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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係5

ここまでのあらすじ


マナのスパイ疑惑に対してどうしたらいいかわからないコウは師匠の下を尋ねる。

そこでコウは改めて師という立場について考えることとなった。


別荘から戻った俺は急いで自室を通り抜け、すぐに大部屋へと向かった。

まずはマナが1度でも顔を出したかどうかの確認をしたかったからだ。


大部屋に入るとシーラは机を出して1人で魔法書を読みふけっており、エニメットは台所で昼食の準備に取り掛かろうとしていたところだった。


「今戻ったけど、マナの様子はどう?一度はこっちに戻ってきた?」


エニメットは俺が帰ってきたことを一瞬喜んだが、その問いに残念そうに首を横に振った。

シーラも俺に気づいて席を立ち駆け寄ってくる。


「どうでした?ボサツ様は何か把握していましたか?」


「あぁ、ちゃんと把握していたし特に問題ないみたい。これでマナがやっていることは問題のない情報流しと言う事になる」

シーラはそれを聞いてほっとしていた。


皆がマナにいて欲しいと思っていることを再確認すると、俺はほっと一息をついた。

こればかりは皆の気持ちを無視して進めるわけにはいかなかったからだ。


「それじゃマナはまだ部屋で休んでいるのか・・大丈夫かな。心配だけど、この状況だと俺が部屋に入るのもなぁ・・」


そうぼやいているとエニメットが困った顔をしながら話しかけてきた。


「その・・本来は秘密なのですが・・一応マナさんがどのような状況か確認する方法はあります」


既に話している時点で秘密でもなくなっているが、この状況ではそういう方法があるのはありがたい。

とにかくどんな方法でもいいから調べて欲しいとお願いすると、エニメットは一礼して大部屋から出て行った。


向かったのはメイド用の部屋や俺の部屋、図書室がある方向だ。

どうやって確認するのかちょっと知りたかったが、秘密の方法なので付いて行くのはまずいだろうと思い、俺とシーラは大部屋へと残った。


「どうやって確認するのでしょうか?部屋の中が離れた場所から見れる、という事でしょうか?」


同じ方法でシーラの部屋も確認できるからだろうか、さすがに気になるのだろう。

シーラはそわそわしながら俺に尋ねてきた。


「俺にも知らされてないからなぁ。映像なのかそれとも外を確認するための例の魔道具のように状態だけとかかな?」


「後者だと、ちょっと助かります」


「そうだよね・・でも起きてるとか寝てるとか、どうやって判別するのだろう」


「そう言われると・・」


とそんな会話をしているうちにすぐにエニメットが戻って来る。


「どうだった?」


「マナさんはお休みのようです。疲れていたのか、昨日寝付けなかったのか・・詳しくはわかりませんが、ぐっすりとお休み中のようです」


「そうか、疲れているのならそのまま寝かしておいた方がいいだろう。昼飯は一応マナの分を取っておいて。

 14時頃とかに起きてきてお腹減ったと言われると困るしね」


「はい、わかりました」


マナの状態と外部への情報漏れは問題ないことが分かったので、俺は2人にこれからどうするつもりか話しておくことにした。


ボサツ師匠から指摘された点からいって、これは師でありここの責任者である俺が解決すべき問題なんだろう。

昼食の準備に取り掛かろうとするエニメットの手を止めさせ、俺は2人にはっきりと告げた。


「今回のマナの件は俺が対応する。これは師の立場として俺が解決しなきゃいけないことだから。

 時々手伝ってもらうことがあるかもしれないけど、基本的には俺に任せて欲しい。マナがここに居られるよう全力を尽くすから」


さすがに立場上頭を下げるわけにはいかなかったので、俺は2人を見て決意を表明した。

頭下げてお願いするとエニメットに怒られるからね・・。


「わかりました、何かあれば申し付けください」

「私もわかりました。マナをお願いします」


2人とも少し不安そうだったが、立場上否定しにくいこともあってかとりあえず了解してくれた。


ついでに今後2人にはマナが外の誰かに情報を流している件は知らない体で日々を過ごしてもらうようお願いした。

そしてできればマナの味方になるようにもお願いした。


俺が下手打って追い詰めた時に逃げ場が無かったら、ボサツ師匠の言うようにマナが暴発しかねないからだ。


ここは俺が何とかする、いやしなきゃいけない。それが今の俺の立場なんだ。

かなりの不安を覚えながらも、マナを失わないためにもやるしかないと何度も自分に言い聞かせた。



◆◇◆◇



悩み続けてかなり疲れきっていたのか、マナが目を覚まして時間を見ると16時過ぎになっていた。


「あっ、もうこんな時間だ・・だいぶ寝ちゃったなぁ」


そう言ってマナはもそもそとベッドから出ると魔道具を使って<光の浄化>を自分にかけさっぱりする。


「ふぅ・・こんなんじゃ元々の情報収集すらまともにできない・・これじゃダメ!」


マナは両手でほっぺたを叩いてごちゃごちゃした頭の中を吹き飛ばす。

結局このまま自分で色々と考えたところで指示が変わるわけじゃない。


ならばひとまず報告をして、悪い流れにならないことを祈りつつ師匠やシーラと楽しい生活を過ごそう。

迷う事に疲れ切ったマナは余計なことを考えるのを止め、そういう考えに落ち着いた。


「よし、皆に謝りに行こうっと。迷惑かけちゃったからね」

鏡に見える自分にそう言い聞かせると、マナは部屋を出て大部屋へと向かった。



マナが大部屋に入るとコウはいつもマナが使っているソファーで横になって寝ていて

シーラは1人用の机と椅子を出して黙々と魔法書を読んでいた。


(師匠、本当に何もしていない。巻き込んで悪いことをしちゃったな・・)


