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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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正式な弟子になるために4

ここまでのあらすじ


コウはマナが正式な弟子になれるよう、やるべきことをやり終え回復カプセルの中で眠った。


コウがカプセルに入ってからすでに半日が経過した。

回復カプセルの正面が開きゆっくりとコウが出て時間を確認すると、マナと戦ってからすでに15時間ほど経過し時刻は夕方になっていた。


マナの様子を確認するために隣のカプセルを見たが、彼女は眠っておりまだ12時間くらい残り時間がある。

眠っているマナを見つめて顔を近づけると、コウはカバー越しに話しかけるようにつぶやく。


「もし、戻ってこなかったら俺が絶対に助けに行くからな。だから大丈夫」


眠っているマナには届かなかったが、もし聞こえていたら強く拒否されるだろうから

こういうタイミングでしか言えない言葉だった。


「さて、時間から言って夕食の頃だけど・・俺の分あるのかなぁ」


長い間カプセルに閉じ込められたこともあり、ちょっと体が動かしにくく

首や肩などをほぐす様に動かしながらコウは大部屋へと向かった。



大部屋へと近づくとおいしそうな食事のにおいがする。


「この感じだとそろそろ出来上がる頃か」


コウが食事を楽しみにしながら入ると、部屋にいたシーラがコウを見て驚く。

そして慌てて時間を表示し「あぁーーーっ」と大声で叫んだ。


いつもは遠慮がちでマナに比べれば大人しめのシーラにしてはずいぶん珍しい反応だ。


「な、なんだよ。いきなり叫ぶと驚くだろ」


「あっ、えっと・・師匠迎えに行かずにすみません。料理を手伝うのに夢中になってて」


よく見るとシーラがエニメットの料理を手伝っている。


いつもエニメット1人で作っているのに今日はなぜかシーラが手伝っているのでコウが不思議に思う。

貴族であるシーラが食事を作るなんてことをするとは思っていなかったからだ。


「まぁ、カプセルから出てくるだけだから別に迎えはいいよ。それよりどうしたんだ?シーラが料理を手伝っているなんて」


「あっ、いえー、ちょっとした・・気分転換です」

「はぁ」


誤魔化すかのようなシーラの発言を気にすることなく、コウは生返事で返すと自分の席に座り机に伏す。

体は十分に回復したが、この後のマナのことを考えるととてものんびりする気にはなれなかった。


そんなコウを見て察したのか、シーラは後ろに回り込むとコウの両肩に手を置いて少し揺らす。


「大丈夫ですよ、師匠があれだけ頑張ったんですから」

揺らしながら励ますシーラの行動が少し心地よく、コウは少しだけ気分が晴れる。


「だったらいいんだけどな・・」


「師匠って案外心配性なんですね」


「なんとしてもマナを守ってやりたいからな。だけど、俺には権力とかなくて・・実際は無力だなと思わされたよ」


コウが寂しそうに言うと皆何も言えず黙ってしまったが、しばらくしてシーラがふと尋ねてきた。


「その・・師匠は今回の件がマナじゃなくて私だったとしても、こうやって全力で・・」


「当たり前だろ。シーラもマナもどっちが大切なんて順番はない。どちらも大切な俺の弟子だから、全力で何とかする」


それを聞いてシーラは嬉しそうにしていたが、エニメットは微妙な表情をしていた。

半分ネタかと思っていたコウのハーレム願望が思ったよりもガチなんじゃないかと思ったからだ。


そうこうしているうちに夕食が出来上がり机の上に並べられる。


