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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係12

ここまでのあらすじ


マナとコウの戦いが始めり互いに削り合う中、ついにマナが必殺の一撃を放つべく行動を開始した。


コウは素早く型を組み上げ<溶解水>の魔法を発動し、マナが張った複数の盾に対して幅広く水をかける。

その魔法の水を浴びた魔法障壁はみるみる薄くなっていき、さらにひびが入り始めた。


「ちょ、そんなものまで師匠は使えるの?」


コウの使った溶解水の魔法は、水属性の系統の中でもややレアな溶解に属するものになる。

水属性の魔法は『水の生成や操作』『生命(回復)』などが主な系統で『溶解』が仕える者は珍しく、マナもコウが使っているのは見たことが無かった。



既に魔力充填にまで入ったマナだったが、思った以上に早く光の強化盾がダメにされ焦り始める。

そこへコウが<水刃>を2発放ち、マナは再び魔道具で盾を生成する。


が、まだ先ほどの溶解水の効果が周辺に影響しているのか、1発目の水刃で魔法障壁が割られたことから、マナは前もって取り出していた装備品の盾で何とかもう1発の水刃を防いだ。


その隙を狙っていたのか、コウはさらに速度を増した<水圧砲>を放ち、発動前の魔力充填中の型を狙う。

ここで魔核を壊されてしまえば、型を修復するのにさらに時間が必要になるし、魔力の充填もやり直しになる。


マナが『しまった』と思い慌てて<火の強化盾>を使うものの、それを簡単に貫通した高圧の放水が魔法詠唱中の型に向かって飛んでいく。


てっきり妨害されたかと思いきや、コウの放った水圧砲は待機状態の型からわずかに外れたところを通り過ぎた。

妨害されずに済んでほっとするかと思いきや、マナは不機嫌になりコウに怒り出す。


「師匠、今のわざとですよね?」


真剣勝負と思っていたマナは手加減されたことに少しイラっとする。

が、コウは気にもせずにマナを挑発した。


「練習試合だからな。ここまできたら、ぜひマナの奥の手を見せてもらいたくてね」


「はっ、後悔しますよ?」

この場面、コウは問題ないと思って外したわけではない。


今までさんざん警戒していたくらいなので本当は妨害したかったが、マナの奥の手に興味がわいたのも1つの理由だ。

だが一番の理由は、マナを説得するためにもこの魔法を受け切ることが必要だと感じていたからだ。


特に今回のように妨害できたにもかかわらず受け止めるというのは、力の差を見せつけると同時にマナに奥の手が使えないと思わせることができる。

彼女に目的を達することができないと自覚させるのは、説得するのに最も効果的な方法だと考えていた。


「師として受け止めてやるさ、マナの奥の手とやらを」


そう言いながらもコウは2つとも発動一歩前の魔法障壁をストックしつつ、魔核を数十個並べてすぐに対応できるよう準備する。

それを見たマナは、コウはやっぱり自分の師匠だなと思いながらも、コウを倒すというよりコウに自分の実力を見せつけてやるという思いで魔法を放つ。


「私の力を喰らいなお暴れ狂うワームよ、目標を締め上げその業火で焼き尽くせ!<火蛇渦・拘束>」


精霊への言葉まで使い一気に型への魔力充填を完成させると、コウの方へ右手を向けて魔法名を言う。


直後、マナの周辺に展開していた魔力に莫大な精霊からの魔力が加わり、そのほとんどが巨大な炎へと変わる。

そしてそれが次第にマナの周りでとぐろを巻く数匹のワームへと変わっていく。


「これは・・マジでやばいかも」


明らかに凶悪そうな魔法を見て、コウはすぐに動き出す。

型を作りながらストックから<水のオーラ>の型を取り出し魔力をぶっこみ発動させる。


これだけであの魔法を防げるとはとても思えないが、どんな速度で自分の方にやって来るかわからない以上

自分の周囲に張る魔法障壁は一番優先すべき行動だった。


さらにストックから2つ目の水のオーラの型を取り出し魔力充填をしつつ、魔核を動かし炎のワームの迎撃準備を始めた。


「行け、私の炎!」

マナの掛け声と同時に炎のワームが8体、コウの方へと広がりながら突っ込んでくる。


