弟子の前でクエスとの一戦
ここまでのあらすじ
主人公のコウは、ほとんどハーレムみたいな環境に身を置き、充実した日々を過ごしていた。
コウがルーデンリアに来て5日が経った朝
いつものようにコウはマナとシーラと共に庭に出て修行をしていた。
最近は魔力の大量保持の練習をするだけではなく、大量に展開したまま動かす修行も始めている。
2人ともコウとは違って何年も魔力を扱ってきたからか、ある程度の基礎は出来ていたこともあり
コウから見ても何とか合格点に届くようになってきたので、早々と修行は次の段階へと移っていた。
もちろん研ぎに研ぎ澄まされたコウの魔力の扱いにはまだ届いていなかったが。
そんな中、突然庭にエニメットがやってきた。
今まで修行中は邪魔にならないようにと言って庭に来なかった彼女が来るということは、何かあったのかと思い
コウは魔力を展開したまま弟子たちの前から離れてエニメットの方に向かった。
「どうした?何かあった?」
「ええ、そのお客様というかクエス様が・・」
「え、師匠が!?」
と言ってコウが視線を上げると少し後ろにすでにクエスが立っていた。
「久しぶりね、コウ。元気にやってそうじゃない」
「お久しぶりです、クエス師匠。しかし、突然ですね」
そう?といった感じで軽く頭を動かして、クエスは少しにやっと笑った。
「別に突然でも問題ないでしょ?少なくともコウがかわいい弟子をベッドへ連れ込んでる時間に突然来たりしないから安心しなさい」
「え、ちょっ、師匠、何を言うんですか」
俺は慌てて聞こえてないよな、と後ろを振り返り弟子たちの様子を見た。
弟子たちはコウの指示通り真面目に周辺の魔力を動かしている。
コウはほっとして体の力が抜けたが、同時にどっと疲れた顔になった。
それを見てクエスは困ったものねと言った表情になる。
「もう、これくらいの話を軽く流せるようじゃないと、コウの夢であるハーレムなんていつまでたっても達成できないわよ。
せっかくおあつらえの環境を作ってあげたのに何も・・」
「ちょー、ちょっ、ちょっ、その話はここでは勘弁してください」
そう言いながら、コウは今の話は無しだよと慌ててエニメットを見たが、エニメットはどうしました?と平然とした顔でコウを見ていた。
「あれ?」
コウは何もエニメットが反応しないことに違和感を覚える。
国王や直系の貴族とかが多くの相手を持つことはこの世界で知られているとはいえ、一般的な価値観においてこの世界では女性がハーレムを歓迎してると言うのは聞こえてこない。
あくまでそれなりの才能や地位を持っていれば、なるほどねといった程度だとコウは推測していた。
なのにエニメットはクエスの話を全く気にせず平然と受け止めている。
コウはまさかと思ってクエスの方を見た。
「し、師匠・・まさかエニメットにまで言ってたんですか?」
「そりゃそうよ、専属になるということはコウがお遊びや弟子への平常心を保つために自分を使うことも想定しているということよ?
お互い変な勘違いをしないよう、そういうのは言っておかなきゃいけないでしょ」
「あ、あぁ・・」
コウは何を言えばいいのかわからなくなったのだろう、口を半開きにしてただ声を出していた。
その様子を見てエニメットがどうしていいか、おろおろとしている。
そんな状況を見てクエスは笑っていた。
1分ほどして抵抗を諦めたのか、むしろもう受け入れたのか、コウは落ち着いて話し出す。
「えーっと・・それで師匠、今日はどのような御用ですか?」
「あら、ひょっとして邪魔者扱いなの?ただ遊びに来ただけよ。
それとも新しい女の子が何人も手に入ったから私はもういらないということ?」
「そんなこと言ってませんよ・・もう、本当に勘弁してください」
「ふふ、それじゃちょっとだけ、コウの可愛い弟子を見させてもらうわね」
相変らずうまく掴めない言動でコウを戸惑わせ、横をするっと抜けていくように庭へと向かおうとする。
「まっ、待ってくださいよ師匠。俺がちゃんと紹介しますから」
そう言ってコウはクエスの後を追いかけた。
コウがちらっと後ろを見ると、エニメットは先ほどの話を申し訳なく思ったのか何度か深く頭を下げていた。
コウはクエスを追いかけながらも軽く左手を挙げてさっきの話は気にしないでとアピールすると、2人で庭へと向かった。
