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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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正式な弟子になるために1

ここまでのあらすじ


賭けをした練習試合に負けたマナ。コウはそのかけのお願いとしてマナに本当の弟子になってくれるように頼んだ。


しばらくの間お互い黙っていたが、マナが急にコウと視線を合わせる。

それに対しコウはかなり緊張し全身に力が入る。


やれることはやったし、勢い任せとはいえマナにいて欲しいことも告げた。

初めてできた弟子を失いたくない、大切な存在なんだという思いは伝えたつもりだった。


でも自信はなく、マナの瞳の奥にある気持ちが捕らえられず、不安ばかりが増大する。

しばらく真剣な表情でコウを見つめていたマナだったが、急に力を抜いて少し笑顔を見せた。


「分かりました。でも師匠、これだけは許してください。ダメ元かもしれませんが・・組織の責任者に師匠の下に行きたいって言ってみます」


「えっ・・」


コウが考えていた流れと違う方向に話しが進み始めコウは慌てる。

この後はこのままマナを保護する予定であって、マナを対外的にも正式に迎え入れることは考えていなかった。


どう考えても組織を抜けて自分の正式な弟子にするという方法は不可能としか思えない。

ならばマナの所属する組織を敵に回してでも、彼女を守りに抜くつもりだった。


実際それの方がヒーローっぽくって格好がつくとも思っていたくらいだ。


「そ、それはだめ・・」


「師匠、聞いてください。私は偽りじゃなく正式に師匠の弟子になりたいと思ったんです。だって尊敬する師匠が命をかけてまで私を欲しいって言ってくれたんだから。

 それにお願いを聞くって約束もしたし。だから、私も命をかけて組織の偉い人を説得してみる」


「い、いや、いやいや。さすがに、それは無理だろ。そんな簡単に説得できる相手じゃないでしょ?」


「んー、難しいとは思うけど。でも、ほら、やってみないとわからないって言うし。ねっ、師匠」


そう言われてコウは急におろおろし始める。


コウはマナをどうやって説得するかばかり考えていて、マナがそう言う行動に出ることは想定していなかった。

ただ自分の元に置いて、クエスやボサツに助けを乞いながら意地でもマナを守り通すつもりだった。


なのでマナがどうやって組織を説得するかなんてまったく考えておらず、いいアイデアなんて浮かびもしない。

そもそもマナがどういう組織に属しているのかいまいち把握できていないのだから、誰に話しを通しどういう手を使えばいいのか見当もつかなかったのだ。


だがこうなった以上マナが考えを変えるとも思えない。

自分が本当の弟子になってほしいと言った手前、それを否定しては自分の元に来るという彼女の決心すら萎えさせかねない。


コウは必死に考える。

師として、なんとかマナを助けてあげられないかと。


「そうだ、それなら俺も一緒にお願いに行こう。俺からも真摯に頼み込んでみるから」


「あ~、それだと私が師匠に組織のメンバーをばらしたことになっちゃいますよ?むしろ私が無事に戻れる可能性が無くなっちゃうんじゃ・・」


「そ、そっか。うー・・だったら俺の情報は流していいことにするとか。仕事は継続になるだろ、情報流す時は俺が許可してからになるけど・・」


「うっうーん、まぁ、一応おまけの一手として考えておきます」


おろおろとしだすコウを見てマナは戦いの時とはずいぶん様変わりしていて、困った人だなと思いながら笑ってしまう。

それを見てコウは少し不満そうにするが、ますますマナは笑いだした。


マナにとってフラウーは育ての親のようなもので、マナ自身かなり感謝している。

とはいえ本当の親でないことはわかっているし、今でも気楽に話せるものの雇い主と傭兵の関係に近い関係を維持している。


そしてその関係がフラウーの望みだというのも薄々わかっていた。


(まぁ、ちょっとは可能性があるかな。それに、師匠は放っておけない人だし。私がいてあげないとね)


