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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウとエリスの分離実験

ここまでのあらすじ


コウはクエスに呼ばれて、午後の弟子たちへの指導をキャンセルし隠れ家へと向かった。


コウは転移門で飛んで、懐かしい隠れ家の道具置き場の奥にある小さな小部屋へと飛んだ。


「うーん、2月ぶりなのにかなり懐かしく感じるなぁ。師匠に呼ばれたけど一体何の用なんだろう?」


コウは周囲を見て懐かしく思いながら歩く。

転移門があるこの道具置き場には2個ほど見たことない魔道具が置いてあったが、よく見てもどうせわからない代物なので、とりあえずそのまま真っすぐ大部屋へと向かった。


大部屋に入るとさらに懐かしさが湧いてくる。

たった2ヶ月程前の事なのに、クエスとボサツに囲まれながら食事したり、魔法書を読んで相談した光景が懐かしく感じる。


「やばい、ホームシックかな・・」

うっすらと涙を浮かべながらつぶやていると、クエスとボサツの部屋につながる扉が開いた。


「コウ、急なお願いだったのに来てくれるとは思わなかったわ。って、どうしたの?」


「あっ、いやぁ、ちょっと懐かしくなって・・」


「もぅ、ここにはいつでも来ていいのよ。ほら、しっかりしてよ」


そう言うとクエスはコウの手を引っ張って、そのまま奥の通路、クエスたちの部屋のある方向へと連れて行く。

そして隠れ家にいた頃は一度も入れてもらえなかったボサツの部屋を通りぬけ、その奥にある研究室にたどり着いた。


そこには治療用のカプセルみたいなものと、それにいくつかの魔道具が置かれて、それぞれが繋がれていた。

コウとクエスが入ってきたにもかかわらず、ボサツは黙々と魔道具の状態を見つつデータを確認している。


「さっちゃーん、コウを連れてきたわよー」


近距離なのに大声でクエスが叫ぶとボサツはようやく振り返り、少し驚いたと思いきやすぐに笑顔になった。

コウは久しぶりに会ったこともあり、簡単な挨拶として頭を下げる。


「お久しぶりです、ボサツ師匠。お二人ともお元気そうで嬉しいです」


「そんなに久しぶりでしたか?コウも変わらないようですね。本当に」


「はいはい、挨拶はそれくらいにして、コウには今日来てもらった目的を話しておくわね。

 魔道具を見ても何が何だかわからないだろうけど、ここにあるのは簡単に言えばコウとエリスを分離するための物なのよ」


そう言ってクエスは実験室に並べてある魔道具を自慢げに紹介する。


「基本的な設計は私が行っています」

そんな2人の説明にコウはおぉ、と驚いていた。


「もう分離が可能なんですか?本当にすごいですね、師匠」

「いやぁ、さすがに・・」


クエスが首の後ろを触りながらちょっと気まずそうにする。

その様子を見て、代わりにボサツが説明し始めた。


「さすがに今はまだ分離は不可能な状態です。とはいえデータがないと改良の方向がわからない状態なのです。

 それで今回は危険を承知でコウにテストしてもらえないかと思って呼んだというわけなのです」


「はぁ、なるほど」


コウは少し考えたがすぐに答えを出した。自分のやるべきことはただ一つ、と。

2人には多大な恩があり、エリスの救出も全力を尽くしたいのがコウの気持ちだったからだ。


「わかりました。とりあえずやってみましょう」


まともな説明も聞かずあっさりと決定したコウに、クエスだけでなくボサツも驚いた表情をしている。

だがコウは気にすることなく、治療用カプセルっぽいものに近づいていく。


「師匠、これに入ればいいんですか?」


「いや、ちょっと待ちましょう、コウ」


ボサツが慌てて止めると、クエスもすぐにコウに尋ねる。


「ちょっと、コウ。あなた何を考えているの?恐ろしくないの?」


「え、えっ、えっ?いや、テスト・・必要なんですよね?」


「はぁ~、そうよ。テストは必要よ。でも普通はどれくらい危険なのか聞くものでしょ?何をそのまま受け入れてるのよ」


「まぁまぁ、くーちゃん。コウはいつもこの調子なのです。そこまで怒らなくても」


「でもここまで向こう見ずに突っ走られると、本当に心配なのよ」


その言葉を聞いてコウは申し訳なくなり頭を下げる。

それをクエスとボサツは複雑な表情で見つめていた。



「師匠、その、俺も危険性は、もちろん、気になってますよ。だけどエリス師匠を俺から分離するのは悲願だったはず。

 だったら少しでも協力したくって・・」


申し訳なさそうに言うコウを2人は困った様子で見つめていた。

今回コウをここへ呼んだ目的は、さっき告げた通りエリスの分離テストだ。


