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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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新しい場所で、新しい立場で

ここまでのあらすじ


この世界に来て1年。コウはいよいよ師匠たちの元を離れて生活することになる。

前日はクエスと1日過ごし、いよいよ引っ越し当日になった。


翌朝起きると既に隣にいたクエス師匠はいなくなっていて、台所付近にはボサツ師匠が朝食の準備をしていた。

早く寝たはずなのにずいぶんと長く寝てしまっていたみたいだ。


隣にはまだ布団がそのまま残っていたので、俺はのそのそと動き出すと立ち上がり背伸びをして2つの布団を壁の収納に直しこんだ。

そして改めて台所の方を見て俺は挨拶をする。


「ボサツ師匠おはようございます」

「おはようございます。コウ、昨日はくーちゃんとお楽しみでしたか?」


朝からいきなり何を聞くんだと思い、勘弁して欲しいとため息をついて俺は返答する。


「さすがにそれはなかったですよ」


「そうでしたか。それは残念だったですね」

そういいながらボサツ師匠は笑った。


俺にはこの会話の意図が全くわからなかったが、続けても実の無い話にしかならないと思い話題を変える。


「そう言えばクエス師匠はどこへ行ったんですか?」


「くーちゃんなら今自室だと思います。もう準備は完璧に済ませているでしょうから、私的な用事でしょうか」

「そうですか・・」


話しながら何かボサツ師匠に用事があったような、そう思いながら俺は考える。

何か出発前に聞きたい大事な事・・、あっ、あれだ!


「そうです、ボサツ師匠聞きたいことがあるんです」


俺が急に大きめの声で話しかけたのでボサツ師匠は直ぐに手を止めて俺のほうを見る。

手は止めたものの直ぐに食材は動き出したので、表現としての手を止めたという状態は一瞬だったが。


「どんな事です?」

「弟子の事なんです。どんな弟子がくるのか教えて欲しいんですよ」


「それは明日の楽しみに取っておきましょう」

穏やかな笑顔でボサツ師匠は俺の要望をさらりと流す。


「いや、それはそれでいいんですけど・・図書室から持っていく魔法書の属性は、俺の使える4つだけでいいのかどうかくらいは教えてもらえませんか?」


一瞬ボサツ師匠は考えたようだったが直ぐに返答する。


「なるほど、確かに弟子が来て直ぐにこちらに魔法書を取りに帰るのも手間ですね。そこは失念していました」


そういうとボサツ師匠は更に悩みだす。

一体何を悩んでいるのだろうか?


