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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係6

ここまでのあらすじ


コウたちがマナへの対応に悩む中、マナが出した情報の書かれた紙をボサツが回収した。


場面が変わってここはフラウーのいる屋敷。

フラウーが大きな机に向かっていつもの事務処理をしていると、部屋の外で護衛をしている兵士1人が扉をノックして入室してくる。


「失礼いたします。フラウー様、お客様が面会を求めております」


「うん?誰かしら」


「それが、三光様がお見えでして・・」


少し驚きながらもフラウーは何か予定でもあったか思い出してみる。

ボサツが最近ここに来るのは、例の男のところに預けたマナからの連絡を持ってくるときくらいだ。


とは言えそれはつい数日前に受け取ったばかりなので、今回はその要件とは思えない。

だとしたら他の用事だろうか?

結局考えるだけ無駄かと思い、フラウーは面会の許可を出した。


兵士がそれを聞きいったん外へ出ると、ほとんど入れ替わる用にボサツが入って来る。


「忙しいところすみません、フラウー様。また、書類たまっていますね」


「ご指摘どうも。それでつい先日来たばかりなのにどうしたのよ?別件?」


そう言われてボサツはシンプルな木の箱を取り出す。

それはいつもマナから報告が来た時に、回収して持ってくるための箱だった。


少し嬉しそうに箱を見せるボサツにフラウーは椅子に座ったまま首をひねってもう一度記憶をたどる。

たしか・・そう、間違いなく2日前にも同じように箱を持ってきたボサツに会ったはずだった。


「えっと、どういう事かしら?まさか私が書類仕事に追われているうちに20日ほど経過してしまったとか?」


「いえ、違います。前回は2日前で間違いないです」


そう言ってボサツは箱を開いてフラウーに渡す。

フラウーはどうなっているのよと思いながら、箱の中身を覗くと4枚も紙が入っている。


普段の定期報告は1枚、緊急時には2枚程出した方がいいと事前にマナに教えていたが、まさか4枚も出すとは思っていなかった。


ひょっとして長めの報告かとも思い、フラウーは1枚ずつ手に取って文字を表示させていく。

もちろんこの文字も簡単な仕組みではあるが暗号になっている。


「・・これ、4つとも同じじゃない。しかも内容は『コウは私と同格。なのに2年目。危険だがいい人。対応求む』よ。何があったの?」


「そういう内容でしたか。察するにフラウー様は彼女にコウのことを詳しくは伝えていないのですね?」


「ええ、そりゃそうよ。仕事という形式をとってるのだから、情報を与えすぎると偵察の意味がなくなるでしょ?」


「確かにそうです。ですがそれで、彼女は慌てているのでしょう」

「でしょうね」


そう言ってため息をつくと、フラウーは状況を想像し考える。

このままだとマナがどう動き始めるかを、その場合どのようなリスクが起こりえるかを。


ボサツもフラウーの様子を見て彼女が次どう動くか、その時自分たちはどうするべきかを考える。

2人とも考え始めてしまったので、部屋がしばらくの間沈黙に包まれた。



そして数分後、フラウーが話し始めた。


「まず結論から言って、この報告に対して私が何か対応するつもりはないわ。これは彼女の偵察の能力を見る仕事でもあるのだから」


「そうですか。でも彼女はかなり焦っていますので、暴走する可能性もあります。確か、そういうタイプの子だとおっしゃっていたかと思います」

少し早口でボサツは答えた。


「そうね。でもその直前までは随分楽しそうな報告を送っていたでしょ?そこに期待したいんだけどね、私としては」


それを聞くとボサツは少し厳しい表情になった。

想定したよりもフラウーの対応が厳しかったからだ。


こうなると自分たちが動かなければいけなくなるが、コウの対応能力を見るという点ではあまり動きたくない。

