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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとマナの関係1

ここまでのあらすじ


午後の練習をパスして師匠たちとの実験に付き合ったコウは倒れてしまう。


5時間くらいっ経った頃、治療カプセルが停止しコウが目を覚ます。


「うっ、あぁ・・ここは・・えっ、カプセルの中?」

コウがつぶやくとカプセルが開き、目の前にはクエスとボサツがいた。


「やっと起きたわね」

「大丈夫でしたか、コウ?」


少し心配そうな2人の師匠を目にして、コウは少し疲れた表情で嬉しそうに笑った。

それを見た2人はとたんに呆れてしまう。


「こりゃ駄目ね」

「くーちゃんに同感です」


師匠たちの反応にコウは訳が分からず2人の顔を何度も見返しつつカプセルから出た。

その後、3人で大部屋へと向かい2月前までよく食事をしていた机に座って状況確認をすることとなった。



大部屋についてクエスとコウが席に着くと、立ったままのボサツが聞いてくる。


「食事はどうしましょうか?」


それを聞いたコウは一体何時間カプセルの中にいたのかと思い、慌てて時計を起動する。

手のひらの上に表示された時間は既に19時近くになっていた。


「えぇ・・5時間くらいビン瓶詰だったんですか、俺」


「そうよ。なのでさすがにエニメットには食事に間に合わないと連絡しておいたわ」


「そうでしたか、すみません」


まいったなと思いつつ、自分が結構なダメージを受けていたんだとわかってコウは少し動揺した。

その様子を見て、ボサツは返事を待たずに食事の準備を始める。


よく見るとエニメットが返却したのと同じサイズの炊飯器が既に待機状態になっていた

と、そこにボサツがアイテムボックスから瓶を取り出し机の上に置く。


中身はコウもよく見たことのあるものだった。

乾燥した卵を粒状にした細かい粒やゴマなんかが入っており、懐かしさに思わずコウの表情がほころんだ。


そう、ごはんのお供、あると無いとでは天と地の差が生まれるご飯を活かすスーパーアイテム、ふりかけだ。


「おぉ、ついに再現できたんですか!」


「まだ不満点が少しありますが、だいぶ近いものが出来上がりました」


ボサツはコウを見て嬉しそうに言いながらも、その後では野菜を空中でサクサクと裁断し続ける。

最近エニメットが普通に調理しているのを見ているせいか、コウは久しぶりのボサツの技術に思わず見とれてしまった。


「さて、ちょっとは元気が出た?」

「えぇ、調子はほぼ完璧ですよ。なんせカプセルの中に閉じ込められてましたから」


コウは軽く体を動かして、問題ないことをアピールする。

それを見てクエスは少し呆れながらも笑顔だった。


そんなちょっとした雑談をしているうちに、早々と料理が完成し並べられる。

空中を動いて自分の目の前にピタッと止まる皿。


追いかけるように紅い実が皿の上にとまり8等分されて落下し、皿の中心から広がるように並ぶ。

コウがそれに見とれていると、ボサツがご飯をよそって「はいっ」と手渡してくれる。

コウは嬉しそうに受け取って目の前に置いた。


『いただきます』


3人、ばっちりタイミングを合わせて声を出すと少し遅くなった夕食を頂く。

何もかも少し前に戻ったような雰囲気を味わいながら、コウは楽し時間を過ごした。



食事を終えボサツが手早く片づけを澄ますと、再び3人とも椅子に座る。

いつものコウの正面に師である2人が向かい合う配置だ。


しばらく食後の余韻を楽しんだ後、クエスは少し真剣な表情になるとコウを見つめながら話を切り出した。


「さて、まずはコウの倒れるまでの状態を聞きたいわ」

「うっ、やっぱり俺は倒れたんですね」


コウは倒れて気を失っていた事を知り、あくまで自分が把握していた範囲で話し始めた。


「最初はなんかふわっとした感じだったんです。ちゃんと立っているのはわかってたんですが・・なのにどこかちゃんと立ててないような。

