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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
4章 コウ、師匠になる(112話~183話)
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潜入、麻薬の製造現場

ここまでのあらすじ


火属性の魔法使いマナは、都市内で麻薬をばらまく悪党たちを殲滅する為、アルディオス小隊と合流し作戦に参加することとなった。


作戦開始の1時前に既に5人全員が指定された転移門へと飛んでその傍に集合していた。

全員ある程度薄闇に紛れられる恰好をしている中、マナはやや暗めとはいえ赤色を交えた服装をしている。


「それ、目立ち過ぎない?」


フィルフィーがツッコミを入れるが、マナはすぐに膝まである濃いグレーのマントを取り出すと羽織ってどうだとアピールした。

それを見たフィルフィーは呆れつつも納得したのか、それ以上は何も言わずアルディオスの方を見た。


「よし、全員いるな。ここから目的の場所まで我々の足で20分ほどだ。魔力は放出せず静かに一気に近づくぞ」



隊長の号令に一同黙って同意を示すと全員が一斉にすばやく駆け出した。

転移門が隠されている地下から階段を上り外へ出て、草原を駆け抜け、森の中を進み、木々を切り倒して作ったと思われる開けた場所が見える小さな崖の上に5人は出た。


周囲は1mの高さの鉄柵で囲われたそこそこ広いエリアで、4箇所に別れた畑の中心に石製と思われるしっかりした4階建ての大きい建物が見える。

その前後に監視用の物見塔のような木製の建物が建てられていた。


木製の建物は3階建てほどの高さだが、屋上にはそれぞれ監視の者がついていた。

あたり一面何とか建物が見える程度の暗さで、畑には誰も見当たらず静まり返っている。


「ここはルーデンリアからかなり遠い地域だからこの暗さだが、偵察の話しでは闇使いはいないので少々近づいても気づかれにくいそうだ」


確かに畑には誰もいないが、建物の入り口にはそれぞれ防具を着込み武器を携えた者が立っている。

ほぼ間違いなく魔法使い、しかも雇われの傭兵の可能性が高く互いに連絡手段を持っている可能性がある。

もし彼らの一人にでも見つかれば、周囲に情報が伝わり一気に騒ぎになる状況だ。


「どうしましょうか?」

副隊長のメリシアが尋ねる。


小隊で小回りが利くことと、任務上現場での作戦変更がかなり多い事から、大雑把な役割以外は基本現地で作戦を決めるのが一隊のやり方だった。


「そうだな、フィーとドンは10分後にまず2箇所の物見塔の外にいる見張りをそれぞれ片付けろ。その数分後に私とマナが中央の石の建物に突入する。

 我々が突入したらたぶん騒ぎになるだろうから、物見塔から出てくる者がいれば全部殺して構わん」


「生け捕りはどうします?」

任務の難易度にも関わるのでドンギュオが真剣な表情で質問する。


「生け捕りをつれて帰るのはリスクがあるから、尋問するとしてもここを立ち去る時までだ。基本的には全殺でいいぞ」

そこまで聞いたフィルフィーとドンギュオは2人でどちらの物見塔に向かうかを話し合いだした。


「私は?」


一人指示のないメリシアがアルディオスに尋ねる。

事前の役割では先行して畑の見回りを排除する役だったが、どうやらその見回りがいないようだ。


「そうだな、全体の様子を見れる位置に待機しつつ、内外を警戒。どこか遅れている箇所があれば補助に回れ。判断は任せる」

「了解」


「私は隊長のサポートと最後は野焼きかぁ」

「ああ、一番大事な役目だ。頼むぞ」


いまいち乗り気じゃないマナに頼りにしていると言う雰囲気を見せ、アルディオスはやる気を出させる。

そしてタイミングを見計らって鉄柵を魔道具を使い飛び越えると全員がそれぞれの役目を果たすべく動き出した。




近い方の物見塔に向かったドンギュオは建物の入り口付近にだけ見張りとして2人の魔法使いがいることを確認する。


まずは<気配消失>を使い自分の気配と魔力を2人の見張りが感知しにくくする。暗殺する時の大事な下準備だ。

さらに自分に<静寂>をかけ、ドンギュオ本人が起こす音を全て消す。これで静かに始末する準備が整った。


タイミングを見計らい、2人の見張りのうち奥の方が別の方向を向いた瞬間ドンギュオは音がしない状態で走り出し

手前の方の見張りの首付近を左手に持った30cm程度の長さの剣で後ろから突き刺し、そのまま自分の方に引きずるように下方向に切り裂く。


1人目を胸付近まで切り裂いたところで別の剣を取り出すと、すぐに前に出てもう一人の見張りの首を切ろうと剣を振るが

とっさにもう一人の見張りが気付き、剣先が首を少しかすった程度でかわされる。


