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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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2人の弟子との対面

ここまでのあらすじ


コウはいよいよルーデンリアに引っ越し、師としての生活を送ることになった。

一通り建物を確認後、弟子を持つという立場に緊張しながら当日を迎えた。


マナはこの日、いつもより早く起きて行動を開始する。

起きてすぐ身なりを整えると、自分をここまで育ててくれた親代わりであり上司でもあるフラウーの元へと向かった。


親代わりと言っても、マナは幼少期過ぎるころまではちゃんと貴族家の中で第1王女として過ごしてきたので

一般的な人にとっての親と同じようにフラウーを見ているわけではない。


持ち前の明るさで顔には出さないが、正確には自分を育ててくれる雇い主くらいに思っている。

つまり育ててもらっている分、働きで返しているといった感じだ。


ただ自分が他の雇われとは違って贔屓されており、大事にされているのも理解しているので

感謝の気持ちは普通の雇い主に対するものと比べると格段に強い。




マナは出発前に挨拶をしておこうと寝室を訪ねたが、途中で侍女がすでに起きて仕事をしていることを教えてくれたので

行き先を変え、真っ直ぐフラウーの執務室へと向かった。


「失礼しまっす」


大きな明るい声とともに扉を開けマナがフラウーの執務室へと入ってきた。

それを見たフラウーは困った顔を見せる。


「マナ、ちゃんとルールを守って入ってきなさい。それに今日は開始日だったはずよ?どうしたのよ」


「いや・・だって期限のない潜入偵察になるじゃないですか、だからちゃんと挨拶しようと思って」


マナがちょっと恥ずかしそうにそう答えると、フラウーも視線を外して机を見、恥ずかしそうに鼻息交じりに少し軽く笑った。


今回のマナの仕事は、コウという男の弟子になってコウの人となりや魔法の実力などを見極め報告する、いわゆる潜入偵察だ。

マナにはあまり向いてないし経験もない仕事だったが、それでもフラウーはマナに任せた。



今回の表の目的は潜入偵察だが、裏の目的にはこの暗殺や殲滅など色んな意味で危険の多い職場からマナを遠ざける目的がある。

弟子になれば、どんなに早くても数カ月単位、通常なら数年師と共に暮らすことになるからだ。


フラウーは今の環境のような与えられた殺し合いの中に身をゆだねる生き方ではなく、多くの選択肢がある中でマナが望んだ道で生きて欲しいということで今回の仕事を与えた。

これが今のフラウーにとっては、かつての親友ネイの娘に対して取りえる最善の選択肢だと思っている。


そのまま弟子として活躍してもいい、そこから巣立ち世界を見る旅に出てもいい、また自分の元に帰ってきて今度は表舞台で働いてもいい。

今回の仕事にはそんな思いが込められている。


今まではとにかく現環境からマナを脱出させようとするも、本人があまり望んでいないこともあり、表に出しにくい存在でもあったので、いい手が浮かばなかった。

だが、ボサツがこの話を持ちかけた時、フラウーの中でこの機会こそがマナに選択肢を与える絶好の機会になると思ったのだ。



「あのー、フラウー様?フラウーさまぁ~」


マナの呼びかけに自分が感傷に浸っていたことに気づき、慌てて何でもないと平静を装う。

マナは変な顔をしてフラウーを見ていたが、すぐに気にならなくなったのかアイテムボックスからメモ帳を取り出す。


「これですね、最初の1年間は約1ヶ月に1回の報告。ちゃんと忘れずにやりますよ」


「ええ、頼むわよ。前も説明したけど、それはすぐには私の手元に来ないので、緊急時の連絡には使えないわ。それだけは忘れないように」

「はい、大丈夫です」


マナの笑顔を見てフラウーは安心する。

師となるコウはボサツの話によると貴族らしくない優男のようなので、マナも辛い目に合うことは少ないだろう。


むしろ、マナがコウを引っ掻き回すんじゃないかと心配なくらいだ。

そんなことを考え、フラウーは軽く笑う。


「えっ、ちょっと、フラウー様。大丈夫って言ったのに笑わないでくださいよー」

全然大丈夫に見えないので笑われたと思ったマナは不満層に頬を膨らませる。


「まぁ、マナなら確かに大丈夫かもね。偵察頼んだわ」

「はい、それでは行ってきます」


そう言うと足取り軽くマナは部屋を出て行った。


「コウとやら、マナを頼んだわよ」


マナが出て行った扉を見つめながらフラウーは呟くと、気持ちを切り替えすぐに次の仕事へ取り掛かった。




フラウーの元から出発してすぐ、マナは目的の場所へと向かう。