 なんというか体全体のコントロールが少し利かないというか」


「うーん、魔の魔力でコウの魔素体全部をコウとエリスに分離しようとした副作用?」


「その時の詳細を見てみないと正確には言えませんが、全体を対象にすると不必要な部分まで負荷がかかるのかもしれません」


「そうね。資料に書いてあった方法を上手く応用できたかと思ったけど、これじゃまだまだみたいね」


2人はコウの話を聞いて仮説を立てては色んな可能性を議論し始めた。

コウはそれを聞きながら、わからない話が多いものの一生懸命聞きとって、その情報を元に色々と自分で考察していた。


「それでエリス師匠の魔力を感じそれだけが分離されたのか消えたのかと思った時だったかな、体中のあちこちに痛みが走って徐々に力が抜けて行って

 気が付いたらカプセルの中にいたって感じです」


コウの話を聞いてクエスもボサツもいまいちな表情を見せる。


「テストということで少量の分離をしたつもりが、体中のあちこちにあった中途半端に分離したエリスの魔力をも対象に取ってしまっての結果かしら」


「その可能性が高そうです。とはいえ分離を一気にやるのは先ほどの感じ方を聞いた限り、魔素体に対してリスクが高いです」

「そうね・・」


クエスとボサツが悩んでいるのを見て、何とかしたいと思っていたが

話が難しくてコウはなかなか参加することができなかった。

が、そんな中、コウはふと思いつく。


「師匠」

「んんっ?ど、どうしたの?」


クエスが慌ててコウを見つめ、ボサツもそれに続く。


「いや、もう一人の当人であるエリス師匠にも話を聞けば色々とわかるんじゃないでしょうか?」


「そうね。と言いたいけど今は話せないでしょ。コウが普通に活動している状態だと、長い会話は不可能らしいから」


「はい。なので帰ってから夢の中とかで話すことができれば、それをすぐ報告します」


「それはこちらからお願いしようと思っていました。コウ、手間をかけさせてすみませんが、お願いします」

「もちろんです」


これなら自分も役に立つんじゃないかという点を見つけて、コウは嬉しそうにする。

それを見たクエスが心配になり無理をし過ぎないように釘を刺す。


そしてボサツが2人をフォローし丸く収める、いつもの光景がまた繰り広げられた。

大体聞きたいことが聞けたのか、ボサツがメモしていたパネルを収納すると

クエスがコウの目をまっすぐ見て話し始める。


「今日やったテストの内容を今からちゃんと話しておくわね。もちろん推定も入っているけど」

「あ、はぁ」


別にいいのにと言わんばかりの軽い返事にクエスはコウを少し睨む。

その意図をすぐに察し、コウは真剣な表情になった。


「今日はコウとエリスを分離する第一段階のテストをやったの。

 魔素体は普通は単一なんだけど、コウの場合はエリスの精神体が内部にあるからか、理由ははっきりしないけど全体の1割くらいがコウとエリスの魔力パターンが融合したもので構成されてるわ。

 エリスが外部に魔法を使う時は多分そこから魔力を出していると思う」


「そう・・なんですか。なんかすごいですね」


「まぁ、すごいかすごくないかは、よくわからないけどね」


「くーちゃん、これは今までにないすごい例なんですよ」


ボサツが口を尖らせながらツッコミを入れるがクエスは気にせずスルーする。


「それで、分離するには融合部分からエリスの部分を抜き出すことが大事だと思って、今回魔属性を使ってその融合を不安定化し分離しようとしたのよ」


「なんか・・すごい技術ですね」


「ちょっとやばい伝手(つて)も使って、色々準備して、なんとかね。だけど今回不安定化が弱かったみたいで、想定外のダメージがコウにいったみたい」


「じゃ、次はもう少し強くしたら行けそうですね」


クエスが少し落ち込み気味に言うので、コウは励まそうと単純に強くするアイデアを出す。

だが、クエスはその答えを聞き首を横に振った。


「そこは私が。コウが一切抵抗せずに受け入れた今回の魔属性による不安定化は、強力にすればコウの魔素体自体が元の安定化・・つまり今の状態に戻れなくなる可能性もあります」


