幕間:コウと侍女、2人の2日間①
今話はもともと1話くらいに収めるつもりで書いていた幕間でした。
でしたが・・が、前後を足しているうちにちょっと量が増えすぎてしまって・・
こんなことなら本編に入れておけばよかった。
これは、コウがクエス師匠との実戦練習②を開始して少し経ったころの話
場所はアイリーシア家、アイリー城
正装した王族であるクエスと、同じく正装した国王のミントが共に大き目の部屋で待機していた。
そして十数分後には、この部屋に優秀な十数名侍女たちが集まるよう呼び出しをかけている。
「さーて、優秀で条件に合う侍女が見つかればいいけど」
「それもちゃんと本人が希望すると言う条件付でしょ。お姉ちゃん、それって結構難しいと思うよ?」
クエスは少しワクワクしていたが、ミントは対照的にその横で不安そうにしていた。
「メルル様のところから人員を借りれば優秀な侍女はいると思うんだけど・・」
「そうなんだけど、それじゃあっちには連れて行けないわよ。うちに所属している侍女で、スパイの可能性が限りなく低く、見た目が若い子、これが最低条件よ」
「うーん、わかるんだけどさぁ、最後の条件って本当に必要なの?」
「魔法使いになっている侍女は、大体は見た目が若いからいいじゃない。それに今回の人選は、この先コウの専属にする事まで視野に入れているんだから」
クエスの意見に押されながらもミントは少し納得がいかないようだった。
が、万が一コウが手を出す可能性を残しておくのはミントも一応納得していたので、せめてこれ以上の条件を付加しないようにミントは早めに折れることにした。
2人が相談しているうちに侍女数人が扉の前に集まってきたのか、外が騒がしくなる。
集合時間の10分前だったが侍女たちを入室させるため、クエスは扉のロックを解除しそのまま扉から離れた位置で魔法を使い扉を開ける。
「入ってきて。部屋の前に来た順番に一列5人で、貴方たちからみて左から順に並びなさい」
クエスの指示を受けて侍女たちは順番に並んでいく。
ちゃんと来た順番を互いに確認しながらだったので、不正している者はいないようだった。
「集合時間までは後10分ほどあります。時間まではそのままで待機するように」
国王であるミントの一声に集合した侍女たちはかなり緊張した様子で、直立したまま互いに話すことなく真っ直ぐと正面を見て並んでいた。
クエスは侍女たちの前に置いてある2つの椅子の片方に座るとパネルを取り出し、1人1人の情報を確認する。
パネルには顔写真と身長などを含めた身体的なデータ、侍女としての各仕事の簡単な評価
魔法の才能と現在の実力、現在所属している配置部署から経験人数まで色々な情報がこと細かく表示されている。
既に6人並んでいるところに、2分後に2人、更に2分後に4名が加わった。
「そろそろかな」
まだ集合時間の5分ほど前だったが、クエスの始めるような口ぶりに立って整列している侍女たちに緊張が走る。
ここに集められた侍女たちは、実はまだ何の目的で集められたのかがわかっていない。
その為、皆が必要以上に緊張していた。
残り3分になって侍女3人がやってくるとクエスは張り紙を扉の外へ飛ばしつつ、魔法で扉を閉めてロックした。
そして青白い小さいお香入れのような魔道具を取り出すと、<静寂の結界>を発動させて外へ音が漏れないようにする。
なお、外の張り紙には『入場禁止、呼ばれた者は各自の仕事へ戻ること』と書かれていた。
「2名、でしたね。クエス姉さん」
「そうね。この2名なら外しても構わないわ」
そういってクエスはこの部屋に集まった15名の侍女を1人1人チェックしていった。
侍女たちはみな緊張した表情のまま、国王であるミントとその姉であるクエスを見つめる。
しばらく侍女たちの目の動きなどを確認していたクエスは、軽く息を吐いて話し始めた。
