表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
151/483

正式な弟子になるために2

ここまでのあらすじ


コウとマナの戦いが終わり、コウはマナを説得することに成功する。そして帰宅へ

◆◇



一方コウたちも街へと戻ってきた。


ずいぶんボロボロになり、マナに至っては大怪我をしているのを見て兵士たちが驚く。

そこへクエスが割り込んで説明を始めた。


「どうも。あっちはね簡単に説明するとちょっと喧嘩になった感じなの、そう気にしないで」


「は、はい。一光様がそう言われるのでしたら・・ただ、我々は逢引き・・なのかと思っていたもので」


「あぁ、なるほどね。まぁ、色々あったみたいでちょっとした痴話喧嘩になったのよ。貴族ってのは単純な男女の関係だけじゃないから、結構大変なのよ」


「はぁ。わかりました。特に報告する内容でもないので見なかったことにしておきます」


「話が早くて助かるわ。ありがと」


マナとコウはクエスの説明にちょっと抗議したかったが、どう考えても場を乱すだけにしかならないのでそのまま黙って我慢した。


戻ってきたクエスは2人を見てニヤニヤ笑いながら

「ちゃんと説明しておいたわよ」

というので、2人は反論するわけにもいかずただ道場に戻ることだけを考える。


占有地のあるエリアにクエスが同行するとさすがに目立ちすぎるという事もあって、クエスはその手前で別れることとなった。


「二人とも戻ったらすぐに治療カプセル行きよ。特にマナは結構な深手なのだから。

 色々スイッチ入っちゃって燃え上がる気分になるのはわかるけど、そのまま楽しむと多分途中で気絶する羽目になるわよ」


「ちょ、師匠。そんなことしませんって」


コウは恥ずかしくなってむきになって反論するが、マナは少し図星だったのか顔を赤くしながら何かを考え続けてずっと黙っていた。



クエスと別れて道場への道を2人で歩く。

明るいとはいえまだ夜中、すれ違う人は誰もいない。


「こうやって2人で帰ってこれて、本当に、良かった・・」

「うん」


マナはコウの肩を借りながら歩き、嬉しそうに答える。


「でも、師匠。本当にごめんなさい」


「何がだ?練習試合をやりたいっていうわがままくらい、たまには聞くさ」


「・・あーっ、ですね。今日はありがとうございました」


「あぁ。だがわがまま言った分、これから1日は缶詰だな」


ちょっと顔をそむけて不満そうにしたマナだったが、それでもうれしさを隠すことができなかった。

道場の門まであと少しのところまで来た時、マナが真剣な顔つきになってコウに告げる。


「師匠、私は必ず戻ってきますから」


その言葉を聞いてコウはまた止めようとしたが、マナの強い意志を感じて止めることを諦める。

マナが自分のお願いに真剣に向き合って、本当の弟子になろうとしてくれている。そう思うと何も反論できなかった。


「・・あぁ、絶対だぞ」


その言葉にマナは笑顔で答える。

それを見てコウは複雑な思いを抱きつつも、それ以上何も言えなくなった。



道場の入り口までたどり着き、コウが外門に触れると門が開き中へと入る。

外門が閉じたタイミングでコウが内門に触れると、今度は内門が開く。


「やっと帰ってきた。さすがに疲労は隠せないな」


コウが安心しつつも疲れた様子でつぶやくと、建物の方から走ってくる足音が聞こえる。


「やっぱ出迎えが来たか」

コウは嬉しそうに話すが、マナの表情は少し曇る。


コウが自分のやっていた情報漏洩を把握していたということは、おそらく2人もある程度そのことを知ってるはず。


コウにはすでに許してもらっていると言えるのである程度気兼ねなく話せたが

2人に対してはどう接すればいいのか戸惑っていた。


直接害を与えるようなことはしていないとはいえ、2人にとって大切な存在であるコウを害したことは確かだからだ。

マナの表情から考えていることをおおよそ察し、コウはマナに優しく話しかける。


「実戦練習の修行から帰ってきただけなんだから、そんな表情はしないでくれ」

「・・でも」


「俺がマナを守るって言っただろ、信じて欲しい」


そう言われてマナが少し笑顔になる。

そうしているうちにエニメットとシーラがコウたちの元へ走ってやってきた。


「コ、コウ様?その傷は・・」


エニメットが一目でコウの左胸を治療している癒しの水を見つけ、怪我があることを察する。

その周辺の服は焦げ付いており、とても軽い傷には見えなかった。


シーラもその傷を見て慌てるが、その傷はコウの体の中まで何かが突き刺さったような跡に見え

火属性の魔法による傷には思えず困惑する。


2人の状況から、シーラもエニメットも話し合うために外へ出て戦いになったと想定していたが、

火ではない魔法による傷痕があるとなると、師匠達が別の敵と戦って帰ってきた可能性がある。


そうなるとマナの問題がまだ解決できていない可能性があるため、シーラとエニメットは何と話を切り出せばいいか悩んでしまった。



そんな困惑する2人に対してコウは軽い感じで話し出す。


「色々あってね、ちょっとばかり傷を負ったんだけど、特にマナの傷が酷いので先に治療カプセルのところまで行かせてもらえない?

