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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係2

ここまでのあらすじ


コウは昼間の弟子たちへの指導を中断し、クエスたちの実験に付き合った。



時は少し戻って、コウがクエス達の実験に付き合うために出発した後の道場。

既に習慣となった食後の30分の休憩で、シーラはいつもの食事の席で午前中にもらった冊子を凝視している。


自分に使えるものが無いと落ち込んでいたマナも、今はソファーにちゃんと座って冊子を何度も見返している。


昼食の後片付けを終えたエニメットは、コウがいなくてもまじめに魔法を研究している2人を見て、自分も頑張らないとと思わされた。


「すみません。片付けが終わりましたので私は次の仕事に移ります。何か用があったらお呼びください」


「うん」

「はーい」


シーラとマナの返事を聞いてエニメットは大部屋から出て行った。

彼女が片づけを終えて出て行く時間は、いつも昼食後から20分ほど経った頃だ。


いつもならこのタイミングで師であるコウが先に庭に出て準備をし始めるころだったが、今日はいないのでシーラが動き始める。


「マナ、私先に行っていますね。これに載っているのをすぐにでも試してみたいので」


「えっ、ちょっと待って。私も行く~」


シーラを追うようにマナも後をついていく。

コウの居ない初めての自主練習の時間が始まった。



庭に出て最初は、シーラがコウから借りた冊子を見ながら試行錯誤して始め、それをマナが羨ましそうに見ていた。

だがこのまま見ていても仕方ないと思ったのか、すぐに最近磨いている魔法の型の早組に取り掛かり始めた。


2人とも黙々と練習を続けたが、1時間程すると先にシーラが音を上げる。


「うーん、だめぇ。ぜーんぜん上手くできない」

そう言ってへたり込むシーラにマナが何事かと思ってそばまでやってきた。


「どうしたの?」


「あっ、ごめんなさい。なかなか上手くいかなくて。動かして型を変えることはできるんだけど・・これじゃ消してから作った方が早くて」


「うーん、最初はやっぱりそういうものだと思うよ?焦っちゃだめだって」

マナの優しい励ましに、シーラは悔しそうな表情をぐっと抑え込む。


「うん、そうなんだけど・・師匠はあんなに素早くできるし」


「まぁ、師匠だってかなり練習したんじゃない」


「そうよね。うん・・頑張らなきゃ」


まだ少し落ち込んだ雰囲気を見せていたので、マナは軽く一休憩入れることを提案しシーラもそれに同意した。

そしてマナはエニメットに何か持ってきてもらうよう道場内へと入っていった。


「はぁ、ダメだな、私。マナちゃんの方が明るいし可愛いし、彼女が師匠狙いだったらもうとっくに負けてるよね。

 魔法の実力でも見た目や性格でも負けていたら、いつか師匠に見向きもされなくなる・・」


落ち込んだままシーラは縁側に座ると大きなため息をついた。


性格面でマナに勝てないことは初日ですぐに悟らされたので、最近はせめて魔法で師匠をサポートできる存在になりたいというのを目標にしていた。


そんな目標を立てていたので、今日の午前中コウが持ってきた冊子に自分ができることが書いてあった時は

シーラは心の中でガッツポーズをしていたのだった。これでマナにも勝てる部分ができると。


だが、実際やってみれば思った以上の難易度だった。

動機が動機なだけにマナに相談するわけにはいかなかったが、彼女がさっき言った通りなのはシーラ自身十分にわかっていた。


「落ち込んでる場合じゃない、落ち込んでる場合じゃない」


自分に言い聞かせるように小声で唱えていると、マナが飲み物とアイスをトレーに乗せて戻ってきた。


「はーい、持ってきたよ~。悩んでいるときはとりあえず一息つく。これが大事だよ」

