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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
3章 日々是修行(49話~107話)
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幕間:コウと侍女、2人の2日間③

丸囲み数字を使っていましたが、今更ながらpartを使った方がよかったかなと思ったり。

幕間、3/3話目です。


ここまでのあらすじ

コウは昼食を終え、お昼の自主練も終わりました。



昼の修行も終えて隠れ家に戻り大部屋へと入ると、エニメットが夕食の準備をしていた。

「戻りました~」


師匠達がいた時の癖で戻ったことをアピールするとエニメットがこっちを少し困った表情で見つめる。

さすがにそんな表情で見られればすぐに俺も失敗に気づく。


侍女に対する言葉じゃないってことだよね、師匠たちがいる生活に慣れきってついつい間違っただけなのに。


「わかったよ。で、戻ったけど夕食まであとどれくらい?」

「申し訳ありません。あと20分ほどかかります」


俺の言い方に満足したのか、普通の表情に戻ってエニメットは答えてくれた。


「そっか、それじゃゆっくりしておくね」


俺はそう言ってちゃぶ台くらいの高さの小さな机を取り出し、魔法書をアイテムボックスから取り出して読み始める。

さっきまで練習していた魔法の属性優位性や他の応用方法、さらなる使い方を考えるためだ。


一応言っておくと、俺だって好きで隠れ家に戻ってまで魔法書を読んでいるわけじゃない。

そりゃエニメットと交流を深めたいし、何ならちょっと意地悪してみたい願望もないわけじゃない。


『それはいけません、コウ様』なんて台詞、普通に生きていて聞けるもんじゃないしな。


とは言え帰ってきた師匠たちに軽蔑の目で見られたくはないし、

明日夕方くらいまでは2人きりで過ごす侍女と、かなり気まずい雰囲気になるのは避けた方がいいに決まってる。


だったらそういうのは諦めて仲良い雰囲気を作ろうとしても、そういう方向に対してはエニメットがガードの固さを見せている。


結局やる事が魔法書を見るくらいしかないんだよなぁ・・、なんか自分が情けなく感じた。

そうこうしているうちに夕食が出来上がり、食事のためにいつもの位置に座る。


エニメットは再び食事を共にするのを避ける雰囲気だったが、俺が食事に手を付けずなんで座らないの?といった表情を見せると仕方なく自分の分も机に置き着席する。

こういう素直な感じは本当にかわいいと思う。


「頂きます」

俺が手を合わせて食事に感謝をすると、エニメットは不思議そうに俺を見ていた。


「あぁ、これは俺が以前いたところでみんなやっていた食事前の挨拶みたいなものなんだよ。意味は食事を作ってくれた人、材料を作ってくれた人、素材の命に感謝をって感じかな」


「私には別に感謝されなくても、仕事として当然のことですので・・」


「そりゃそうだけどさ、雑に作ることも丁寧に作ることも出来るんだし、自分がやったんじゃない以上感謝くらいはちゃんとしないと」

俺がそう言うと、エニメットはあからさまに戸惑っていた。


この世界での貴族と侍女の地位の差は絶壁並みにあるのか?と思いつつも、今はここでは俺が一番偉いんだし俺のルールに従うようにと告げると

エニメットは戸惑いながらも仕方なく俺の真似をし、それを見て俺は何となく嬉しくなった。


「うん、やっぱり夕食も美味しいね。昼間の味付けよりしっかりしてるから食べ応えがある」


「はい、朝やお昼は少し薄めに、夜は少し濃いめにとクエス様から言われていましたので」


師匠達の用意した食事はいつもざっくりした感じだった気がするが、一応その辺は気にしながら作っていたらしい。

俺が作る時はそこまで気にしていなかったなぁ、まさかここでこんな問題点に気づかされるとは思わなかった。


「なるほど、環境が変わると気づかされることがあるなぁ」

「そう、ですか?」


そんな感じで他愛のない会話をしながら楽しく夕食もいただいた。


そう言えば最近はご飯も頻繁に食事に出ていたのだが、よく見ればいつも置いてある炊飯用魔道具が台所に置いていない。

あれってまだ世間一般には秘密という扱いなのだろうか?


