火属性魔法使い、マナ
4章スタートになります。
まずはキャラクターにスポットを当てた話からです。
時はコウがルーデンリア光国に住むことになる20日ほど前
ルーデンリア光国内のとある場所。
大きな机に複数の資料を並べながら座ったまま手に持った資料を眺める短髪黒髪の女性がいた。
「はぁ、これはあまりにひどいわね。いつの間にこんな大きな組織になったのやら」
そう言うとその女性は資料の机の端に放り投げた。
「仕方ない、やはりチームを動かして殲滅するしかないわね」
そうつぶやくと、目を閉じて椅子の背もたれに寄り掛かる。
『コン、コン』
扉をノックする音が部屋に響き渡る。
部屋にいた黒髪の女性は手をかざし、扉に自分の魔力をぶつけると扉が黄色く光った。
この部屋ではこれが入室許可の合図となっている。
合図を受け部屋に入ってきたのは18歳くらいに見える赤い瞳に黒髪ストレートの少女だった。
彼女の名前はマナ。この部屋の主の配下に当たる。
「お忙しい中失礼します。フラウー様がお呼びだと聞いて来ましたが、ひょっとして何かお仕事ですか?」
最初だけは真剣な表情に丁寧な口調だったが、すぐに嬉しそうな表情でくだけた話し方になる。
いつもの事なので既に諦めているのか、資料と向き合っている短髪の女性フラウーは特に注意しない。
そんなフラウーの気持ちなど知る由もなく、マナは肩甲骨辺りまで真っ直ぐ伸びた黒い髪を揺らしながら、仕事をもらえるのを嬉しそうにしていた。
「ええ、そうよ。いつもの仕事。とりあえずはそこの資料を見なさい」
マナは簡単に一礼するとすぐに指さされた資料を手に取る。
資料には麻薬の広がりが都市外だけにとどまらず、都市内にまで少しずつ浸食している現状が報告されている。
その状況から生産数や生産規模、生産できる土壌がある可能性の高いエリアがあくまで推定として複数表示されていた。
「うわっ、これ結構な規模ですね。って、これ壁外だけでなく都市内にも薬物が入ってきているんですか?」
各都市はほとんどが高い外壁で囲まれており、外へとつながる外門は厳しく管理されているのが一般的だ。
もちろん都市内にある転移門も厳しく管理されているので、外部、特に壁外から薬物が入り込むなんてことは、普通の都市では早々起こりえない。
この資料では、この都市だけ薬物が広がっていることから、転移門ではなく外門が疑われており麻薬の生産地もこの都市の近くと推定されている。
「ええ、マナの言う通り深刻な状況よ。流通ルートはよくわかっていないんだけど、多分どこか抜け道・・最悪外門の兵士たちに賄賂が横行している可能性があるわ」
「おかしいですよ。こんな状態なら都市長から当主を経てすぐに現女王様にまで情報が上がってくるはずなのに」
怒り出すマナをフラウーは軽くなだめつつ別の資料を手に取る。
この都市の規模や責任者が書かれている資料を見てフラウーは目を細めた。
この都市の規模は他都市と比べても大きい方だが、数十年前の戦争からほとんど立ち直れておらず、手の回らないエリアにある建物の多くが放置された状態だった。
こういった都市は光の連合内に数か所あるが、原因のほとんどは先の大戦での貴族の死者が多く人材難の状況下で、重要度の低い都市に無能な貴族を配置してほったらかしていたためだ。
だからと言って人材豊富な他の貴族家に都市を譲渡するのは、統治する貴族家にとって許容しがたいことであり、半ば放置されている状態を容認せざるを得ない。
戦火からいくらか落ち着いた今現在でも、今更荒廃しつつある都市に手を入れるとなると多額の費用が必要になるので、統治する貴族家も本腰を入れるには二の足を踏んでいる。
結果、大戦から数十年経った今でも、こんな都市がいくつも現存しているのだ。