「まずは今日集まってもらった目的を話すわ。あなたたちの中から1人、とりあえず2日間ある人物の身の回りの世話をする人物を選ぶつもりよ。
場合によってはこれから先で、その人物に専属に付かせる可能性もあるわ。
それとこの件は一切他の人には言っていけないことも覚えておきなさい。ここに集まったことも含めてね」
普段ならここで侍女たちは互いを見合ってざわざわと話し出すのだが、さすがに国王とその姉の王族を前にしてはそういった態度をとる者は1人もいなかった。
皆緊張しながらも視線を変えず、話しているクエスを見つめている。
「まずは質問のある人はいる?答えられる範囲でなら答えるわよ」
さすがに侍女たちも立場上躊躇したのか、クエスの問いかけにも関わらず部屋は静寂に包まれた。
だがしばらくして1名の侍女から顔の位置辺りに手が上がる。
「クエス様、選ばれる基準はどのようなものになるのでしょうか?」
「そうね、これから希望者をテストしてその中から残ったものを1名といったところね。正確な基準は教えられない」
最初の1人が尋ねたおかげで質問しやすくなったのか、別の侍女が尋ねる。
「その方は、アイリーシア家の方でしょうか?」
「ええ、そうよ。ちなみに準貴族ね。選ばれたら2日間その人の身の回りの世話をすることになるわ。専属云々はそこでの評価にもよるわね」
それを聞いて侍女たちは各々考え始めた。
今ここにいる侍女たちは全員魔法使いで一定の地位以上の兵士たちの世話役以外にも、城内の清掃、食事を作ったりと様々な仕事をしている。
魔法使いと言ってもそこまで実力があるわけではないが、治癒魔法や補助魔法や防御魔法が使える者は戦場に同行するものもいる。
もちろん侍女の男性版である近侍もいる。
(侍女と言っても貴族の専属の側人から一般メイドのような存在まで色々あるが、この世界では地位は違っても呼称は全て侍女となる)
そんな侍女たちが貴族ではないものの準貴族の専属になれるチャンスがあるとなれば、見逃すものはほとんどいなかった。
専属になれば当然給金も違うし、待遇面がかなり良くなる。
まず、準貴族以上の者の専属となると個室になる上に、仕える者が許せば食事も豪華になることが多い。
さらに四六時中やる事がある雑役の侍女たちとは違い、仕える者に対して集中するべきということで仕事量も減ることがほとんどだ。
他家の専属という話ならば一から覚えることが多いので遠慮する者も多いが、同じアイリーシア家ならそこまで面倒ごとも増えない。
そんな餌をぶら下げられ、クエスの回答が終わるとここにいる全員がかなりやる気になっていた。
「他に質問がないのなら、質問はこれで終わり。まずテストに移る前に、辞退する者がいれば今すぐこの部屋から出て行っていいわよ」
クエスの一言に呼ばれた侍女全員は身動き一つせず、真っすぐとクエスの方を見つめた。
「なるほど」
クエスはある程度この状況を予想していたのだろう、顔色一つ変えずに先に進める。
クエスはミントを見るとミントは軽くうなづき、入れ替わるように前へ出る。
「ではテストを始めます。私の魔力を抵抗せず受け入れなさい。っと、その前に一つ言っておくわ、この件はテストがあったことすら他言無用よ」
そう言ってミントは型を作り始め、侍女たち全員を対象にして魔法を発動させる。
侍女たちは魔法を抵抗することなく受け入れ、各々が幻術を見始めた。
幻術の内容はさっき国王から言われた約束事を、親しい人相手でも話さずにいられるかを試すものだ。
これは単純な試験であり、重要な試験でもある。
コウのことを世間に出来るだけ知られたくないクエスとミントにとっては、お話し好きの侍女など不要な存在だからだ。
5分ほどして、1人の侍女の頭の上に桃色の魔力の球体が浮かび上がるが、他の者からは浮かび上がらなかった。
