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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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礼節の講義、ありまーす

ここまでのあらすじ


2日目の朝。初めての白米を味わいながら楽しい時間を過ごしました。


朝食を食べ終わった頃に俺は全員に声をかける。


「ちょっといいかな、昨日説明しそこなった事なんだけど」


俺がそう言うとシーラとマナがこっちを見て軽く姿勢を整える。

弟子たちが姿勢を改める姿を見て、改めて自分が偉い事を実感させられる。


「基本的には修行の終わった夜とかでいいんだけど、みんなには余力分でいいから魔力の補充をお願いしたいんだよね」


そう言うと俺はこの大部屋の庭とは反対側の壁の中央付近へと移動して、ある場所を指差す。

そこには白い壁の中に薄い黄色の枠で囲った部分があった。


「この部分に体の一部を当てて無色の魔力を放出すると、魔力を吸収してくれてこの道場含む敷地内の魔力維持に使われる仕組みになってるから」


「この部屋に補充箇所があったんですね。了解しましたー」

「わかりました」


弟子たちが明るく了解してくれるので、俺は一安心する。


「ただそんなにがんばって魔力補充をやらなくてもいいからね。修行で疲れた後になるし

 残った魔力の1割とかでいいから。基本的にはこちらが補充しなくても足るようにアイリーシア家側で何とかすると言っていたし」


「でも修行で私たちが一番使うので、少しでも補えられれば印象はいいですよね?」


印象とかそんな硬い考えをしなくてもいいのにと思ったが、他家のシーラにとっては少し気になるところだったのかもしれない。

そういった家とかの事情を考えずに1割とか軽い言い方をしたのはまずかったかなと俺は反省した。




朝食を終え軽く休憩を挟んでから3人で庭へ出る。

これから暫くの間、朝からは瞑想から維持や魔力の複雑な操作を練習していく事を告げて、早速弟子たちに瞑想を指示する。


マナが突然、どこから持ってきたのかわからない座る事のできる小さな台を取り出すと、軽く腰をつけ足を伸ばす。


短パンで低い椅子に座り足を伸ばされると、白い太ももがまぶしくてどうしても視線がそっちへ引き寄せられてしまう。

こういうときは膝丈くらいの簡単な箱スカとかにでもしてくれれば助かるんだけど。


とは言えそれを指摘してしまえば、学生だった俺でもそれがセクハラだと言うくらいは知っているので、ここはあまり視線が行かないように気をつけるしかない。

・・しかし、この世界にセクハラなんてあるのだろうか?