ルーデンリアは光の連合で唯一外壁のない街なので、その分自由に拡張できることから街がとても広い。


アイリーシア家の占有地は、下級貴族であるため貴族エリアの中では中心からかなり離れた場所に位置している。

普段なら街中の転移門で近くまで一気に飛ぶところだったが、なんだか歩きたい気分だったマナはそのまま貴族街の商業エリアを抜けていく。


さすがに早朝だったのでどの店も閉まっていたが、普段あまり外を出歩かないマナは閉まっている店々を見て回るだけでも結構楽しかった。

そのままどんどん進み、ぽつぽつと占有地のあるエリアにたどり着く。


上級貴族の占有地は広く、周囲には住居や商店なんかも立ち並んでいる。

関係者が近くに住むための住居だったり、その貴族家が主に運営している商店が周囲にあったりするのだ。


中には愛用しているお店を近くに建てさせたという例もある。

そんな中を進みついに目的地が見えてきた。


マナは下級貴族の占有地だし、周囲には特に他家の占有地以外何もない辺ぴな場所にあるので、見た目もそんなに大したことないと思っていたが

近くまで来てみると、一見するだけで豪華だとわかるくらいしっかりした白く高い塀に囲まれた、パッと見てもかなり広いエリアだった。


「うわっ、予想と全然違う。周囲の占有地より明らかに塀が立派だし・・金持ち貴族のアイリーシア家だけはあるなぁ」

マナは思わず立ち止まって感心した。


「えーっと、あのメインの高い建物の横にある道場の入り口に行けばいいんだよね」

確認するようにつぶやくと、塀をじろじろと見ながら目的の同乗の入り口を目指す。


「この壁、魔力通ってるよ。本当にお金かけてるんだなぁ、指導場所もすごい豪華なのかな?」


塀を観察し感心しながら歩いているうちに、道場の入り口である木製の門の前にたどり着いた。

門の外側の両柱はピンク一色に塗られ、上にある屋根は銀色だ。


扉は木の板を合わせて作られており、木製の色をそのまま生かしたかなり薄い黄色になっている。

扉の枠は青い金属でしっかりと木の板を固定してある。


マナは少し緊張しながらも、軽く息を吐き扉をノックした。

ノックすると扉が黄色に光り『しばらくお待ちください』との表示が扉の真ん中に浮かび上がる。


「第一印象くらい良くしておかないとだめだよね」


そう言ってマナは今一度服装を整え姿勢を正して、門が開くのを待った。

30秒ほど経ち、門が開くとそこには侍女と思しき少女が立っていた。


「私はこちらにいる方の側付きをやらせていただいているエニメットと申します。本日はどのような御用でしょうか?」


薄茶色の髪色をした背の低い侍女がまっすぐマナを見つめていた。

結構しっかりした侍女が付いているんだなと思いつつマナは笑顔で答える。


「私はマナです。ここにいるコウという方に弟子入りを希望してるんですがお会いできますか?」

「わかりました。しばらくお待ちください」


エニメットは一通りマナを見定めた後、コウを呼びに行くため門を閉じた。


「2重扉になっていて奥が見えなかったなぁ」

そうぼやきつつ立ったままマナは再び閉められた門を見つめた。



◆◇◆◇



「コウ様、コウ様!」


エニメットが俺を呼びながら走ってやって来る。

きっと弟子がやってきたのだろう。


俺は瞑想を中断し服のたるんだ部分を伸ばしてきちっと整えると、立ったままエニメットが来るのを待つ。

何でも貴族としては、慌てることなくどんと構えて待つくらいがよいらしい。


今の俺にはかなり違和感のある行動だが、どっちみち慣れないといけないので少し背伸びしてでもそれっぽいことをやるようにしている。

とは言え、どうせ向かう先は外門なんだから、エニメットの呼ぶ声に反応して俺が走って向かった方が早いと思うんだけどなぁ。


権威を保つために非効率なことをするとなんて、やっぱり貴族社会は面倒なんだな。

そんなことを考えているうちにエニメットが傍まで来たので念のため確認する。


「どうしたの?弟子の志願者でもきた?」


「はい、ですが少なくともアイリーシア家の者ではありません」


「うーん、そっか。とりあえず会いに行こうか」


俺は先導するエニメットに付いて行く形でこの道場の外門へと向かった。

2重扉の内側の門の前まで来たので俺が開けようとしたら、エニメットに手を止められる。


「失礼します、これは私の役目ですので。後私が外門も開けますのでコウ様は立ったまま堂々としておいてください」

「うーん、わかったよ」


長い間待たせるのは悪いので、ここはエニメットに素直に従いさっさと面会することにする。

内側の門を開き、門と門の間に入ると開いていた内側の門が自動的に閉まる。


そして俺は堂々と立ったままエニメットが外側の門を開けた。

そこにいたのは18歳前後に見える黒髪の少女だった。


これはかなり好みのドストライク!