もちろんコウの身の安全を最大限に配慮しているので、様々なリスクを想定したうえで緊急停止の対応なども含め複数の手段を準備している。

なので、あえて危険を承知でと言ってはいるが、今回はいうほど危険なテストではない。


ただ2人はちょっと脅かすだけのつもりだったのだが、期せずしてコウの危うさを目にしてしまったため

コウを大切にしたいと思っている2人は、その危うさを本人に認識させるべく怒った態度に出た。


だが、それでも献身的な態度を見せるコウに、2人とも困ってしまっている。


「コウ、聞いて」

「あ、はい」


「私たちはあなたを危険な目には合わせたくないし、当然あなたをどう扱おうがエリスさえ戻ってこればいいなんて考えていないわ」

「もちろん、それは信じています」


コウがはっきりと答えるのでクエスは少したじろぐ。

そこへ今度はボサツが切り込む。


「信じてもらえるのはとても嬉しいです。ですがコウ、もう少し自分を大切にしてください」


「んっ・・、ありがとうございます。でもクエス師匠がどれだけエリス師匠に会いたいのかも少しはわかってるつもりなのです」


それを聞いてクエスは何とも言えない表情をし、コウから視線を逸らす。

そんなクエスを見てボサツは複雑な気分になったが、すぐにコウに対して厳しい顔をする。


「それはこちらとしてもとても嬉しいことです。でもコウにはもう弟子もいるのです。あなたの弟子ですよ。

 あなたが自分を大切にし、自分の命を慎重に扱わないと、彼女たちは取り残されることになります」


ボサツに厳しく突っ込まれて、コウは良かれと思ってした自分の行動を少し反省した。

確かにボサツの指摘通り、ここで万が一のことがあればコウの弟子たちはどうなるのかわからない。


ただ解散となってどこかに戻るだけなのかもしれないが、考えようによってはコウが軽い扱いをしていて見捨てられたと言われかねない。


一瞬、ひょっとしてそのことをわからせるために俺に弟子を取らせたの?と思いはしたが

この状況で爆発しそうな話題を踏みに行くのはさすがにまずいと思い口には出さなかった。


「すみませんでした。少しでも師匠の役立てればと思って、少し前のめりになったのかもしれません」


「ふぅ、まぁいいわ。私たちはその前のめり気味なのが心配だったのよ。これからも気を付けておきなさい」

「はい」


しおらしく返事をするコウを見て、クエスもボサツもこれ以上はいいかと思いテストへと移ることにした。


「それじゃ、コウはここへ立って」


そう言ってクエスは五芒星の魔方陣が描かれた白い台へ案内した。

台の魔方陣は紫色に光り、周囲には転移門と同じような少し傾いた銀色の柱が4本立っている。


「簡単に内容を説明します。この台座の魔属性の魔力で、安定化しているコウとエリスの繋がりみたいなものを不安定化させそれぞれの魔力に分離します。

 そしてエリスの魔力だけを指定してあそこにある特別な治療カプセルの中へ飛ばし、その魔力を安定化させます」


「そ、そんなことできるんですか?」


「一応論理的には、です。とはいえ初めてですし間違いなく失敗するでしょうから、今回はまず問題点の洗い出しです。

 その為まずは作業の段階をゆっくり行いますし分離するのは少量の魔力だけとします」


かなりテストの意味合いが強い実験だなとコウは思ったが、最初だし仕方ないのかなとも思い口には出さなかった。


「その後、精神体は夢属性によってコントロールすることにより、分離した魔力と合わせエリスの個体として成り立たせる予定よ。

 だけど今回はそこまでは行わないわ。まずは事前段階のエラーを取り除いておかないと、エラーがいくつも重なったら危険すぎるからね」


「わ、わかりました」


内容は何となくコウも理解はしたものの、正直そんなことができるの?といった感想しか持てず、不安な気持ちが顔にも表れる。

それを見たクエスがコウのほほを人差し指でぷにぷにと押した。


「大丈夫?とにかく何かあったらすぐに言葉にするか、このスイッチを押しなさい。それもできないようなら右足か左足、どちらかに体重をかけなさい。

 それでもこちらに伝わるようになっているわ。最悪目で訴えてもいいわよ」


様々な安全手段をとっていることを知らされ、コウはちょっとやり過ぎじゃないかと思い顔をほころばせる。

それを見てクエスも少し気が楽になったのか笑いだすと、ボサツもつられて笑顔になった。



「それじゃ、いくわよ」

クエスの掛け声でコウは台座の上に移動して軽く息をついた。


そのあとボサツが魔道具を起動して、台座が紫色に怪しく光りコウの周りを薄い紫色の魔力が取り囲む。

ゆらゆらと魔属性の魔力が漂う中に、コウはただ黙って立ち続けた。


「コウとエリスの魔力は確認できています。コウの体の構成も外から取れるデータ上は異常ないです」