コウがクエスと共に弟子たちのいる近くまで来ると、師匠以外の人物が来る気配を感じたのだろう。
シーラとマナは修行を中断し、やってくる人物に気づくと、急にびしっと緊張した姿勢で2人を迎える。
「えーと、その様子だと知っているみたいだけど、この方が俺の師匠であるクエス様です」
「ん、一光のクエスよ。今日はうちの弟子がちゃんとやってるか、ちょっと見学に来ただけなんだけど、よろしくね」
そう言って軽く手を振るクエスに2人は深めに会釈した。
「ん~、これコウが仕込んだの?」
「いや、そんなわけないですよ。それよりこっちの黒髪の子がマナ、こっちの銀髪の子がシーラです。
まぁ、師匠ならシーラのことは知ってそうだけど」
「ええ、といっても1,2回会ったことがある程度だけどね。って私ひょっとして邪魔しちゃった?」
「いや、まぁ、いいんじゃないですか。それで、この後どうします?見学でもしておきます?」
コウが一光であるクエスと気軽に話しているのを見て、弟子たちは尊敬の念をこめてコウを見つめる。
ただ本人はそうとは知らず、いつもと違う熱い視線に戸惑っていた。
「そうねぇ、どうしようか。せっかく来たんだし、全員私と軽く手合わせしてみる?」
それを聞いたコウは驚き、シーラは小刻みに首を横に震わせた。
シーラの様子を横目で見つつ、マナも遠慮気味の態度をとっている。
マナも遠慮するのかとコウが少し驚いていると、クエスがコウの左肩に手を置いた。
「じゃ、やはりここは師であるコウが弟子にお手本を見せないと」
「いやっ、えっ、マジですか?」
「マジよ」
と言うことで、弟子にいい格好を見せるためにも、コウとクエスが軽く手合わせをする事となった。
最初コウは危険だからと、弟子たちは少しはなれたところで見学するように言ったが
マナもシーラもかなり興味があるらしく出来るだけ近場で見たいと言い出し
コウとクエスから10mちょっと離れた場所で、魔法障壁を張りつつストックにも準備して見学する事になった。
「クエス師匠は容赦ないから、危険だと思ったら即防御と回避を優先しろよ」
「はい」
コウは危険性をアピールしながら警告したものの、2人は同時に力強く返事をするだけで、それ以上後ろに下がろうとはしない。
それだけ2人共コウがどう立ち回るのかを楽しみにしていたのだ。
「それじゃ、シーラとマナの2人はちゃんとコウの動きとか魔力の使い方とか見ておくようにね。
コウは複数属性が使えるとは言え、第1属性は2人と同じLVなんだから。将来の目標や参考にするといいわ」
大きな声でそう告げると、クエスは正面にいるコウの方を見る。
「弟子の前で恥をかかないようにね」
そこは師匠次第じゃないのかとコウは愚痴りたくなったが
「わかりました、お願いします」
とコウは軽く頭を下げる。
これはちょっとしたコウの見栄でもあった。
さすがにコウも弟子の前で愚痴る姿は見せたくなかったのだ。
2人はいつも練習で使っている非常に魔力どおりの良い木刀を手にして互いに構える。
クエスが目で始めの合図すると、コウはすぐに軽く後ろへ飛んで距離をとった。
後ろへ飛んだと同時に<風の槍>を2本クエスへ向けて飛ばす。
クエスは飛んできた槍を1本はかわし、もう1本は<光の強化盾>を垂直ではなく風の槍に対して30度位に傾け
風の槍をこすらせ無理やり軌道をずらさせながら回避し、そのままコウへと距離を詰める。
近づけさせまいとコウは即型を組み上げ<豪風>を使いクエスの突進を妨害するが、クエスは魔力を広めに展開して風圧の威力を削りつつ向かってきた。
コウは更に型を作り始めるが、魔法の完成よりも早くクエスは木刀を上から叩きつける。
急いでコウは木刀を受け止めたが、左右から<光の槍>が4本コウをめがけて飛んできた。
クエスは振り下ろした木刀に力を込めコウを動きづらくするが、コウは自分の腹部に<加圧弾>を使い自分の体を後ろに吹き飛ばし、距離をとり光の槍を回避しようとした。
「まだ甘いわよ」
気がつくとコウの右足には<光の鎖>が既に繋がっていて、2mほど後ろへ飛んだだけでコウは地面に落ちる。
「こっちもいきますよ」
コウの声と同時にクエスの周囲に大きな魔力が発生する。
「いけ、<百の風矢・包囲>」
クエスの周囲、ドーム状に風の矢が取り囲むように発生して、一斉に矢が飛んでくる。