そう思いながらコウを見ると、マナはなんだか嬉しくなってきた。

この人の元で過ごすのが楽しみだなと思いながら。




「それで師匠」

「ん?」


今だに何かいい案はないかと思案しているコウに声をかける。


「その、もう逃げないからそろそろこの地面への貼り付け・・解いてくれると嬉しいかなーって思って」


「あっ、ああ。ごめん、このままじゃその偉い人に話しに行くどころじゃないよな」


少し疲れた様子で笑いながらお願いするマナ。

完全に忘れていたコウは慌てて行動する。


すぐに地面に張り付けていた氷を消し去り、マナの左肩を貫いている剣をゆっくりと抜く。

マナの型に空いた傷口は凍り付いたままで出血はしていなかった。


もちろん骨ごと砕かれ貫かれているので、マナはまともに左腕が動かせない。

そんな中、その傷口をマナが興味深そうに見る。


「氷って便利ですね。止血があっという間にできちゃう」


「まぁ、そう言われればそう・・かな?あんまり考えたことなかったけど」


「火は不便なんですよ。急いで止血しようと思ったら傷口を焼きつけるしかないから」


そう言われてコウはマナの太ももや腕の痛々しい傷を見ると、コウはすぐに傷口を癒す<光の保護布>の効果のある布を取り出す。

治療すれば傷は完全に消えるとはいえ、焼き付けた傷口は痛々しくてとても見てはいられなかった。


「いっ、いいですよ、師匠。道場戻って缶詰になれば戻るんだから」


「あぁ、あれってマナも缶詰って言い方するんだ」


「うちのところでも缶詰ですよ。兵士や傭兵でも回復カプセルに籠るのは缶詰って言うし多分共通じゃないかな」


「あれ数日閉じ込められると嫌な気分になるよな」


「私もこれから誰か様のせいで1日以上閉じ込められそうなんですけどね」


マナが皮肉っぽく言うとコウは申し訳なさそうな顔をする。

それを見てちょっと気分が良くなったマナは右手を使って上体を起こした。


「立つのに肩を貸そうか?」


「うん、師匠の言葉に甘えさせてもらいます」


そう言って左肩をコウに預け立ち上がる。


改めて一息ついて周りを見るとまさに戦闘跡と言わんばかりのありさまだった。

あちこち地面にくぼんだ跡や裂傷の跡があり、点在する草木が焼け焦げていた。


「はぁ、こう見るとだいぶ派手にやっちまったかな」


「でも楽しかったですよ。そしていい結果になったし」


「やっぱ・・説得に行かなきゃ、ダメか?」


「うん、師匠の本当の弟子になるというお願いを聞くためにも。それに命をかけて聞くという約束だったし」


最後は少し小声になるマナが不安を感じているのは理解できたが、多分これ以上言ってもマナは考えを変えない事もわかっていた。


特にこれはコウの意見を真剣に受け入れた上での行動だ。

今更それをひっくり返すわけにもいかず、ただコウは祈るしかない自分の力の無さを悔やんだ。


この時コウは初めて自分の権力という力の無さを実感し悔やんだ。

こういう問題は魔法の実力だけでは解決できないからだ。



「でも、このお願いを聞くって取り決めなかなか面白いですよね」


「そっか?・・いや、そうだな。マナがこうして俺に近づいてくれたんだもんな。いい取り決めだ」


そう言いながら肩を貸したまま少し歩こうとしたとき、マナとコウの前に2つの魔力反応が近づいてくる。

コウはかなり警戒してマナを少し斜め後ろにやったが、すぐに誰なのかわかると力を抜く。


「戦いは終わったみたいね。途中から見せてもらっていたけど、なかなか楽しめたわよ」


クエスはうれしそうにコウに向かってそう言うとコウの左肩を叩いた。


「どうですか、コウは欲しいものをちゃんと手の中に掴むことが出来ました?」


さらに左からボサツがこれまたうれしそうに近づいてきてコウに問いかける。

そんなこと聞かなくてもわかるだろうにとコウは思ったが、ボサツを見てふと思いついた。


「あっ、ボサツ師匠。マナを、何とか助けてあげられませんか?師匠は確か・・」


「それは後で話すことにしましょう。マナがだいぶコウに痛めつけられているようですから、早めに道場へと戻り治療に専念するべきです」


