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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係10

ここまでのあらすじ


マナがコウとの戦いを決心して宣言すると、コウはいくつか条件を付け戦いの場所を変更した。

移動する間、マナはコウと楽しそうに振舞う。


街の外周からもう十分に離れたが、マナはまだ黙ったまま前を見ていた。

コウはその様子を見つつそろそろかと思い<風の板>の速度を緩めると板の上に立つ。


「そろそろ十分な距離が取れただろう。始めるとしようか」

「・・そうだね」


さっきまでの笑顔や愛らしい表情は一切消え、マナは飛び降りて着地した。

コウはそれを見て少し先の方まで風の板が移動するのを待って、マナとは距離を取って飛び降りる。


「最後に確認するけど、ルールは・・大丈夫だよね」


「降参か戦闘不能で負け、負けると相手の命令を命を懸けて聞かなきゃいけない」


「あぁ、合ってるね。それじゃ・・」


それを聞いてマナは武器を取り出す。


道場でやっていた時はお互い『白銀の剣』という一般兵士用の武器を使っていたが

今回は本気の戦いになるため、マナは持てるもの全てを出し切る気でいた。


彼女が取り出したのは細身で長めの深緋色の剣だった。

少し濃く明るさを抑えた黒みを感じる赤色が時間が経って酸化し始めた血の色を思い出させる。


見るだけでわかるほど魔力通りが良く、その辺の剣とは一線を画す代物なことがコウにも感じ取れた。


「これ、なかなかものでしょ?前かなり嫌な奴がいてそいつを殺った時にもらったんだ」


「へぇ、確かにいいものみたいだね」

表情を変えることなくコウは答える。


「うん、多分かなり高価なものだよ。師匠・・幻滅した?」


「まさか、有効利用ってやつでしょ、それは」


コウの返しにマナは視線を合わさずにちょっと笑う。

まさか認めてもらえるなんて思わなかったので、マナはちょっと嬉しかった。


その様子を見て今の返しが正解だったかなと思いながら、コウは自分用にカスタムされた白銀の剣を取り出す。


「さすがアイリーシア家だね。思った以上の物が出てきちゃった」


「マナの一品にはかなわないけどね」


そう言いながら武器を片手に持ちお互い魔力を展開し始める。

お互いの思いと願い、そして命をかけて練習試合が始まろうとしていた。



◆◇◆◇◆◇



コウとマナの戦いが始まる少し前、部屋の入口を警備する兵士からフラウーは手紙を受け取る。

そろそろ仕事を終わらせようと思った矢先、急ぎフラウーに渡してくれという事で回ってきた手紙だ。


その手紙を見つめたまま完全に仕事の手を止め、フラウーは大きくため息をつく。


「こんな時間に・・あの子はまったく・・」

そうぼやいていると扉がノックされる。


フラウーは魔力を飛ばし扉を光らせると、1隊の隊長アルディオスが入ってきて深く礼をする。


「こんな時間に何か御用でしょうか?」

24時過ぎのこんな真夜中とはいえ、ここルーデンリアでは早朝と思わせる明るさだ。


「少し、相談というか・・そうね見に行って欲しいものがあるのよ」


そう言うとフラウーは持っていた手紙を自分の右手前に置き軽くため息をつく。

見に行って欲しいと言っておきながら乗り気じゃない様子を見て、アルディオスは受けたことの無いタイプの依頼が来るのかと少し不安になった。


「今から、でしょうか?」


「ええ。はぁ~、マナがね、ちょっと」


「彼女がですか、ここのところ見かけないので長期の仕事でもやっているのかと思っていましたが」


フラウーの態度とマナの名前が出たところでさすがにアルディオスも察した。

またマナが仕事先で何かやらかしたのだろうと。


アルディオス含む1隊がマナのフォローをしたことは1度や2度じゃない。

とはいえ疑問もある。フォローするのはこれまで一緒に行動した時だけだった。


今回のように、彼女が別の仕事に出向いていてやらかしたのをフォローするなんてケースは初めてだ。


1隊も2隊も裏で動く仕事しかやらないので、互いのミスをフォローするようなことはない。

フォローすれば関りが広がりお互いの仕事内容が知れてしまうし、情報が広がれば他へその情報が他にも伝わりやすくなりリスクが高くなるからだ。


「私たちが対応するという事は、マナは表の仕事ではなかったのですね」


「そうね、強いて言うなら表と裏の中間的な仕事よ」


どうも先ほどからフラウーの歯切れが悪い。


対応が必要な危機的状況なら素早く命令を下すべきなのに、のらりくらりと命令を避けている。

そんなフラウーの態度にしびれを切らしたアルディオスが、フラウーに直接訪ねた。


