講義:魔法の型の偽装
また講義のお話になります。
別にこういうお話が好きで書いているわけじゃないけど、この話は入れておきたくて(汗
大部屋に入ると既にテーブルが用意されていた。
既に弟子たちは座っており・・なぜかエニメットまでがコウの正面に座っている。
コウがその状況を不思議に思っているとマナが声をかけてきた。
「師匠、こっちは準備できてまーす。ちなみにエニメットも参加したいってことですよ~」
それを聞いてコウは色々と考えてみた。
護衛を少しでも出来るようにということで、エニメットにも最近瞑想などを教え始めていたが
正直、今回の講義内容だと彼女にはちょっと難易度が高すぎる。
甘めに見ても参考になるかどうかってところだ。
とは言え全く役に立たないものでもないので、時間があるなら話を聞いてもらった方がいいかもなとコウは考えた。
護衛の役目を果たす時は一瞬の判断で状況が大きく変わることもある。
その一瞬の為にも知識はあるに越したことはないのだ。
「そうだね、今日の内容ならエニメットも聞いておいて損はないと思う。
少し難しい部分もあるかもしれないけど、頑張ってついてきてね」
「はいっ」
認められたのが嬉しかったのか、エニメットは笑顔で答えた。
「じゃ、シーラとマナも準備いいかな?」
「はい」
「大丈夫です」
それを聞いてコウはそれぞれに1冊の本をそれぞれ手渡した。
本当は自分用とマナとシーラに1冊ずつ用意していたものだったが、内容はほとんど頭に入っているので
自分用をエニメットにも渡した形だ。
「まぁ、いきなりその中身を見ても混乱すると思うので先に簡単な例を示すよ」
そういうとコウは魔力を放出し<光一閃>の型を作り上げる。
ただし属性を風にしたまま組み上げていた。
薄緑色に光る魔核で組み上げた型を見せながら、コウは弟子たちに尋ねる。
「この型は何の魔法だと思う?」
コウの質問に弟子たちは戸惑った。
相手の型を見極める練習は実戦において非常に重要なため、魔法が使える者はだれでもやりこむべき練習の一つとなっている。
こればかりは座学が嫌いでも実戦練習をこなすうちにある程度身につくので、よく使われる魔法ならほとんどの者が判別できる。
シーラやマナは学校や職場、実戦などで見極めの練度を上げているが
いざとなれば主人を守る役目を果たすことになる魔法の使える侍女や近侍も、時間の合間を縫って魔法の型を覚えるようにしている。
たとえ主人より弱い侍女が護衛すると言っても、1発受けて沈むか2,3発受けて沈むかでは
主人の生存率が大きく変わって来るからだ。
だが3人ともコウの問いに答えようと型を見つめるが、その魔法の型を即答できなかった。
型を見極めるのに大事なものは2つ、魔法の属性と特徴的な魔核の配置や連結である。
これをセットで覚えるからこそ、属性が違っただけで全員が知っているはずの型も即答できなかったのだ。
それは分子構造の模型で色やサイズを入れ替えられると、思わず戸惑ってしまう事に似ているかもしれない。
「師匠、風属性ではそのような型は見たことありません」
「うーん、私もわからない・・」
シーラとマナはしばらく考えたが、結局降参した。
だが、エニメットだけはもうしばらく考える。
「コウ様、それは光一閃の型だと思いますが、風属性にそのような魔法があるのでしょうか?」
素直に型だけを受け止めて、属性に疑問を呈したエニメットにコウはちょっと嬉しくなる。
「そう、これは光一閃の型なんだよね」
そう言ってコウは型を出したまま属性を光に変える。
コウが出している属性を変えると同時に、周囲の魔力を少し消費して、型を構成していた魔核と繋ぎがすべて光属性に変わった。
「あっ」
思わずシーラとマナが声を出す。
「種明かしすれば簡単な話なんだけど、さっきの型は属性だけを変えていただけなんだ。
でもそれだけでマナやシーラはいったい何の魔法かわからずに戸惑ってしまった。エニメットはある意味実戦経験の少なさが功を奏したかもね」
「師匠、それがわかるのって何の役に立つんですか?私たち単属性使いなんだけど」
マナが悔しそうにしながら、不満を訴えてくる。
「確かにこれは2属性持ちにしか使えない芸当だけど、それを相手にしたときにこういうフェイクをやられると
思考時間を削られたり、思わず足を止めてしまったりするかもしれないだろう?そこも的確に判断できるようになるべきだというのが今回の講義の趣旨だ」
「うーん、確かにそれは・・。ですが学校では教わらなかったですし、そこまで重要なのでしょうか・・」
「このフェイクは属性を変えた時に型がぶれないようにするのにちょっと練習も必要だし、誰でも簡単にできる技ってわけじゃないんだよね。
そういうこともあって、こんな芸当をやってくる相手は確かにあまりいないから重要とまでは言えないかも」
「でしたら・・」
「でもそれだと、俺と練習試合をしたときフェイクで踊らされてばかりで話にならないよ」