 話は後で落ち着いてからちゃんとするから」


「わ、わかりました。では、私が先導しますので・・」


困惑しつつもコウの指示でエニメットが治療カプセルのある部屋まで先導し、念のためにとシーラはコウたちの後ろに付く。

2人ともすぐに状況を聞きたかったが、マナの肩にある貫通した傷を見ると話は後回しにせざるを得なかった。



治療カプセルの前までくると、コウはマナを優しくカプセルの中に入れる。

マナは歩けないわけではないので1人で入ることができることから、2人から見てマナがコウに甘えているように見える。


「マナ、とりあえず今はゆっくり休もう」


「うん。でも回復したらすぐに行くね」


それを聞きちょっとだけ迷った表情をしたコウだったが、それを見たマナが

「大丈夫、私はこれからもずっと師匠の弟子だから」


「・・わかった」


やはりマナを説得できないと悟らされ、少し寂しそうな顔を見せながら了解する。

それに対してマナはとてもうれしそうな笑顔だった。


彼女はコウの気持ちを押し切るため、ことさら笑顔を強調した。

コウの『本当の弟子になってほしい』というのを叶える、という強い気持ちが笑顔を後押ししていた。



カプセルが閉まるとマナが目を閉じる。

光属性によるマナの回復が促進され始め、彼女はそのまま長い眠りへと移る。


それを見届けたコウはやっと安心したのか大きく息を吐き、力が抜けたようにその場にへたり込んだ。


マナとの戦闘で体力や魔力を消耗していただけでなく、絶対に失敗できないというプレッシャーで精神的にも疲労していた。

だがここで一息ついている場合ではない。


マナが所属する組織に一度戻ることを諦めない以上、彼女の回復時間を最大限有効に使わなければならない。


「完了までの時間は29時間か・・」


時間だけ見ると結構あるように見えるが、そうやって余裕を感じているとこのくらいの時間あっという間に過ぎてしまう。

とにかくすぐにできることから始めないと、そう思って立ち上がろうとするコウだったが、思った以上に疲れていたのか立ち上がる途中でよろけて倒れてしまう。


「コウ様!」

「師匠!大丈夫ですか?」


2人が慌ててコウへ駆け寄ると両肩を支えてコウを立ち上がらせる。


「師匠もひとまずカプセルで休まれてください」

シーラが心配そうにコウに声をかけるが、コウにとってはそんな余裕はない。


マナが休んでいるこの時間にこそやってしまわなければいけないことがある。

コウは首を左右に振ると、強引に歩き出そうとする。


「とりあえず、大部屋に行こうか」


両肩担がれながらもそう言うコウに強く出ることができず、2人はやむを得ずコウを担ぎながら大部屋へと移動した。



大部屋につくとエニメットがすぐに飲み物を用意する。

そしてコウが促したので、いつもと違うシーラの横のマナの使っている椅子に座った。


コウも先ほどよりは少し体調が良くなったようで、しっかりした姿勢で話し始める。


「まず、これだけは報告しておかなきゃいけない。マナの件はちゃんと片付いたから安心して欲しい」


その言葉にシーラは笑顔を浮かべ、エニメットはほっと安心したようだった。


その反応を見てコウも表情が和らぐ。

少し師としての役目を果たせた気分になった。


「だけどまだやらなきゃいけないことが残っているんだ」


「まだ・・何か問題でも?」

正面にいるシーラが心配そうに尋ねる。


「あぁ、マナは本当の意味で俺の弟子になると言ってくれたが、その為に治療が終わったら組織に戻って抜けるよう訴えるつもりだ」


それを聞いて2人とも驚いた。

