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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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道場での弟子との初めての朝食

ここまでのあらすじ


弟子たちとの初日が終わりました。


翌朝6時頃に起きて俺は大部屋へと向かう。

既に外は明るかった・・というか夜中でも明るいんだよな、ここ。


寝ぼけ眼でふらふらと歩きながら大部屋へとたどり着く。

すでに大部屋にはエニメットがいて朝食の準備をしているようで、空腹を刺激するおいしそうな匂いが漂っていた。


昨日まではなかったご飯の炊く為の炊飯器の魔道具が台所の脇に置いてあり稼動している。

よく見れば、隠れ家で師匠たちと使っていたのを持ち込んだやつより一回り大きくなっていた。


「おはようございます、コウ様」


「あっ、あぁ、おはよほぉ」

どうも未だに様付けにぴんと来ないまま、起きぬけの気力の抜けた返事をする。


エニメットはだいぶ前に起きていたのか、てきぱきと朝食の準備をしながらも俺の視線に気を回す余裕があったようで

俺が炊飯器を見ていることに気づき話しかけてきた。


「これですか?昨日夜に届きました。事前にいただいていた炊飯器ですと4人分は足りなかったもので

 新たにお願いしていたところ早々と送られてきました。なので、さっそく使わせてもらっています」


「昨日言ったのにもう届いたの?」

「ええ、私も早くて驚きました。想定内の要望だったと言う事でしょうか?」


「どうだろうなぁ・・ボサツ師匠あたりが何か試したり企んだりしているのかもしれない。

 が、まぁ、気にしなくていいと思うよ。正直言って師匠たちの企みをまともに相手しても疲れるだけだから」


俺が呆れてるかのように言い放つと、ふらふらと俺はいつもの席に座った。

その様子を見てエニメットは困惑しながらもなんとなく理解してくれたみたいだった。


「朝食は昨日と同じ7時半ごろ?」


「はい、その予定です。特に希望もありませんでしたので、ひとまず昨日と同じ時間にしております。

 今後不都合があるようでしたら指摘していただけると助かります」


「そっか、それじゃ俺は庭で朝一の魔力調整をしておくよ。弟子たちが来て尋ねてきたら、俺は庭にいると言ってくれればいいから」


「わかりました」


「あぁ、それと後で弟子たちが大部屋に来た時間を大体でいいから教えてくれない?」


「ええ、かまいませんが・・」

エニメットは不思議そうに俺を見る。


「いや、起きてくる時間が大体わかれば、それにあわせて朝食の時間をずらすことも考えておこうと思ってさ」


「はぁ、ですがそれはコウ様が時間を指定した方が良いのではないでしょうか?」


「ん~、まぁ、それもありとは思うんだけどね。でもさ、朝はある程度ゆっくりしたい人もいるだろうし。

 もちろん時間変更するときはちゃんと話し合って決めるから、今まで習慣になってる弟子たちの朝の時間を参考までに知りたいだけだよ」


どうやら納得してくれたようで、エニメットは軽く礼をすると再び朝食の準備に戻る。

その後ろ姿を見て、俺は朝からありがとうと心の中でエニメットに感謝した。


せかせかと朝から働くエニメットの後姿をしばらく見てると、ちょっと可愛いなぁ、と思えてくる。

そして気を取り直すと、こんなこと考えている場合じゃないと思いながら俺は庭へと向かった。




朝の自主練メニューはここ1年ほとんど変わらない。


まずはずっとやり続けている2色同時発動の練習。

一応これは人目につかない時間帯にちょこちょことやることにしている。


なんせ練習方法が交互に属性を出したりするだけで地味なのと、他から見ると何をやっているのかわからないので人目を避けたいからだ。


ちなみに、師匠たちがいた隠れ家の生活でも結構こそこそと訓練していたので

師匠たちから「2色同時の練習やってる?」とよく聞かれたくらいだ。


