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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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正式な弟子になるために3

ここまでのあらすじ


マナが治療のために眠っている間、コウは何か自分にできないかと師匠たちの居る隠れ家を訪ねる。

そこでマナと正式な師弟関係になるために力を貸してくれるようお願いした。


「そうね、その言葉だと少しアバウトすぎるわ。もう少し詳しく聞きたいんだけど」


「はい。ここからは俺の予想も含みますので、間違いがあれば指摘してください」


前置きするコウに2人は軽くうなずく。


「今回の一件でマナが心から俺の弟子になってくれることを誓いまいした。ですがそのためにはマナが偵察を指示した組織から抜ける必要があります」


「ふーん、別にそこまでやらなくてもいいんじゃない?あなたが彼女を保護し、その保護のサポートを私たちにお願いすれば解決では?

 奪い返しに来たとしても、私たちが何度か返り討ちにすれば諦めるわよ」


クエスが自分のことを『コウ』ではなく『あなた』と呼んだことにコウは少なからず驚いた。


それにはっきりとした感情を出さず淡々と語るクエスからは、感情どころか雰囲気さえなかなか掴むことができていない。


そのため『あなた』という言葉が自分を一人前と認めた証拠なのか、それとも自分のお願いがクエス師匠の癪に障るものだったなのか判断ができなかった。


だが、コウもここで引くことはできない。

マナが思いを込め命を懸けて自分の弟子になろうとしてくれている時に、身内である師匠にビビっているようではマナの思いを受け止める資格すら失ってしまう。


これはこれで戦いなんだと、気持ちを強く持ちコウは事情を説明し始めた。


「当初は俺もそのつもりでした。ですがマナが本当の意味で俺の弟子になりたいと言ったので、俺はそれを受け止める責任があります。

 そのために、マナが組織を抜けるための手助けをしてほしいのです。身勝手なことは百も承知ですが、どうか、お願いします」


コウが再び頭を深く下げ、しばらくそのままの姿勢でいたためか部屋に沈黙が訪れる。


「コウの気持ちは理解します。まずは顔を上げましょう」


ボサツの声にコウは緊張しながらも真剣な表情のまま顔を上げる。

絶対にここは退かないという意思を示したつもりだった。


「しかしです。コウ、あなたはどうしてそれが私たちにできると考えたのです?」


「えっ、あっ、それは、ボサツ師匠もクエス師匠もかなりの力を持っている方だと思っているからです。それに、弟子の選定はボサツ師匠が行ったと聞いていたので

 マナのいる組織との何らかのつながりがあると考えたからです。もしマナがあずかり知らぬ存在であれば、それはそれで調査をしていると思って・・いたので」


そこまでコウが答えると、クエスがボサツを見て軽く首を傾ける。

それを見たボサツは軽く息を吐くと少し笑顔を見せ、部屋中の張りつめた空気をやわらげた。


「コウの考えは大体合っています。ですがそれでも彼女を組織から正式に切り離すのは容易ではないかもしれません」


「マナは俺に命を懸けてでも掛け合ってくると言ってくれました。ですから俺もその思いを全力で助けたいんです。

 俺にできることは何でもします。だから、どうかお願いします」


「それは相手からマナを奪うことになります。それでも、ですか?」


「はい、俺は奪ってでもマナには傍にいて欲しいんです。それをマナも望むのなら、なおさら引くわけにはいきません」


それを聞いたボサツが今度はクエスの方を見て首を傾ける。

するとクエスが軽くため息をついた後、目を閉じたまま小さくうなずいた。


「コウがそこまで言うのでしたら、私もできる範囲で動いてみます」


「本当ですか!ありがとうございます」

コウが感謝とともに深々と頭を下げる。


「けどコウが強く望んだだけでなく、マナがそこまで望むとは意外ね」


「必死に説得したら、偶然うまくいったみたいで・・」


コウの答えを2人は『ふーん』程度に軽く流す。

それからあとはその話は置いておかれマナとコウの戦闘の評価が始まった。


結構最初の方から映像が始まりコウの動きを評価するので、そんな最初から師匠たちは見ていたのかとあきれつつも

これからの自分の課題にしようと、コウは真剣にその話にうなずいていた。