ワームというくらいだからさほど早くないだろうと思っていたコウは、突っ込んでくるその速度に危機感を覚えつつ対処し始める。

ここは氷の心の揺るがない冷静さに救われた。


2重の型を使って強化した<水圧砲>2発をそれぞれ命中させ、ワームを2匹消滅させる。


さらに<水刃>をやってくるワームに放つが、一瞬ワームを切断するもののすぐに炎が繋がりこっちへ向かってくる。

水刃では一瞬の足止め程度にしかならなかった。


「鋭さよりは面の攻撃の方が有効か」


ある程度対策の仕方が分かったものの、すでに6匹の炎のワームが次々とそばまで迫ってくる。

コウは2つ目の<水のオーラ>を1つ目の外側に展開し先に到達したワームの体当たりを受け止めた。


ワームは1度だけ当たると、そのままとぐろを巻くように魔法障壁の周りをぐるぐると巻き付きながら回転し始めた。

熱と炎の威力を前面に出しコウの障壁にかなりの負荷をかけてくる状況に、このままではもたないとコウは危機感を覚える。


その間、途中まで組んでいた<水圧砲>を完成させ後方にいたワームにぶち当てて消滅させると

コウは急いで複数の型を組み上げ始めた。



一方のマナは一気に魔力を消耗し立ち眩みを起こしたようにふらふらしながら燃える魂の効果を消すと

周囲に魔力を少しずつ展開しつつ、次の一手の準備を始めるとともに自慢の一撃をくらうコウの様子を見ていた。


少し不安はあったが、これを耐えきれず死ぬのなら師匠も所詮はそこまでの人。

マナはそう思いながら炎のワームに巻きつかれ炎上するコウを見つめる。


マナがゆっくりと魔核を作り始めた時、コウの障壁が割れ、それに合わせてコウは魔法を発動させた。


1辺4mほどのばかでかい立方体状の<水泡の盾>を自分を中に収めるように発動。

巻き込まれたワームの内、障壁に絡みつき威力を削り合っていた2匹が水にのまれるが、その水を沸騰させほとんどを除去しながら消滅する。


同時にコウの外側に張った障壁も消滅していた。


「残り3匹」


コウは叫ぶが、先ほど作り出した泡交じりの水の立方体は激しい蒸気に変わってしまい消滅している。

沸騰した水の蒸気はコウの周囲を取り囲む水のオーラで防ぎきり、なんとかダメージは防げた。


その唯一残ったコウの周囲に広がる水色に光る障壁に向かって、残った3体のワームが勢いよくぶつかり巻き付き始める。

それを見計らってコウは魔法を発動した。


「今だ、<直瀑の滝>」


コウの上空に魔方陣が現れ、大量の水がコウへ向かって勢いよく滝のように打ち付ける。

巻き付いていた炎のワームはコウと共に降ってくる大量の水に巻き込まれた。


そこから1匹のワームだけはなんとか難を逃れたが、かなり削り取られたようで元のサイズの半分程、直径50cmくらいのサイズになっていた。

マナはその光景を見てただ驚いていた。



マナが使う火蛇渦の開放・拘束は多数・単体と使い分けることのできる非常に優れた魔法であり

マナが唯一持っている上級精霊を使わないと発動できない必殺技とも呼べる魔法だった。


もちろんこの魔法がマナの自信の根源にもなっており、水属性を使えるコウといえどもかなりの深手を負うだろうと思っていた。

が、怒涛の魔法連発でほとんど消滅しかかっている。


そしてその滝の中から発動された<水の大鎌>によって、逃げたワームも長く数mに伸びた水の刃が×の字に切り裂く。

切り裂かれたところから水があふれ、ワームは完全に消滅した。


となると次は自分が狙われる、と慌てて身構えるマナだったがまだ万全の状態じゃなく、滝の中からコウが放った<水圧砲>を完全には回避できなかった。

左腕に直撃を受けて転倒し、地面を転がりながらマナは後ろへ飛ばされた。


上空から降り注ぐ滝がおさまった後には、<脱水>をかけさほど濡れていない状態のコウがどうだと言わんばかりに立っていた。



◆◇◆◇



一方100m程離れた位置で観察していた1隊のメンバーたちは、保護対象とマナの戦いをそれぞれの思いを胸にじっと観察していた。


属性から見て明らかに対象の方が有利だったが、マナも負けじとくらいついている感じだ。