ちょっとよろしくない事を考えていると、シーラが少し不満そうに俺を見ているのに気づいてしまった。

一瞬心を見透かされたのかと思ってドキッとしたが、考えてみればシーラは俺と一緒に瞑想を朝やってたんだ。


「あっ、シーラはそっか。でも、だったら少し魔力を動かすのをやってみるといいかも」

早朝と内容が重複していたので気を使って言ったつもりだったが


「あ、大丈夫です。瞑想、もっと魔力の濃度上げたりするのに挑戦していきますから」

と、なんかやんわりとお断りされた形になった。


ちょっと困った俺の様子を見てなのか、それとも何か感じる点があったのか、マナが首を突っ込んでくる。


「師匠、シーラと何かあったんですか?」

「えっ・・」


とっさに俺はシーラを見てしまうが、シーラは首を横に振る。

何でそこでシーラは反応するかなと思ってしまうが、そもそもシーラの方を見てしまった時点で俺の方が悪い。


とにかく俺たちは何もなかったんだ、そう心で念じながら出来るだけ冷静に答えることにした。


「いや、別に何もないよ。ただ朝から同じような事をしていたから俺が変に気を使っただけだよ」

「ふーん、そうですか」


誤魔化しきれたかどうかはわからないが、とりあえずはなんとかこの場を凌いだ・・ことにしておく。

マナは普段は大雑把が特徴ですと言わんばかりの行動をしているのに、こういう時に限って鋭いところを発揮してくるとは。


これはいろんな点で気をつけておかないと・・太もも見ていたことも気づかれていそうだな。

師として気をつけるべき課題がまた増えてしまった。


軽く頭を抱えつつも瞑想を開始し、その後維持した魔力を動かす指導をした後、共通魔法の<○の槍>の型を組む速度を競い合ったりして午前中の修行を続けた。



◆◇



そろそろ昼食の時間になる頃だった。

マナとシーラはだいぶへばったのか少しだらしない格好で地面に座り込んでいる。


コウはへばってる弟子に対して少し気を使って、ゆっくりさせておこうと余裕を持って朝の修行を終わらせて道場へと戻ることにした。


「先に大部屋に戻っておくけど2人はどうする?まだ昼飯まで10分以上はあると思うけど」


「私はもう少しさっきまでの感触を確かめながら練習します」


「んー、だったら私も」

シーラの前で負けたくなかったのか、マナも同じことをやると言いだす。


「そうか、だったら先に俺は戻っておくよ。集中しててもいいからね。そのときは呼びにくるから」


そう言ってコウは道場の中へと入っていく。



コウが行くのを見届けると、シーラは再び魔力を周囲に展開し、そこそこの速さで光の槍の型を組む。

そのまま起動状態になっていた的用の障壁に向かって飛ばして横にあるモニターを見た。


「うん、やっぱり威力がわずかだけど上がっている。師匠の型の指摘は正しかったかぁ」

そう言いながら再び型を組んでいった。


マナもそれを見つつ火の槍の型を組んで障壁へと飛ばした。


「私も型を修正して少し威力が増したみたい。師匠って結構すごいよね」

「ん?」


自分に話しかけられたと思い、シーラはマナの方を振り返る。


「いや、だってきっちりと型を覚えているんだもん。ずれている魔核の位置もすぐにわかるし」


「そうね。やっぱり風属性使いだからでしょうか。立体的な位置把握が私よりはるかに優れている気がします」


「なるほど~。だったら私も火だけじゃなくて風も使えれば師匠並みの技量を簡単に身に付けられたかなぁ」


「そこは望んでも仕方がないことではないの?」


「まぁ、そうなんだけどねぇ」


マナとシーラは何度か魔法を放った後、地面に座り込んで楽しく会話をしていた。


昨日出会ったばかりだったが、マナの明るさとわかりやすさもあり、修行中もちょくちょくマナが話しかけてくることから

シーラは人見知りにもかかわらず、2人はだいぶ気楽に話せるようになっていた。


とは言え、互いの出自とかここでのこと以外を話したりするほどの深い仲にはなっていない。


「あ、そうだちょっと聞いていい?」

もう少し型を組んで体に覚えさせようかと思って立ち上がったシーラに、マナが突然話しかけてくる。


「うん、なんですか?」

シーラは型を組むように魔核を調整しながらも、マナの問いかけに答える。


「ちょっと気になったんだけど、ひょっとしてシーラってもう師匠に襲われた?」


突然の質問と内容にシーラはかなり動揺し、組み始めた魔核が歪み慌てて霧散させる。


「えっ、ちょっと、マナは何を・・」

「シーラは動揺しすぎ。もう。師匠にも型を組むときは動揺しないように冷静にってさっき言われたの忘れたの~」


笑いながら指摘するマナに、自分が思った以上に動揺してしまった事を悔やんだ。

と同時にこの子は普段の発言や行動よりも内面は遥かに鋭くて危険だとシーラは認識を改める。


「も、もう、マナが変な事を言い出すから・・でもどんなときでも冷静に型を組むのは大事よね、一本取られたわ」


シーラは何とかごまかそうとするがマナは更に興味を持ったようで、突っ込んだ質問をしてくる。


「それだけ動揺するってことは、やっぱり襲われたの?コウ師匠って思った以上に手が早いんだね」


「ち、違う違う。別に何もないわよ、私と師匠には」


「え~、今更言ったってこれだけ動揺すればわかるってば。それでいつ?やっぱり今日の朝?」


マナに追及されて顔を赤くしながらも、シーラは必死に何もなかったと否定した。

必死の否定にマナは諦めたのか「そうなんだ」と言って追及の手を止める。


「まぁ、悪い人ではないよね、コウ師匠は。私にもちょっと興味を持ってくれてるみたいだし」

「えっ、そうなの?」


「うーん、たぶんだけどね。でもちゃんと指導してくれるし、ダメなところは指摘してくれてるから細かく見てくれてる。