「あっ、はい。そうですね」


「どう?私がマナを抱えてすぐに道場に戻ろうか?コウも結構やられているみたいだし」


それを聞いたマナは左手でコウを掴もうとするが、動かせず仕方なく体をコウの方へと寄せる。

その動きである程度マナの気持ちを察したコウは、せっかくのクエスの申し出を断ることにした。


「弟子の負傷は師匠が面倒を見るべきなので、俺が連れて行きます。せっかくの厚意なのにすみません。

 それにこれ、練習試合だったので師である俺が最後まで面倒を見るべきですから」


「練習試合?ふーん、まぁそれならコウに任せるわ。ただ兵士たちには私が話した方がいいだろうから、街の外周までは同行するわよ」


その言葉を聞いてマナが少しうれしそうにしたのをクエスが気づく。

思ったよりマナを落とせてるじゃないと思い、心の中でコウも結構やるなと感心していた。


一方のボサツは少し周囲をきょろきょろと見回すと、当たりを付けたのかある方向を見つめて話し始める。


「では私はもう一つの方のケアをしてきます。3人はそのまま街へと向かってください」


その言葉にコウが何か気づいたようで反応する。

「ひょっとしてあの4人ですか?」


「あら、コウは気づいていましたか」


4人と聞いてマナは思わずぴくっと反応する。

ひょっとしてこの状況を1隊が自分の様子を見に来たんじゃないのかと。


あれだけ派手に動いていたし、1月以上音信不通だったのだ。

1隊が動き出していても不思議じゃないとマナは考えた。


と同時に、このメンバーを見てヤバイと思った。

マナとコウは手負いだが、ボサツとクエスはまだ何の消耗もしていない状態だ。


とてもじゃないが最強と名高い2人相手では隊長のアルディオスと言えども瞬殺されかねない。

さすがにこの場で彼らのことを話すわけにはいかないが、だからと言ってそのまま見捨てるわけにもいかない。


「えっと、その・・」

マナが何か言おうとしたがそれを遮るようにボサツが話す。


「大丈夫です。問題ないのでお引き取り願えればと伝えてくるだけです」


コウを見て話した言葉だったが、明らかにマナへ向けての言葉だった。


ボサツの言葉を聞いてそれをそのままの意味で受け取っていいものかマナが悩む。

その様子を見てボサツはコウに尋ねた。


「コウの気づいた4人はどうでした?何か邪魔立てでもしてきましたか?」


「いえ、ただ遠くから警戒・・というより観察って感じでしたね。魔法を使っていたのは気づいたんですけど攻撃的な物じゃなかったし」


「そうですか、でしたらただの野次馬でしょうから帰宅するよう言っておきます」


そう言うとボサツは風の属性で<疾風>と<加圧弾>を使って一気に飛んでいった。

マナは心の中で1隊の皆を思い出しつつ『ごめん』と謝った。


その後コウは大きさの違う2つの風の板を出してそれに乗り、先ほどの兵士の詰め所へ向けて一気に加速した。



◆◇



「よし、もう行くぞ」


コウとマナの戦いも終わり、2人の命に関してこれ以上は危険が無いことを確認したことで

1隊の全員は気絶したドンギュオを運び戻ることにしたその時だった。


遠くから一気にこちらへと近づいてくる魔力反応がある。

アルディオスはドンギュオを後ろへ放り投げると、副隊長のメリシアと共に攻撃態勢をとる。


この速度で近づくという事は風属性の可能性が高く、先ほどの保護対象がやってきて面倒なことになったと思っていたが

目の前に降り立ったのは金髪の小柄の女性だった。


他のメンバーは知らなかったが、アルディオスは彼女が三光・ボサツであることに気がついて一歩前へ出ると

メリシアの前に手を伸ばし、すぐに退却しろと示しつつ自分の周囲に魔力を展開し始める。


「あら、驚かせてしまいましたか。ご連絡を、と思ってきたのです」


「連絡?」

そう言いながら一歩下がるアルディオスに対して、ボサツは笑顔を見せた。


「ええ、本日の見世物はもう終了しています。ですのでお客様には早期にご帰宅していただければと思います」


そう言うとボサツは全力で周囲に魔力を展開する。

