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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係7

ここまでのあらすじ


マナは報告を書いた紙で対応を求めるが、外からの反応はまったくなかった。

自室に戻り悩み続けるマナだったが、時間だけが過ぎていく。


◆◇◆◇



一方マナがいなくなった大部屋ではコウが黙々と魔法書を読んでは、何か面白いことが出来ないかとネタを考えていた。


その後ろでエニメットがそわそわしている。

そんな彼女を少し困った様子で見つつもシーラも黙って魔法書を読んでいた。


マナのことはコウに任せる、そう決めて2週間は経ったのにコウは一向に動いている様子はない。

エニメットはそのことが気になって仕方ないのか、何度も話しかけようとしては思いとどまる。


じれったいと思いながらシーラはその様子をちらちらと見ていると

それに押されたのか、ついにエニメットはコウに話しかけた。


「あのぅ、コウ様・・」

「ん、どうした?」


コウは魔法書を置くとエニメットの方を振り返って答える。

話しかけたにもかかわらず聞き辛そうにする彼女にコウはある程度察したのか、自分から彼女の知りたがっている話を持ち掛けた。


「マナの事だろ?」

「・・はい」


「進捗状況が知りたい、という事?」

コウの問いに彼女は黙ってうなずく。


シーラもかなり興味がある話なので、魔法書を読むふりをしつつ聞き耳を立てる。


「まぁ、こう言っちゃなんだけど何も進展していないよ」


「えっ、そうなんですか?」


「まぁ、残念ながら。理由はわからないけどマナが吹っ切ったみたいで最近は動きが無いんだよね。

 なぜか急に不安そうにしている時もあるけど。何にしても変に刺激を与えるとどう動くかわからないから。

 今は師匠たちの助力も期待できないし、動きようがないんだよ」


コウの答えにエニメットは残念そうな表情になる。


「気持ちはわかるけど、マナにはマナの立場があるんだと思うんだよ。まずはそこを尊重しないと話すらできないと思ってる。

 こちらが知っていることを全てを表に出してから、マナと1対1で落ち着いて話し合う、なんてことができないのは確かだからね」


コウにすべてを任せているエニメットとしては、そう言われるとどうしようもない。


今までも、そしてこれからも、マナのことは気にせずにただ自分の役目であるサポートを全力で行う、それしか彼女のできることはないということだった。


「シーラもそれじゃ不満?」


聞き耳を立てていたのを悟られたと思い、シーラは体をびくっと反応させる。

そしてゆっくり魔法書を置くとコウに尋ねた。


「不満というより・・多分不安です。マナは最近吹っ切ったというより割り切ったという風に見える時があります。

 もし彼女が私たちに武器を向けたら、どうしたらという気持ちが消せなくて・・」


「その場合は俺が全力でマナを止めるよ。さすがに・・守るべき相手を間違えるつもりはない。

 もちろんそうさせないためにも俺はマナに真正面から向き合うつもりだけどね」


すっきりとした表情で語るコウを見てコウ自身も割り切っていると悟り、シーラは少し寂しい顔をした。

止めるという事はつまり、殺すことも視野に入れていると聞こえたからだ。


それを見てコウも思う所はあったが、マナと対峙する時に自分が揺らいでは失敗することは目に見えている。

師匠達からの言葉を含め、何度も悩んだ末に決断した気持ちだった。


譲れないものは決して譲らず、譲れるものは何を譲ってでもマナにいて欲しい、それが今のコウの本音だ。

ただ今は真正面から話し合える状況じゃないと感じていて、コウも必要以上に事を荒立てずに静観せざるを得ない。


もちろんシーラが言うような懸念もあったが、マナの動きを見ているとどうも周囲を巻き込むつもりがなさそうなので

コウもどうにか落ち着いていられた。



そんな真っ直ぐ向き合う己の決心を示そうと思ってズバッと言い切ったつもりでいたコウだったが

さすがに2人が黙ってしまったのでちょっとだけ焦ってしまう。


「えっと、いやね。俺は・・ほら、マナを、そして皆を大切だと思っているから。そして、それを守り抜くのが今の俺の役目だからさ。

 なので、冷淡に対処するとかそういうんじゃないつもりなんだけど・・そう見える?」


急にあたふたし始めるコウを見て、エニメットとシーラは思わず軽く笑い始める。

それを見てコウはからかわないでくれとちょっと不貞腐れた。


(チャンスはマナが後戻りできない行動を始めた時だろう。その時も俺はマナの味方でいなくちゃいけない)

心の中でそう強く思うと、コウは話題を切り替えて3人で談笑を続けた。




それからさらに3週間が過ぎた。


マナが報告紙をばらまいてから1月、つまり35日が経過したことになる。

それはマナがフラウーと約束した定期報告の時期が来た事を意味する。


この間、外からの連絡は一切なくマナは焦りから諦めの感情へと変わっていった。

そしてこの時彼女は2つの大きな選択肢で悩んでいた。



マナはこの潜入偵察の仕事を受けるときに、外から中の様子が全く確認できない事を知らされている。

これはおそらく道場一体を囲んでいる障壁に視覚阻害の効果も組み込まれているからと想定されていた。


そのためマナが道場にもぐりこんだ後、最初に確認したのは外とどうやって情報をやり取りするかだった。


その為彼女は色々と調査を行い、門の外で天気が悪い場合に道場内でも天気が同様に悪く見える事がわかり、外から中へ向けられた視覚情報は操作されていない事を報告していた。