10分ほど、相変わらず上手くいかずに交互に色を変えるだけにしか見えないむなしい練習を終えると

いつもの魔力全力展開から保持をする『瞑想』に入る。


朝調子が悪いときは徐々に魔力を動かしていき、調子がいいときは一気に保持した魔力を動かして、その時にできる最高の状態に持っていく。


暫く無色のまま瞑想を行い、風属性に変えて保持していると誰かが庭側の玄関から来る気配がした。

風属性を使っている状態だと、あえて索敵魔法を使わなくても周囲の状況には結構敏感になる。


何と言えばいいか、空気の振動が伝わってくるといった感じだろうか。

さらにはその振動に感情が乗っかってくる時もある。


空気が読める、という言い方がまさにその通りといった感じだ。

といってもそこまで鋭敏に伝わってくるわけじゃない。


相手が強い感情を持っているとわりかし伝わってくる、といった程度だ。

大体は見た目でもわかるので、大して役に立つ効果じゃないんだが。



エニメットから聞いたのか、シーラがやって来たようだったが俺はそのまま瞑想を続ける。

邪魔をしてはいけないと思ったのかシーラは暫く黙って見ていたようだが、少しすると離れた場所に座り同じように瞑想を始めた。


互いの魔力範囲が接しない程度には離れているので、お互い黙々と瞑想を続ける。

にぎやかなのも嫌いじゃないけど、こういう無言の信頼された師弟関係も結構いいよなと俺は密かに思った。



それから30分ほど経過して俺は周囲の魔力を手放し霧散させる。

シーラはまだやっていたので、一応師としてその状態を確認した。


形は昨日と同じく綺麗な球体で濃度も濃くなっている。

昨日の今日にしてかなりの出来に仕上がっていた。


やっぱり何年も魔法使いをやってきて練習を重ねている人は、基礎もそれなりに出来上がっていて上達も早いんだなと感心させられる。

が、そろそろ朝食になる頃なので声をかけることにした。


「シーラ、そろそろ朝食になるけど・・どうかな?」


俺の声に気づき、シーラが目を開けて周囲に保持していた魔力を霧散させた。

そして軽く頭を下げてくる。


「おはようございます、師匠」

「うん、おはよう、シーラ」


なんかね、ちょっと照れて笑みが漏れてしまう。


とても口には出せないことだが、シーラみたいな可愛い子に師匠と呼ばれるとどうしてもテンションが上がるってもんだ。

本当に昨日の失敗が・・って、それは考えないことにしておこう。


「それでは師匠、戻りましょうか」

「そうだね」

そう言って2人で一緒に大部屋へと戻った。




大部屋へと戻ると、エニメットがテーブルへと料理を運んでいた。

朝らしくスープやサラダ、ちょっとしたお肉に、鳥の卵にしては少し大きい目玉焼きがある。そしてご飯用の茶碗も用意してあった。


マナはまだ来ていないのかと思い部屋を見渡すと、二人掛けのソファーに横になっている。

そのだらしない姿を見てやっぱあれは俺専用にしておいた方が良かったかもと思ってしまった。


「マナー、そろそろ朝食だぞ」

「えっ、あっ、師匠だ。おはようございまーす」


マナの態度を見て呆れる俺とそれを見てちょっと複雑な表情になるシーラ。

そんな様子をエニメットはなるほどと思いながら観察していた。



朝食を食べようと席に着こうとしたとき、マナとシーラが二人とも茶碗に盛られたご飯をまじまじと見つめていた。


俺がエニメットを見ると、彼女は説明してませんよと軽く首を横に振る。


「これ何?美味しいのかな?」

「見たことないですね。うちでも出てきたことが無いので、特殊な流通ルートから仕入れたものでしょうか?」


マナはともかくとして、現在量産化を依頼しているメルティアールル家直系のシーラまで知らないとは思わなかった。

他にも説明し忘れていたことがあったので、ご飯の説明は簡単に済ませることにする。


「これは俺の住んでいたところから持ってきた食材なんだよ。今はボサツ師匠に頼んで量産化をお願いしているところだからまだ珍しいかもね」


「へぇ・・白くて綺麗でおいしそう」

マナは早速食べようと席に着いて皆を待つ。


「えっ、うちで作っているんですか?知りませんでした・・」

俺の話を聞いてシーラは驚いていた。