そう思いながら入口で突っ立って様子を見ているとシーラがマナを見つけて目を大きくする。


「もう大丈夫なの?」

「うん、たっぷり寝たから大丈夫!」


マナは大きめに手を振って元気そうに振舞うと笑顔で答えた。


「良かった~、本当に心配したんですから・・師匠もかなり心配していましたよ」


だよね、と言わんばかりにマナは少し恥ずかしそうに笑う。

そんな会話で気が付いたのかコウが目を覚まして起き上がった。


「おっ、マナ。一応元気そうに見えるけど、もう大丈夫なのか?」


「うん、心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫。夕食終わったら修行付き合ってくださいね」


「あぁ、今日の分取り戻さないとな」


コウが元気に返してくれてマナは嬉しくなって笑顔があふれる。

だけどマナは少しだけコウの態度に違和感を感じた。


朝はすごく心配してくれていたけど、今はなんか心配とは違った力強さを感じたからだ。

でもこの後コウが修行に付き合ってくれると約束してくれたので、マナは嬉しくてそれ以上は考えないようにした。




夕食を終え、マナとシーラはコウとともに昼間の時間を取り戻す様に修行にいそしんだ。

マナには素早い型作りを、シーラには前日に教えた型の偽装の練習を手伝い充実な時間を過ごした。


3時間ほどの修行の後3人が大部屋に戻ってくると、エニメットが菓子と飲み物を用意しており

皆で菓子をつまみながら反省点を話し合う。


「だいぶ早くなったけど、まだ完成度が良くありません。思った以上に難しいですね」


「まぁまぁ。シーラは少し焦りすぎだって。昨日の今日でこの出来なら十分だよ」


「正確さに関しては私もいまいち・・」


「マナはまだ本調子って感じじゃなかったからね。明日またやってみれば今日よりはうまくいくよ」


「だよね、だよね。よし今日は早く寝て明日に備えなきゃ」


「私も明日また頑張ります」


コウに褒められはしゃぐマナ、それを見て負けじとコウに話しかけるシーラ。

はたから見ている分には平和な光景が続いていた。




翌朝、コウとシーラが既に庭に出ているころにマナがやって来る。


マナが朝食の準備をしているエニメットに話しかけようとすると、エニメットは予想していたのか既に外の状況を確認していた。


「今日は問題ないですよ。でもあまり長い時間は避けてくださいね」

エニメットは前回許可を出した時同じように、何も聞くこともなくただ許可だけを出す。


「うん、ありがとー」

そう言ってすぐにマナは大部屋を出て行き、それを見たエニメットはいつものように報告を入れていた。


マナは外に出ると体を動かしながら用意していた4枚の紙を目立たないようにばらまく。

一応監視されているかもしれないと考え表情は笑顔を保っていたが、内心は監視うんぬんよりフラウーからの判断ばかりを気にしていた。


マナの思いを込めた報告紙は風が吹いて2枚が遠くに運ばれていく。

それを見ながらマナは目を閉じ、良い流れになることを祈って道場へと戻っていった。


その後は心の重しが軽くなったのか、マナはいつも通りの明るさを見せながらコウの指導の下修行を続けていった。


自分では選べないんだと大事な選択肢を他人に任せるのは、決して幸せへの近道にはならないが

どうしても自分では決心できないことを流れに任せるのは、今の幸せを味わいたい彼女にとってはやむを得ない事だった。