「貴様、誰だ」


見張りがとっさに叫ぶが、気付かれた時点でドンギュオはストックから型を取り出し狭い範囲に<静寂の結界>を発動させる。

魔法の効果により、見張りが発した危機を知らせる声はドンギュオにしか届かない。


ドンギュオが魔力と武器性能任せに2,3撃と入れるうちに見張りの剣が受け切れずひびが入り、4撃目には見張りは深手を負った。

これは命の危機と感じたのだろう、その見張りは命乞いと必死に言い訳を並べる。


「た、助けてくれ。狙われるほどやばい仕事だと知らなかったんだ。なっ、俺たち傭兵団もみなあんたらに協力するから。な、なっぁぁ」


そんな台詞なんか聞くつもりはないとばかりに、ドンギュオは命乞いを無視した1撃で見張りに止めを刺した。

こうして難なくドンギュオは物見塔とされている3階建ての建物の入り口を制圧した。


念のため建物を触れた状態で<音探知>を使い、中に4人がいることを確認しする。

その中の3人は少なくとも魔法使いだった。


「まだ4人もいるとか面倒だがひとまずは周囲を警戒しつつ隊長たちの動きを待つとすっか」


誰にも聞こえない結界の中で独り言をつぶやくと、反対側の物見塔の様子を伺いつつ魔力を薄めに放出してマークを作り、最初の作戦が完了したことを合図した。


30秒ほどして反対側の物見塔の付近からも同じマークが提示された。

それを確認してドンギュオはすぐに魔力で作ったマークを消す。


「向こうも終わったか。あとは隊長とマナ・・んー、マナがやらかさないか少し心配だ」

そう言いながら先ほどの死体を物見塔の入り口から遠ざけて気配を消したまま付近に身を潜めた。



2方向の完了の合図を確認して、今度はアルディオスとマナが動き出す。


「一気に突撃しましょう」

「いや、騒ぎになるのは後からでいい。今はゆっくり気配を抑えて近づくぞ」


アルディオスがそう言ってマナを後ろに控えさせつつ工場へと近づく。

入口は前後に2ヶ所だったが確認したところ2ヶ所とも2人の傭兵らしき魔法使いが警備にあたっていた。


アルディオスは少し悩むと工場から少し離れて薄い魔力でマークを作る。

それを離れた位置から見たフィルフィーが確認し、物見塔から離れ工場にある程度近づくと入り口付近に<静寂の結界>を張った。


結界が張られると同時に、入り口付近に戻って待機していたアルディオスとマナが一気に飛び出す。

見張りの傭兵たちは魔法が発動したことに気づき、慌てて何の魔法か確認し始める。


その様子を見ながらアルディオスは準備していた型を取り出すと同時に2発<光一閃>を放つ。


警備していた片方の傭兵は攻撃されたことに驚きながらもとっさに<光の盾>を2枚作るが、アルディオスとのLV差が大きかったのだろう

2発の光の直線が光の盾を容易に貫き、傭兵の体に途中までめり込む。


「ぐぉっ」

苦しむ1人の傭兵を冷静に見つめアルディオスは止めを刺す動きに入る。


「ここまでの魔法を準備する必要はなかったか」

アルディオスは完全にオーバーキルになるなと思いながら<二十重ね>をよろける傭兵にぶっ放した。


アルディオスの前方左右からそれぞれ20個の光の球が発生し、傭兵の前で交差するようにそれぞれの球から一直線の光が放たれる。

計40個の光線に体中を貫かれて、その傭兵は体中から光の粒子を放ちながらあっという間に死亡した。


一方マナはアルディオスの行動に合わせて一気に走り出すと、静寂の結界内に入った瞬間自分の背中に<小爆発>を発動させ、爆発の勢いで一気に傭兵との間を詰め

手に持った剣で傭兵の肩を切り裂きながら脇を通り過ぎ、少し先で着地した。


一瞬隣の仲間が細いレーザーを食らっているのに気を取られて肩を切り裂かれたものの、致命傷ではなかったので傭兵は片手で槍を構える。

が、その切られた傷口が突然爆発しマナのいる方向へ傭兵が吹っ飛ばされる。


「なっ」

傭兵は驚きながらもすぐに防御姿勢を取ろうと試みるが、すでに遅かった。


そのタイミングに合わせてマナは傭兵を横一線に切り裂いて、さらにその大きな切り口をまた爆発させる。

その爆発で体の上と下がわかれた傭兵はそのまま死亡した。



傭兵を片付け終わったマナは先ほどのアルディオスのど派手な魔法を見ていたので、目を細めるとそのまま話しかける。


「隊長ぉ、音は他には伝わらないからいいけど、さっきのは派手過ぎじゃないの?光は普通に見えるんだし」


「まぁ、もう一つの入り口は反対側だし大丈夫だろう。それに何かあってもドンギュオかメリシアが対処するだろうよ」


「うわっ、ひどっ。これで私だけが派手過ぎと言われるのはおかしいと思う」

「そういうな。さっ、反対側も片付けて中へ突入するぞ」


そう言って2人はすぐに動き出し、今度はドンギュオの支援もあり工場の中の者達にばれることもなく反対側の入り口にいた傭兵2人も難なく片付けた。

