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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係13

ここまでのあらすじ


マナの必殺の一撃を受け止めるコウ。周囲で見守る者たちもその様子に驚いていた。

◆◇◆◇



余裕そうに立っているコウを見て、マナはよろよろと立ち上がると半笑いになりながら話しかける。


「ははっ、さすが師匠ですね・・今のを受けて平気だとは予想していませんでした」


「さすがに平気じゃないさ。障壁は割られるし背中も含めあちこちが多分やけどしている」


「あー、ちょっとは効いてくれたってことかな?」


「まだどこか粗さを感じる一撃だったからな。もっと精練されていればやばかった」


「あはは・・そーですか・・」


それを聞いてマジかと思いながらマナは魔力の調子を整え、周囲に魔力を展開する。

だが一度に大量の魔力を使った反動から軽めとはいえ急性の魔力喪失症になり、体と魔力双方のコントロールがいまいち効いていない。


会話で少し時間を稼いだつもりだったが、まだ完全には元の調子に戻れておらず、コウがそこを突いてくる。

コウは属性を光に変更するとすぐに型を組んで<光一閃>を連発する。


速度重視に切り替えられたコウの連続攻撃にマナは体勢を崩しながらも魔力障壁を展開して攻撃を防いだ。

思ったように体が動かない以上避けるリスクが大きいので、魔法障壁によって受け止めるしかなかった。


何発も飛んでくるレーザーをマナが受け止めている間、休む暇を与えないと言わんばかりにコウは<収束砲>の型を組み始める。


「えっ、それはやばいって」


マナは自分の不安定な状態に焦りながらも、コウの一撃を受けるために<火の集中盾>の型を組み始めるが

何気なくコウの型を詳しく観察してみると、あちこちの魔核が未だに繋がれていない。


(あれ・・まだ型が未完成、というより)