「失礼ですが、至急呼び出されるという事は危機的な状況ではないのでしょうか?でしたらすぐにご指示を頂ければと」


「・・そうよね。わかったわ」


フラウはちらりと先ほどまで持っていた手紙を見て、指示を出す。

アルディオスには何だか嫌そうに見えたが、さすがにそこまで立ち入るわけにもいかず黙って指示を聞く。


「・・という事よ。その場所は連絡係が外周の22番詰所付近にある箱にメモを入れておくそうよ。

 マナのことをよく知っている1隊にと思ってあなたを呼んだのだからメンバーは任せる。別にあなた1人でも構わないわ」


そこまで言うとフラウーは処理済みの書類の束をつかんで、机の上でトントンと叩いてまとめると立ち上がって書類ケースの中に入れる。

その行動はもう話すことはないし、質問も受け付けないという事だった。


「では、すぐに人選を済ませ出発します」

とにかく今は急ぐべきだと判断したアルディオスは、ただそれだけを述べて部屋を出た。




地下へと降りたアルディオスは1隊のメンバーがいるエリアに召集のベルを鳴らす。

そのまま作戦室で待機していると、メンバー全員が1分もしないうちに集まった。


「この時間帯にも関わらずよく集まってくれた」


「うちらには自由な時間がないようなものっすから」

そう言いながらもドンギュオは、この時間帯での召集にやや不満そうな様子だった。


「それで、緊急の仕事ですか?説明ならばあえてこの時間帯にやりませんよね」

副隊長のメリシアは緊急性を察して話を急かす。


夜遅い時間帯は裏仕事がしやすく、実行に移すのに適した時間帯でもある。


情報収集や偵察の内容によっては昼間動くこともあるが、やはり人が少なくなる夜の時間帯の方が動きやすい。

その為事前の打ち合わせが昼~夕に、本番が夜というのが急ぎでやる仕事の時のお決まりのパターンだ。


だが、今回は何の打ち合わせもなく急遽夜に集合がかかった。

こういう場合はすぐに出撃することが多く、しかもリスクが高い仕事になる場合が多い。


その為メンバーからは緊張や焦り、苛立ちが少なからず漏れ出していた。

事前に想定する時間すらない仕事はそれだけリスクが高く、そのリスクは全て自分たちが負わなければいけないからだ。


それを皆がわかっていることを確認し、1隊の隊長であるアルディオスは答える。


「あぁ、今からだ。だが全員ではない。希望者だけだ」

隊長の言葉に全員が思わず疑問を持った。


基本的に仕事は隊ごとに行うもので、1人や2人だけが必要な仕事は隊には回ってこない。

正確にはその場合は隊長だけや隊長と副隊長が他に知らせずに片付ける為、メンバー全員を集めて話すことはなかったからだ。


「それで、内容をお願いします」

1隊の中では一番実力の劣るフィルフィーがアルディオスを急かす。


「ああ、仕事の内容だが簡単に言えばマナがやらかしたことのサポートだ」


それを聞いて室内が一気に微妙な空気に包まれる。

アルディオスは、こうなるだろうなと思いながらも話をつづけた。


「マナがこれからとある対象と戦うことになる。我々の仕事は、マナが万が一その対象に勝つような状況になった場合、彼女の行動を止め取り押さえることだ。

 何があってもその対象を殺させてはならない。それが今回の仕事だ」


「えっ、逆・・じゃないんすか?」


「いや、マナと戦っている相手が保護対象だ。保護すべき時にマナが抵抗した場合、彼女を戦闘不能にしても構わないと言われている」


状況も何も知らない上に、最近は見なくなったなと思っていたマナがトラブルを起こしたと聞かされた挙句

まさかのマナの戦う相手を保護しろという仕事に、全員言葉が出てこない。


「マナのことをよく知っているので取り押さえやすいだろうという意味で我々が選ばれた。が、別に4人で行く必要もない。

 下手すればマナと戦闘になる可能性もある。行きたくない者は行かなくていい。1分で判断しろ」


一体どんな状況なんだ?と思いつつ、1隊メンバーの3人はすぐにその場で参加するか考え始める。

マナを抑えるなら実力的に隊長だけでもいいはずだが、自分たちも参加できるのは配慮の為だろうか。


それとも彼女をちゃんと保護する為だろか。

そんな中5秒もしないうちにドンギュオが答えを出す。


「行きます。状況によってはマナを助けることも出来るんですよね」


「ああ。だが優先すべきは対象の保護だ。あと、対象がマナを傷つけようが我々は手出しは出来ないぞ」


「でも彼女が逆に殺されそうなら俺は動きますよ」


「・・そうか。今のは聞かなかったことにする」

そのやり取りを見て他の2人もすぐに動く。


「私も同行します」

「私も。ドンギュオを見ておく役目も必要そうだから」


それを聞いたドンギュオは不満そうに視線を逸らす。

アルディオスは困ったものだと思いながらも2分で必要な物を準備するように言って一度解散した。