そう言って笑顔でカップに入った飲み物を渡す。


マナの笑顔に少し落ち着いたのか、シーラは肩の力が抜け笑顔で受け取った。

ついでにマナは棒アイスも手渡そうとする。


「ちょ、ちょっと待って」


そう言うとシーラは目の前に<風の板>を出して空中に台を作ると、そこにカップを置いてアイスを受け取った。


「おぉ、それいいなー」


「えっ、そう?結構使えるから魔道具として持っているんだけど、これってありふれたものだけど?」


「そうなの?私の周りにはそういうのを使っている人いなかったなぁ」


「だったらエニメットに今度取り寄せてもらいましょう。1個で100回ほど使えるし安価で小型の魔道具だから持っておくと便利なのよ」


「じゃ、今度頼むときにその魔道具を見せてね」

「うん」


そこからはたわいもない話が続き、シーラも悩みが薄れすっかり元気を取り戻した。


あくまでマナは何とかしても元気を取り戻してもらおうと頑張ったたわけじゃなく、ちょっと元気づけようかな程度の気持ちだった。


だが今のシーラには効果抜群だったと言える。

こういったところはマナの長所ともいえる部分だ。


そして会話を重ねていくうちに、何となくマナは話を切り出した。


「ねぇ、シーラ。どうして今日はいつにもまして張り切り過ぎてたの?」


「えっ、その・・ちょっとね。私も師匠の役に立つ存在になりたくて」


「わかる!というか私の場合は師匠に勝ちたいんだけどね」

気持ちが通じ合ったのか、2人は仲よく笑う。


言いにくいことを間接的にでも話せた挙句理解してもらえたからか、シーラはさっきよりはるかに嬉しそうにしている。

と同時にマナには負けないからね、と心に誓った。


「でも、マナも師匠に勝ちたいだなんてかなり厳しい目標を立てるよね。正直無理に近くない?」


「ん~、そりゃ今は無理っぽいけど・・鍛え上げればいつかは勝てるようになるよ・・1勝くらいは」


「だったらマナも少し焦るくらいに頑張らないとね。じゃないと師匠にどんどん離されちゃうよ」


「そ、そう?私だって色々と鍛えて成長しているんだから。ここに来てからは特に実感しているんだし、そうそう離されるつもりはないよ」


その話を聞いてシーラはあれ?と思った。

コウはまだ魔法使いになって1年ちょっとだ。


ボサツやクエスの英才教育ともいえる指導により、すでに2年目の面影など全くないが

これからもどんどん実力が伸びるという点では、まだまだ2年目であることに変わりはない。


いくら最初の1年、いや正確には半年だけが急成長する期間とはいえ、2年目だって今のシーラやマナと比べれば成長度合いはかなり高いと言える。


下手に恋のライバルを増やしたくないので一瞬このことを教えるか悩んだが、こういった話をした以上黙っておくのはマナに悪いと思い、これを機に教えることにした。


「その、マナは今魔法使いになってどれぐらいになるの?」


「わたし?ん~、具体的な数字は避けるけど、結構経ってるよ。その分結構実戦経験あるから、そこを活かせば師匠にもワンチャンある・・かなぁ」


ちょっと盛り過ぎかなと言わんばかりにマナは照れながら語った。

が、この発言からマナが師匠のことをあまり知らないことが分かったので、シーラはこれを機に話しておくことにした。


「えっとね、マナは知らないみたいだけど・・師匠ってまだ魔法使いになって2年目なんだよ。だからまだまだ伸び盛りだから・・」


「・・・えっ?もう、ここで冗談は無いよ~」


「いや、それがね、本当なの」

「いやいや、あんなに強いんだよ?・・えっ?マジ?嘘だよね」


「試しにエニメットに聞いてみても、同じことを言うと思うよ。彼女、アイリーシア家の侍女だし、その辺のことは知らされていそうだから」


シーラがそこまで言うとマナは少し固まったみたいに、カップを握ったまま言葉が出なくなっていた。


「えーっと、マナ?大丈夫・・?」

