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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウ、師として実力を見せる

ここまでのあらすじ


マナに実力を見せつけたことでコウは弟子たちにちゃんと師として見られることになった。

そしていよいよ修行が始まる。


マナ達が修行を開始して1時間が経過した。

さすがに何年も魔法使いとして過ごしてきただけあって、なんだかんだ1時間魔力を保持し続けられたようだ。


「はい、1時間経ったから開放していいよ~」


俺の合図を待ってましたと言わんばかりに2人とも周囲に維持していた魔力を開放し霧散させ地面に座り込む。

シーラはどうでしたかと俺の方を疲れた目で見つめるが、マナは疲れきって地面を見つめていた。


「結果は、シーラが84%とこの状況が初めてにしてはすごい結果だね。マナは78%とまだ慣れが必要か」


「ふぇい、次はがんばりまぅ」

マナはその指摘に力なく返事する。



俺は結果と2人の様子を見てしばらく考え、次の課題を告げる。


「よし、10分ほど休憩したらもう一度同じことをやるから」


「えぇ~」

「えっ、うそ・・」


「うそじゃない、もう1回。その次は魔力操作の具合を見て終わりとしよう」


俺の言葉にマナは疲労しきった表情で訴えるものの、スルーする。

シーラは反論する気力がわかなかったのか、諦めてただ受け入れたのか黙ったまま口を開けていた。


ちょっとかわいそうだとは思うものの、基礎はとにかく大事と自分が教えられたことを思い出し、ここは心を鬼にする。

だが、マナは一矢報いたかったのかとある提案をしてきた。


「師匠、だったら師匠も一緒にやりませんか?」


これだけきついんだから師である俺も一緒に巻き添えにして、苦労を共に味合わせようという魂胆だろう。

よしんば俺がマナと同じように苦痛を味わうとしても、師匠の修行プランとして口に出した以上引っ込めるつもりはないんだけどなぁ。


まぁ、俺にとって瞑想という魔力展開の修行は、毎日朝に夕方にと30分から長いときは1時間以上やっていることだ。

マナの期待には悪いが苦痛ではないので、例を見せることも大事かと思い、マナの意図を理解したうえで快諾した。


「そうだな。(朝もやってたんだけど)俺もやろう。2人がやってるのに俺だけ魔法書読んでるのもなんだし」


そう言って測定用の魔道具を取りに道場内の物置に戻り、自分の横へと置いた。

マナはこの苦痛を師匠にも味わってもらい、これからも続きそうなこの修行を変更してもらえるんじゃないかと心の内では喜んでいるようで、少し笑みが漏れている。


シーラもマナの意図に気づくが、コウ師匠の快諾に一抹の不安を覚えつつ状況を見守ることにした。


同じような修行は上級魔法学校でも行われているが、せいぜい5分とかだったので、これを機に時間を短くしてもらえればラッキーかなくらいに考えていた。


そして10分の休憩はあっという間に過ぎ、再び瞑想による魔力維持の修行が始まった。


「あ、そうだ。その魔道具はさっきの全力を100%として表示するから、最初から手を抜くとタイマーが動き出さないからね」

コウの指摘を聞いてマナが固まる。


手を抜いてはいけないよ、という俺の視線ににマナはちょっとむっとしたが

何ならむしろ全力を見せつけてやると言わんばかりマナの心は燃え始めた。


弟子たちのやる気にちょっと嬉しくなりながら、俺は<空気の板>で地面からちょっと浮いたところに座るための台を作ると

そこに胡坐を組んで座り10秒ほど全力で魔力を展開しつつ、周囲にその魔力を押しとどめて保持する。


綺麗な球体と自分よりはるかに濃い魔力を維持しているコウの様子を、2人はただ茫然と見つめていた。


「100%にならないと始まらないから、自分のタイミングで初めていいよ」


始めない2人に目を閉じたままそう言うと、自分のことに集中し、球状に維持した自分の魔力を形を変えず内部でグネグネと動かし始める。


もしかして、あれを出来るようになるまでこれって続くの?と驚きつつも、2人は何も言葉を発することなくコウの様子にくぎ付けになっていた。


少しして我に返った2人は、魔力を展開し1時間の魔力維持の練習を始める。

2,3分したころ、俺がやっていることにマナはかなり興味をひかれたのか、維持している魔力を少しずつ動かしてみる。


だが、まだ綺麗とは言えない球形がさらに歪みだし、すぐにダメだと思って動かすのをやめ形を修正する。

それでも生来の負けず嫌いが出て諦めたくなかったのか、その後もマナは魔力を動かそうとして失敗し、崩れた形を修正する行動を繰り返した。




単に魔法使いと言っても、戦場では色々と役割が異なる。


大きく分けると3つあり、部隊の先頭に位置し近距離で敵とぶつかる者、近距離隊の後ろに位置し補助や回復や防御をサポートする者

そして後列に位置し遠距離から相手の先頭を攻撃する者に分けられる。


一般的な貴族はその辺の兵士より強力な魔法が使えることから、ほとんどが後列に位置し遠距離魔法を使うことが多い。

もちろん近接戦もこなせるよう訓練しているが、実際には護衛が剣や盾となり貴族は援護に回るのがほとんどだ。


高LVの魔法が使え貴重な戦力である貴族を前線で使うのは、相手の雑魚を排除するにはとても効率的なのだが

その分危険が多く、負傷や死亡による戦力喪失というリスクが大きすぎるので、結局戦場で貴族はほとんど先頭に配置されることはない。