マナもその資料を見せてもらい腹を立てつつも、現状どうしようもないことは理解していた。
「で、今回はこの麻薬を作っている連中が殲滅目標ってことですね」
「まぁ、そう言うこと。1隊のアルディオスに合流して一緒に殲滅作業をやってもらいたいのよ」
そこまで聞いて、マナは自分に何の役割を求められているか考える。
そしてすぐに求められている役割が分かったのか、少し不満そうな表情に変わった。
「私を使う主目的は野焼きですか?ちゃんと重要人物だって何人も仕留めてきたじゃないですか」
不貞腐れるマナにフラウーは少し困りながらも別の資料を渡した。
「こいつらがどうも首謀者と思われるわ。とはいえ後ろ盾が存在する可能性もあるから、可能なら捕獲、ダメでも最低抹殺ね。
あと実労働を手伝っている者や護衛の傭兵もかなりいそうだけど全て殺害対象。だからマナにもお願いしているのよ」
資料を受け取ると内容が自分向きだと理解したのか、マナはすぐにご機嫌になった。
「はい、複数対象なら私が一気に焼き尽くせば楽勝なので任せてください。じゃ、アルディオスさんの所へ行ってきます」
そう言うと、マナはすぐに部屋から出て行った。
マナが出て行く後姿を見ながらフラウーは少し寂しそうな表情をする。
「今までは仕方なかったとはいえ、このままではいけないわね・・。このままじゃネイに顔向けできないわ。何かいい手があればいいけど・・」
呟きながらもフラウーは机の上に広げた資料をまとめて箱に収納し、別の箱を開けると再び資料を読み始めた。
2日後、偵察の結果待ちで待機していたフラウー直属の1隊隊長アルディオスが、マナを含めた4人を前にして作戦の説明を始める。
黒いテーブルの上には目標の施設が立体的な映像で表示され、宙に浮いた黒いパネルには目標の施設ととある都市の位置関係が表示されていた。
「作戦概要は理解したな。本日の夜半、1時に指定の転移門先に集合だ。前後10分しか転移先の転移門は受け付けないから気をつけろよ」
「隊長、指定番号を聞いていませんが」
アルディオスに視線だけ向けて質問したのは副隊長のメリシアだ。
「E452231だ」
隊長の言葉にこの場の全員がその番号を頭の中で復唱しながら覚える。
一応極秘の私設部隊だけあってか、それなりに練度は高く、さすがにメモを取る者はいなかった。
「E4ってことは、また極秘に設置した臨時の転移門か。よくもまぁそんな金が出るよなぁ」
「そこは我々の管轄じゃない。入らぬ詮索はするな」
アルディオスに怒られて反省しながら頭を軽く下げるドンギュオ。
彼ともう1人の女性フィルフィーがこの部隊では現地の威力偵察や暗殺の役目を担っている。
「他にはないか?」
そうアルディオスが言ったとき、フィルフィーが軽く顔辺りまで手を上げる。
「隊長質問ですけど」
「なんだ」
「私の横にマナちゃんがいるんですけど、彼女も参加なんですか?」
「あぁそうだ。上からの指示だ」
それを聞いて不満そうにしながらフィルフィーは手を下げる。
見たことないとは言え雇い主からの命令ならフィルフィーも了承するしかなかった。
何度もこのチームに参加した事あるマナだったが、マナに対するチーム内の認識は優秀だがトラブルも起こす困り者だった。
マナは、暗殺対象をたたききった後に爆散させたり、業火で周辺丸ごと燃やし尽くしたりして、暗殺と言うより公開処刑に近いやり方を何度もやってきている。
仕事がたとえ困難でも達成してしまう優秀さの反面、とにかく大雑把なので正直言ってチームとしても手を焼いていた。
そんなマナが今回参加するとなれば、彼女のように一言言いたくなるのも無理はない。