「うっ、うん、大丈夫、大丈夫。ちょっと予想外だったので思考が追い付かず固まっちゃった」


右手を頭の後ろに当てながら、マナは乾いた笑いと共に返事をする。

その様子を見てまずかったかなと思ったが、いまさら言ったものはどうしようもなかった。


すると、すぐにマナは立ち上がり、カップやアイスの棒をトレーに乗せて片づけを始める。

シーラは急に慌てさせたかな?と思ったが、コウに勝つには早い時期に腕を磨かないと厳しいのも事実なので、彼女の焦りも仕方がないかと思う。


「えっと、じゃ、片付けてくるね。さぁ、修行、修行」


そう言ってマナはトレーを持って大部屋へと向かっていった。

その後ろ姿を見て、自分を励ましてくれた彼女を落ち込ませてしまったかなと、シーラはさっきの発言を少し後悔した。



戻ってきた後もマナは少しぎこちなかった。


さっきまでは近くで練習していたマナだったが

「ごめん、ここからはちょっと離れた場所で特訓するね。皆を驚かせるために、私の必殺技を鍛え上げたいから」


そう言うと、マナは玄関を挟んで反対側の場所で型組の練習を始める。


シーラは少し気になったが、原因は自分が教えてしまった事なのでこれ以上何か言うことは諦め

マナとは離れているいつもの場所で先ほどの冊子を見ながら、ゆっくりと1歩1歩確実に早くなるよう練習を重ねた。




夕食の時間になり2人とも大部屋へと戻るが、そこにはコウの姿はなかった。

エニメットがシーラとマナに事情を説明すると、シーラは心配でおろおろとしだす。


その一方、マナは特に大きな反応を見せず、戻ってないんだと言った感じでただその状況を受け入れていた。

その様子を不審に思ったエニメットがシーラに小声で尋ねる。


「マナさん、何かあったのですか?いつもと雰囲気がかなり違うみたいですが」


「会話の流れで・・ちょっと。師匠が才能のある魔法使いで、まだ2年目だというのを話したら・・驚いてあのような感じに」


「才能差を感じた、ということなのですか?」


「多分、そうだと思いますが・・私にも意外で」


「わかりました、ありがとうございます」

そこまで聞くとエニメットは会話を止め食事をテーブルへと運び始めた。


食事中、さすがに自分の態度が不自然すぎると思ったのか、マナは少し無理して明るく振舞い始める。

2人はその振る舞いに気づかないふりをして、心配しながらもマナを元気づけるように会話に応じた。


食事が終わるとマナがすぐに席を立つ。

「じゃ、ちょっと部屋に戻ってまーす」


夕食後のマナの行動パターンは、庭に出て昼の修行の復習・ソファーや床でしばらくだべる・自室に戻るのおおむね3択なので別に不自然ではないが

さすがにあの様子から自室に戻るとなると、周りはいささか不自然さを感じざるを得なかった。


エニメットはマナが出て行ったことを確認すると、こっそりとアイリーシア家の本拠地へと連絡できる魔道具の『警戒』のボタンを押す。

シーラはマナを心配しつつも今はそっとしておいた方がいいと思い、昼間の練習の続きをしようと庭へと出て行った。




部屋に戻ったマナは今一度周囲を確認し<沈音>の魔法効果が働いているかも確認して大きくため息をついた。


「やばい、やばい、やばい、どうしよう・・」

マナはものすごく焦っていた。


彼女はここに来るまでは、1隊・2隊と呼ばれるフラウーの家が所持する秘密部隊と共に

光の連合内にいる貴族にとって邪魔になる悪党やそれに近い存在を、排除もしくは無力化するのが主な仕事だった。


そんな仕事の中にはチームでの偵察もあり、もちろんその偵察相手は全て排除するターゲットだった。

そんな仕事を続けていて、彼女が新たに命令された仕事が今やっていること、つまりコウの偵察とその報告である。


なので彼女はコウを最初は悪党かその類のものだと考えていた。

が、接したり、話したり、指導を受けたりする中でコウがとても悪党には見えず、内心ではかなり混乱していた時期もあった。