ボサツはもう少しフラウーを揺さぶってみる。


「万が一建物などに被害が出る可能性もありますし、コウや妹が負傷する可能性もあるので、その場合は私たちがマナを抑えることもありますよ?」


「それは生死を問わないという事?」

「場合によっては、です」


はっきりというボサツにフラウーは少し間をおいて答えた。


「そうね、そうなれば私の責任でしょうしマナの責任でもあるわ。その時はあなたたちにどうこう言うつもりはないわよ」


ボサツの表情は厳しいままだったが、それを見てフラウーはさらに言葉を重ねる。


「ここに居たとしてもミスをすれば戦いで命を落とすことはあり得る。少なくとも今はここにいた時より楽しそうだし、ここの仕事中に消えるよりはましだと思っているわ」


フラウーの覚悟を聞いて説得は出来ないと思い、ボサツも対応を考えなおす。

相手はマナの能力を試し成長のきっかけにしようとしているのに、自分たちだけがコウを甘やかしていてはせっかくの成長の機会を逃しかねないからだ。


「そこまで言っていただけると助かります。これで私の方も心置きなくコウの師の立場としての実力を測ることが出来そうです」


「はぁ~。なるほどね。あなたの弟子も厳しすぎる師匠をもってかわいそうね」


「それはちょっと酷いです、フラウー様と同じです。後ろ盾を持たない可愛い子を世間に晒しても大丈夫なのか、対応力を測りたいだけです」


それを聞いたフラウーは対抗してくるボサツに少し呆れつつため息をついて、椅子の背もたれに体を預けた。

そのまま視線を天井へと向ける。


フラウー自身最初はそこまでするつもりはなかった。

だが今の場所がマナにとって思った以上の環境だったため、このチャンスを逃したくなかった。


それでもマナのことが心配なのは変わりない。

自分が危険な状況を招きかねない対応を先に指示した以上、どうしても直接ボサツに目を向けてお願いするわけにはいかなくなったのだ。


「私はあの子に・・ここよりましな環境を与えたかっただけよ。だけど環境っていうのは当人が自ら動いて作っていかないと良くならないわ。

 ただ与えられただけの環境では、大事な部分の成長が見込めない。

 ここではマナが変えられる幅はとても少なかった。けど今の場所ならその幅は大きいわ。だから・・」


そこまで言ってフラウーは言葉を止める。

視線を逸らして呟くように言うフラウーを見てボサツはおおよそを察した。


だがボサツとしてはそちら側の事情なのだから、そっちも少しは動くよういじわるも言いたくなる。

フラウーの決断から、こちらもそれなりの手間をかける必要が出てくるからだ。


「それでしたら、少しは手助けしてもいいと思います。ノーヒントは戸惑って当然かと思います」


「それだと独り立ちにならないでしょ?このまま順調にいけば、将来的にはあの子に手を貸すのが厳しい立場になるのよ」


やはりフラウーは厳しく突っぱねる。マナを守りたいと思っているのに。

そう言う面倒な立場にはなりたくないなと思いつつ、ボサツは仕方なく意図を汲みとった対応をすることにした。


相手は自分たちが担ぎ上げる時期女王の候補だ。

これ以上不満をぶつけたところで誰の得にもなりはしない。


「わかりました。少なくともコウは彼女を失いたくないと思っています。なので可能な限り、消すに至らないよう善処しておきます」


「本当に・・悪いわね」

「いえ、ではもう行きます」


そう言うとボサツは天井を見上げたままのフラウーに軽く頭を下げて退出する。

扉の閉まる音が聞こえても、フラウーはそのまま視線を変えずぼーっと天井を見つめつづける。


「戦争になれば多くの者に死にに行けという立場になるのだから、これくらい私も慣れないと・・。

 意外と苦痛だらけなのかものね、女王になったとしても」


そうつぶやいてしばらく考え事をした後、フラウーは再びたまっている書類に目を通し始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