「コウ様、今は待つ時間です。やれることをやって時間が余るのはもどかしいと思いますが、堂々と結果を待つのも上の立場に必要な態度だと思います」


「んんん・・まぁ、ねぇ」


「焦りすぎると逆に悪い方に動くこともありますから」


「そう・・だな。よし、食事にして軽く体を動かしてから寝て、明日は笑顔でマナを見送ることにしよう」


目を閉じ少し考えたコウだったが、エニメットのアドバイスを受け入れ前向きに考えることにする。

コウが気分を変え明るく振舞うとエニメットやシーラにも笑顔が広がる。


(あるじ)たる存在がそこにいるもの全員の雰囲気を変える。

コウはこの半年足らずでただのお飾りとしての主ではなく、この道場の精神的な支柱としての主になりつつあった。


その後夕食を食べ終わるとシーラと2人で軽く練習をこなし早々と休むことにした。

明日のマナの無事を祈りながら。




そして翌日。時間になりカプセルが開く。

マナはゆっくりと目を開けると足を一歩踏み出した。


1日以上カプセル内にいたこともあり、足元が少しふらつくと誰かが腕をつかんで支える。


「おはよう、マナ。調子はどう?」


「あ・・ししょ・・師匠!ありがとうございます」


マナの様子を見てほっとした表情に変わるコウ。

マナもそれを見て笑顔を返した。


よく見ると周囲にはシーラもエニメットも来ていて、マナの回復を喜んでいる。


フラウーの元にいるときは回復カプセルから出てくる時もほとんど独りで、こうやって迎えられることなどなかったので

マナは何度も皆を見回すと、真剣な表情になり頭を下げる。


「心配かけました、本当にすみません」


「そんなに気になさらずに」

「気にすることじゃないですよ」


「みんなマナが回復するのを待っていただけだって。さぁ、朝食くらいは済ませていくだろう?」


皆の返事にマナはちょっと涙ぐみながら、何度もうなずいていた。



朝食はいつも通り楽しい雰囲気だった。


前日コウから、朝食の時に『色々聞くのは後、明日はマナを元気に送り出してあげよう』と言われていたので

シーラは前日料理を手伝った話をし、コウは近々この道場に納入される仮想戦闘ができる装置一式の話をする。


それをマナは楽しそうに聞いていた。

そしてすぐに出発の時が来た。


門の外に出ると一度振り返り深く頭を下げ感謝を述べるマナ。

それに対してコウは『行ってらっしゃい』とだけ簡単に言うと笑顔でマナの出発を見送った。


外に出てマナが角を曲がるまで見送るコウたちだったが、マナは一度も振り返ることなく去っていった。


「行ってしまいましたね」


「あぁ、でも絶対戻って来るさ」


「ですよね・・」


「もし数日経っても戻ってこなかったら、取り戻しに行く覚悟だからな」


コウの言葉に賛成も反対も出来なかった2人は何も言わず、不安そうにしながらマナがいなくなった真っ直ぐな路地を見つめていた。



◆◇◆◇



マナは念のため尾行を警戒しつつ街中を歩き回り、人影の少ない路地裏に面する勝手口からある建物に入る。

このルーデンリアは占有地があるため貴族エリアが広いものの、街中に人がたくさんいるわけではない。


その為尾行をしたところで気がつかれやすい特徴があるが、それでも慎重にマナは行動した。


今回は失敗だらけでの帰還になる上、わがまままで言いに行くことになる。

ここでつけられるというヘマまで上乗せするわけにはいかなかった。


建物内の扉をいくつか抜け、偽装されている映像だけの壁を通り抜け地下へと進む。

地下から別の建物へと行くといくつか扉を抜けて1人用転移門を使って別の場所へと飛んだ。



フラウーの居る建物の敷地内へと飛ぶと、マナは警備している兵士に確認を受ける。

見た目だけでなく、魔力パターンと身分証を呈示しマナ本人だと確認されると問題なく転移門から外に出られた。


(私が仕事を失敗したことが伝えられていない?)