この世界の事をあまりよくわかっていない俺があれこれ言いだすと問題になりかねないので、仕方なくここではご飯に関しては黙っておいた。

この濃いめの味付けにはぜひ欲しかったんだけどね・・。



夕食が終わったので、俺はエニメットを読んで話をすることにした。

見た感じ後片付けが終わった後はやることが無いようだったので、せっかくなら外の話が聞ければと思ったからだ。


「ね、やることが無いんだったら色々と聞きたいことがあるんだけど」


「分かりました。簡単な飲み物をご用意しますので、しばらくお待ちください」

そう言って準備を始める。


俺は床に座ったまま食事前に使っていた小さなテーブルの上に再び魔法書を置き、読みながら待つことにした。

しばらくするとエニメットがやってきて机の左側座り、俺と自分の前に紅茶を置いた。


「聞きたいことがあるとのことですが、どのようなことでしょうか?」

座るなり早速質問してくるエニメット。


個人的には質問というよりもっと気楽に話がしたくて呼んだので、そうかしこまられるとちょっとこっちも身構えてしまうんだけど。


「いや、俺ってあまりここの外のことを知らないから色々聞ければなと思ってさ」


「そうですか。といっても私もアイリーシア家にお仕えしてかなり経ちますが、外のことはそこまで・・」


あー、そういうものなのか。

でもそれでも俺には十分だった。なんせ俺はアイリーシア家の事すらまともに知らないからな。


「んー、だったら向こうではどんな仕事をしていたの?」

「侍女としての仕事です。城内の掃除や食事の準備とかになります」


「それってクエス師匠の周りのお世話ってこと?」

「と、とんでもないです。クエス様はそもそも専属の侍女を置いておられないんですよ」


「はぁ、専属って普通の侍女と違うの?」


俺が全然わかっていないことを理解したエニメットは呆れた様子で詳しく教えてくれた。

その上、俺は準貴族で侍女を使う側なんだから、こういうことはしっかりと理解して欲しいとまで言われてしまった。


専属は側付きと言われることもある職種の1つで、侍女の中でも出世先として最終目標に近い地位に当たるらしい。

蛇足だが、侍女がなれる最上位に当たる地位は貴族・準貴族相手だと妾になるらしく、幹部兵士相手だと普通に結婚という形になるそうだ。


もちろん貴族相手の妾の方が立場は強く金銭的にも上らしく、ほとんどの侍女は妾の方がいいと思っているらしい。

俺的には結婚の方がよくね?と思ったが、失言になりそうだったので口に出すのは止めておいた。


「今のエニメットは・・状況的に俺の専属になるの?」

何となく聞いてみたらエニメットはかなり動揺しながら否定する。


「いっ、今はアイリーシア家に依頼されてコウ様の身の回りの世話を行っているだけです。専属は・・待遇も、かなり変わりますから」


専属になったらもう少しこの距離感も縮まるのかなと思いつつも、ここでは口には出さなかった。

その辺のことは俺に権限があるとは思えないし、露骨に期待を持たせるのは良くないとも思ったからだ。


とはいえ、今日だけでもかいがいしく働いてくれたんだし、ごはんも美味しかったし

せめてちょっとくらい、向こうに戻った時にボーナスが出るくらいのことはしてあげられないかなと思った。


「まっ、何か機会があったら師匠にエニメットは素晴らしかったと言っておくね」


何となく軽い気持ちで言ったのだが、エニメットは目を見開いて驚き深く頭を下げてきた。

あっ、こんな言葉でも期待を持たせてしまうのか?とも思ったが・・今更否定するわけにもいかず、そんなに頭を下げないでと苦笑いでその場をごまかした。


彼女の立場としてはこんな貴族意識0の準貴族の専属でも美味しい話なのかもしれない。

不用意なことを言えない立場なんだなと、改めて実感させられた。



夜寝る時間になってもエニメットは大部屋にいたままだった。

さすがに隣に布団を用意する事はなかったが、俺とは離れた場所に布団を準備する。