「う、うう・・」
コウに指摘されてシーラは反論ができなくなった。
マナも『コウとの練習試合』というキーワードを出されて、シーラに続いて反論する気だったのを慌てて引っ込めてしまう。
「まぁ、いつも警戒する必要はないけどね。あくまで相手が2色以上使えるなという時だけは、思考範囲を属性で絞らない癖をつければいい。
そうすれば相手の偽装した型がただの手間がかかるだけのものになって、むしろこっちが有利をとれるんだから」
コウのフォローのおかげか、3人ともなるほどと思ってくれた。
ただ全員が慣れるまでかかりそう・・といった雰囲気を漂わせていたが。
「で、これからが今日の本題になるんだけど」
「え、さっきのは導入部だったの?」
「あぁ、そのつもりだったけど・・」
マナの悲壮な表情にコウはちょっとたじろぐ。
それを見たシーラがすかさずフォローを入れる。
「ねぇマナ、とりあえず聞いてみましょう。今全部覚える必要はないんだから」
「うん・・確かにそうだよね」
マナが少し前向きになって、コウはほっとして表情を和らげる。
そして軽くシーラに向かって感謝を示し、それを見たシーラは少し嬉しくなって照れていた。
「それじゃ、ここからは俺の師匠であるボサツ様が考えたものや、師匠たちの指導の下で考え出したフェイクを見せていくよ」
そう言ってコウは光属性に変更し再び<光一閃>の型を組みだす。
ただ今回はさっきのものと違って、魔核同士がほとんどつながっていない未完成の状態の型だった。
魔法は魔核を正しく配置し、魔核同士を正しく繋いでから魔力を充填しないと発動しない。
今コウが作ったものは魔核の配置は正しいが、魔核同士のつながりが一部しかなく切れているので
これでは型に魔力を充填したところで、次々と魔力が漏れ出し魔法が発動しない出来損ないでしかなかった。
「これは何の魔法だと思う?」
中途半端な状態の型を示されるものの、配置はどう見ても<光一閃>なのでそう答えたかったが
型を偽装するという内容の講義であることは明らかだったので、全員見たままの答えには飛びつけず悩んでいた。
が、辛抱できなくなったのか、それとも答えが見つからないので割り切ったのかマナが手を挙げて答える。
「やっぱり光一閃の型だと思います。出来損ないだけど」
「そう思った根拠は?」
「うーん・・それしかないというのもあるけど、ちゃんとつながれた型の一部分が割と特徴的な角度になっているので
他の光属性の魔法には変更できないと思ったからです」
ちゃんと他の光属性の型をも想定したうえでの答えだと発言し、それなりの思考をした結果だとアピールしたマナ。
それにはコウだけでなく、シーラやエニメットも感心していた。
「さすが実戦経験があるだけはあるなぁ。ちゃんと他の魔法の型も想定して判断するなんてやるね」
「えへへ、そう?」
マナはちょっと照れながら嬉しそうにする。
「それじゃこの型を見たときは、マナはどう対応する?」
「ひとまず火の強化盾か・・師匠の一撃なら集中盾も検討して型を組んでおきますけど」
「じゃ、魔力充填はせずに型だけ組んでみて?」
そう言われてマナは強化盾の型を1秒半ほどで組み上げる。
それを見たコウが魔核を動かしながら属性を水に変えると、魔核を10個ほど追加しつつ型を変形させ、即座に<水圧砲>の型を組み上げる。
1から組み上げるよりも元の魔核がある分早く1~2秒ほど早く出来上がった。
「えぇ、嘘ぉ」
マナが声を出して驚くと、シーラとエニメットも声は出さなかったものの口を開けて驚いていた。
「これを火の強化盾で受け止めたら・・」
「無理、です・・」
マナが力なく答える。
「まぁ、結構練習が必要なので誰もがホイホイできる技じゃないんだけど・・」
「で、出来たら困る」
マナが思わず反論し、シーラもそれに同意するかのように首を何度も縦に動かしていた。
その反応を受け、コウも仕方なく苦笑いをする。
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえず俺はできるんだし、他にもできる人もいるかもしれない」
「こんなの簡単に出来たら単色使いは悲しくなっちゃいますよ」
「まぁ、そうかもしれないけど・・。とりあえず偽装型の応用例としてこういったこともできるから
型の判断は相手によってはあまり早く見切りをつけないこと、これが大事だからね」
目の前でかなり有効な方法を見せられたからか、3人とも反論はなくただうなずくしかなかった。
光属性の魔法を見て、火属性で防御しようとしたら、水の貫通タイプの魔法というここまで有効な例はあまりないのだが
それでも実戦で効率のいいタイプの魔法障壁を張ったところ、違うタイプの魔法が飛んできて障壁が割られては深手を負いかねない。
3人とも見たことがないだましのテクニックに、最初コウが話し始めた時と比べてかなり真剣な表情になっていた。
