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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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コウ、初めての指導

ここまでのあらすじ


自己紹介を終えたコウとマナとシーラ。

その過程で魔法LVが3人とも同じだと発覚し、マナはコウに互いの実力を確認するため試合を挑んだ。

属性の不利もあってか、マナはコウに敗北し、コウを師匠として認めることとなった。



今回のマナから仕掛けた試合は、当然マナがコウの実力を調べるという思惑があってのことだった。


もちろん発言していたように、コウの実力次第ではあまり師として尊敬できないという部分も本心だが、マナがここに来た本来の目的はコウの実力調査とその報告だ。

当然早い段階で実力を知ることができる機会が欲しかったマナは、自然に調査できるこの状況に飛びついたのだった。


その結果、マナは自分自身がコウに比べて魔力展開力、型を組む速さの2点では明らかに負けていることを痛感させられた。


多分コウが同じ火属性しか使えない魔法使いだったとしても、じわりじわりと押し込まれていた可能性が高いとマナは考える。

そしてこの時から、マナはコウを師匠として少しずつ尊敬し始めた。


少々無鉄砲な所もあり、陽気であまり考えていないように見えるマナだが、割とまじめで素直に敬意を持つタイプでもある。

そしてこの時から抱いたコウへの尊敬が、マナのこれからの人生を変えていく要因になったことを、この時のマナはまだ気づくはずもなかった。



マナとの戦いを終えて、コウは縁側で見ていたシーラに声をかける。

「どうだったかな?少しはこれで・・俺を師として見れそうかな」


ちょっと恥ずかしげに、ちょっと自信なさげにコウはシーラに問いかけたが、シーラは少し驚いた表情で黙ったまま首を縦に振る。

コウはなんか変な反応だとは思いつつも、まぁ同意してくれたしいいかと思って、縁側に上がる段差用の石に両足を乗せた。


石が水色に光ると<水の清浄>の効果が発動し、コウの足の裏が綺麗になる。

マナとシーラがその仕掛けを見て軽く驚いていた。


隠れ家でも玄関にあった仕掛けとほぼ同じだが、ここでは庭に出るための玄関以外に縁側からも直接道場内に上がれるため

縁側から出入りしても問題ないように、こういった石が複数配置されている。


「マナもちゃんとこの石を踏んで縁側に上がるように。じゃないと縁側が汚れてエニメットの仕事が増えてしまうからね」


「はーい、了解です」


マナが元気に返事するとそれを聞いたコウは安心して大部屋へと戻っていった。




食事の用意ができ、3人が椅子に座る。

エニメットが気を使ったのか、席に着かずに離れた位置に立っていたのでコウは手招きをした。


「エニメットは俺の隣の椅子が定位置ね。ほら、自分の分の食事も用意して一緒に食事をしよう」


コウの呼びかけにエニメットは戸惑いつつシーラを見る。

シーラはまさか侍女と一緒に食事をするのかと驚いて、エニメットとコウを交互に何度も見返していた。


さすがにコウもその様子に気づき、エニメットに話しかける。


「あぁ、正直シーラには違和感しかないだろうけど、俺としてはエニメットとも一緒に食事をしたいんだ。彼女だってここに必要な仲間だからね」

コウがそう言うと、シーラは少し考えたうえで同意した。


「分かりました。でも、マナさんは・・いいんですか?」


「うん、全然問題ないよ。みんなで食べた方が楽しいと思うし」


確認の為なのだろうか、マナが味方になってくれると思ったのだろうか、シーラはマナに確認したが

マナは平気というよりむしろ好意的に受け止めたように同意した。



ちょっとわだかまりが出来たかのように見えたが、食事に手を付け始めるとマナもシーラも満足げな表情になる。


「これ、おいしい!エニメットすごいね」


「ありがとうございます」

マナが少しはしゃぐように喜ぶと、エニメットはちょっとだけ照れていた。


「確かにこれはおいしいですね」

マナだけでなくシーラも食事の内容に満足そうなので、これなら関係悪化はなさそうかなとコウはほっと一息ついた。


と同時に、仮にも食料関係に強いメルティアールル家のお嬢様が合格点を出すぐらいなので、エニメットの料理の腕って結構すごいんだなとコウは感心した。


「ねぇ、師匠」

「ん、何?」


マナが話しかけてきたのでコウは食事の手を止める。