「何かあったときは大声や魔力で知らせてください。命をかけてでもお守りするのが私の仕事ですから」


「あ、ありがとう。でも、今まで何か起きたこともないし大丈夫だと思うよ」


「それでも万が一がありますので」

そういうとエニメットはエプロンを外しただけの格好で布団にもぐる。


俺も周囲に出していた明かりを消してそのまま寝た。

ちょっとだけ、ちょっとだけ何か起こるんじゃないかと期待したけど、結局何もないまま朝を迎えた。




俺が起きると既にエニメットは朝食の準備のために台所に立っている。

もちろん布団も既に片付けられているので、俺も起きると直ぐに布団を片付けた。


「おはよう、エニメット」

「おはようございます、コウ様」


軽く挨拶を交わすと日課の瞑想の為、俺は部屋を出ようと扉に手をかけた。


「どちらへ行かれるのですか?」

「ちょっと朝から魔力を整える為に軽く瞑想しておこうと思って外に」


「わかりました。後15分ほどしたら朝食の用意が完了しますので、完了次第お呼びいたします」

「ああ、ありがとう」


おれは少し寝ぼけ眼のまま外に出て、朝の自然の空気を命一杯吸い込むと、いつもの定位置に座り瞑想をする。

ぶっちゃけ朝一はいつもはほぼ部屋の中で瞑想をしていたが、今日はなんか邪魔しちゃ悪いかと思って外に出る事にした。


いや、師匠たちには邪魔してもいいと思っているわけじゃないけどね。

師匠たちは魔法でてきぱきと準備するから、エニメットがほとんど魔法を使わずに料理しているのを見ると

自分の瞑想ですら邪魔になるんじゃないかな、と勝手に考えただけなんだけどね。


「ふーっ」


息を吐き、目を閉じ、全力で魔力を放出して数秒後に放出した魔力を自分の周囲にとどめる。


昨日から食事が美味しかったせいか、ちょっとご機嫌に魔力を出しすぎたみたいで制御に少し苦戦するが

問題なく魔力を留めて、それをゆっくりとそこそこ複雑に動かし始める。


経験から言って今日も魔力を動かす感じは悪くない。

ベストな状態で自主練の修行が出来そうだった。




暫くすると門が開く音がしたのですぐさま目を開き周囲の魔力を霧散させながら手を振る。

「もう用意できたの?だったらすぐ行くよ」


そう言って立ち上がると、エニメットは軽く礼をして隠れ家の中へ戻っていった。

あまり仰々しく言われたくないのでこちらから即話しかけたが、思ったよりよかったかもしれない。


気になることがあったので、俺は朝食を食べながらエニメットに尋ねてみる。


「ねぇ、エニメットは侍女なのに魔法が使えるんでしょ。どれくらいなの?」


「えっと、私は光23ですね。兵士になるしかないかと思っていた時にアイリーシア家で侍女の募集があったので」


「そっか。魔法は光一閃とかは使える?」


「いえ、基本的に防御系が得意なので・・そこも加味されて侍女になれたと思っています」


聞くと、兵士はどれかの属性がLV20以上でなれるらしく、侍女も専属を目指すなら同条件らしい。

逆に言えば専属を目指さない侍女や近侍だと魔法が使えなくてもいいらしい。


そんな雑談をしながら、結構距離が縮まったかなと思いつつ朝食を終える。

そして自主練で昼間になり、昼食を食べ終わった頃に師匠たちが帰ってきた。



「ふー、帰ってきたわよ~。ってちょうど昼食が終わったところみたいね」


「お疲れ様ですクエス様。ボサツ様。お食事がまだでしたら今から準備いたしますが」


「大丈夫です。魔物討伐の簡単な宴で食べてきましたから」


エニメットは来た頃の凛とした態度に戻り、師匠たちは相変わらずのラフな対応だった。

エニメットの態度から、クエス師匠ってアイリーシア家に戻ると結構厳しいんだろうかと思ってしまう。


「んと、それじゃそろそろエニメットには戻ってもらうけど、どうだった?何か変わったことはあった?」

「いえ、何も変わっておりません」


「そっか、それじゃそろそろアイリーに戻りましょ」

「わかりました」


エニメットはクエス師匠に深く頭を下げると、俺のほうを見て軽く会釈する。

俺も釣られて会釈しそうになるが、すぐに気づき軽く右手を上げた。


