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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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自己紹介と腕試し

ここまでのあらすじ


弟子を2人得たコウは、まずは昼食前に自己紹介を計画する。


全員席に着いたところで、コウの指示のもと自己紹介が始まる。


「じゃ、自己紹介を始めよう。まずは俺からね。俺の名前はコウ・アイリーシア、一光様であるクエス師匠に認められて準貴族になったけど、まだ1年くらいしか経っていない。

 魔法は第1属性が風でLVは37・・まぁ、その反応通り2人と同じLVになる。あとは・・えーっと、とにかくみんなで強くなっていこうと思うのでよろしく頼む。以上かな」


コウが挨拶を終えると、マナはへぇ~って感じだったが、シーラは少し不満そうな顔をしていた。


隣にいるエニメットは、コウが師匠らしい威厳を欠片も見せないので困ったものだと呆れていて

それを見たマナは、少しおかしくなったのか笑みがこぼれ始めた。


だがコウはそんな変な空気に気付かずに上手くできたかなと少し不安になりつつも、頑張ってぎこちない笑顔を振りまいていた。


「師匠、師匠、はいはーい!」

マナが少し前かがみになりながら右手をまっすぐ上げる。


「ん?どうした?」

「ちょっと聞きたいこととお願いがあるんだけど・・」


「それはちょっと待って、まずは自己紹介をさっと済ませようよ」

コウの提案にマナはちょっとだけ考えて手を引っ込める。


「じゃ、次私が行きまーす」

そう言うと、マナは自己紹介を始めた。


「私はマナ、家はなくなっちゃったので家名もありません。えっと、火属性の魔法使いでLV37・・師匠と一緒です」


マナは終始笑顔でシンプルな自己紹介を終える。

続けてシーラが軽く手を挙げて自己紹介を始めた。


「私は・・シーラ・メルティアールルと申します」


そう言うとシーラはコウに向かってゆっくり頭を下げる。

不意を突かれたのか、コウはびっくりして少し固まっていた。


「私はコウ師匠の師であるボサツ様の妹であり、メルティアールル家の第9王女なります。得意な属性は光でLVは37になります。

 コウ師匠、これからはよろしくお願いいたします」


丁寧に終えたシーラの挨拶にコウも『よろしく』と軽く頭を下げた。

そしてコウがエニメットを見るとエニメットは軽く頷き、席を立って自己紹介を始める。


「私はここの道場の管理やコウ様、弟子の皆様の生活をサポートさせていただくエニメットと申します。

 必要な物や、やっておいて欲しいことがありましたら遠慮なくお申し付けください。皆様が修行に集中できるよう全力を尽くします」


「あっ、そうそう、エニメットはここでの生活サポートをしてくれる侍女だけど、俺の専属でもあるので、一応そこは理解をよろしくね」


コウが補足説明としてそう言い終えると、シーラは少し驚いていた。

そしてシーラは今の現状を理解した。


自分はメルティアールル家の代表として、そしてエニメットがアイリーシア家の代表としてコウを自分の所に引き込む役目を負っていると。

でも、それなら隣にいるマナは一体何なんだろうかとシーラは疑問に思う。


シーラがマナを見るので、それに気づいたマナは視線を合わせ何か用かな?と首を傾けた。




「じゃ、簡単な自己紹介も終わったし質問に入ろうか。まずはマナが聞きたいことあるみたいだしどうぞ」


シーラとマナのやり取りを中断させるようにコウが発言する。

すると先ほど質問を止められたマナがすぐに反応した。


「師匠、いいですか」

「いいよ、何?マナ」


「えっと、ぶっちゃけ師匠と私と、その上シーラさんも3人とも魔法LVって同じじゃないですか」

「そうだね」


まぁそこを突いてくるだろうねと思いながらもコウは答える。


「ただ強さって、魔法属性のLVが高ければ決まるって訳じゃないと思うんです」

「まぁ、俺もそう思うし、そう思ってもらえるのは助かるよ」


「それで是非、私に師匠であるコウ様の実力を見せて欲しいです」


「あぁ、なるほど。確かにLVは一緒だし気持ちはわかるけど、昼食後に修行を始める際、確認しながらじゃダメかな?