俺は思わず心の中でガッツポーズをするが、すぐに気を取り直して話し始める。


「はじめまして、ここの責任者コウです」


「私はマナと言います。本日弟子入りの志願に来ました。よろしくお願いします」


マナという子が頭を下げたので俺も軽く頭を下げる。

俺の後ろに控えているエニメットが何か言いたそうなオーラを出しているが、とりあえずスルーすることにしよう。


なんせ彼女はまだ弟子じゃないし、名前が3文字以内ということは貴族として生まれた可能性が高い。

ならばこの時点では準貴族の俺より向こうが上の立場なんだし、それなりの礼を見せてもいいはずだ。


俺が頭を下げたからか、マナは不思議そうにしていたがすぐに次の話へと進めてくる。


「えっと書類の確認でしたよね」


「あぁ、こちらに提出する書類を渡してくれない?確認するから」


ここはあらかじめ決めてあるやり取りだ。

ここでただ書類という言い方をして、決まったものを出すかによってボサツ師匠が予定していた対象かどうか見分けることになっている。


俺の言葉にマナは迷わず書類を渡してきた。

受け取って確認したのは『協会発行のステータス証書』と『協会提出用の師弟関係登録書』だった。


ステータス証書は弟子なるときに見せることが多いらしくこれで判別するのは難しいが、その性質から誰にでも見せるものではない。

そして師弟関係登録書の方はいきなり持ってくると失礼にあたるもので、普通は持ってこない。


しかも取り決め通り、ちゃんと弟子の欄の所にマナの名前が書いてあった。

これで彼女は間違いなくボサツ師匠が手配した俺の弟子になる人なのが確認できた。


が、一点だけ疑問点があった。貴族だと思われる名前なのに家名が書かれていない。


「えっと、これ家名は・・書いてないけど」


「すみません。私、家名は無いんです。家が無くなっちゃってて。そうそう証書の方の名前も家名が書いてないので確認してもらえればわかると思います」


マナにそう言われてステータス証書を確認すると確かに名前は『マナ』とだけなっている。

協会が本人だけに発行する証書にもそう書かれているのなら、嘘ということはなさそうだ。


今ここで複雑な事情を根掘り葉掘り聞くのは良くないと思うので、これ以上は突っ込まないことにしておこう。


「ありがとう。確認できたからこの師弟関係登録書は返すね。この後登録が終わったら正式に師弟関係になるからよろしく」


師としての立場を意識しつつ、気さくな感じで対応・・したつもりだった。

もちろんさっき返した師弟の登録書には俺の名前と、確認事項の部分の四角に魔力を流してチェックも入れてある。


マナは受け取った登録書をまじまじと見つめると、俺に笑顔を向け

「ありがとうございます。今すぐ魔法協会に行って登録済ませてきますね」

と言ってすぐに走っていった。


なんというか、かなり可愛くてちょっとドキドキするけど、元気過ぎて周りを振り回すようなタイプに見える。

俺は・・本当にマナと上手くやっていけるだろうか。


ひとまずマナが行ってしまったので俺とエニメットは門を閉め道場へと戻った。


戻る途中色々とエニメットに指摘されたが、大きな問題ではなかったという評価で、とりあえずはほっと一安心という感じだ。

師匠としての仕事はまだまだこれからなので、安心している場合じゃないんだけど。



そう言えばさっき渡されたマナのステータスだが、火属性LV37だった。

俺の第一属性の風が37なので、数値上は互角ということになる。


おいおい、師匠はこれをわかった上でマナを弟子候補にしたんだよね。

苦労する未来が見えるようだが、これは試練なんだろうか?