こっちはシーラが直系のはずなのに、同じ家の中でも情報が共有されてないことに驚いたんだけど。


「食料開発関係にはあまり携わっていなかったの?」


「私は光しか使えないので、ちょっと縁が無くて」


「へぇ、そうなのか。まぁ、とにかく食べてみてよ。口に合うかは保証出来ないけど」

そう言ったところでエニメットの準備が終ったので、みんな揃っての朝食となった。



「じゃ、いただこうか」

そう言って俺はいただきますと手を合わせたが、マナとシーラはそれを見て不思議そうにしていた。


そして俺の掛け声で4人一斉に朝食を頂く。

ちなみに俺だけが箸を使っていて、他の3人はフォークを使っている。

俺はどうしてもフォークでご飯を食べる気がしなかったので、隠れ家の時に作ってもらった箸を使っている。


食事が始まると、マナとシーラはすぐにご飯に手を付けた。

このご飯はボサツ師匠と家に所属する研究者によってかなり改良されてたものだ。


ここ数ヶ月で米の質も初期のものと比べてかなり上がったらしい。

簡単に説明されたが、要は土壌と水質の改良だそうだ。


それに炊飯時の魔道具も、俺の適当な圧力釜の話から改良を重ねたらしく、今ここにある炊飯器は5代目だそうだ。

そういった改良から今出されているご飯は、既に俺がかつて地球で食べていたときよりも美味しくなっている。


まぁ、自宅にあった安物の炊飯器よりは美味しくなっても当然なのかもしれないが、メルティアールル家の技術力は思った以上だなとすごく感心させられた。



そんな改良を重ねたご飯をマナとシーラは真っ先に口に運ぶ。

2人とも口に入れると、一瞬間をおいて少しだけ感心したような表情になった。


「ん、ん~、ちょっとべたつくするけどほのかな甘みも感じますし悪くないですね。物足りない味と言えなくもないですが」


シーラは感想を述べると更に何回かご飯を口へ運んでいる。

ご飯が受け入れられるか心配していたが、おおむね満足してもらえているようで個人的には嬉しい限りだ。


日本人ならご飯単体でも十分美味しく感じるが、いい物を色々と食っているであろう貴族様に及第点をもらえるなら

この世界でもご飯の価値はある程度保障されそうだと言えるだろう。


「ん~、これ結構いける。サラダと一緒に食べると両方味が薄くていまいちだけど、スープとの相性は悪くないよ。塩味に合うのかな?」


マナは単体の評価など目にもくれず、既に食べ合わせをどんどん試していた。

単体の味は満足したのかわからないが、さっさと他を試すところがマナらしい所だろう。


さすがに葉物野菜の上にご飯を置いて包んで食べたときは、それ美味しくないだろうにと思って見ていたけどね。


「おっ、これ肉にも合うね。どんどん食べれるよ」


マナは今度はウサギの肉とご飯の組み合わせが気に入ったらしい。

肉物にご飯は欠かせない派が増えてみたいで、俺としては嬉しかった。


「しかもこの肉の味付けがまたご飯と合う合う。エニメットすごいね~」


「なるほど、塩味系統にはかなり合いそうですね。このご飯と言うものは」


マナの発言にシーラも真似して食べてみて、それなりに納得していた。

たしかボサツ師匠がふりかけも作ってみると言っていたので、今度進捗を確認しておこう。


「俺がいたところではこれが主食だったからね。それなりに口に合ったようで良かったよ」


「うーん、ボサツ姉さんはこんな事も・・」


シーラが独り言のようにつぶやきつつボサツ師匠に感心していたのが、なんか俺も嬉しかった。

師がすごいと思われると、なぜか弟子の俺も嬉しくなってしまう。


となると、俺も少しは尊敬されるような存在にならないといけないか。

そう考えると、ちょっとだけ気が重くなった。


まだ、ほのぼの回です。平和な日々っていいですね、書きづらかったりしますが・・。

今話も読んでいただきありがとうございます。

次話は金曜更新予定です。


誤字等の指摘や、感想や評価、頂ければ幸いです。

ブクマもいただけると嬉しいです。では、次話も頑張りますます。

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