 LVが一緒だとわかった時点で御互い教えあえるところは教えあおうと思っていたし」


コウがそういうと、エニメットは何か言いたそうにして顔をしかめた。

シーラはある程度納得した表情だったが、マナはまだ少し不満そうにしている。


「んー、だけど、私としてはちゃんと実力を見てそれに沿った経緯で修行したいし、じゃないともやっとします」


またずいぶんな事を言うなとシーラはマナを見ていたが、ふとコウ師匠を見るとコウは苦笑いしていた。


どんな経緯があったとしても、師匠はある程度師として尊敬するのが貴族の魔法使いにおいての一般的な考えだ。

それが出来ないのなら最初から弟子になどなるべきではないからだ。


その辺を軽んじるのはどちらかと言うと荒くれ者の傭兵たちであり、貴族は高貴な立場ゆえに上下関係を守るべきだ、シーラはそう教えられ、そう思っていた。


だがコウ本人は違ったのか、少しの間考え込んでいたが、意を決したのか顔を上げるとエニメットに尋ねだした。


「エニメット、昼食までにあと30分くらい時間もらえる?」


「はい、構いませんが・・え、まさか」

少し困った表情でエニメットは答えた。


「そうそう、ここまで言われるとね。俺も師として見せるものは見せておかないとと思ってさ」


そう言うと、手を伸ばしとめようとするエニメットを無視して、コウはマナの方を見る。


「よし、昼食前にマナと俺で軽く試合をやろう。それで互いの実力を確認し午後の指導に生かすことにしよう。

 シーラはどうする?マナとの後に俺と1戦やってもいいよ」


「い、いえ、私は遠慮させてください。コウ様はあくまで師ですから。

 ただ・・せっかくなのでマナさんとコウ師匠の試合を見てどこを指導して頂きたいか考える事にします」


さすがにシーラは互いの立場を重んじて辞退したが、マナは早速腕試しが出来ると喜んでいた。

コウは少し嬉しそうに、少し困った顔をしつつもすぐに気持ちを切り替えて気合を入れる。


そして大部屋の側面の壁に近づき魔力を込めると大部屋の壁が下に落ちていき、目の前に通路を兼ねている縁側と練習用の大きな庭が現れた。

コウは縁側から裸足のまま段差を軽減する石を1段挟み、庭に出るとマナに話しかける。


「マナは武器は剣でいいの?」

それを聞いたマナは早速戦えると思ってすぐに席を立ち、同様に靴下を脱いで裸足になると一気に庭へと飛び出した。


「はい、剣が一番使いやすいので、それで」

「そっか、じゃ、これを」


そう言ってコウは木剣を庭に飛び出してきたマナの足元へと投げる。

マナはそれを拾うと魔力を流して、なかなかの代物っぽいと驚きながらコウの正面へと回った。


いきなりもうはじめるのかと思い、シーラは慌てて縁側に座って2人の試合を見守る事にする。

エニメットは呆れかえって遠くにいるコウに対して軽く頭を下げると、試合を見ることなく食事の準備へと戻った。


「あんまり無理しないでいただけると、私としては助かるんですが・・」


がっくりとしながらも、エニメットは4人分の器を用意し始めた。




「んじゃ、コウ師匠行きますよ」


マナが意気込んで魔力を展開し始める。

それを見ながらコウも1テンポ遅れて魔力を展開し始めた。

その様子をシーラがじっと見つめる。


マナはどちらかと言うと力任せに近い魔力の放出の仕方だったが、コウは自分の周囲に濃く魔力を集めるように展開する。

マナのような魔力の展開は上級魔法学校でもよく見るが、コウのような綺麗に濃く展開するのは先生の見本でもなかなかお目にかかれないほどだった。


「おぉ、コウ師匠すごい・・」

2人の違いを見たシーラは思わずシーラは声に出してしまった。



「行きますよ、師匠」


マナが嬉しそうに言うと<火の槍>を1発、また1発とコウに向けて放つ。

30cmくらいの真っ直ぐで先端のとがった火の塊がコウへと飛んでいくが、<風の強化盾>を動かしながら1発、また1発と止めていく。


風の盾に止められる度一瞬大きくほのが広がるが、あくまで障壁の向こう側なのでコウには何も影響ない。


「これくらいじゃ全く効かないよね、じゃ、これなら」


そう言うとマナは魔核を沢山出して型を組み始める。

コウはそれを妨害せずに、自分に<疾風>をかけ、防御魔法をストックしつつ慎重にマナの作る型を見極める。


が、その間もマナが作っている魔核は40個、50個とどんどん増えていく。


「げっ、これってちょっとやばいやつじゃない?」


コウは危機を感じて対抗するための魔法を詠唱し始める、がマナは型を完成させ自分の魔力を使って一気に充填し発動までもっていった。


「これが私の本気の一発、行け<散弾爆>」


直径10㎝程の高魔力の塊がコウの方へ飛んでくる。

コウは対抗策として<破壊の風>を発動させた。