だが最近はコウとかなり親しい関係になっていれば、クエスなどの国の中枢に位置する者の情報も少しは取れるので

今回の仕事はそういうものなんだなと頭を切り替え、日々を楽しんでいたのだった。


もちろん師であり対象であるコウとは良好な関係を築けていたので、その楽しさからだんだんと仕事ということを忘れ

今は何とかして師匠であるコウに1勝するというのが目標であり大事な仕事になっていた。



そんな時、兄弟弟子いや姉妹弟子ともいうべきシーラから驚くべきことが告げられた。


それはコウがまだ魔法使いになって2年目で、実力はこれからもぐんぐんと伸び、将来は一光や三光に並びうる存在になるということだ。

最初聞いたときは、ただ『えっ、それじゃ私これからも師匠に勝てる可能性ほとんどないじゃん』という落胆だけだった。


しかしよくよく考えると、コウは雇い主であるフラウーから監視される存在であり、それは危惧されている存在であることを思い出す。

そういう存在だと思って考えなおすと、マナはかなりの焦りを感じた。


マナは今までコウの師匠であるクエスの情報こそが大事なのではと思っていたが、これを機に実はコウが入念に観察すべき存在なのではと考えなおした。

とは言え、今のマナにはいくつか問題があり簡単には動けない。


ただし、動けないとはいえ彼が本当に危険な存在かどうかわからないまま手をこまねいていると、化け物みたいな強さを手にする存在になりうる。

それは彼が光の連合内にかなりの影響を及ぼす存在になるということにほかならない。


その存在が今の貴族、特にフラウーにとって邪魔になるのなら、たとえコウが善人であっても危険な存在と判断せざるを得ない。

マナとしてはその件を詳しく報告し、今後の対応を入念に相談したいところだったが、この道場の存在が特殊過ぎてまともに外には出られない。


もし強引にここから脱出したとなれば、偵察という仕事が失敗になるだけでなく、対象に必要以上に警戒されてしまう。

つまり偵察の仕事としては単なる失敗ではなく大失敗になってしまう。


もっと言えば、失敗を覚悟してまで報告すべき危険な存在かと問われると、現在の情報では難しいところがあった。

マナにとってコウは人がよく指導能力も高くて、この2ヶ月で尊敬する存在になっていたからだ。


監視の経験があまりなかったマナは、この場合どうしたらいいのかわからなくなって全く余裕がなくなっていた。


「どうしよう、どうしよう、とにかく・・ここはとにかく報告だよね。師匠が2年目で私より強い。これはすごく大きな情報のはず」


そう独り言を言いながら、マナは連絡用のメモ紙に暗号の点字っぽいものを使って4枚連絡紙を作る。

普段は1枚しか出さないものだったが、焦りからマナはとにかく数を増やした。


『コウは私と同格。なのに2年目。早めの対応求む』


シンプルな内容を書き上げ、4枚とも明日の朝にちょっとだけ外に出てばらまくことにする。


本当はコウの居ない今こそ外に出て報告紙を撒きたいところだったが、先ほどの態度やいつもと違うタイミングで行動すると、あからさまに疑われかねないので断念せざるを得なかった。


「けど・・師匠と私が同格ってのは・・ちょっと私の実力を盛りすぎたかな」


報告内容を読み返し、マナ少しだけ反省する。

その後4枚ともアイテムボックス内に収納し、ちょっと気分を落ち着けるためにも庭に出て瞑想をしようと部屋を出た。


今話も読んでいただきありがとうございました。

今回はいわゆるここ2話の裏での話になります。マナちゃん大慌て回です。

ちょっと長めの4章メインのお話ですが、楽しんでいただければ幸いです。


感想・評価・ブクマ、色々とありがとうございます。

誤字脱字は無いようにがんばっていますが・・あったら遠慮なくご指摘くださいませ。


次話は9/27(金)投稿予定です。

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