「ここってアイスは置いてあるの?」

いきなりの発言にコウは戸惑いつつ答える。


「ア、アイス?えーっとあったかな・・エニメット、どう?」


「いえ、置いてはいませんが、冷凍保存用の倉庫も冷凍庫もありますので多めに買い置きしておきましょうか?」


コウは少し考えたが、マナも欲しがっているし自分も食べてみたかったのでお願いすることにした。


「じゃ、頼むよ」

「分かりました。では発注しておきます」


それを聞いたマナはすごく嬉しそうにしていた。

隣にいるシーラもこっそりと喜んでいる。


発注という言葉で推測できるが、現状では食材や他の道具の買い出し等をエニメットが行うことはほとんどない。

それはエニメット不在時に来客があった場合、簡単には表に出せないマナやコウが出るわけにはいかず対応できるものがいなくなるからだ。


当然ながら何度もエニメットに追い返されれば、エニメットがいないときに訪問する者も出てくる可能性だってある。

そんな隙は作らないように、エニメットは可能な限り道場に常駐することとなっている。


なので、外出しなければできない買い出しなどは、隣にある占有地に常駐しているアイリーシア家の侍女達が行っているのだ。



ほぼ食事も終わり、エニメットが立ち上がって全員分の皿を片付け始め、コウはエニメットに今日のこの後の予定を確認する。

その様子をマナはぼーっと見つめていた。


マナはコウを見ながら先ほどの試合を思い出していた。

確かに水や風の属性は、火属性のマナにとって不利な相手なのは間違いない。


だが単なる属性だけの問題ではなかった。

マナから見て、コウは接近戦にも相当慣れているし、手数は多い上に早いし、様々な面で自分より上をいっていた。


この人に付いて行けば本当にもっと強くなれるのでは・・そんなことを考えマナは急に立ち上がる。


「コウ師匠、私、もっと強くなれますよね?」


突然立ち上がって、いきなり強くマナに言われたのでコウはマナを見たまま少し固まった。


「あ、あぁ、そうだね、とりあえずこれから・・頑張っていこっか」

唐突過ぎて話の前後がわからないコウは、とりあえず無難に言葉を返す。


「はいっ、それじゃ先に庭に行ってます」

マナは戸惑いながらも答えてくれたコウの言葉が嬉しかったのか、笑顔で庭へと駆け出して行った。


その様子をコウとエニメットは、何が起こったのか理解できないまま呆然と見つめていた。

シーラは少し目を細めて、マナの唐突な行動に首をかしげていた。


「コウ様、ひとまず修行の指導に入った方がよさそうですよ。何かありましたらまたお呼びください」

そう言ってエニメットは台所で皿を洗い始める。


コウは仕方ないかとため息をつきつつ、シーラに声をかけて昼からの修行のために庭へと向かった。



◆◇



いよいよ俺が師匠となって初めての指導が始まる。

先ほどのマナとの戦いを考えながら、庭に出て今一度指導方針を考える。


マナの魔力展開が緩い事、それにシーラの反応から、まずは俺自身がじっくりやらされた基礎の基礎である瞑想をやることにする。

クエス師匠にはこれが全ての応用に関わる大事な基礎だと何度も言われてきたからだ。


その後やるとしたら魔力の正確な動かし方や、型の早組だろうか。

ふと悩み過ぎかと思いマナとシーラに目を向けると、2人はじっとこっちを見ていた。


「ご、ごめん、ちょっとどういう修行をしようか考えてて」


「はい、それならまた試合やりたいです。試合やりましょう、師匠」


マナは元気に要望をぶつけてくるが、そのおかげで俺はマナの今までの鍛えてきた過程を何となく把握できた。

さっきの試合でマナの魔力の扱い方を見ていたが、要点は抑えていつつも各所に欠点が見え隠れしていた。


魔力の展開も濃度が薄いし形もある程度対応はできていたが不安定、型を組む速度も魔法によって早かったり遅かったりと洗練されていなかったからだ。


「うーん、シーラはどうしたい?」


「私は上級魔法学校で一通り学んできましたが、それでも師匠の実力は素晴らしく学ぶところがあると思いました。

 まずは、少しでも師匠に近づけるように教えに従いたいと思います」


シーラは真っ直ぐ俺に敬意を向けてくる。

これはこれで照れるので苦手だなと思いつつ、俺は返事に困って「そっか」とだけ返しつつ思わず目を逸らした。


「それじゃ、まずは魔力操作の基本である魔力展開からやってみよう。楽な姿勢で集中して、限界まで魔力を出して、それをそのまま維持してみて」


俺の指示で、マナとシーラは立ったままそれぞれ自分の周りに出来るだけ魔力を展開し保持する。