手数はマナの方が倍以上なのに、それでもやや不利に見えるという事は、消耗度合いはマナの方が厳しいはずだとここにいる誰もが感じている。


「不利属性の割にはよくやっているみたいだけど、そもそもあの子はなんで勝ち目の薄い戦いをやっているんだか」


「マナちゃんやっぱ押されてるじゃん。あの対象、ちっとは手加減しろよ」


遠くからの観察で細かい動きははっきりしないものの、マナの押され気味の様子を見て2人がイライラし始める。


「落ち着け。保護対象は男の方だぞ」


「だったら俺たちが出て行って彼女を強引に止めましょうよ」


隊長の制止にもかかわらず、ドンギュオは前のめりになりながら反論する。

一瞬困った様子を見せた隊長だったが、すぐにドンギュオの方を見て警告した。


「気持ちはわかる。それに悪い手ではないように見える。だが命令は対象がマナにやられそうになったら守れ、だ。

 今出て行ったら命令違反だ」


「ぐっ、だ、だけど・・」


必死に反論しようとするドンギュオを隊長のアルディオスは眼で制止する。


と、急にアルディオスがこわばった表情になり周囲を警戒する。

まるで周囲の何か危険なものに反応した様子だった。


「隊長?」


副隊長のメリシアが隊長の行動を不審に思い声をかける。

彼女には周囲に何も感じるものが無かったからだ。


「・・ふーぅ。ドン、万が一命令違反するとしてもマナが死にそうな時だけにしておけ。

 後、誰か知らんがこの周辺に別の観察者がいるようだ。しかも相当腕の立つ」


「気配・・ですか?」


「あぁ、これは思った以上に厳しい仕事かもしれん。一瞬だったが、かなり危険な感じだ。これは下手に動けんな・・」


隊長の呟きに他全員が緊張し黙ってより身をひそめる。


アルディオスがこういう言い方をするときは、その相手が互角かそれ以上の場合だけだからだ。

そんな緊張した状況の中でもドンギュオはマナが気になるようで、2人の戦いを見続ける。


「隊長、やはり遠見を使いましょうよ。反応すればそのやばい奴がどの方向にいるか当たりも付けられます」


先ほど却下されたのに、また同じことを言いだすドンギュオをフィルフィーは睨む。

そして首元を掴みかかって私情で身勝手な行動を注意しようとしたとき、それをアルディオスとメリシアが止めた。


「フィルフィー、落ち着きましょう。ここは敵地と言っても過言じゃないわ」


「それに今なら遠見も悪くないかもしれん。反応してくれれば相手の位置もわかるからな。

 どうやら向こうはこっちの位置を確認できているようだから、今更これ以上不利にはなるまい」


そう言うと隊長は<遠見>を使って4倍ほどに拡大した映像を目の前に出した。


遠見はもっと高倍率にすることも可能な魔法だが、その分激しい動きに付いて行くことは厳しく、多くの魔力を消費し続けるので相手に気づかれやすい。


また、映像を鏡を使ったかのように反射して見ることができるので、完全に岩場に隠れた状態でも2人の戦いを観察することが出来るようになった。

もちろん反射させている分、余計に魔力を食いバレやすくなるのだが。


「おぉ、これならばっちりっすね」


ドンギュオが喜び、フィルフィーもその映像を食い入るように見る。

魔法を使った直後、一瞬対象が動きを止めたので対象の彼には気づかれたかとアルディオスは感心した。


だが肝心の隊長でもかなわないと思われる、潜んでいる相手は何の反応も示さない。

隊長が周囲をゆっくりと見渡し副隊長と共に警戒しつつも、全員で今回の仕事に関わる2人の戦いを観察する。



よく見るとマナがちょくちょくストックから型を取り出しては収納する動きをしている。


「何やってるんだろ。しかし今日のマナはずいぶん慎重よね」


「まぁ、確かにそうだよな。いつもの豪快なマナちゃんらしくない」


それを聞いたアルディオスは気になってメリシアに周囲の警戒を任せ、自分もじっくりと映像を観察した。


しばらく観察しているうちに彼は気が付いた。

1年程前、自分とよく訓練していた時と比べて細かい点においてマナの動きが良くなっていたのだ。


連続で放つ魔法のテンポが速くなったことで隙が減り、魔法の組み合わせも以前より明らかに洗練されている。


(マナは何の仕事をしていたんだ?訓練?ではなんでこんな戦いを・・)