だが、時間が経つにつれコウが少しもどかしさを感じているのに気付き、ボサツはそろそろ限界かと思い動き出す。


「早めに話を通しておきたいので、私はコウのお願いに関して話をしてきます」

そう言ってボサツは立ち上がる。


「よ、よろしくお願いします」

急な話の切り替えに驚きながらも、コウは立ち上がって深く頭を下げた。


「はい。ですが、あまり過剰に期待しないでください。これは相手のある話です」


「わかっています」

そう言いながらもコウの表情は曇る。



コウにとってボサツに頼むことしかできない状況はかなり心苦しかった。

できることなら自分でできる事をすべてやった後に、ボサツやクエスに頼みたかった。


だがコウが自分自身でできることなど考えても考えても何も思いつかない。

そして自分の力の無さ、影響力の無さをここにきて痛感する。


今まで偉くなったところで面倒になるだけだと思っていたが、いざという時力や人脈がないことは本当に辛いことなんだと実感させられた。



コウが少し落ち込む様子を見せたので、その気持ちを察してかボサツが優しく声をかける。


「コウの言うようにマナがそれを強く望んでいるようなら、きっとなんとかなります。今は私とマナを信じて治療に専念することです」


そう言われてコウはどこか悔しそうにしながらも、ボサツ師匠に感謝した。

そこへクエスが話しかけてくる。


「コウ、あなたが先に転移門で飛んで戻りなさい。早く傷を治しておかないと周りの者たちが心配するわよ。

 師匠があまり弟子を心配させるものじゃないわ」


「はい、そうですね」

そう言われて仕方なく歩き始めると、もう一度頭を下げてコウは帰っていった。




コウが行って部屋には立ったままのクエスとボサツが残される。


「やっと行ったわね」

「ですね」


「さっちゃんに早く行動してくれと言わず素直に私たちの指導を聞くものだから、色々と呆れたわよ」


「でもあれはさすがに意地悪し過ぎです。ちょっとかわいそうにでした」

そう言って2人は軽く笑い合った。


「それで、コウのわがままはどれくらい通りそう?」


「マナが本当にそう望んでいるのなら、ほぼ大丈夫です」


「へぇ」

それを聞きクエスは感心しながら嬉しそうに笑った。


色々あったが、最後はコウの望むようになるのなら、クエスとしては不満はない。

コウがいい動きを見せていたので、ぜひ成功体験として終わらせてあげたかったのだ。


今回の結果から言って、コウの上の立場としての指揮・指導能力は十分合格点に達していた。


上の立場はどうあるべきかというのは、この隠れ家で指導していたしボサツもヒントを与えたりしていたとはいえ

こういったことは教えたところでなかなか実行できるものじゃない。


そう考えれば予想以上の成果を出したと言える。

だが、ボサツは今一つ喜んでいる様子を見せないのでクエスは不思議そうに尋ねた。


「さっちゃんはあまり喜んでいないのね?今回コウは合格点といえるし、次のプランも実行に移せそうだと思たけど・・不満?」


「いえ、そこに不満はないです。次のプランの選択肢が増えるのはありがたいことですし、コウの能力が高いのは歓迎しています」


「ふーん、その割には引っかかるところがあるみたいじゃない」


「うーん、えぇ、まぁ」


ずいぶん言葉を濁した言い方をするボサツに対してクエスは色々とその原因を考えてみるが、特に思い浮かぶものはない。


今回が不合格の結果だったらコウはマナを失っただろうし、そのままショックでしばらくふさぎこんだかもしれない。

当然次に用意していたプランの一つは使えなくなっていたし、事後対応だけでも2人で頭を悩ませる結果になっていたはずだ。


だが、今回はどう見ても合格だ。それなのに言葉を濁すボサツにクエスは問いただす。

もし懸念材料があるのなら、同じ師として、コウの所属する家の責任者として把握しておきたかったからだ。


「いい結果だったじゃない、こっちの想定よりはるかに良い動きを見せたと思うわよ。

 いい指揮官にもなれそうだし、貴族としても有望だと思うけど何が引っ掛かっているのよ?」


不満そうにするクエスの態度を受け、ボサツはより真剣な顔つきになりクエスをまっすぐ見据えた。


「コウはつい1年半前は素人でしたし、魔法の才能は魅力的なものの、あまりリーダーとしての資質が高いようには見えませんでした」


「まぁ、それは否定しないわ」


「ですが今回の結果は上々です。というか素晴らしいものです」

「よね」


「一方マナはこちらが想定していたより組織に対して忠誠が厚く、最後自棄(やけ)になるまであくまで命じられた仕事に徹しました。