情報収集の潜入スパイを擁する組織ならば、簡単に抜けられるはずがないことくらい誰にだってわかることだ。


「それはいくら何でも・・」


「あぁ、だけどマナの意志は固い。そこは俺のせいでもある。だから俺も出来るだけのことをするつもりだ」


「コウ様、お言葉ですがどのようになさるのですか?その組織がどんなものかすらわからない状況なのですが」


「そうだね。俺にはわからない。だけどそれと何らかの関わりがある人物を知っている。その人に頼みに行くつもりだよ」


2人はそれを聞いて少し考えると、すぐに気づいたようだった。


「今からすぐに行ってくるけど、2人はとにかくこれからマナと気楽に接して欲しい。スパイの件も話して問題ないと思う。

 納得いかない部分もあるかもしれないが、マナを仲間として迎えて欲しい」


「はい、コウ様がそう言うのでしたら」

「わかりました」


2人が笑顔で答えるのでコウは一息つくとすぐに席を立ちあがる。

そして心配そうな2人に軽く声をかけると、すぐに自室に戻って転移門から飛んだ。



◆◇



隠れ家へと着くと、コウは急いで師匠の部屋を目指す。

すぐにでも事情を話して動いてもらうのがコウの目的だった。


マナが組織を抜けるのを了解してもらうというのは、はっきり言って無茶な話だ。

そんな困難な話を通すとなれば、時間はできるだけあった方がいい。


そう考えながら雑多に魔道具の置かれた物置部屋から出て大部屋へと入ると、クエスとボサツが椅子に座ってのんびりとしていた。


以前の食事をしていた時と同じ席順でコウの座る椅子の前に2人が座っている。

明らかに2人しかいない時に座る座り方ではなかった。


(こうやって待ち構えられているということは、もしかして俺の行動が読まれてた?)


そう考えたコウだったが、それはそれで好都合だった。

読まれているということは、コウのお願いも理解してもらえる可能性が高いということになるからだ。


「師匠、先ほどはお世話になりました」


部屋に入って驚いていたコウだったが、すぐに頭を下げ先ほどの件のお礼を言う。

ボサツもクエスもそれを見て嬉しそうにしていた。


「話があるんでしょ?さっ、座って」

「待っていましたよ」


2人の話の速さにコウは少し戸惑いながらコウは2人の正面に座る。

意気揚々と乗りこんだつもりだったが、この雰囲気に流されてしまいコウは少し弱気になる。


「その、師匠。先ほど助けていただいた上にさらなるお願をするのは・・」


「はいはい、そういうのは気にしないでって言ってるでしょ」


「それでどのようなお願いです?」


二人に即刻前振りを否定され、コウは改まって正面を向くと机に額が付かんばかりに頭を下げると再び顔を上げ

真剣な表情で師であり実力も権力も持ち合わせた2人にお願いした。


「マナを、正式な俺の弟子として迎え入れるために、どうか力を貸してください」


それを聞いて2人は真剣な表情に変わる。

その反応を見たコウは両手を机の下で握りしめ、かなり緊張しながらも真っ直ぐに向き合った。


今話も読んでいただきありがとうございます。

タイトル連番制は色々と楽ですね。いつか時間のある時に過去の物も見直して変更しようかな。

今はできるだけ最新話を書くのに時間を使いたいですが。


次話は11/2(土)更新します。頑張らなければ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=977438531&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