にもかかわらず、毎日空を見上げるが外からのそれらしい連絡は来ない。



この外から一切の連絡がない状態というのは、2つの状況が想定される。


1つ目は外がつまりフラウー側が何らかの事情で連絡が出来ない状況にあることだ。

ただ、フラウーに関しては詳しくはないもののそれなりの立場である事をマナは知っているし、そんな状況になっている可能性は非常に低いと考えられる。


2つ目はマナが送った先日の報告がアイリーシア家によって妨害された可能性だ。

これも当然考えたが、妨害されたのならばそれを知っているはずのコウやエニメットが何もしないのは不自然だった。


もちろん様子を見られている可能性もあったが、エニメットは相変わらず忙しそうに全体の世話をこなしているし

師匠であるコウに至ってはマナの細かな欠点まで指摘するようになっており、より熱の入った指導をしてくれている。


とてもじゃないがスパイと知らされた相手にとる行動には思えなかった。


もちろんアイリーシア家の一部で情報が止められている可能性もあるが、当主たちが来たときクエスたちが必死に守った様子を見る限り

コウに伝えずにそのままにしておくことは考え難かった。


「もう覚悟はするべきだよね。後はどちらにしたほうがいいか・・」


マナは連絡用の紙が束になったメモ帳を開きながら悩んでいた。



今マナが取れる選択肢は2つ、1つは定期報告を送り危機的状況を伝える事。

もう1つはあえて定期報告を送らない事だ。


定期報告を送らなかった場合、想定されるのは外からの大きな動きだ。

途中から定期報告が届かなくなったときは、決行の大まかなタイミングの報告があった後に部隊を強引に突入させマナの撤退を助ける事になっている。


この場合の問題は、目的に関係のないエニメットやシーラを巻き込むことだった。

スパイとしては失格かもしれないが、せっかく仲良くなった彼女たちに危害を与える可能性のある作戦は彼女としては避けたかった。



定期報告を送った場合、それがフラウーの元に届けば今回こそは何らかの反応が期待できる、そんな内容をマナは考えていた。


もし定期報告を妨害された場合、外の反応は送らなかった場合と同じになる可能性が高いが

妨害したアイリーシア家が警戒を強める可能性があり、シーラたちを巻き込む可能性は少なくなる。


「はぁ。やっぱり定期報告は送るべきだよね。万が一にでもシーラたちを死なせたくはないし」


じっとメモ紙を見つめマナは少し寂しい表情をしていたが、決心したのか真剣な表情で伝えるべき言葉を記し始める。


「師匠の元に、これからも居れたらいいんだけどな・・」


そうつぶやきながら書き終えてアイテムボックスの中に収納し、いつもどおりエニメットに外へ出る許可をもらうと報告紙を風に流す。

風に吹かれ1枚の紙が飛んでいく様をマナはただ立ちすくんだまま見送った。



◆◇◆◇◆◇



3日後、ボサツがマナからの報告紙をもってフラウーを訪ねていた。

ボサツがフラウーに紙を渡すと早速内容を確認する。


『彼への対応 指示求む ない場合 こちらが動く』


その文章を見てフラウーは頭を抱えため息をついた。


「なにこれ。本当にあの子は潜入には向かないわね。どうしても指示を送れない場合もあるのが潜入の仕事なのに。

 既に思考が袋小路に向かって突っ走りだしているじゃない。困ったものね、どうしたものか」


「連絡すればそれだけで万事解決だと思いますけど」


ボサツは少し微笑みながら尋ねる。

それを見たフラウーは視線を逸らして答えた。


「まぁ、そうすると結局ここへ帰ってくるしかなくなるじゃない。最初のころは楽しそうにしていたから、そのうち報告すら忘れてそのまま彼のところへ居つくかと期待していたのに」


「思ったより仕事人間だったのです。悪いことではないと思います」


「そ~なんだけどね。ただ我慢強く偵察することには全く向いてないわね」


わずかに書類が積まれただけのすっきりした机に向き合って、フラウーはがっかりした表情をしていた。

それを見たボサツは困った表情でフラウーを見るしかなかった。


「それで、あなたが期待していたお弟子さんの行動はどんな感じ?」


「思ったより我慢強くやっていますね。マナへの指導も手を抜いていません。マナを失いたくない気持ちが強いのかもしれません」


「だったら指示は何も出さないことにするわ。ぶつかり合ってこそわかり合える、何てうまくいくとは限らないけど・・任せていいのでしょ?」


「ええ、ある程度準備は出来ています」


嬉しそうにするボサツにフラウーは呆れた。

仮にも弟子がさらにピンチになる事態なのに、溺愛しているとしか思えない師がこの調子なのだから無理もない。


「ほんと、あなたは優しい雰囲気をしてるわりに容赦ないわよね」


「フラウー様にそこまで言われるとは思いませんでした」


「はぁ、そう言われてみれば私もそうか。さて、私たちの子がどういう結果を出すか待つとしましょうか」

「ええ」


その後、衝突が起きた時にどう対応するか簡単な相談を始める。

マナの決行時期がわからないことを理由に、フラウーは現場に行かないことにした。


もし自分の判断が間違っており悲劇につながるかもしれないと思うと、どうしても現場で観察する気にはならなかったのだ。

それに対してボサツはむしろ楽しみにしていたようだった。


フラウーは『これが大戦を生き残った者の腹の座り具合か』とボサツを見て感心していた。

大勢の友人・兄弟が倒れて消えていってももなお戦い続けた者なら、この程度のことは遊びに見えるものなのかと。



そして時が過ぎていく・・。


切りどころがわからずちょっと短めになりましたが、今日も無事アップできました。

読んでいただきありがとうございます。


マナの思考が明らかに抜け抜けですが、彼女自身テンパっていてるからです。

(という事にしています)

都合のいいように話を運ぶため、ではありますが、なかなか進め方が難しい。


次話は10/6(日)になります。

今週は仕事の休みがない。ストックもあまりない。さぁ、困った・・。

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