「ん~、そうですね・・確かに属性は止むを得ません。ですがコウ、くーちゃんには内緒でお願いします」


「あ、はい。いいですけど・・」


「魔法書は火属性のものを追加です。30台まで網羅しておけば問題ありません」


そういうとボサツ師匠は魔法書が30冊は入るかなり大きなバッグを俺のほうへアイテムボックスから射出した。

慌てて俺はそれを受け止める。


「くーちゃんにばれないよう、それに入れてアイテムボックスへと収納をお願いします」


「わ、わかりました。今からでも時間ありますか?」


「えぇ、準備のペースを少し落とします。くーちゃんにはコウはもう一度魔法書を見に行ったと言っておきますね」


「では、火属性以外に1,2冊何か追加して手持ちで戻ってきます」


「さすがコウですね。気を遣わせてすみません」

それを聞いて俺は直ぐに図書室へと向かった。



◆◇



数分経って入れ替わりにクエスが大部屋に入って来る。


「お、さっちゃん準備できた?」

「もう少し時間がかかります。10分ほどですね」


「そっか、あれ?コウはまた外で瞑想でもやっているの?」


「いえ、もう一度図書室で持っていく魔法書を見直したいと言っていましたよ」


ボサツは食材を入れた鍋を見ながら熱が均一になるようにお玉を使ってゆっくりとかき回しながらクエスに答える。

クエスはいつものようにササッと作らないボサツを不思議に思ったが、今日がコウの最終日だから丁寧にやっているのだと解釈した。


「へぇ、別にここにはいつでも戻ってこれるのにね。ちょっと気負い過ぎているんじゃない?」


「だと思いますが、そこはコウらしいところだとも思います。くーちゃんのざっくりした感じは受け継がなかったみたいですね」


「そこはあの性格じゃ無理でしょ。むしろボルティスに指導されてガチガチの真面目君にならなくてよかったと言ってよね」


「ふふ、確かにそうですね」


2人は軽く談笑して、ボサツはそのまま時間をかけ料理の準備を、クエスは自分の席に座ってほほをテーブルに付けて思いにふけっていた。

2人共、後わずかのこの時間を惜しんでいる、そんな朝の情景だった。



朝食の準備が終わり、各席に料理が置かれたがコウはまだ図書室から戻ってこない。

仕方ないと言った感じでクエスは椅子から立ち上がる。


「しょうがないわね、私が呼んでくるわ」

そんなクエスをボサツが制止する。


「いえ、今日は私に呼びに行かせてください。くーちゃんは昨日コウとお楽しみだったのですから」


「えぇ、別にいうほど楽しむこともなかったわよ。結果はコウが童貞で積極的に手を出しては来ないということが証明されただし」


「そこをわかっていながら動こうともしなかったくーちゃんにも問題があると思います。では」


そう言ってボサツは図書室へと続く廊下の扉を開ける。

仕方ないのでクエスは再び着席し、コウの席に置いてある料理を眺めながら物思いにふけった。



◆◇



ボサツ師匠が呼びに来たので、火属性の魔法書はここまででいいかと思い一緒に大部屋へと戻った。


大部屋へ戻った途端クエス師匠が

「おそーぃ」

と愚痴をこぼす。


「すいません、時間があるうちにと思って行ったらつい夢中になって」


「しょうがないわね。とにかく食事にしましょう」


「今日は最後ということでそこそこ力を入れて作りました。ではいただきましょう」


「いただききます」

食事の間、師匠たちは色々と話してくれた。


最後だからだろうか、俺のことをいろいろと心配するように話しかけてくれた。

ちなみに会話の中でさっき図書館に行ったことを深く突っ込まれないよう、ボサツ師匠が上手く会話をまわしていた。


「大体の準備は大丈夫よね、食事はあの娘がいるし・・機材とかで欲しいものがあったらこっちに来てこの部屋にメモでも残しておけばいいわ。出来るだけ早めに対応するから」


「前日入りするので大方の心配はないと思いますが、弟子が来る前には一通りの道具や使い方のチェックを済ませておくのですよ」


なんかタイプの違う母親2人から心配されている子供のようだな、俺は。


「何かあったら頼るかもしれませんのでその時はお願いします」


「遠慮しちゃだめよ」

「そうですよ」

そんな師匠たちの返事に俺は何度もうなずいた。



朝食を終え、いよいよ出発となった。


クエス師匠とは一緒に道場まで行くが、ボサツ師匠とはここでお別れとなる。

もちろん週1くらいで見学や指導に来ることになっているのでお別れというのは少し違う気もするが。


「コウ、大変だと思いますが頑張ってください。何か相談事があればいつでも遠慮なく相談していいですから」

「はい、これからもよろしくお願いします」


簡単に、でもしっかりと気持ちを込めた挨拶をすると俺は師匠と共に道場へ向かう為に転移門で飛んだ。


「行きましたか。コウの未来に幸多からんことを祈っています」


ボサツはコウが飛んだ転移門を見つめながらそうつぶやくと、自室へと戻っていった。




いつものアイリーシア商会を経由して以前来た道場の隣の建物内にとんだ。

その後、白い廊下を進みこれまた以前来た壁の前へとたどり着く。


「クエス、入るわ」

「コウ、入ります」


その掛け声とともに目の前の白い壁が消えていき、道場への通路が現れる。

と同時に1m程先にエニメットが立っていて俺はびっくりする。


俺と師匠は少なくともこちらに飛んでくる時間を決めて転移したわけじゃない。


朝食を終え準備も終わってからすぐにこっちに来たんだけど、彼女がここにいるということは、転移門の門兵から連絡でも来ていたのだろうか?

