力になるかもしれないでしょ」


力うんぬんに関してはいまいちマナは理解できなかったが、1隊にはお世話になった分あいさつくらいしておきたかったのでフラウーの提案に助けられた。

だが、出来るだけコウの元に早く戻りたいマナにとって、1泊するのだけはちょっと納得がいかない。


「フラウー様、別に1泊はいいですよ。師匠も心配しちゃうし」


「ダメよ、こういう時は少しはじらさないと。挨拶終えたら買い物にでも行って今日はここでまったりと過ごしておきなさい」

「えぇ~」


「じらすことで自分をより意識させるの。マナもそう言う駆け引きを少しは身につけておいた方がいいわよ」


その言葉にあまり納得のいかないマナだったが、フラウーが言うのならそういう手も有効なのだろうと思い渋々同意する。

そしてまた礼を言うと、すぐに自分の部屋に向かって飛び出していった。


「そういうところは変わっていないのね」


思い立ったらすぐに動くマナに少し呆れつつフラウーはマナを見送る。

そしてすぐに何事もなかったかのように執務用の大きな机に向かうと書類の束との格闘を再開した。


しばらくしてふと手を休め、伏せていた写真立てを立てて魔力を流す。

幼いころのマナとその母ネイ、そしてフラウーの3人で映った1枚の画像が映し出される。


「やっと私の元から旅立ったわよ、ネイ。あとはあなたが見守っていて」


そうつぶやくと再び写真立てを伏せ仕事を始めた。




マナは地上階にある自分の部屋に戻ると大して物が置いていない机に座りすぐに報告書をまとめ始める。


半年もコウの元にいた割には偵察の報告内容はシンプルだった。

コウが将来を期待されるほどの才能がある事、クエスやボサツががっちりガードしていること、コウ自体の性格、そしてそこに居たいと思った自分の思い。


これからはコウの元へと行くので重要な部分はぼかしたり省いたりしていたが、まぁ許してくれるだろうとマナは勝手に思い込む。

2時間もしないうちにさっさと雑な報告書を仕上げると封書に入れて所定の箱へと入れる。


直接フラウーの元へと持って行ってもよかったのだが、先ほどだいぶ書類がたまっていたのでマナとしてはあまり時間を取らせたくなかった。

箱に入れておけば侍女が数時間後にはフラウーの元へと持って行ってくれるので問題はない。


これでやるべきことは終わったので、気持ちを切り替えてここを引き上げる準備へと取り掛かる。


まず、写真立てに髪留めの飾りなど数少ない小物を1つの箱にまとめてアイテムボックスに放り込む。

と、それだけで私物はほとんど片付いてしまった。


「これでいっか・・」


棚にもベッド周りにも何も置いていない、必要最小限にまとめられたこの狭い部屋をぼーっと見つめる。


「今まで色々とあったなぁ・・って今日もここで寝るんだった」


感傷的な台詞が空ぶり軽くへこんだが、マナはすぐに気持ちを入れ替えこの後の予定を考える。

最初はとっとと1隊に挨拶済ませて帰る予定だったが、1泊するとなると少し時間を持て余してしまう。


色々と考えたが買い物にでも行くかと思い、収納した箱を再び出して机の上に置く。

コウの元へと行けば買い物に行くのも難しくなるので、これはチャンスと思いマナは外へと出かけて行った。



買い物を終えて戻ってきたころには夕方になっていた。


普段から自由時間があり、建物の内外へ自由に出入りできるマナだったが

いつも1隊のメンバーとだべっていたり訓練したりしていて、あまり買い物に行くという事はなかった。


あまりお金を持っていないという事もあったが、そもそもマナにあまり物欲がなかった。

仕事に必要な物は言えばある程度は用意してくれるので、敢えて自分で用意する必要性がなく物欲が育たなかった面もある。


それに常に命の危険にさらされる仕事に関わっている以上、残す相手のいない者は必然的に物欲が減っていく。

特に仲間が死んで残ったものを処分するのを手伝うと、物を持つことがとてもむなしいものに感じてしまうのだ。


だが今のマナは違っていた。


コウから指導を受ける弟子としての生活では、今より広い部屋が与えられ、全員で写った写真、練習している魔法の魔法書

コウにもらったメモや小物など時間が経つ毎に物が増えていっている。


それにシーラの部屋はもっと色々と飾ってあったことから、コウが来た時自分の部屋が殺風景なのは嫌だなと思うようになっていた。

簡単な飾りつけや生活用の魔道具、日常用の服と下着などいくつか買ったものを並べてマナは考える。


「こういう手も必要かな。あ~、自分に合わないと思って避けたけど、誘惑のやり方も学んどけばよかったなぁ」


色んなことを考えながらしばらく眺めていた後、箱やバッグに全て詰め込むと

そのまま部屋に荷物を置いて1隊の皆に挨拶に行くために地下へと向かった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

なんか1話ごとの感想機能が追加されたみたいで・・アンケートとか取ったりするときには便利なのか?

最近思う事:マナ回は書いていて結構楽しい。主人公回より断然楽しい。


お時間があれば、ブクマや評価、ちょっとした感想などなど頂けると嬉しいです。

また、誤字脱字に気が付かれたら報告していただけると助かります。


では、次回は11/11(月)に更新予定です。

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