そして再び集合すると、1隊用の転移門で順番に指定の場所へと飛んだ。



飛んだ先でアルディオスはある家の前の郵便受けを探る。

中から取り出した紙を確認すると、すぐに光の粒子に変えながら指示を出す。


「外周の兵士詰所17番に行くぞ、そこから10km程ほど進んだ先が目的地らしい」


「えぇ、最初からその指示が出てれば楽だったのに・・」


フィルフィーは愚痴をこぼすが、他のメンバーは真剣な表情のまま何も言わず動き出す。

それを見てフィルフィーも遅れないよう急いで後を追い、指示された場所へと向かった。



兵士詰所につくとアルディオスが身分証を見せながら何か見ていないか兵士たちに尋ねる。

最初は兵士たちも知らない様子だったが、しばらくして先ほど男女2人と話した兵士が出てきて内容などを細かく話してくれた。


2人が向かった方向まで覚えていたようでアルディオスは礼を言う。

ルーデンリア光国内で準貴の身分に当たる上の者から礼をいわれて兵士は戸惑いながら付け加えた。


「いや、たまたま見かけ話しただけです。なんか逢引きっぽかったんですが、俺達じゃ止める権利もなくて」


兵士のその言葉を聞いて2人がとても戦闘になる雰囲気とは思えず、状況が全く想像できなくなったアルディオスだったが

とりあえずこの話はドンギュオにはしない方がいいと思いつつ、後方で待機しているメンバーの元へ戻ってきた。


「方向はわかった。そこにいるのはどうやらマナと保護対象だけらしい」

それだけ告げると全員が無言でうなずき、隊長を先頭に街の外へ向かって走り出した。



しばらく走り続けていると、メリシアが隊長に進言する。


「隊長、この辺りは確か強力な魔力に反応するセンサーが配置してあったはずです。ですので戦うならもっと遠くにいる可能性が高いかと」


それを聞きアルディオスは少し考えていると、その話を聞いたドンギュオが魔道具を見せる。


「これ使って一気に進みましょう。移動速度重視型の風の板です。センサーが警告音を出さない程度に魔力は抑えてありますよ」

ドンギュオは凛々しい表情で魔道具を見せる。


「ドンギュオやるじゃない。隊長これで急ぎましょう」

「そうだな。ドン、助かる」


当然と言わんばかりに胸を張るドンギュオを特に相手することなくさっさと風の板で全員9km地点まで移動し

そこからは周囲を警戒しつつ、音を消した状態で再び荒野を走ることとなった。




何もない荒野を4人が警戒しながら進んでいくと、右前方に魔力反応と戦闘の音が聞こえる。

アルディオスはすぐに右手を低めに掲げると、後ろをついてきていた3人はすぐに立ち止まり身をかがめた。


「まだ遠いっすよ」

「あぁ。だが今はこれ以上近づかない方がいい」


アルディオスたち1隊がいる場所はマナとコウが戦っている場所から100m程は離れている。

だが彼はこの距離で違和感を感じた。


魔力で探られているサーチのような感じではないが、何か置かれているトラップを踏んだような感じだった。

すぐに彼は周囲を確認するが、草木ぽつぽつと点在する程度の荒れた平野で右前方の2人以外には気配も魔力も感じない。


一瞬この距離で気付かれるとかありえないと思ったが、長年の現場経験に基づく勘からこの距離で様子を見た方がいいと判断したのだった。


「ですがここまで離れていては、対象が危機に陥った場合間に合わない可能性が」

表立って反対しないものの、やんわりと否定感を出す副隊長のメリシア。


だがどうしてもその違和感が気になり、アルディオスは少し後ろにある大きな岩とその周囲の草の陰に身をひそめるよう指示した。

隊長の決定に従う他のメンバーだったが、岩場の陰から状況を観察するも対象から離れすぎており思うような情報が得られない。


「やはり、この距離では状況を把握するのが厳しいですね」

再び進言するメリシアだったが、それでもアルディオスは待機を命じる。


「まずはここからだ。戦闘も一方的じゃないようだししばらく様子を見る」


「はっ」

仕方なく3人とも了承する。


「遠見はまずいっすかね?」


「駄目だろう。この距離にすら何かを仕掛けている相手だ。たぶん一発でばれるぞ」

「うう・・」


ドンギュオは特にマナのことが心配でなんとかしたかったが、経験豊富な隊長が否定するのでしぶしぶこの位置から目視で観察を続けることにした。


遅くなり申し訳ございません。

何とか本日中には更新できました。

今話も読んでいただき、ありがとうございます。


誤字脱字がありましたら、是非ご指摘ください。

また感想や評価などなど、頂ければ大変うれしいです。


次話は10/15(火)に更新予定です。では。

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