限界までと言われたからか、2人も結構つらそうにしつつその状況を維持し続けた。


シーラは割ときれいな球状に魔力を展開し維持していたが、球体内の濃度は一定になっておらずばらつきが目立つ。

一方マナは全体の濃度はある程度濃いものの、球状ではなくゆがんだ形をしていた。

特に腹部や胸部と頭の周辺が厚めになっている。


一見するとずいぶんいびつな形だが、すぐに大事な部分を厚めにしているということが分かり

マナは実戦でこの形に行きついたのかなと思わされた。


とは言え手足をおろそかにしていては、じりじりと削り合う戦いには負けてしまうので、やはり基本の球状の魔力展開こそが理想だと思う。

俺はクエス師匠から教わった通り指導することにした。


「まずはマナ、魔力の展開範囲は出来るだけ球状にする事。重要個所を守るのは展開した魔力を動かすことでやった方がいい」


「師匠、私はちゃんと球状にも展開できますよ」


不満そうに反論すると、マナは展開している魔力の範囲を調整する。

確かにさっきよりは球状に近づいたが、まだまだ綺麗な形とは言えない。


「まだ歪んでる。俺が魔力でゆがみを調整するから、マナは魔力が押されたらそれを受け入れつつ維持してみて」

「えっ、ちょっと、えっ・・」


俺は最初のころボサツ師匠にやってもらったことを思い出しながら、慎重にマナの展開範囲を押したり削ったりしていく。

マナは戸惑っていたが、コウは有無を言わさずマナの展開している魔力範囲を調整して球状に仕上げた。


「この感覚、この範囲、ちゃんと覚えておいてね」

「う・・・はい」


「シーラは形は綺麗だけど魔法LVから言ってその濃度は低いと思う。霧散させないように押さえつけながらもっと魔力を範囲内に出してみて。

 きっとコントロールできるはず」


「えっ、もっと・・ですか?わかりました・・」


内心無理だと思いつつシーラは魔力を出しつつ、出した魔力が扱えなくなり霧散しないよう必死に維持し続ける。

それを見たマナも対抗心を燃やしたのか、もう少し、もう少しと魔力を展開しつつ維持し続けた。


その様子を見てやっぱりこの子たちはすごいなと思う。

比較できる対象が、魔力を扱えるようになったばかりの時の自分なので、すごく見えるのは当たり前かもしれないが。


そう考えているうちに、2人ともさらに少しずつ周囲に魔力を追加していく。

先ほどよりはかなり周囲の魔力が濃くなってきたことから、それを維持し続けるのが辛くなり、マナもシーラも表情をゆがめた。


様子を見る限り、現状ではそろそろ限界だろうと思って俺は魔力の追加にストップをかける。


「2人とも、魔力の追加はその辺でいいよ。あとはその状態を維持すること、そうだね・・まずは1時間頑張ってみよう」


「え、えぇ」

「無理・・です」


2人とも今が精いっぱいなのだろう、無理だと訴えると同時に周囲に維持していた魔力がわずかに霧散していく。

俺はその言葉を聞かなかったことにして、椅子と魔道具を取り出すとその場に置いて椅子に座った。


魔道具はタイマーが付いていてさらにシーラとマナの展開している魔力を測定し始める。

10秒ほど経ち、1時間のタイマーが減り始め、それと同時に100%という表示される。


「では、今から1時間。ちなみに途中での魔力追加は禁止。1時間後に90%は維持しておくのを目標にしよう、それじゃ、頑張って」


コウはそう言って魔法書を取り出すと読み始める。


「ちょっと、ずるいですよ、師匠」


マナが愚痴るとともに集中力がそれたのか、魔力が一部霧散していく。

表示されている数字が100%から少し減ると、マナは慌てて維持することに集中することに意識を戻した。


10分も経つとマナもシーラも苦しそうに苦悶の表情を浮かべる。

俺はその情景を見て何かいやらしいことをさせているのではと思ってしまうが、首を左右に振って気分を落ち着け再び読んでいた魔法書に視線を戻し、時間が来るのを待つことにした。


少々まったり話が続いてますが、今話も読んでいただきありがとうございます。

やはり2日に1回を維持するのはなかなかきついですね。

と言いつつ、次話は日曜日に更新予定です。

頑張るところは頑張らないと。


ブクマ・評価・感想やご意見など、何か頂ければ嬉しいです。では。


魔法紹介


<水の清浄>水:綺麗にする魔法。汚れ部分を水に吸わせて洗い流す。その部分は濡れたままにならない。風と光にも似た魔法があるが、微妙に違いがある。

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