 そんな彼女をいわば落としたんです。体の関係からの絡め手を使うわけでもなく、真正面からぶつかり合ってです」


「まぁ、そう言われると確かにすごいわね。でもコウは風が使えるから相手の考えをなんとなく悟れることがあるし

 氷の心を使えば冷静に対応できるんだし、そういうこともあるんじゃないの?」


クエスの意見になるほどと思ったのか少し口をとがらせながらも考える。

が、ボサツはすぐにまじめな表情になると話し始めた。


「くーちゃんには一応言っておきます。光の連合は風という属性をあまり好んでいませんが、それは稀ですがある特徴がある者が生まれるからなのです。

 風属性の実力者には『導く者』といわれる能力というか特性のようなものを持つ者が稀に出てきます」


「へぇ、聞いたことないんだけど・・人々を導くとかそんな感じ?」


「大体そんな感じです。その者がおとなしく光の連合に従う者だったら問題ないのですが、導く者は多くの者の共感を呼びそれをまとめ上げる力があると言われます。

 雑な言い方をすれば優秀な扇動屋とも言えますが。まぁ、これが敵になると結構厄介なのです」


「扇動屋ねぇ・・」


そう言ってコウの行動を思い浮かべてみるが、クエスにはどう考えてもコウがそんなことをできる人物には見えなかった。

確かに好感が持てる人柄ではあったが、とてもじゃないが頼りになる人物には見えない。


「コウは普段そんな風に見えませんが、今回の一件でその特性が目覚めた可能性があるのではと思っていたのです」


「まぁ、確かに完全否定はできないけど・・今回も私たちをちゃんと頼ってきたし、私たちに敬意がある分には大丈夫なんじゃない。

 それに事情があるとはいえ3人も好意を寄せている女性を侍らせておいて、全く手を出していないし、いわゆるヘタレよ?そんなのが指導者って言われても、ねぇ」


「それを言われると・・確かに私の考え過ぎかもしれません。ですが、くーちゃんも一応気に留めて貰えると助かります」


「分かったわ。そうしとくけど、風属性は自由人が多いって聞くしコウもそっちの部類だと思うけどね」


あくまでボサツもまだその特性の片りんを感じたかどうか程度だったので、この話はこれ以上深掘りしないことにした。


そしてすぐにボサツはフラウーの元へと向かい、クエスはその間魔道具の調整をすることとなった。

実験室につくと明かりをつけて、いくつかの魔道具を接続を確認する。


「導く者ねぇ・・ふーん」

そう呟きながら、クエスは魔道具を起動した。



◆◇◆◇



隠れ家から戻って自分の部屋から出ると、廊下には壁を背にシーラが座ったまま待っており、コウの姿を見たからかすぐに立ち上がる。

思わずコウが何か言おうとするが、その前にシーラはすぐに話しかけた。


「どうでした、師匠。マナは何とかなりそうですか?」


シーラが自分をずっと待っていたことに驚きつつも、真剣に訪ねてくるその勢いに押され結果だけを伝える。


「あっ、あぁ。やれることはやったよ。ボサツ師匠にお願いしてきた。あとは・・結果を待つしかない」


それを聞いたシーラがほっとすると、すぐにエニメットがやってきてシーラと見合ってうなずき合いコウの両手をつかむ。


「えっ、えっ?」

両手をつかまれて戸惑うコウだったが、2人は気にすることなく腕を引っ張る。


「師匠、今すぐカプセル行きです」

「今すぐ治療を、コウ様」


「あ、うん、わかったから、ね。ちょっ」


言い分など聞くつもりはないと言わんばかりに連れていかれたコウだったが、もうできる事もなかったので引っ張られる状況に身を任せる。


こうやって自分も心配してもらってることに、コウはちょっとだけ嬉しかった。


そのまま部屋まで連れていかれ、マナの眠っている隣のカプセルに押し込まれる。

カプセルの中に入ったコウが体を楽にして少し安心した表情を見せると、シーラもエニメットもうれしそうにしていた。


そしてカプセルが閉じられ、コウもしばしの眠りについた。


今話も読んでいただき、ありがとうございます。

今回はちょっとだけ臭わせ?っぽいのを入れてみました。


しかし……まだイラストの話にたどり着かない。ぐぬぬ。(正確にはそこまで書けていない)


ブクマ・感想・評価など頂ければ嬉しいです。

誤字脱字の指摘はえんりょなくどうぞ!ログインすれば使えるはずです。ではでは。


次話は11/5(火)更新予定です。定期更新、一歩一歩。

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