強烈な風が発生し、マナは思わず吹き飛ばされるのを防ぐため地面に手をついて体勢をかがめる。

シーラが観察していた縁側付近には、即座に強力なシールドが屋根から地面の間で発生し被害を防止した。


魔法障壁が自動で展開することを知らなかったシーラは、かなりの危険を感じて慌てて目の前に2枚の<光の強化盾>を張ったほどだった。


マナが放った魔力の塊は逆風の中を少しずつ進むがなかなか前には進めず、しばらくすると突然7つに分裂し、それぞれの塊の後ろ側で爆発を起こしてコウの近くまで接近する。


「ちっ、これじゃダメだったか」


コウは愚痴るとすぐに<風の槍>を4本作り、逆風の中さっきよりも順調に進んでくる分裂した魔力の塊4つに風の槍を当てた。

風の槍が貫いたとたん、ドンという爆発音とともにそれぞれが直径1m超の球体に広がり高熱を放つ。


と同時に、残った3つがコウを巻き込める範囲へと近づいた。

「やばっ」


コウは後ろに倒れるような姿勢になると、足裏に<加圧弾>を使い斜め後ろに吹っ飛ぶ。


「よし、今なら」


とマナが3つの塊を爆発させるが、コウの方が対応が1歩早く、ギリギリのところでその場を脱し、コウの周辺魔力を削るも直接ダメージを与えることはできなかった。


「え、今のを避けられた?」


とマナが驚いている中、コウは飛ばされながらも<風刃>を2はマナへ向けて飛ばし、背中から地面に着地する。

飛んできた風刃をマナは<火の強化盾>を張りつつ、魔力を込めた木剣で障壁を貫通してきた2発とも受け止め、すぐ反撃をと魔力を放出しつつ型を作り始めた。


だが、コウは既に起き上がって<加圧弾>と疾風の効果で一気にマナへと距離を詰める。


「ちょ、風使いって早すぎ」


マナは少し慌てつつもコウとの間に<炎の壁>を作り、突っ込んでくるコウを炎上させようとする。

それを見たコウは炎の壁の手前にとっさに<受け壁>で空気のクッションを作り、火の中に突入するのを防いだ。


「やるなぁ、マナ。一歩間違えば大怪我だったよ」


「師匠の方がすごいですよ、私かなりガチで攻撃したのにほとんど無傷じゃないですか」


「いやいや、かなり危なかったんだか、らっ」


と言ってコウは<水刃>を2発炎の壁を狙って放つ。

もちろん最終的な狙いはマナの方だ。


目の前は炎の壁で視界が塞がれていて見えないが、風属性の状態で正確なマナの位置は既に掴んでいた


炎の壁を貫いて放つのは別に風刃でも可能だったが、マナに勝ち目はないぞと示すためにあえてコウは水属性に切り替えて攻撃したのだった。

自分が作った炎の壁を貫いて攻撃されることは想定内だったが、それが水刃だと知ってマナは驚く。


「え、水?うそっ!?」


と言いつつも水刃の重い一撃を2回、何とか魔力を流した木剣で受け止める。


受け止め切ったものの、衝撃で体勢を少し崩したところに、コウが炎の壁の向こうから<水圧砲>をぶっ放す。

しまったと思ったマナはとっさに盾を出そうとするが、アイテムボックスに盾は入ってなくて、貫かれるとわかった上でやけになって<火の強化盾>を張った。


直径10㎝程のビームのようにまっすぐ飛んでくる放水は、マナの予想通り魔法障壁を軽く貫いて、マナの腹部に直撃しそのまま数m吹っ飛ばした。

何とか起き上がるマナだったが、腹部にいい一撃をもらったマナは呼吸が乱れて咳をする。


「マナ、俺の実力テストはこんなもんでいいかな?」

「ごほっ、いいっ、ですよ、まいりましたー」


そう言ってマナは降参し、<乾燥>で濡れた自分を高温にして一気に乾かす。


「俺が脱水で乾かすからいいのに」

とコウが慌てて駆け寄りながら言うが


「私は火属性だから熱にも強いし、大丈夫ですよ」

と満足げにコウに答えた。


今話も読んでいただき感謝であります。

盆休み中ということで頑張って中1更新しようと思ったら、思った以上に追い詰められました。

次話もまた2日後、金曜日に更新予定です。

ブクマ、感想、評価、お手数ですが頂ければ幸いです。


魔法紹介

<散弾爆>火:魔力の塊を飛ばし、途中で複数に分裂し爆発する。爆発から一定範囲はかなり高温になる。

<破壊の風>風:突風の最強力版で、かなり強い風を起こし対象を吹き飛ばす。

<炎の壁>火:高温の燃え盛る炎の壁を作り出す。事前に組み込んでおけば作った後動かせる、

<受け壁>風:空気で作ったクッション壁。硬さはいじれる。一応おまけ程度の魔法障壁にもなる。

<水圧砲>水:物理的な威力も兼ね備えた放水。標準は直径10㎝ほど。

<乾燥>火:熱を発して水分を飛ばす。濡れた原因の水が他人の魔力を含む場合、魔力も打ち消す。

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