「え゛っ・・えっ?」

一瞬ヤバイと思ったコウだったが、よくよく考えるとそれってどうなるのかわからず軽く首をひねる。


「まぁ、あまり想像しない方がいいですが、何にしても強くすればいいというものではないのです」


「なので、次はもう少し時間をかけてやった方がいいのではと思っているわ」


「それで何とかなりそうなら・・そうかもしれません」


「ん、何か引っかかることでもあるの?」


コウが奥歯にものがはさまった言い方をするので、思わずクエスが聞き返した。

するとコウがあまり自信なさげに話し始める。


「いえ、そのどうやって完全に分離したのかを見極めるのかと思って」


「まぁ、そこはそうよね。時間をかければ分離は進むとは思っているんだけど」


「それなら俺の方もさっきのような台座じゃなくて、治療カプセルみたいなのに入って状態をモニターしながらならいいんじゃないかなと・・」


それを聞いてボサツが悩みだし、クエスも考え始めた。

コウはその様子を見てあまりいい意見じゃなかったなと思い、表情を曇らせる。


「確かに常に状態を見ておける環境は欲しいです。ただカプセル内だとさらに転移させるのが難しくなりますし・・」


「カプセル側に更に魔改造が必要になるわね。色々な影響を重ならないよう独立化させないといけないし。動作テストも必要となるとかなり時間が欲しいわ」


「そのぉ、エリス師匠の魔力を転移ではなくて、管をつないで移動させるわけにはいかないんですか?」


「それだと100%エリスの魔力だけを移すのが難しくなりそうなのよね。あー、でも多少混ざったとしても精神体とリンクしてなきゃ相殺されるだけかな?」


「テストしてみないとわかりません。やる価値はありそうですが別の角度からの不確定要素も増えますし、また準備がかなりかかります」


「でも案2がコウの言ったことに近い感じだし、時間をかける価値も・・」


コウが案を出してみたが、途中から再びコウは置いてきぼりになり、クエスとボサツがあーでもない、こーでもないと議論し始める。

不謹慎ながら、コウは師匠たちがちょっと楽しそうに見えて嬉しくなった。


「ん?もう、コウは何を笑っているのよ」


「コウは前からちょっと変わったとこがありますから」


ボサツがフォローにならないフォローを入れ、コウが苦笑いする。

そうやって時間は過ぎ、21時ごろにようやくコウは道場へと戻ることができた。




道場へと戻ってきたコウはひとまず帰ったことを伝えようと、自室を出て大部屋へと向かった。

だが大部屋には誰もおらず、全て片付けられており静まり返っていた。


「やはり遅すぎたか。エニメットは自室かな。弟子たちも自室となると・・なんか訪ねずらいしなぁ」


コウは呟きながら大部屋を見回す。

すると、よくマナが座っているソファーが目に留まり、なんだか真似をしたくなってコウはソファーのひじ掛けに頭をのせて横になった。


師匠達が自分がいない時もエリス師匠のことをどうにかしようと1歩1歩前進していたことを知り

何もできてない自分が何だかもどかしく感じて天井を見ながらため息をつく。


だが知識もなくやれることはせいぜい実験体になるだけなので、これ以上は考えても意味がないと思い、別の方法で師匠の役に立とうと頭の中を切り替える。


なら今はただ強くなって将来役立てるようになるまで研鑽するべきか、いや、弟子もいるんだし弟子と連携して功績を立てれるよう下地を作っていくべきか。

いくつかの案を思い浮かべながら、ここにいる貴重な時間をいかに有効に使うべきかコウは思案していた。


「あら、コウ様・・コウ様ですか?」

「うん?」


名前が呼ばれたのでコウはソファーから起き上がると声のする方を振り返った。

起き上がったことで、ソファーにいるのがコウだとわかりエニメットは急いでコウの側までやって来る。


「コウ様、怪我をされたと聞きましたが大丈夫ですか?まだ痛むようでしたら、あまり無理をされない方が・・」


「大丈夫だよ、エニメット。傷はもう完治しているから」


「クエス様も、コウ様が素直だからって危ない実験に付き合わせるなんて酷過ぎます」