隊長であり、部隊で一番の実力者であるアルディオスよりはるかに濃い魔力を見せられ、その場にいた全員が全身をこわばらせた。


フィルフィーとメリシアはあまりの圧に声も出せず、フィルフィーはそのまま尻もちをついてしまう。

ドンギュオもその魔力に危機を感じたのか目を覚ますと、すぐに状況を確認しつつも真っ当には動けず、尻を地面につけたまま必死に後ずさる。


そんな中、隊長のアルディオスはボサツの発した言葉を疑問に思った。


「我々は・・客なのか?」


「はい。箱に入れておいた会場までの案内状を見て、こちらに来たのだと思っていましたけど」


「なるほど・・それなら確かに観客という事になるな」


戦闘になれば用意に全滅しうる状況なので、隊長として慎重に言葉を選びながら会話をする。

アルディオスはボサツが様々な属性を使いこなすこの連合でも逃げられない相手の1人だという事を知っていた。


本人の動きを速める風属性を始め、攻撃速度の速い光属性、威力と速度の高い雷属性、一度に広範囲を対象に取れる火属性

状況に合わせて様々な属性を同時に使えることから、敵対するとまず助からない事でも有名だ。


ならばここは客扱いされているうちに素直にこの場から撤退すること告げようとした時だった。

目を覚ましたドンギュオが思い出したのか、思わず心配になって彼女の名前を出す。


「そういや、マナちゃんは・・彼女はどうなったんだ?」


それを聞いたボサツは少し興味を持ったようで視線をドンギュオに移す。

下手に興味を持たれるとやばいと感じたアルディオスはすぐにボサツに話しかける。


「今晩は貴重な時間を過ごさせていただき、ありがとうございます。我々もすぐに戻りますので」


「ええ、よろしくお願いします。それと言っておきますが、お客様が出演者に接触するのは禁止となっています。ご理解を」


ドンギュオを見ながら言うその一言に、彼は恐怖を感じて黙ったまま動けなくなった。


その様子を見たアルディオスはすぐに彼を抱えると、全員でその場から脱出する。

ボサツはそれを見送り、追ってくることはなかった。



そのまま1km以上、全力で走り続け追ってこなさそうだと確認するとドンギュオを下ろしてため息をつく。


「ふぅ、ふぅ、さすがに今のはやばかった・・まさかこんなところでお目にかかるとは思わなかった」


「はぁ、はぁ・・さっきの女性は誰なのですか?明らかにやばい相手でしたが・・」


「三光様だ。立場上、下手に敵対できないし戦ったところで全く勝ち目はない」


いつもははっきりとした口調のアルディオスだったが、この時ばかりは困惑した話し方だった。


「えっ!?なんでそんなお方があんな場所にいるのよ」


「私に聞かれてもわからん。とにかくこれ以上マナや保護対象との接触は許さないという事だけは理解したが・・」


そこまで話すと3人はそれ以上は言うべきじゃないと悟り、会話を打ち切って歩き出す。

慌ててドンギュオも追いかけ、少し言いにくそうにしながら3人に尋ねた。


「マナちゃんは、そんな危険な仕事をしていたという事なんすか?」


すぐには誰も答えなかったが、彼が落ち込むのを見て隊長は仕方がないかと少しだけ答える。


「少なくともマナは生きてる。今はそれ以上は考えず、今後もこのことには立ち入るな」


それに対してドンギュオは何も言えず、1隊全員何とも言えない雰囲気のままいつもの待機場所へと戻っていった。


今話も読んでいただきありがとうございます。ついに150話になりましたー!\( 'ω')/


時間がありましたら、ブクマや感想(質問も)、評価など頂ければ嬉しいです。

また誤字脱字は遠慮なく指摘ください。ログインすると指摘できるようになっているはず・・。


マナが正式な弟子になるまではもう少しお話が続きますが、やっと4章のメインのお話が終わりそうです。

ここまでかかるとは思わなかった・・。


では、次回は10/30(水)更新予定です。ストックがたまればたまには中1日で更新したいが・・ぐぬぬ。

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