マナが報告紙を4枚も出してから2週間がたった。

その間マナはより一層修行に精を出し、今の状況を思いっきり楽しんだ。


『問題ないのでそのまま偵察を続けるように』という連絡がきっと来ると信じて。

だが、状況は変わらずフラウー側からの連絡は全くない。



マナは最初の頃に報告を送った際にどうやったら中にいるマナが連絡を受け取れるかの方法を記している。

まずはお互い連絡を取り合う手段を確保するのが、潜入偵察の基本だから当然のことだが。


この道場は上空も障壁で囲われており、中から外へと情報を発信するのは難しい。

さらにその障壁に視覚阻害が含まれているため、外からは中で何が行わてれいるのかわからない。


このことは最初に仕事を受ける時の資料にも書いてあった。


だが中に入って色々と観察したところ、門の外で天候がいまいちなら道場の庭に出て外を見ても天候がいまいちだったことから

中からは外の様子を確認することができる、つまり外からの一方的な情報であれば楽に受け取れる事を報告していた。


にもかかわらず、来る日も来る日も庭に出て修行中に空を確認するも連絡が来ている様子はなかった。



マナは夕食を終えると、一旦自室へと戻った。


「指示が何も来ない・・もう10日以上経っているのに」


そうつぶやくと1人用の机に向かってメモ紙を用意し、状況を整理し始めた。

まず可能性の一つとして、こちらからの情報は届いているものの、何らかの影響で外が反応を返せない状況にある事が上げられる。


実際マナはこのアイリーシア家占有地の周辺警備がどれくらいの物であるかを知らなかった。

潜入前はコウがいなかったことから、警備なんてほとんどないと資料にあったこと程度の知識しかない。


普通、占有地なんて戦時の退避場所でしかないのでゴリゴリの警備をしているところはないはずだが

コウの存在を考えるとかなり厳しい警備を敷いていても不自然ではない。


「うーん、でもそれだと如何にも見られたくないものを隠してますとアピールしてることになるんだよなぁ~」


隠し事をするにはあまり目立たない範囲で対応することが常識だ。

さすがにアイリーシア家がそこまで間抜けだとは思わない。


あり得ないことだが、フラウー様の組織が壊滅していたとしたら・・

だったらこのままコウの元で生きて行けばいいだけだからこれ以上悩む必要はないのだが、そもそもそれはあり得ないので選択肢には入らない。


「やっぱり伝わっているのに何も連絡がない、という状況はないかな。だとしたら・・情報が伝わる前に消されている、しかないかぁ」



今回の潜入偵察では事前の取り決めで、最初の1年は1月に1回定期連絡をすることになっている。

その報告が無い場合はマナに何かあったと外が判断することになっていた。


だが今まで外からマナの様子をうかがうような反応は見られていないので、今までの定期報告はちゃんと伝わっているはずだ。


「今回だけ情報が潰された?確かに4枚もばらまいちゃったけど、内容は暗号化してるしその文字すらフラウー様じゃないと見れないはずなのに・・」


マナは悩んだ。

いくらなんでも今回だけピンポイントに潰されるというのは考えにくい。

だが他に想定されることがあるか考えてみても、なにも思いつかなかった。


「やっぱり連続で外に出たことで怪しまれちゃったかなぁ」


マナは焦りすぎた自分の行動を悔やんだが、だとしても腑に落ちないことがあった。

情報が消されたとなれば、マナがスパイだとアイリーシア家に特定されたことになる。


にもかかわらず、彼女は今までと変わらずここでコウの弟子として充実した修行の日々を過ごせている。

普通ならクエスが現れて捕縛され、今頃拷問を受けながら何をしていたか詰問されていてもおかしくないはずだ。


しかもそのことが真っ先に伝えられるはずのコウやエニメットも、いつもと変わらず優しく接してくれている。


師匠であるコウに至っては、最近はより一層力を入れてマナを指導してくれていた。

特に欠点を的確に指摘してくれている。


どう考えてもスパイだと判明している相手に行う事じゃなかった。


「ああぁ~、もうわけわかんない。外も中も何もかもわけわかんないよぅ」


考え続けるものの、結局何一つ確信の持てる結論が出ずにマナは頭を抱える。

そしてもう考えることを放棄すると、メモ紙を破って燃やした。


簡単で害のなさそうな魔法なら、この道場内で使っても警報はならない事は調査済みだった。

そして疲れ切ってふらふらとベッドへと倒れ込む。


「私、今のままでいいのかな・・」

うつ伏せになって横を向いたままマナは自分に尋ねるかのように呟いた。


今話も読んでいただきありがとうございます。


連続更新の疲労?でちょっとテンション下がり気味でしたが無事更新できました。

次話は10/3(木)更新となります。

ブクマ・感想・評価、そして厳しい誤字脱字指摘、良かったらよろしくお願いします。

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