「私から見ても異常は今のところないわ、コウは何か感じる?」


クエスの質問にコウは何か異常を感じないか五感をフルに使って考えてみたが、強い違和感は感じなかった。

ただ説明しにくいが、なんか全体的に何かが自分からずれていっている感じがする。


「なんかよくわかりませんが、ふわっとした感じです。よく、わかりません」

コウの反応に少し眉をひそめるクエスとボサツ。


「本当に異常はないの、さっちゃん」


「ええ、でも今測定しているのは外見や周囲の魔力反応がメインです。魔素体の内部に異常があった場合はすぐにはわからない可能性があります」


「それなら魔属性の出力はそれ以上あげないようにしておきましょ。エリスの魔力は?」


「一部が分離しているのを捉えていますが、まだ少なすぎます」


「それでもいいわ、今日はあくまで初期テストよ。今はまだわずかな魔力でいいからゆっくりと段階を進めましょう」


ボサツは心配そうな表情で計器類を見つめ、クエスはかなり緊張した表情でコウを観察し続ける。

一方コウは自分の内部に自分の物ではない魔力を感じ始める。


それに対して少し驚いたような、緊張したような表情で少し息を荒くしつつも立ち続けた。

それに気が付いたクエスは、ボサツの方を見て大きな異常が出てないことを確認すると、すぐにコウに声をかける。


「大丈夫?何かあったの?すぐに報告しなさいよ」


「あぁ、えっと、多分エリス師匠の魔力が中から湧いてきて?ちょっと、というかかなり違和感が」


クエスが再びボサツを見ると、ボサツはすぐにうなずいて別の魔道具を作動させた。

宙属性を表す銀色の光がコウの周囲を囲み、強く光るとすぐに弱くなって消えていく。


「さっちゃん止めて、コウの様子が少しおかしい」


その声にボサツがすぐに反応してコウの周辺の魔道具を止め、周囲にあった紫の光も徐々に消えていく。

コウは魔道具が止まりやり遂げたのかと思ったと同時に体中の力が徐々に抜け、両膝を台座に付け両手で地面をついて体を支える。


「コウ!」


クエスが強く叫んで駆け寄ると、少しだけ顔を上げ大丈夫と言わんばかりに笑ったが、すぐに両手から力が抜けてコウは地面に伏してしまった。


「さっちゃん、早く治療カプセルの準備を」


「出来ています!すぐにコウをこっちに運んでください」


緊迫した状況の中、コウは2人に抱えられ部屋の隅にあった治療カプセルの中に入れられて治療が開始される。

それと同時にボサツは付属のモニターを確認し、治療カプセルで検知した負傷場所を急いで確認する。


「表面上のダメージは小さいです。あと脳部分は全く問題ないですが、内臓の一部が少し損傷と体の内部の各所から微出血が見られます」


「つっ、人の忠告を聞かずに結局無理したのねコウは。起きたら説教してやる」


「落ち着いてください、くーちゃん。エリスの魔力の一部を転移した時に一気に傷ができた可能性もあります。

 とにかく症状は軽微ですが、体の至る所にわずかずつダメージが入っているようで治療に時間は少しかかります。でもとにかくコウは無事ですから」


「はぁ、本当に・・もう」


クエスは緊張した状態を解いて、大きく息を吐くと地面に座り込んだ。

そんなクエスをボサツは心配そうに見つめる。


「大丈夫ですか、くーちゃんもかなり疲れた様子ですが」


「まぁ、ちょっと焦っただけよ。コウが思ったよりバカだったからね」


「ふふっ、本当にそうですよね。私も叱っておかないといけません。コウはあのままでもう大丈夫でしょうから、分離したエリスの魔力を調べてみます?」


「いい、後でいいわ。今はコウの回復とコウからの状況報告が先に聞きたいもの」


そう言うとクエスは立ち上がって水の入った容器を取り出して飲むと、少し離れた場所にある2人掛けのソファーに腰を下ろす。

それを見たボサツも治療カプセルが順調に作動していることを確認すると、クエスのいるソファーに近づき隣に腰を下ろした。


「はぁ、ほんとに・・こんなんならもう少し厳しくして、私たちに反発する癖をつけさせた方が良かったかもしれないわ」


「まぁまぁ。今まで十分厳しく指導してきたと思いますよ。あれはコウの性格です」


「まぁ、ね。本当に」

そう言いながらクエスは嬉しそうな顔をした。


今話も読んでいただきありがとうございます。

今回はなんか属性設定の回みたいな感じになってしまいました。

どこかで挿んでおかないと、分離の話が始まらないのでここで挿んだのですが・・。


次回は9/21土曜更新予定です。

ブクマや評価、感想など頂ければありがたいです。

誤字脱字は、相変わらずなかなか無くせずお世話になっております。ありがとうございます。

では。

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