「いや・・」

そのままうっかり『危ない実験じゃないんだけどね』と言おうとしてコウは慌てて口を閉じる。


内容からいってとてもじゃないが、他人にホイホイと言える事じゃない。

たとえアイリーシア家の侍女であろうとも、自分の専属であろうとも、外に漏れるきっかけを作るべきではないことが、今のコウにでもわかるほどの実験内容だからだ。


「まぁ、師匠も何か考えのあってのことだからそう言わないでよ」


コウの言葉に自分の発言が少し行きすぎだと気付いたのか、エニメットは軽く息をのんで申し訳なさそうに頭を下げる。

それを見たコウは、師匠たちが見ているわけじゃないんだし気にしなくていいさとなだめた。


先ほどのエニメットの抗議の声が大きかったのか、庭へ続く玄関の扉が閉まる音がして、2人が大部屋へと歩いてくる足音が聞こえる。


「2人ともこんな遅くまで庭で練習していたのか」

と少し心配そうにぼやいた後に、シーラとマナが大部屋へと入ってきた。


シーラはコウが元気そうにしているのを見ると、ほっと一安心した様子を見せ軽く頭を下げる。

マナは『おっ!』という感じに少し驚きつつ、コウを見続けていた。


「師匠、戻られたのですね。ご無事のようで安心しました」


「そんなに心配をかけてしまってた?」


「い、いえ。そこまでではないのですけど・・クエス様が怪我をしたので帰りが遅くなると伝えに来た時はちょっと心配で」


「師匠は大げさに言うんだからあんまり気にしない方がいいよ」


コウは師匠の行動をうまく出しにしてシーラの心配をなだめる。

シーラもコウの言葉に安心したようで少し笑っていた。


「うん、マナ・・大丈夫か?」


いつもと違い少し緊張した雰囲気で見つめてくるマナを、コウは少し変だと思いながら声をかける。

が、マナは急に声をかけられたかのようにびっくりした反応を示すと、慌ててコウに挨拶をする。


「お、お疲れ様でした。師匠」

「お、おぅ」


マナらしくない言葉にコウは思わず詰まりながら答えるが、いつもなら返って来る軽いツッコミが今のマナからは返ってこない。


コウが少し不審そうにマナを見ると、彼女は両掌を見せて何でもないとアピールした。

ますます不審がるコウに見かねてシーラが声をかける。


「師匠、マナは師匠がまだ魔法使いになって1年ちょっとだと知らなかったんですよ。今日昼間にそのことを話すとびっくりしちゃって」


「すみません。師匠にはそんなすごい素質があるって知らなかったんで。なんか緊張しちゃって・・」

そう言いながらマナは右手を頭の後ろに当てる。


「まぁ、すごいと言っても今はそうでもないからそんなに気にしないでよ」


「で、ですよね。ただちょっと、これからはますます勝てなくなるのかなんて思うと、悔しいなーと思っちゃったりして」


それを聞いたコウはそうかと思いつつも、だとしてもマナの雰囲気が何か変だなと思う。

が、これ以上は気にしても仕方ないと思い、明日からはまた通常通り修行を行うことを2人に告げた。


「あまり夜更かしはせず、明日に備えて早く寝た方がいいよ」

そう言ってコウは自室へと戻っていった。


「師匠の言うとおり、気にし過ぎは良くないですよ」


「うん、だよね。よし、明日からも頑張らなきゃ」


そう話して、3人はそれぞれ自室へと戻った。


いつも読んでいただきありがとうございます。

先週までの導入部?が終わり、タイトル統一の一連のお話としました。

(本当は数話前からそうしたかったんですが、話のネタばれになるかと思って・・)


3日に1話の更新ペースで少し遅いかもしれませんが、調子よく行ければ中1日で投稿したいと思いますので

よろしくお願いいたします。

ブクマや感想、評価、手厳しい誤字脱字報告、本当に嬉しいので時間があればよろしいお願いいたします。


次話は8/24(火)更新予定です。また3日後です(汗


修正履歴

19/09/24 タイトルの数字をただの数字に。本文内の一部の言い方を修正。

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