「フィー、不満なのは理解するが、ならばこの広大な畑をさほど時間もかけずに焼き払う代案を出してから言え」
「う~、わかりました。文句は言いません」
うなりながらもしぶしぶ認めるフィルフィーだったが、今度はマナが不満だった。
「ちょっと待ってください!私は野焼きだけじゃなくて、関係者全部を焼き払う許可ももらってるんですよー」
「わかっている。マナには少々負担になるとは思うが、資料にあるとおり、敷地内中央の麻薬工場と思われる棟の中を全部焼き払ってもらう仕事もある」
またいつもの言い合いにならなければ良いが、と思いながらアルディオスはマナの仕事を説明した。
それを聞いたフィルフィーとドンギュオは慌てて資料を読み返し、各人の役割のところからマナの役割を見直すと、げんなりした表情をする。
同様に副隊長のメリシアも確認し、アルディオスに質問した。
「作戦時間からいって妥当な仕事配分ですが、マナだと工場内の資料や人員を焼き尽くしてしまいます。
それだと背後関係や他の仲間などを探る資料、拷問相手が手に入りませんが大丈夫なのですか?」
「構わん。迅速に行動して他の悪党を威圧するのも目的の一つだ。今回は都市内にまで広がっているからこその急ぎの対応だしな。
そもそもこういう悪党共のアジトを漁っても今までまともに何か出てきた事はないだろ」
「まぁ、それもそうですね。一夜で壊滅させれば協力する傭兵や平民も減ると言う事ですか」
「その情報をばらまくのは我々の仕事ではないがな。それに丁寧な処理をする長期戦だとこの人数では元々不可能だ」
隊長の説明が終わると他のメンバーもこれ以上質問がなかったのか一旦解散になった。
解散と言っても裏の私設部隊なので、暇つぶしに町へ買い物と言うわけにもいかない。
各々、個人部屋や訓練部屋などに行き、瞑想や軽い運動、魔法書を読んだり武器の手入れなどで時間を潰す。
そんな中、比較的自由なマナは食堂に来て冷たいアイスを食べていた。
マナは火属性の魔法使いだが、決して冷たいものが嫌いなわけではない。
待機エリアの食堂で味わいながら楽しそうに2つ目のアイスを食べ始めた頃に、食堂に一隊の副隊長メリシアがやってきた。
「マナちゃん、さっきはごめんなさい。気を悪くしないでね」
「いいですよ。言われ慣れてるし、私が問題起こしていることも少しは理解してるから」
アイスを食べながら嬉しそうに語るマナだったが、自覚があるなら少しは直して欲しいと思ったメリシアだった。
「それで、フラウー様はいつもどおり元気そうだった?」
「うん、でも相変わらず忙しそうだったなぁ。こんな問題は貴族がさっさと片付ければフラウー様の仕事も減るのにね」
「確かにそうよね。でも貴族も余裕がある人たちばかりじゃないんだし」
メリシア自身もマナが言うように貴族に対して不満を持っていたが、マナの不満がエスカレートしそうなのでこの場では堪えた。
だがマナはメリシアの心遣いも気にすることなくヒートアップする。
「そもそも都市を管轄、監督するのが貴族の最も大事な仕事なのにそれをやらないのが問題なんだよね」
「まぁ、確かにその通りなんだけどね。私たちは私たちのやるべきことをやるだけよ」
「ん~、結局はそうなんだよなぁ」
何とかマナの燃え盛るような不満を逸らしたメリシアは、マナに軽く手を振って食堂から飲み物を持って自室へと戻っていった。
「ほんっと、貴族とか準貴ってまともなのが少ないよねぇ」
そうぼやきながらマナは2個目のアイスを食べ終わると飲み物を持って、作戦開始まで軽く体を慣らす為に訓練室へと向かった。
皆様が読んでいただくことでやる気も持続でき、ようやく4章までたどり着きました。
本当にありがとうございます。
次話は水曜日に更新予定です。
また2日空きで申し訳ない。。