◆◇◆◇◆◇



マナが外に出て報告内容を書いた紙をばらまいてから3日後。



隠れ家にいるボサツは昼頃に目を覚まし色々と準備をしていると、とある連絡が来ていることに気づく。

こういった連絡は転移門の補助機能を使って行われるのだが、現状では詳細な情報を送る手段は確立されていない。


内容や送り先の特秘性などを考えるとやむを得ない機能制限なのだが

そもそも転移門があれば簡単に相手に情報を伝えらえるため、この世界ではさほど不便とは思われていない。


コウが来た事とその内容からそろそろ来るだろうと思っていたボサツは、すぐに出かける準備をし始める。


少し外に行くことを伝えておくためボサツは実験室に入った。

実験室ではクエスが魔道具をいじりながら色々と動作を試していた。


「順調ですか?」


「あっ、さっちゃん起きたのね。昨日遅くまでテストして取ってもらったデータを使って改良してるとこよ。

 このデータは結構使えるので助かったわ」


そう言いながらクエスは黒いボードに表示されたデータをちらちらと見せた。


「頑張った甲斐があります」


嬉しそうにボサツは微笑む。

と、クエスはボサツが実験するような服装じゃないことに気づいた。


「あれ、今から出かけるの?」


「はい。ちょっとコウがらみで動きがありましたので対応が必要なのです」


「ふーん、この前の相談に関わる事?」

ボサツが嬉しそうにうなづくとクエスは微妙な表情をした。


「あまりコウ周辺のトラブルをいじって大ごとにしないでよね?」


「そう言われると少し心が痛みますが、彼の能力を正確に把握するためにも必要なことです」


「まぁ、主旨はわかっているから最初から賛同はしてるけどね。私にもあとで教えてよ」


「ええ、では行ってきます」

そう言ってボサツがほほ笑むとクエスは軽く手を振って、再び魔道具を動作させ始めた。




ルーデンリア光国、貴族エリアの某所に来たボサツは少しさびれた大きめの家の扉に手を当てる。

扉がうっすらと薄い黄色に光りロックが外れたので、ボサツはそのまま家の中へと入っていった。


この家は大通りから一つ入ったところに建っていて、立地は悪くない。

フラウーが所属する家が管理する建物で、中には誰も住んでおらず玄関から入った直ぐの部屋に大きな机とその真ん中に青い箱が置かれていた。


「さて」


ボサツはその箱を開けると4枚の紙が入っていた。

紙があることを確認すると魔力遮断用の薄い布の手袋をはめ、持ってきた箱に慎重に移す。


全て移し終えると、ボサツは箱を閉じて家を出て次の目的地へと歩いて行った。


今話もお読みいただきありがとうございます。

4日連続の更新、かなりハードでしたがやり遂げました。

少しは喜んでいただけたのなら光栄です。

今準備している挿絵は、この一連の話が終わった後の物になります。

(この一連の話の最後のシーンも挿絵にしたかったのですが・・なかなか時間的に難しく)


次回は9/30月曜に更新となります。

吐き出した分のストック、また頑張って書いて行かないと・・では。


誤字脱字はありがたいくらいなので、遠慮なくご指摘ください。

ブクマ・評価・感想などなど、色々頂けると嬉しいです。やる気にもつながりますので。

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