不思議に思いつつもマナは転移門を囲っている障壁から外に出ると、兵士に話しかけた。


「フラウー様は今いらっしゃいますか?」


「はい、執務室にいます。あなたが来られたらすぐに向かうよう言われていました」


なるほどそっちか、そう思いマナはフラウーの元へ歩き出す。

そもそも仕事は大失敗だし、その原因は完全にマナ自身にある。


そのまま転移門を出たところで捕らえられた方が気分的には楽だったかもしれない。

罰を受けに行くと思うと足取りは重かったが、師匠との約束を思い出しマナは心を強く持ってフラウーの居る部屋の前へと来た。


護衛の兵士が扉から少し離れるとマナがノックをする。

しばらくすると扉が光ったので軽く息を吐いてからマナは扉を開いた。


「マナ、任務から戻りました。結果は失敗です、申し訳ありません」

部屋に入り扉を閉めるなりすぐに頭を下げる。


がそれを気にすることなくフラウーは書類にサインをしてラックへと移すと、ようやく顔を上げた。


「そうね、ひとまず本人からの報告を聞かせてもらうわ。向こうに座ってからでいい?」


そう言ってフラウーが移動するのでマナもその後に続くよう移動する。

緊張した面持ちでマナがソファーに座るが、フラウーはさほど気にしていない様子を見せる。


「それで、失敗の原因は?」


「私が独断で動いてしまったから・・です」


「そう。それならなぜ勝手にマナは動いたの?」


「外部の反応が全くなく連絡が取れない状態に置かれたと判断したので。それに対象が放っておいては対応が出来なくなるほどの才能があったし・・」


少し困った表情になるが以前の失敗の時と違って叱責すらない。

とは言え怒られたいわけでもないので、自らなぜ怒られないか尋ねるわけにもいかずマナにとってもどかしい時間が続く。


「なるほどね。一応理解できる理由とはいえ、もっと大きな潜入の仕事なら貴方は死んでいたわよ。

 外が反応したくても出来ない場合だってあるわ。それを冷静に理解して潜り続けないと潜入とはいえないわよ」


「・・すみません」


しおらしい姿を見せるマナにこの半年でずいぶん変わったものだとフラウーは感心した。

以前のマナだったら『だって~』とか即言い訳が出てくる所なのに一切の言い訳もしてこない。


コウの元でそういった振る舞いの教育もしていると聞いてはいたが、まさかマナがここまで変わるとは思っていなかった。


ただ実際のところ、教育を受けたとは言えマナが急激に変わったわけではない。

彼女にとっては、ここで言い訳を言ってしまえば次の大事な話を聞いてもらえないと思って、素直に受け入れるしかなかったのだ。


「そういえば貴方と監視対象であるコウが戦っているところも見せてもらったわ、アルディオスにもらったデータでね。

 あれで1年半と言うのなら確かに大した人物ね」


やっぱり隊長いたんだと思いつつも、マナはできるだけ態度に出さないようにして冷静に答える。


「はい、将来的には三光の1人になりえるほどの人物です」


「そうね・・ところで、もし彼が火属性しか使えなかったらマナは勝てた?」


「いい勝負できたかなと思うけどわかりません。でもそれくらい強い人です」


そこで再び映像を流し、マナとコウの戦いを観察する。

思ったよりしっかり記録されておりマナは驚いたが、負けた戦いの映像なので少しばつが悪かった。


「腕を上げたんじゃない、マナも」


「勝てなかったけど・・たぶん」


「それじゃ、今日中に報告書をまとめてもらえないかしら」


思ったより話があっさり終わり拍子抜けしたが、マナにとってはこれで話が終わりじゃない。

もっと重大な話があったので、フラウーが仕事に戻る前に慌てて話しかけた。


今話も無事更新できました。読者の皆様がいてくれるおかげです。


お手数ですが、ブクマ・感想やご意見、評価など頂ければ嬉しいです。

誤字脱字の指摘は頂けると本当に助かりますので、遠慮なくお願いします。


次話は11/8(金)更新予定です。

書くのが遅い自分に活を入れねば。。では。

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