「師匠、これはもっとたくさんの変更パターンがあるのでしょうか?」
シーラが真剣な表情で質問する。
「先ほど渡した冊子に、ボサツ師匠が考えた案と俺が考えたもので及第点貰ったやつもちょっと載せているので、それを見てもらった方が早いかな」
コウに言われ、一斉に渡された十数ページほどの冊子を開く。
中にはそれぞれの型からどう変更して別の魔法に変えていくかのやり方が詳細に載っており
属性が変わるパターン、同属性ながら攻撃が大きく変わるパターン、補助魔法や防御魔法から攻撃魔法に変えるパターンが30個ほどあった。
「うーん、これすごい・・」
「あっ、光属性で補助から攻撃に変えるやつがある。これ私も練習すれば出来るようになるかも・・」
弟子の2人は感心して食い入るように見ている。
「コウ様はこういったことも開発や練習されていたのですね。本当に尊敬します」
エニメットは顔を上げ、コウに尊敬のまなざしを向けた。
「いやいや、俺が考えたのは少しだけだし、没案かなり多かったから。俺はまだまだだよ」
ストレートに尊敬の言葉をぶつけられて、コウは少しどぎまぎしながら謙遜する。
それでもエニメットが向ける熱い視線が変わることはなかった。
「えっと、まぁ、その中身は一応この道場で教える秘匿技術の1つになるから、他の場所でやり方を教えるとかは絶対にダメだからね」
「はいっ」
3人そろって気持ちのいい返事を返す。
その尊敬のまなざしにコウはちょっとだけ悦に入った。
っと、ここで午後のことを思い出しコウは落ち着いた表情に戻る。
「ちょっと連絡があるんだけど」
「はい」
エニメットが自分の役目だといわんばかりに即返事をする。
「突然で悪いけど、午後からちょっとクエス師匠に呼ばれたので、申し訳ないんだけど昼の練習は自主練にするから」
「えぇ、ここに載っているの、いくつか見せてもらおうと思っていたのにぃ」
マナはすごく残念そうに愚痴りだし、シーラもかなり期待していたのだろう、しょんぼりとしていた。
「ご、ごめん。それは今度かならず披露するからさ。あとその本は俺が帰って来る時までは渡しておくよ」
「それで、お昼はどうされるのですか?それと戻られる頃を教えていただければ助かりますが」
「んー、とりあえずお昼は一緒に食べれるかな。戻ってくる時間は・・ちょっとはっきりしないや。ごめん」
「いえ、そんなにお気になさらないでください。わかりました、どちらでも対応できるように用意しておきます」
「ありがとう、エニメット」
コウの言葉に、立ち上がって深く頭を下げる。
弟子の2人も仕方がないかと諦めたようだった。
この後冊子に乗っているものの中から数点コウが簡単な解説をはじめ、エニメットはその間に昼食の準備へと取り掛かった。
昼食後も、先ほどの内容が相当気になったのか、マナとシーラが食事をしつつ話続けている。
「私にとっていくつかやばいのがあったなぁ、うーん2色使いがこんなに羨ましく思う日が来るなんて」
「それには本当に同意ですね。とはいえ、1つ出来そうなものがあったので午後練習してみようかなと」
「えぇ、いいなぁ。私も何かできるやつがあればよかったんだけど・・せめて光属性が使えればなぁ」
コウは2人がここまで話題にするとは思わなかったので、いい感じに教えられたなと思いながらその光景を見ていた。
特に礼儀を重んじるシーラがここまで食事中に会話に夢中になるとは、コウにとっても予想外の収穫だった。
と同時に、午後師匠の元へ行くのがだんだん惜しくなってきた。
「シーラ、練習するなら最初はゆっくりとやった方がいいと思うよ。普段ではあり得ない魔核の動かし方をするからね。
最初からスピードを求めるとむしろただ混乱するだけになっちゃうから」
「はい、確かにそうかもしれません。参考にしてとりあえずやってみます」
「私にも何かほしいよ~、師匠ぉ」
「いや、そういわれてもなぁ・・とりあえず自主練なので何をやるかはマナに任せるよ。なんだったら色々と考えてみたら?」
「えぇー、うーん・・」
そうやって語りながら昼食を終え、コウは隠れ家へと行くこととなった。
「それじゃ、俺は行ってくるから。3人とも留守は任せたからね」
「はい、任せてください」
「はーい」
「わかりました、行ってらっしゃいませ」
三者三葉の返事を聞きながら、コウは自室へと向かいカギを閉めると奥の部屋に入り転移門で隠れ家へと飛んだ。
今話も読んでいただきありがとうございます。
前話から始まっている今回の4章のメイン話はタイトルを○○1、○○2と統一したかったのですが
1話ごとのタイトルでネタバレになりかねないので、仕方なくいつも通り別々のタイトルをつけています。
タイトル考えるの、結構面倒だなと思ったり・・。
時間がある方は、ブクマや感想、評価など頂ければ嬉しいです。
誤字脱字の指摘は遠慮なくお願いします。
次話は9/18(水)更新予定です。よろしくお願いします。