 シーラが何もなかったのなら大丈夫かな。ひょっとして私も襲われるかなと少しだけ警戒していたんだよね~」


マナが少し照れくさそうにしながら笑って話す。

シーラは自分から迫った昨日ことは絶対に言えないと思いつつ、乾いた笑いで相槌を打つしかなかった。


「じゃあさ、師匠って今のところ相手がいなくて、フリーなのかな?」


突然マナがそんな事を聞いてきたのでシーラはすばやくマナのほうを振り向いた。

「えっ、どういう・・」


シーラがマナに聞こうとしたとき、庭側の玄関の引き戸が開く音がした。


「おーい、そろそろ食事にしたいんだが、中断できそうなタイミングー?」


「はーい、今行きまーす。師匠お昼はなんですか~?」


コウの声にマナはすぐに振り向くと、質問しながらコウの元へと駆け寄っていく。


大事なところで中断させられたシーラは、一瞬固まって置いていかれたがすぐに我に返ると師匠の方へ軽く礼をし歩いて近づいた。




昼食も終わり一息ついた頃、シーラが大部屋でマナとコウに声をかける。


「すみません、ちょっといいでしょうか?」


「あぁ」

「うん、いいよー」


コウとマナが振り返って話を聞いてくれそうだったので、シーラはほっと一息つく。


「それで?何かあったの?」


「あ、はい。えっと、突然なんですけど、師匠とマナには週1でいいので少し時間がいただけないかと思いまして」


「?」

シーラの話にマナが不思議そうにする。


「内容次第ではいいけど・・マナにも必要な事?」


「はい、実はボサツ姉さんからちょっと頼まれごとがありまして・・」


それを聞いてコウはいやな予感がした。

表情にも出てしまっていたので、それを見たシーラは少し申し訳なさそうにする。


「そのぉ、週1でいいので貴族としての礼節を教える講義をコウ師匠にやって欲しいと・・姉さんに言われていまして。

 さらに同じ弟子の中で礼節に疎い者がいたら一緒に教えるように、と」


ちらちらとマナを見ながらシーラが説明をする。

それを聞いたマナは露骨にいやそうな顔をした。


その表情を見たコウは『これは講義を受ける必要があるな』と思い、ならば自分も教えを受けざるを得ないかと観念した。


「はぁ、そっか。まぁ、こればかりは仕方ない。マナと俺はシーラに教わざるを得ないね。抵抗は諦めてくれ、マナ」


マナは嫌そうな顔をしたままコウを見つめて訴えるが、コウは黙って首を横にふる。


「えぇぇ・・わかり、ました」

観念したマナを見てシーラはほっと一安心した。


コウは姉の名前を出せばほぼ大丈夫だと思っていたが、マナに関しては強く抵抗すると思っていたからだ。


そのときはコウにお願いして強制させるつもりだったが、マナとは仲良くやっていけそうだったので

シーラとしてはそれを自分から言い出したくなかったのだ。


一方のマナは、最初は断固拒否するつもりだったが、考えてみると礼節をしっかりしておかないとこれからコウのそばに居れなくなる可能性があった。

そうなれば、任務である報告も途切れ途切れにならざるを得ない。


完璧に任務をこなす為にはやむをえないかと心が揺れ動いていたときに、師匠であるコウがダメ押しをしたので、最終的に受け入れざるを得なかった。


「それで、いつにする?」


「週の光の日は避けてその次の後光の日ででどうでしょうか?」


「そうだな、日曜は実戦練習とか大きい事をやりたいからその次の月曜ならいいかもね。マナもいいかな?」


「はぁい、いいでーす」

露骨に不満そうにしながらもマナも了承する。


「そういう話し方もすぐに指導されそうだな」

コウが面白がって指摘するとマナはすぐにふくれっ面になった。


「ごめんごめん、普段俺たちだけのときはいつでもそんな話し方でいいから。要は大事なところで使い分けられればいいんだよ」


「まぁ、確かにそうですね」


マナを少し助ける為にもシーラはコウの考えに同意した。

そしてシーラも自分が礼節の指導を受けたときのことを思い出す。


シーラが小さい頃には既に姉のボサツは戦場でも大きな功績たてており、魔道具の開発でも大きな功績たて、しかも時期家長に内定済みだったので

周囲と同じく大きな敬意を持って、シーラはボサツの事をボサツ姉さまと呼んでいた。


だが、ボサツから直接、まだ兄弟なので継承順位があるとは言え同格なのだから、兄弟間の様付けは禁止するように注意された。

その後もシーラはこの癖がなかなか直らなくて、ボサツに度々注意されていたのだ。


「それじゃ、次の月曜の午前中から礼節の指導をすると言う事で、今からは午後の修行に入ろうか」


そう言ってコウが庭へと向かうと、シーラとマナもすぐにその後をついて行った。



こうして弟子2人と侍女1人を抱えたコウの楽しい日々が続いていった。


<補足>

本編では曜日を言うシーンで交互に違う言い方をしていますが

翻訳機能のおかげであの会話でもお互い内容がちゃんと通じています。

ちなみに曜日は

『光の日=日曜、前光の日=土曜、後光の日=月曜』となっています。



今話も読んでいただきありがとうございます。

修正に手間取ったので、少し遅くなったかも・・。

弟子とのほのぼの話、というか何を書けばいいかわからない展開のない閑話みたいなお話は

これで終わり・・とはならないかも。

次はクエスをここへ放り込んだお話です。


ちょっと書くペースが落ちてて焦ってますが、次話は日曜投降予定です。

頑張りますので、これからもよろしくお願いします。 では。


修正履歴

19/09/01 曜日の会話説明を後書きに追加

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