マナはフェイクに気が付くと慌てて型を組むのを放置し、盾と魔道具を取り出す。

防御魔法を組み始めたのを見て、コウは型を動かしながら属性を水に切り替え<水圧砲>を発射した。


コウの放つ強力な放水がかなりの勢いでマナに向かう。

だがマナは盾に魔道具で作った<光の強化盾>、さらには先ほど作りかけた型の残骸を重ねるようにして受け切った。


火属性の盾魔法を使っていれば間違いなく貫通され、より体力と魔力を消耗させられるところを間一髪で回避できた。


「偽装に気づくなんてやるな、マナ」


「尊敬する人に教えてもらった事なんだから、忘れるわけないって」


はぁはぁと息を吐き疲れた様子を見せながらも、マナはコウの元で学んだことを無駄にしてないぞとアピールする。

コウもマナがあの安定しない状況でよく気が付いたと感心した。



その後調子の戻ったマナが再び火属性攻撃で押し、コウが水属性主体で受け止める攻防が続く。

コウにとってマナが消耗していくのは望む展開だったが、やけくそ気味にも見える攻撃に違和感を感じていた。


確かにマナは前のめりな性格でコウとの練習試合でも押せ押せで攻撃する事が多かったが、さすがに今回は命がかかっている戦いだ。

一方的に消耗させられている状態を良しとするとは思えない。


「だが、先ほど奥の手は潰したはず・・」


そう思いながらも希望が消えていないように見えるマナの様子に、コウは慎重に対応する。

連続した攻撃の中でも着実な反撃を重ね、マナも次第に傷が増えていた。


こうなれば魔道具で早めに傷を癒しておきたいところだったが、コウがその隙を与えない。


魔道具で<光の保護布>のような回復効果のある湿布みたいなものを使おうとする場合

道具を取り出し、その道具の魔法を発動させ、傷口に当てるという3段階の作業が必要になる。


道具を取り出すことなら簡単にできるが、魔法を発動させるのには少しとはいえ魔力と時間が必要だ。

戦闘中に攻撃でも防御でもない行為に、自分の周りに展開している魔力を割くとなれば、それは自ら防御力を落とし隙を見せることに他ならない。


少しでも隙を見せると反撃を入れてくるコウの動きに、マナは傷口を癒すこともままならない状況だった。


とはいえ深めの傷となると放っておけば出血がひどくなり、魔力・体力共に消耗が激しくなるので

マナは深めの傷に対しては皮膚の表面を軽く焼くことにより傷口を塞いでいた。



そんな状況の中、マナは一か八かの賭けに出たのか、コウのわずかな隙を利用して自分を吹っ飛ばし接近戦に持ち込む。

コウはそれを見て最初の頃と同様に風属性に切り替えて、巧みに剣筋を動かしながらマナの攻撃に対抗する。


途中で曲がったり突如空中で跳ね返るように動くコウの剣の動きを、かする程度の負傷に留めながらコウを押していく。

気迫に支えられたマナの集中力により、この短時間で何とかコウの動きに対応でき始めていた。


「くっ、押される・・」


すさまじい集中力で次第にコウの動きに順応するマナと距離を取るべく、コウは左前腕をあえて切らせながら自分を後ろへ吹っ飛ばす。


がその動きも魔法の型で予想していたマナは、吹っ飛んでいくコウに対して自分も背中で小さな爆発を起こして距離を離させない。

そしてコウが着地する地点にストックから取り出した<中爆発>を一気に魔力を充填して発動させた。


コウもそれを見てストックから型を2つ取り出すと、着地前に<風のドーム>で自分の周囲に球体上の魔法障壁を作る。

この魔法は地上にいるときはドーム状の半球の魔法障壁を作り出すものだが、対象が空中にいると球体状に障壁が作られる。


障壁に覆われたコウを囲むように大きな爆発が起きる。

障壁が割れた感触があったので、マナはこの好機を逃すわけにはいかないと剣に魔力を込め、爆発で起きた砂ぼこりに向かって突撃する。


だが、今こそがチャンスと思うマナの動きをコウは想定していた。

なんとか勝利を決めたいと考える相手がいけると思った瞬間こそが、逆に大きな隙となりこちらが致命傷を与えることができるチャンスになる。


敢えて障壁を弱めに作り出しその状況を演出したコウは、ここで勝負を決める気だった。

突っ込んでくるマナに対して敢えてこちらも突撃しつつ、先ほど取り出した型に魔力を充填する。


そのコウの動きに気が付いて、マナは慌てて剣を振り下ろす。

慌てて動いたことから、マナの振り下ろす一撃は十分な力も魔力も乗っていなかった。


マナの軽い一撃を力強く押しのけると、コウは同時に詠唱を完成させ密着した状態で彼女の腹に<空気砲>を放った。

型がコウの後ろの砂ぼこりの中にあった事、コウがこちらの動きに合わせて逆に突っ込んできたことで、マナは対処が遅れる。


彼女はコウの一撃に対する防御を周囲の魔力だけでしか対応できず、少々威力を殺せはしたが腹部でもろに食らってしまった。


圧縮した空気の塊を勢いよく喰らったマナはくの字になりながら後方へ吹っ飛ぶ。

そのまま地面へ仰向けに倒れると、空気砲の2段階目が発動する。


腹部にある薄緑色に光る魔力の塊が強く光ると、さらにマナを地面へと叩きつけた。



かなりのダメージを受けたからか、マナはすぐには起き上がらない。

それを見て今度はコウが勝負を決めようとマナへ向かって走りながら型を組む。


マナもそれを察知して地面に仰向けのまま周囲の魔力を使って型を組む。

とはいえすぐに動けない以上、マナが明らかに不利な場面だった。


コウに近づかれないようにマナが爆発系の魔法を組んでるのを見たコウは、<風流し>を使って爆風に対する耐性をつける。

これで爆風を使って近づけさせない手も封じ、コウは勝ちを確信した。


「いけるっ」


再び空気砲の型を組み上げると、マナに深手を負わせ勝利を確定させようと思った瞬間だった。

この戦闘の直前でかけなおした氷の心による冷静さが、普段では気にしないようなわずかな違和感をとらえる。


コウは思い出す。指導していた時に弟子たちに何度も言った、自分も師匠から何度も教わったあの言葉を。

『相手が決めれると思った時こそが反撃のチャンス』


コウはストックがないことを考慮して、とっさに後ろでもう一つ防御用の型を組み始める。


とその時、ある程度接近してきたのを見計らってマナが左に転がる。

再び仰向けになった時、マナの手には大口径の銃のようなものが握られていた。


「師匠、油断はダメですよ」


弱い声でつぶやくように言いながら、マナは魔力を込めて引き金に力を込める。

銃のような魔道具から雷属性の気配を感じたコウはすぐさま属性を光に変え、防御用に組んでいた型で<光の強化盾>を発動させる。


魔法を発動させる銃のような存在を知らずかなり驚いたが、氷の心で即冷静に対処する方法を考え付いたのは助かった。

だが銃から感じる魔力の濃さから言って、コウはこの程度で完全には防げないことを悟った。


コウは足を止め、組みあがっていた空気砲の型を自分の前面に持ってくる。

魔核とただの充填した魔力だけではさほど役に立つとは思えなかったが、マナの放った一撃を少しでも相殺してくれればよかったのだ。



焦って防御姿勢に回るコウを見てマナは笑い、右手にある大口径の銃から2つ杭のような形をした魔力の塊を発射した。


一瞬でコウは魔法の種類を見抜くと同時に、無傷じゃすまないことを悟り、自分の失敗を悔やむ。

さんざん弟子に言ってきたことを見事に体現されてしまったからだ。


マナの発射した<雷牙>は型や魔法障壁を貫き、コウの周辺に漂う魔力の障壁をも貫いてコウの左胸に当たる。

今はコウの体自体が光属性になっているため簡単に貫かれることはなかったが、そのまま吹っ飛ばされて地面に背中をこすりながら止まった。


風属性であれば回避できた可能性もあったが、雷に対して風は弱く盾はおろか肉体も貫通された可能性があったため、この対処は妥当だったがそれでもコウは大きな傷を負わされた。