「おおっ、すごいわね。1人しか脱落者がいないってこと?」
「そうみたい。じゃ、別の状況にしてみる」
ミントはそういうと再び型を作り別の状況を思い浮かべながら魔法を発動する。
しばらくは何の反応もなかったが、10分ほど経つと次々と頭の上に魔力の球体が浮かび上がる。
「・・今度は一気に出てきたわね。全部で11人じゃない」
「だね。この子たちまだまだ甘すぎる」
ミントは少し怒った様子でその情景を見つめていた。
「こんなに脱落者が出てくるなんて、どんな条件にしたの?」
「ここで一緒にテストを受けたメンバーに今日のことを話しかけられて話すかどうかだけど?」
「なんか引っかけっぽいやり方ね」
クエスは少し顔をしかめるが、ミントは毅然とした態度で反論する。
「そういうやり方で情報を取って来るスパイだっているんだから。大事なチェック項目よ」
「うーん、まぁ、そう言われればそうね」
クエスが複雑な表情をしているのを一瞬チラ見して、ミントは再び型を組んで別のシチュエーションをテストする。
今度は4人の侍女の頭に反応があったが、それは全員先ほどの11人と被っていた。
この時点で1次試験をパスできたのは4人だけとなった。
ミントはまだ幻術のかかっている合格者の手の中に銀貨を1枚握らせると、侍女たちの正面に戻り幻術を解いた。
侍女たちはふらつくものや、明らかにやってしまったと悔しそうに眼を閉じるものなど様々だった。
「今手の中に硬貨を持っている者だけが合格、後は退出しなさい」
ミントの言葉に多くの侍女たちは手を開いたり閉じたりしつつも、硬貨がどこにもないことで不合格を悟り、整列して11名がこの部屋から出て行った。
さらにその後、クエスが1対1面接でどうでもいい話をしながら侍女の性格を見極める。
もちろん見極めるのは性格がコウに合うかどうかだ。
「さて、あなたは専属になりたいの?」
「はい、もちろんです」
「話は変わるけど、うちでの侍女の仕事って結構大変だと思う?」
「い、いえ。とてもやりがいがありますし、毎日が充実しています」
「そう、で得意な仕事は?」
等という侍女たちには何とも感触の掴みにくい面接が4名それぞれに行われ、全員そこで仕事に戻るよう命じられた。
クエスとミントは面接やの結果や能力を見比べつつ、最終的には能力を見た上でエニメットという侍女に決定した。
翌日エニメットは城内のほとんどの者が入ったことのないクエスの執務室に呼ばれた。
入ったことがある者がほとんどいないのは、クエスがここで仕事をすることがほとんどないからなのだが。
「失礼します。エニメット参上しました」
その声に反応してか、扉が光る。
扉の両側には少し離れた場所に近衛兵が1人ずつ立っていたが、侍女には目もくれず立ったまま周囲を警戒している。
数秒待って、エニメットは扉を開けると深く礼をし、扉を閉め再び礼をした。
その様子を見たクエスは手招きをし、エニメットを近くに呼ぶ。
「うん、いいわね。これなら彼に合いそう」
そう言って笑顔を見せる。
その一言にもエニメットは表情を変えなかった。
「その様子だと特に質問もなさそうだけど・・」
「はい。選ばれたことを感謝し、2日間精一杯頑張ります」
「あ、一応言っておくけどあなたが付く対象がもしあなたを求めてきたら、流されても構わないわよ。その時は貴方をその対象の専属として内定させるわ。
ただ貴方から誘った場合は、確定で専属候補外にする、いいわね」
クエスの一言にエニメットは視線をそらし何か考えたようだったが、すぐにクエスを見て軽く礼をして了解の意を示した。
一応3話予定の小話です。
何でこれを本編に入れ込まなかったんだろうか・・。
早く4章に行こうとして飛ばしてもいいかと思ったのが、最大のミスですね。
今話も読んでいただきありがとうございます。
明日も更新予定です。