疑問はいくつも浮かぶが、今は指示された仕事をするしかない。

全員そのまま観察を続けるが、保護対象の方も動きがかなり良く思わずドンギュオが愚痴り始める。


「こいつ普通に強いっすよ。もう守る必要ないんじゃないんすか?」


「ドン、仕事に私情を混ぜるなと言ってるだろう。・・とはいえ、確かに強いな。

 有利属性で優勢なだけだと思っていたが、こうやって詳しく見るとマナの攻撃を対処する十分な実力は持っていそうだ」


正確には実力というより慣れていて予期した動きをしているように見えるが、アルディオスはそのことは言わずにおいた。



しばらくするとマナは急に魔道具で光の強化盾を発動し、ストックからとりだした型を完成させる。


「げっ」


フィルフィーとドンギュオが思わず声を出す。

その型は2人とも見たことがあるマナの大技だった。


ただ派手なだけじゃなくて威力もマナが扱う魔法の中で頭一つ抜けており、数人の護衛が防御魔法を張る中、その護衛ごと目標を焼き殺したことのある凶悪な魔法だった。


2人からみてあの魔法だと、たとえ有利な水属性を使う者といえども防いだり回避しきる未来は予想できない。

隊長も厳しい表情になり、すぐに動けるよう全員に指示を出す。


だが、マナはいったん詠唱を止め対象と話し始める。

その様子を見て1隊のメンバーは2人の関係がますますわからなくなるが、そのことは頭の片隅に置きすぐに動ける準備は怠らない。


隊長は念のため再度近くに潜む強敵の気配を探り続けるが、そちらも警戒の網にはかからない。

そうこうしているうちに魔法が放たれる。


8匹の燃え盛る炎のワームが次々と対象を襲い、抵抗するもののすぐにワームに絡みつかれて炎に包まれる。


「んん・・これはまずいか」


思わずアルディオスが口に出し他の3人も同じ気持ちで見つめていたが、上空から滝のような水が降り注ぎ

あの魔法を喰らったにもかかわらず、彼は少し苦しそうにする程度で問題なく立っていた。


「おいおい、マジかよ・・」

ドンギュオが思わずぼやく。


フィルフィーは口を半開きにしてその映像をただ見つめていた。

皆が複雑な気持ちでいる中、ドンギュオが思わず口に出す。


「こいつ、守る必要あるんすかね・・」


その問いかけに答える者は誰一人いなかった。


今話も読んでいただき、いつもありがとうございます。

コウはマナの手段を削り落とす様に対応する中、マナは無意識に目的が変わっていってます。

一応コウの思惑通りに進んでいます。

この戦闘シーンもどこかをイラストにしたかったのですが・・依頼時には書けてなかったし、どのシーンをという迷いがあって諦めました。


良かったら、ブクマや感想、評価など頂けると嬉しです。

誤字脱字、誤用なども含めご指摘いただけると本当に助かります。(無いようにチェックしてるけど)


では次話は10/21(月)更新します。ストックは増えないけど何とか更新は続けるぞー。 では。


魔法紹介

<溶解水>水:酸に近い水を生み出しぶつける。対魔力にも相殺効果が強く、盾には浸透し脆くする

<火蛇渦・拘束>火:術者の周囲に直径1mの炎のワームを生み出し、対象に向かい巻き付くようにして焼き尽くす。一定の範囲ならば複数を巻き込める

<水のオーラ>共通:周囲に光るオーラ(属性別)を展開。一見しょぼいが結構硬い魔法障壁。もちろん全方位。

<直瀑の滝>水:怒涛のごとき水が対象に降りかかる魔法。発動まで少し時間がかかるのが難点。

<水の大鎌>水:対象を左右の斜めから切り付け×字型に切り刻む。あまり鎌っぽくない。切りつけた部分は水が浸透しさらに対象にダメージを与える。

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