俺が頭を抱えていると、再びエニメットが俺を呼びに来る。


「コウ様、2人目の弟子志願者がいらっしゃいました」


「えっ・・そっか。まさか2人いるとは。これ以上増えないよね?」


「私に聞かれても、お答えしかねます」


困惑したエニメットから当たり前の返答を受け、俺は落ち着きを取り戻すと急いで外門へと向かった。

外門を開けてもらうとそこに立っていたのは綺麗な銀髪が肩までまっすぐ伸びた髪形をしたの女性がいた。


見た感じは20前くらいだろうか、さっきのマナとさほど変わらない感じだが、かなり落ち着いた雰囲気で大人のように感じる。

これはこれで正直好みだった。

無駄にストライクゾーンが広いのが俺のいいところでもあり・・悪いところでもある。


「はじめまして、私がここで指導をするコウといいます」

さっきは慌てて責任者とか口走ってしまったが、今回は言い間違えなかった。


「こちらこそはじめまして、シーラ・メルティアールルと言います。ボサツ姉さんの勧めでこちらに来ることになりました。よろしくお願いします」


貴族として一定の品を感じさせる所作に俺はちょっとドキッとした。

だが、ずいぶん背が低い。多分背の低いボサツ師匠より小さいと思う。


「ボサツ師匠の妹さんなんですか?」


「はい。姉さんからとても優秀な方だと聞いていますので、ご指導のほどお願いします」


「い、いや、そんなに優秀かどうかはわからないけど、共に切磋琢磨して成長していけたらと・・思っています、ので」


途中でこんなこと言っていいのかと思い口が止まってしまったが、シーラというこの女性は恥ずかしそうにしながらも笑顔を見せてくれたので、少し安心しつつ俺もぎこちない笑顔で返した。


なんか丁寧でぐいぐい来るタイプじゃなく対応しやすそうな子だけど、師匠の妹という点では下手な真似はできず、違った意味で全く安心できる存在じゃない。


「えーっとそれじゃ、書類を見せてもらっていい?」

「はい、こちらになります」


すっと渡された書類を受け取ると、俺は中身を確認した。

えっと、名前はさっき言われた通りの名が書いてあり光LV37だそうだ。


おいおい、また37で一緒じゃないか。これ絶対意図的にボサツ師匠が選んでるわ、間違いない。

師匠の意図はいまいちわからないが、さっき俺が口を滑らせたように、共に強くなれということなんだろうか?


もう少し指導しやすい低LVの魔法使いを紹介してくれれば気が楽だったのに、そう思いながらも一通り書類を確認して

師弟関係登録書に名前を書いて、チェックボックスにも魔力を通してシーラに返した。


「確認できたよ。ではこれで登録をお願いしていいかな?」

「分かりました。今から行ってきます」


そう言うとシーラは軽く礼をして魔法協会がある方へと歩いて行った。



「ふぅ、2人共見た目は素敵だけど魔法のLV高すぎだろ」


俺はぼやきつつ、シーラが見えなくなったところですぐに道場へ戻ろうと内側の扉に触れると、自動的に外側の門が閉じる。

道場へ向かう通路に入り、内側の扉が閉まったところでエニメットが話しかけてくる。


「コウ様、彼女たちの実力はそんなに高いものでしたか?」


「高いっていうか俺と同じLVなんだよね・・何だろう、一緒に強くなれってことなら俺が師匠である意味がない気がするんだよね」


「それでもコウ様は1年間クエス様と三光様に教わっていたのですから。自信をお持ちください」


「まぁ、そうだね。なるようにしかならないか」


せっかくのエニメットの励ましだったが、俺は投げやりになるしかなかった。

そもそも同等の魔法LV相手に何を教えろというのだろうか、そんな考えばかりが頭の中をぐるぐると回っていたからだ。


「コウ様・・」

「ごめん、エニメットにも心配かけたな。大丈夫、やるだけやってみるさ」


そう言って俺は気持ちを整えようと庭までくると、再び瞑想で気持ちを落ち着かせつつ、魔力を動かす。

今の俺にとって自信をもってできるのは、師匠も良く褒めていた放出した周辺魔力の調整くらいだ。


「私は弟子のおふたりが戻ってき次第ご連絡しますので、コウ様はゆっくりされていてください」


俺の様子を見たエニメットは大丈夫だと思ったのか、そう言ってどこかへと行ってしまった。


読んでいただきありがとうございます。

ここからは弟子とのまったり話がつづ・・けばいいなと思っています。

待ったり日常編は書くのがやや苦手ですが、頑張っていきますので読んでいただければ幸いです。

では特異なのは何かって?・・無いですね・・。すみません。


次話の更新は月曜予定です。では。


変更履歴

19/08/20 シーラのキャラ設定を変更したので、補足説明を追加。

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