少なくとも時間通りに来た訳ではないのに、エニメットがこうやって迎えてくれたことには正直すごいなと思った。


かなり気になったので俺はエニメットに尋ねてみる。


「い、いつからここで待ってたの?」


「朝の7時からです。朝食後には来られると聞いていましたのでどんなに早くても7時頃かと想定しておりました」


俺はとっさにお金をやり取りできる魔素体内蔵型の魔道具を起動し時間を確認する。

今は8時半を過ぎた頃だった。つまり彼女は1時間半もここに突っ立っていた事になる。


「こんなに待たせ・・」

と言いかけたときクエス師匠が俺の口の前に手を伸ばして、俺の発言を遮る。


「コウ、これだけは意識しておきなさい。貴方は師匠となりこれからは人を使う側になるのよ。そしてそれは貴族として生きていく以上続くことになるわ。

 彼女が貴方の為に自主的に努力してここに立っていたことを申し訳ないと言ったら、彼女は努力したのに貴方に迷惑をかけた事になるのよ」


そう師匠に指摘されて俺は黙ってしまった。

一瞬反論しようと思ったが、結局考えても反論が浮かばない。


エニメットを見ると黙って俺を見つめている。

俺が何と言うのか、対応を待っているのだろうか・・ここは失敗できない、そう思った。


「待っていてくれてありがとう、さっそく案内を頼みたい」


俺の言葉にエニメットは深く頭を下げる。

そして俺が手に持っている地球から持ってきたバッグを見ると


「そちらの荷物はお持ちします」

特に重要な物が入っているわけではないので、俺は素直に荷物を渡した。


「うん、さすがコウね。順応が早いじゃない。ほらコウの願望にメイドさんをはべらせたいってあったでしょ?

 なのでわざわざその頭のホワイトブリムだっけ、それも作らせておいたのよ」


クエス師匠の場を考慮しない発言に俺は思わず絶句した。

そんな事を彼女の前で言ったら、さっきの上に立つ側として振舞った俺の権威も一気に壊滅するじゃないか!