だが、何とかダメージを最小限にとどめたことで、コウは左胸を抑えながらよろよろと起き上がる。

出血し周囲の服は焦げ付いて無くなってていたものの、胸部をえぐられるほどの傷は負わずに済んだ。


マナは少し上体を起こしてコウの様子を確認したが、それを見て負けを悟った。


「はっ、少しはそのまま寝転がっててくれればいいのに・・」


もうほとんど魔力も残っておらず、憔悴しきった様子のマナは再びあおむけに倒れて空を見上げる。


コウは少なくとも無傷ではない、やるべきことは達成できた。

そう思いながらもさみしそうな顔をする。


「もう少し・・いやもっと・・この時間が続いたらよかったのにな・・楽しかったな」


すでに負けを悟ってはいたものの、最後までやり遂げる思いで周囲に魔力を展開する。

もう魔力残量は危険水域に達していたが、それでもなけなしの魔力をひねり出す。


コウはそれに気づきつつ心の中でマナを称賛した。

そして絶対説得すると自分に誓い最後の攻撃に入る。



コウは<加圧弾>を足裏に使い高く飛び上がると、そのまま空中で<浮遊>を使って空中に浮かび仰向けのマナを見下ろす。

まだ魔法が使えそうだと判断すると、コウはそのまま型を組み<豪風>を発動。


強烈な風がマナを地面に押さえつけるとともに、周囲に砂ぼこりが巻き上がる。

そして自分の足に<風拳>を使い打撃力を強化すると、<加圧弾>を使いマナの腹部めがけて空中から勢いをつけて蹴り放った。


それを見たマナも最後の力を振り絞って狙われた腹部の上に<火の強化盾>を張るが、あっけなく割られてコウの蹴りが腹へとめり込む。


「ぐあっ」


少々威力は殺したものの、息ができず体をくの字に曲げ悶絶するマナ。

コウはマナの腹から降りまたがるとさらに追撃を入れる。


コウは右手に持った剣を逆手に持ちマナの左肩に向けて垂直に突き刺した。

マナの魔力が一瞬抵抗したことで剣の力により左肩が地面に押し付けられるが、さらに押し込むコウの力によって剣はマナの体を貫通し地面まで突き刺さる。


「ぐぅぅ」

マナが苦しそうな声を上げるが、コウはそれでも冷静に対応を続ける。


氷属性に変更すると、コウは<氷結>を使って氷でマナを地面に張り付けにし、剣が突き刺さった肩は薄赤色の氷が肩の上の剣を一部覆っていた。


本来ならば火属性であるマナは5cmほどの厚みの氷で地面に張り付けられたところで簡単に脱出できる。

だが魔力を使い果たし、目的も達成でき、戦いを存分に楽しめたと思ったマナは、これ以上抵抗する気もわかずそのままにしていた。


限界まで魔力を使いつくし、魔素体が維持できなくなって死んでもよかったが

負けを認め尊敬するコウのお願いを聞いて死ぬのも悪くない、そんな気分になっていた。


「マナ、これで俺の勝ちだな」

またがったまま少し前かがみになり、表情を覗き込むようにして勝利宣言をするコウ。


「うん、私の負けです。師匠」

すっきりした表情で負けを認めるマナ。


本当に練習試合をやり切ったかのような雰囲気の2人だった。


本日も無事更新できました。読んでくださる皆様、ありがとうございます。

今話で一応戦いは決着です。長かった・・と思うけど読み返すとあっという間かな。


次話は10/24(木)更新予定です。

ブクマ、感想、評価、誤字脱字の指摘、よろしくお願いします。いただければ嬉しいです。


魔法紹介

<風流し>風:爆発や強風系の強力な風をある程度受け流す魔法。敵の魔法だけとか、選択して受け流すことはできない。

<浮遊>風:空中に浮く魔法。そのまんま。少しは移動できるが、かなり加速して早く動くのは別の魔法。

<風拳>風:自分の手や足にかける補助魔法。圧縮した空気を拳や足にまとわせ殴ったときの勢いを増す。

<氷結>氷:一定範囲を氷を生み出しながら凍らせる。周囲の物と氷で繋げて凍らせるので地面に足を固定したりできる。


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