それを見てエニメットは少しだけ表情を崩したかのように見えた。

そして彼女はこの隠れ家から去っていった。




2人が転移門で戻っていったので俺はボサツ師匠と2人っきりになる。

となれば聞きたいのはやはり魔物討伐の話だ。


「師匠、今回の魔物討伐ってどんな感じだったんですか?」


「ええと、そうですね。ちょっと魔物の群れが都市付近で発見されたので早めに片付けたと言う話です」


ほぉ、なんかわかるようなわからないような。


「都市には防衛の兵士たちもいるんですよね?」


「ええ、確かにいます。ですが、規模が大きかったり危険指定されている魔物が出た場合は私たち三光のメンバーが呼ばれる場合があります。

 ちなみに今回は後者でしたが、さほど脅威ではない対象だったので簡単に片付いたのです」


まぁ、強い奴が出れば強いのをぶつけるのはセオリーだからな。

弱い奴をぶつけて被害を拡大させるほどおろかな指揮官はいないのだろう。


「コウもいつか私たちと一緒に魔物討伐を行う機会が来るかもしれませんよ」


「その時は、師匠たちをサポートできるよう頑張ります」

「期待しています」


ボサツ師匠は嬉しそうに答えるので、なんか俺も嬉しくなった。


「そういえば、あの侍女はどうでした?」


「えっ、どうでしたって・・いや普通にいい仕事が出来る人だなと思いましたけど・・」


「んー、そうですか」


そういうとボサツ師匠は午後はクエス師匠が指導するとのことで、なんだか嬉しそうに部屋へと戻っていった。

俺はなんだか変だなと思いつつも、あまり深くは考えずクエス師匠が戻るのをこの大部屋で待つ事にした。



◆◇◆◇



アイリー城へと戻ったクエスとエニメット。

転移後、すぐにエニメットの目隠しを解きクエスは自分の執務室へとエニメットを同行させた。


「ひとまず御疲れ様。特に問題もなかったようね」


「はい。最低限の御世話は対応できたと考えております」


「そう、それで彼に対する感想はどう?」


「か、感想ですか・・。少し、変わった方だとは思いましたが」

想定外の質問にエニメットは少し動揺しつつも答える。


「そっか、まぁ、コウは貴族としての経験が薄いから変わった感じに見えるかもね」


それを聞いたエニメットは思わず悪い意味で言ったわけじゃないとアピールしようとしたが

わかっていると言わんばかりに、クエスは笑顔でエニメットを落ち着かせた。


「しかし変わっていないと言う事はコウに手を出されなかったのね?」

「は、はい。私はそんなに愛嬌のあるほうではありませんので・・」


「うーん、そっかぁ。コウは侍女とか結構好きだと思ったのにね。やっぱり頭にあの白い飾りがないとダメなのかしら」


とりあえず表情を崩してはいけないと緊張したまま、エニメットはクエスが言っているわけのわからない独り言を黙って聞いていた。


「まぁ、後はコウ次第ね。師として赴任する直前に専属を1人付ける予定だけど、その時に貴方にするかどうか聞くことにするわ。専属の話はその返答次第ね」

「わかりました」


奥歯に力を入れ一瞬間をおき、エニメットはクエスに答えた。

その後、通常の仕事に戻るよう指示を受け退出した。


「まぁ、予想通りの結果ね」

そうつまらなそうにつぶやくとクエスはコウを指導するために隠れ家へと戻っていった。



これにて3話構成の幕間終了です。楽しんでいただけたなら嬉しいです。

3章にもう一つ考えていたのですが・・それは無事、途中で本編に入れ込みました。


3章で既にこの量になっているのに・・今話まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

次話からは本当に4章になります。

これからも定期的な更新を続けていくべく頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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