そんな師匠の発言を聞き流すかのようにエニメットはクエス師匠に礼をする。

頭を下げる深さが違うのは俺が直接の主人と言うことを現しているのだろうか。


俺が驚いた表情でいると、師匠がすぐに話しかけてきた。


「気づいたみたいね。彼女はコウに直接仕える者、いわゆるコウの専属としてここに置いているわ。

 給金もコウを通じて支払う形になっているし、常識の範囲の増減だったらコウが自由に決めていいわよ」


「そしてエニメット、貴方は今日からコウに直接仕える者になるわ。コウの言う事には基本的に必ず従う事。そして何があってもコウを命がけで守る事、いいわね」


「はい、王族であるクエス様の命、了解いたしました」


厳しいやり取りを横で見ていると、クエス師匠が意地悪い笑顔を浮かべてエニメットに聞こえるように話しかけてくる。


「これでコウは彼女に手を出しても問題にはならないわ。我慢できなくなったら遠慮なくいいわよ」


俺は動揺してなんていっていいかわからないままエニメットを見たが、彼女は小さく頷いた。

堂々と『喜んで』なんて言わないことから考えると、彼女にとって歓迎する事ではないのかもしれないが。



俺は自分に変なことを考えるんじゃないと言い聞かせながら、案内するエニメットの後ろをついていき俺の部屋の入り口へと着いた。

5部屋もあるこのエリアの奥の部屋に入るとベッドなどが置いてある寝室だった。


俺が一通り見まわしていると、クエス師匠が俺に一旦メイドを下がらせるよう言ってきたので、俺はエニメットを部屋の外で待機させる。


「さて、この先の部屋にコウと私とさっちゃんだけが使える転移門があるわ」

そう言って師匠がさらに奥の部屋へと案内する。


扉を2つくぐりたどり着いた部屋は他の部屋よりも少し狭く、長方形の間取りで何も置いていない物置のような部屋だった。


「まずこの部屋には誰も入らせない事。これは絶対厳守よ、いいわね」

師匠の厳しい表情と口調に俺は強く頷く。


「一応この部屋への扉とドア枠、それにこの部屋全体には人物をチェックする機能がついているわ。

 ちなみに私たち3人以外の人物が侵入すると警報が鳴り、この部屋内に進入者を閉じ込める機能が作動するから間違っても入れないこと」


「わかりました」


師匠が厳重な確認を俺に求めてくる。それは早々お目にかかれない表情だった。

俺が真剣に頷いたのを確認して、師匠は話を進める。


「それで、こうやって隠していた転移門を出現させられるわ」


そういうとクエス師匠は奥の壁に近づき魔力を放出する。

師匠の魔力を感知したからなのか、壁が一面光だし全ての壁が床へと収納されていく。


そして部屋の奥に小サイズの数人が一度に飛べる転移門が現れた。

「ずいぶん厳重な仕掛けになっていますね」


「まぁ、そこまで厳重ではないけど・・これは私たちにしか使えず、隠れ家にしか飛べない転移門よ」

その話を聞いて俺は驚いた。


あの隠れ家にある転移門には秘匿性を上げる為に、特定の転移門からしか飛ぶ事ができないようになっている。

その1つをここに追加してくれたと言うのは、それだけ重大な事だと今の俺でも理解できた。


「いいん・・ですか?あそこへの転移は限られた場所にしか設置していないって言っていたのに」


「それにここを加えただけよ。ついでに言っておくと一定時間対象外の人物がこの部屋にいたり

 隠し壁を無理やり破壊しようとすると、この転移門自体が自壊する仕組みになっているから気をつけてね。

 再設置するのにはお金も時間もかかるんだから」


「わ、わかりました。本当に気をつけます」


「弟子にもメイドにもちゃんとちゃんと言っておくようにね。掃除のために入れても駄目よ。

 一応エニメットには既に言ってあるけど主であるコウからもう一度指摘しておきなさい」


そういうとクエス師匠は壁から離れて俺と共にこの部屋を離れ、エニメットが待つ俺の部屋の入り口まで戻ってきた。

これで師匠はもう行ってしまうようだ。


俺はすごく不安になるが、ここで手を伸ばして甘えてはいけないと必死に自分の気持ちを押さえる。

そんな俺の気持ちを直ぐに理解したのか、クエス師匠は笑って俺に話しかけた。


「寂しかったら直ぐに隠れ家の方へ来ていいのよ?1分後でも歓迎するわよ?」


師匠のいつもの意地悪な台詞に、俺は弱気になっていた自分を改めて返答する。


「本当に頼りたくなった時には伺います。今は、出来るだけ自分のやれる範囲でやってみますので」


「そうね。後、弟子にべったり甘えちゃダメよ」


「それは・・たぶん大丈夫ですよ」


俺の返事を聞いて安心したのか、笑って手を振って、クエス師匠は隣にあるアイリーシア家の建物へと戻っていった。

こうして今までとは違う、俺の師としての生活がついに始まった。


今話も読んでいただきありがとうございます。

やっと章のタイトル通りの師としての生活が始まります。(もう少しかかりますが)

この師としての生活は、当主たちの会議によって仕方なく始まったことではありますが、コウに貴族として人を使う側の生活に少しずつ慣れさせる狙いもあります。


さぁ、書く側も頑張らねば。

と言いつつ、次話は水曜更新予定です。

これからもよろしくお願いします。


まだまだ気が早いですが、ブクマが100到達したらまた挿絵企画やりたいと思っています。

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