百の矢の派生である包囲型は近距離でしか使えない魔法だが、ばら撒くタイプの通常の百矢に比べて個人に対する効率がかなりいい魔法だ。
クエスはとっさにストックから<光のドーム>を使い自分をドーム上の障壁で覆うと、風の百矢を全て受け止めた。
「す、すごい・・」
クエスの周りに発生した矢が一斉に放たれて軽い土煙がおきたのを見て、シーラは思わず感嘆のため息を漏らす。
マナも驚いていたのか、口を半開きにしたままその様子を見守っていた。
コウはクエスの動きを止められたと思い、急いで足の鎖を断ち切るべく属性を水へ切り替えた。
だが、まだ矢が全段着弾する前に目の前から魔力の高まりを感じ、とっさに魔法障壁の型を2つ組み上げる。
クエスは風の矢を全段受けきる前に障壁を消し去り、自分の放出した魔力で相殺するという力技で対応しながら<収束砲>を放った。
「マジかよ・・」
コウは正面に<水泡の盾>を作り、何とかクエスの放った収束砲の威力を殺すものの後ろへとずるずる押されていく。
が、まだ足には鎖がついていてのけぞるようにコウは背中から地面に倒れこんでしまった。
即鎖が引きずられたので、コウは右足に魔力を集中して鎖をなんとか破壊するが、その後の対応はクエスが一歩早かった。
強力な一撃である<光の斧>が仰向けになって引きずられたコウの目の前に振りかざされた。
とにかく防がなければならない状況に、<水の強化盾>と木刀で受け止めようとするものの無理だと判断して
負けを認めることになるが白銀の盾を左手首付近に取り出して、右手の木刀と併せてクエスの一撃を受け止める。
障壁は軽々と砕かれ、魔力の通った木刀も一旦受け止めるものの1秒ほどで切断され、コウはクエスの一撃をどうにか白銀の盾で受け止めた。
が、クエスは手を緩めることなくコウの右側から<光の槍>を2本飛ばし、コウはそれを魔法障壁で何とか防ぎきる。
だが、それもコウの注目を逸らすための一手でしかなかった。
防ぎきれたとコウが少し一安心をしたところに、クエスは左腹部を魔力で覆った木刀で容赦なく強めに突き刺した。
「ごぉほ、ほはっ、はぁ、はぁ」
これで勝負あったわねと言わんばかりに仰向けで苦しそうにするコウの腰付近でまたがって、木刀を額に向ける。
「まっ、まいり、ました・・」
コウの敗北宣言を聞いて、クエスは嬉しそうに笑った。
「あぁ・・やっぱり一光様は強いよね」
シーラは残念そうにつぶやく。
コウが勝てないことくらいはわかっていたが、それでも少しは追い込んでいいところを見せてくれるんじゃないかとひそかに期待していたのだ。
その一方、マナは額に木刀を向けられているコウをじっと見ていた。
マナが一言も発さないので、不思議に思ってシーラは声をかける。
「マナから見てこの試合はどうだった?」
「んっ?あぁ、うん。師匠ってすごいよね」
「うん、まぁ、すごいかったよね。負けてしまったけど」
なんか変だなと思いつつも、シーラは相槌を打つ。
が、マナはだんだんとさっきの試合に興奮したかのようにテンションを上げてきた。
「最近は風の槍とか良く見せてもらってるけど、他の魔法も組むのが早いんだもん。
そりゃ、一光様だって速くて強いけど型組だけなら師匠もほとんど見劣りしなくらい早いし、対応だって的確」
「そ、そうだね」
「そうだねじゃないよ~、あれで師匠と私たちは魔法LV変わらないんだよ?すごいよね、私もああなれるかなぁ」
かなりテンション高めで目を輝かせていたマナを見つつ、シーラもその言葉を深刻に受け止めた。
(そうだ、私も師匠と同じLV37なんだ・・違う世界の戦い方じゃないんだ・・)
シーラはその思いを真剣に心に刻んだ。
前話、曜日の話の解説を後書きに入れ忘れていたので追加しました。
(本編には特に関係ない部分なので、あえて後書きを読み返す必要はありません)
書こうと思っていたのにど忘れしていました。申し訳ありません。
今話も読んでいただきありがとうございます。
書こうと思えばもう少しかけそうな日常?回ですが、そろそろ話を進める予定です。
そう、あくまで予定です。
お時間がありましたら、評価や感想、誤字脱字も見つけ次第ご指摘いただけると幸いです。
では、次は水曜更新します。2日後でなくて申し訳ない・・。