だが、今やっていることは前線にいてこそ効果が最大限に発揮される修行だった。


後方配置となると、魔力展開や魔力操作が遅くても十分な準備や詠唱時間を確保できるので、コウがいまやっているような練習は殆ど行わない。

つまり後列に位置する貴族たちにとって大事なのは、時間をかけてもいいので如何に強力な魔法を覚え、使えるかなのだ。


今までそう言った遠距離での立ち回りを鍛える方向に注力していた為に、シーラは上級魔法学校を出たにもかかわらずコウの修行に苦戦しているのだった。




1時間して終了の合図が鳴り3人とも力を抜き周囲の魔力のコントロールを手放して霧散させる。


「はひぃー、しんどーい」

マナが疲れ切った表情で座り込んでいる。


「これは、きつい。周囲の魔力が、回復、しないし」

シーラは立ったままでいるが文句を言って疲労を隠す余力もないようだ。


「お疲れ様。今日の修行はこの辺でやめておこうか?」

2人の様子を見て、さすがに俺も早急に修行の段階を勧めなくてもいいかなと思ってしまう。


「いや、まだ、やる・・」

「私も、大丈夫、です」


疲れているにもかかわらず、2人とも俺の申し出をきっぱりと断ってくる。

2人の状態が少し心配になったが、本人たちがやるという以上ここで終了とするわけにはいかないだろう。


とは言え疲れきっている状態で魔力操作を磨く修行をやっても、コントロールに集中できないだろうから、俺は他の方法を考えることにした。


少し考えている間にマナはだいぶ元気になり、シーラも何とか調子を戻してきた。

その回復の早さに俺は驚いた。


「2人とも回復早くない?」


「だって魔力を維持しただけだもん」

「はい、マナさんの言うようにあくまで一時的に魔力を維持して疲労しただけですから」


コウが魔力を維持して疲れきったのは最初のころだったが、その時は魔力にまだ馴染んでいない頃だった。


だが、弟子のマナもシーラも魔力を身に着けて何年もたっている。

その為コウの感覚と弟子たちの状態に差異が出たのだ。


二人ともタフだなと思いながら、俺は次の指導に移ることにする。

今度は単純に共通魔法である<〇の槍>の型を魔道具を使ってチェックし、魔法効率の良さと早作りを目指す練習だ。


最初にコウが5回ほど型を作って参考タイムと参考スコアを見せて、弟子達に同じようにやらせる。


シーラは落ち着いて型を完成させ魔力を充填し始めては魔道具に表示される結果を見る。

その行為を同じテンポで何度も黙々と繰り返す。

少し真面目過ぎる優等生タイプみたいな練習の仕方だった。


対してマナは、何とかコウの出した早さの参考記録を追い抜こうと急いで型を作って魔力を流す。

何とかコウと同等の速さで型を作るが、効率の方のスコアがあまりに低く注意される。


「マナ、効率61点とかもはや初心者レベルだぞ。早けりゃいいってもんじゃないんだから」

「はーい、わかってます」


そう言うと不満そうな表情はすぐに消え、マナは真剣な表情で効率重視に切り替えて型を作り始める。

負けず嫌いで意固地かと思いきや、意外と柔軟に対応するのを見て俺は驚かされると同時にマナを見誤らないようにしなきゃと心に刻んだ。




昼食後、庭に出てから修行の指導を開始して既に3時間以上経過していた。

そろそろだなと思い、俺は一緒にやっていた型組の練習を止めて、弟子たちを見る。


「さて、今日はこの辺で終わりにしよう。せっかくの食事を疲れ切った状態で食べるのもなんだし」


俺のかけ声に気づき、2人も練習を終了した。


「初日で俺も色々と足りないところがあったと思うけど、どんどん良くしていくつもりなので、思う所があったら遠慮なく言って欲しい」


俺の発言にマナはきょとんとするが、すぐに笑顔で

「今のところ自分のことでいっぱいいっぱいだから・・よくわかんない。でも、これからもよろしくお願いしまーす」

そう言って先に道場へと入っていった。


調子狂うなと思いながらマナが入っていった庭への出入り口になっている玄関を見つめる。


表玄関に比べれば道場内の人間しか使わないためか小さい作りになっているが、全面<水の清浄>が発動する1枚石の土間がきちんとあり

門構えも小さいながらしっかりしていてちゃんとした玄関と呼べるものになっている。


マナが行ったのを見計らったのか、シーラがコウに近づき話しかけてきた。


「師匠、後で相談があるのですが聞いていただけませんか?」


「いいよ。そうだな・・食事の後でもいい?」


「はい、そんなに長くはかからないと思いますのでよろしくお願いします」


丁寧に頭を下げるシーラを見て俺はちょっとだけ師として認められた気がして嬉しくなった。


「今日はありがとうございました。明日からもよろしくお願いします」

そう言うとシーラも庭側の玄関へと走っていった。


俺はその様子を見守ると、少し相談のことを不安に思いながらも、一旦休憩がてら自分の部屋へと戻ることにした。


今話も読んでいただきありがとうございます。

まだまだのほほん回は続く予定です。


さすがにこのペースは少ししんどかったので・・次の更新は水曜予定です。

ちょっとペースが遅くて申し訳ないですが、よろしくお願いいたします。

お時間があれば、ブクマや感想、誤字指摘など頂ければ幸いです。

時間がいただければもっと嬉しいですが・・それは私の問題でした。


あと、タイトルの名づけが微妙につらくなってるこの頃。

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