直ぐにアルディオスは両側に向かって再び薄い魔力でマークを作って飛ばし状況を連絡すると、取りだした槍で門の鍵を破壊し中へと突入した。




工場内の1階は明かりもなく薄暗かったが、マナが直ぐに<熱感知>を使う。


「1階は、1人奥にいますね。懲罰房か何かかな?2階には1部屋に20人以上、もう一部屋には10人くらいいますね。

 3階は多分6名。4階は並んで立ってる感じがするので2名かな、ボスの扉の警護かも。その中までは感知しにくくて分かりづらいや」


「なるほど、かなりの数だな。大方農作業する平民も混ざっているのだろうが魔法使いが10人では済まなそうだ」


「どうします?結構いますよ」


「気付かれていないなら1階の1人をとりあえず調べた後、一気に焼き尽くしてあぶりだした方が早そうだな。メリシアには近くで待機させておこう」


そう言うと、アルディオスは外へ向かって魔力を飛ばしマークを作る。

優秀なメリシアだったら何か連絡が来る可能性を考え、突入した入口が見える位置で待機しているだろうという考えだ。


「大丈夫だって。簡単に気づかれるような下手な探知はしませんよ」

マナは自信満々に語っていた。


「よし、行くぞ。マナ、熱源はどっちだ」

「こっちですね」


マナが先導し、アルディオスが後ろから続く。

色々な道具が置いてある工場内を進み、誰かがいると思われる部屋の前にたどり着く。


マナは虚空から<吸音の幕>が発動する魔道具を取り出し扉の鍵を剣で切断すると直ぐに扉を開け魔道具を発動させる。

部屋全体に魔法が発動し、即座に部屋内では音が発生しなくなった。


マナとアルディオスが突入した部屋には女性が両腕に鉄の輪を付けられ、鎖で壁に繋がれており、一定距離以上は移動できないようになっていた。


アルディオスが合図をしたので、マナは先ほど発動させた魔道具の効果を切り収納する。

そしてアルディオスは捕らえられているようなその女性に近づき話しかけた。


「ここで何をしている」

「え、えっ?あなた方は一体?」


「今日配属された傭兵だ。説明を受けないまま様子を見てこいと言われてな」

とりあえず話を何となく合わせるアルディオス。


「す、すみません。本当に反省していると伝えてください。お願いします」

「何の話だ。説明は受けてないといっただろ」


アルディオスの怒った態度を見て怖くなったのか、その女性は慌てて話だした。


「と、都市内で麻薬をばらまくのに怖くなって・・失敗して・・でも次は、しっかりと、住民に配りますから。反省して、うまくやると、伝えて下さぃ・・」


怖がりながらも必死に訴えるその女性を見てマナは『どうします?』と疑問をアルディオスに向ける。


情報を聞き出すために連れて帰るとなると転移門の使用回数を超えて撤退にリスクが発生するが、この場で聞き出すには怯えていて時間がかかりこちらもリスクがある。

考えた結果、都市内へ持ち込んだ方法を確認したいがここで時間をかけられないことから、やむを得ず連れて帰ることを選択した。


「連れて行く」


その一言にマナは「えぇ~」と言って嫌な顔をするが、アルディオスが厳しい表情になると諦めたのか、その女性の口に布を突っ込み上から布で結ぶと繋がれている鎖を断ち切った。

そしてすぐに手を後ろで縛ると目隠しまでして入り口まで運んでいった。


「よし、ここからは私がエリア外まで運ぶ。少し時間を置いて後はマナが好きにやれ。ただしフォローできるタイミングで動いてくれよ」


「了解です!任せてください」

満面の笑みで返すマナに少し不安を覚えつつもアルディオスは女性を連れてその場を立ち去った。


今話も読んでいただき、ありがとうございます。

今話は戦闘パートがあったので・・また魔法紹介を書かねばねば。

特に今回は多い上に音消し系を連発してしまったし、混乱させないためにも(汗


次話は金曜に更新予定です。いけそうなら木曜に更新するかも・・。


魔法紹介

<気配消失>静:術者の魔力や気配を感じさせなくする。但し術者の範囲十数mにしか効果がない。

<静寂>静:術者が起こした音を消失させる。

<音探知>静:一定範囲の相手の数や魔法使いかどうか、位置などを特定する。音属性にも同名の魔法あり(性能違う)。

<静寂の結界>静:一定エリアでは音は一切外に漏れず、外の音も聞こえなくなる。

<二十重ね>光:術者の左右から各20本光線を発生させ目の前の対象を貫く。射程が短い。

<熱感知>火:周囲の対象を熱により感知する。範囲は広め。気づかれにくさは普通。

<吸音の幕>静:一定の範囲内ですべての音が発生しなくなる。外の音は聞こえる。範囲はある程度自動で広がる。

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