コウの戦い鑑賞会 in ギラフェット家
ここまでのあらすじ
コウは勝利し帰宅。その後のギラフェット家では
一方場面は、コウが帰った後のメルベックリヌ城内
トマクはボルティスの指示で救護班から集中的に治療を受けることとなった。
カプセルに籠るまでではないと判断されたものの、トマクは全治8時間と診断され戦闘ログの確認会に参加できないことになった。
トマクは俺の傷を治ってからしましょうと必死に抗議していたが、メグロやルルフェリがボルティスにログを見たいと急かしたため
トマクは実際経験したからいいだろうという事で抗議は却下され、希望者は別の部屋に集まって即ログの上映会が行われることになった。
部屋に集まったのはボルティスを始め、メグロ、ルルカ、ルーチェ、そしてルルフェリだった。
あまり広めるわけにもいかない話だったので既に状況を知っている者以外の参加は見送られた。
まずは最初のルトスとコウの戦いを大きなパネルに表示する。
パネルの左右上部には既に分析済みなのか、2人が発した魔法の名称とどれくらいのLVの状態で使用されたかを威力から想定した数値が表示してある。
コウがルトスに1撃を入れ中断したところでいったん映像を止める。皆見るのに集中していたのを一旦解いて話し出す。
「私はここでルルカ様を一度呼びに行ったのでここから先は楽しみですね」
メグロにとってここまでは一度見た戦いだったが、より詳しく見ようと先ほどの映像もじっくりと観察していた。
「メグロ、お前にはこの時点でコウに余裕があるとわかっていたか?」
「今見てみると、コウには動きの余裕が見られますが、この時は何となく余裕があるのかな程度でした」
「そうか、確かにこうやって見ると各所にコウの余裕が見て取れるな」
メグロとボルティスは簡単に感想のやり取りを行う。
「まぁ、ルトスとなら勝たないと話にならないわね」
「ルトスお兄様と私はあまり実力が変わらないので勉強になります、コウの動き少しは参考になるでしょうか」
二人の王女も少し姿勢を崩しながらそれぞれ呟いていた。
再び映像を再開させる。
コウが霧を発生させて映像が真っ白になり始めると、ルトスとコウがいる場所がそれぞれ黄色と青の点線で囲まれて表示される。
そしてあっという間にコウがルトスを追い詰めて壁に叩きつけた後追い打ちを入れたところで映像は終わる。
「的確ですね。しかも戦い慣れしてる」
映像への集中を解くと、第一声で感心するメグロにルルカが突っかかる。
「ルトスなんか私でも余裕で倒せます。ここは特に見る価値がなかったのでは?」
「えっ、いや・・そうかもしれませんが」
何で自分に突っかかって来るんだと困惑しながらもメグロはとりあえず意見を合わせた。
その横でルーチェは呟く。
「コウってすごいのですね。的確に追撃をしていますし、それでも余裕があるように見えます」
「ほぅ、余裕があるように見える根拠は?」
ボルティスがルーチェの呟きを拾い尋ねるとルーチェはびっくりしつつも答えた。
「コウの周囲の魔力はまだ十分に残っていますし、風刃を放った後も再び魔力を放出しています。まだ次の相手の動きに対応しようとする辺りに余力を感じたので」
「そうか。確かにその通りだ。よく見ているな」
ボルティスはルーチェが実力が劣る立場でありながらも必死にこの試合から何か学び取れないかと集中しているのを見て内心嬉しくなる。
対してルルカは明らかに自分より弱い者同士の戦いには興味がないと雑に見ているのを残念に思う。
ルルカは興味のある事には集中するタイプだが、どうでもいいと判断した途端に興味を失うので、この先この性格が故失敗を引き起こすのじゃないかとボルティスは心配していた。
だがその点を除けば優秀なタイプだし、どうでもいいと判断するのも妥当性が高いことが多かった為に、ボルティスもなかなか注意しずらいところがあったのだが。
注意しずらいのは、将来有望だが性格が固いという点だけでなく大事な娘だからというのもあるが。
「では次はトマクとコウの試合だな。この試合は特殊でトマクの勝利条件はコウを大きく負傷させず15分経過させることと、コウから傷を受けないこととなっている」
映像を流す前にボルティスが説明する。
「お父様、15分負傷させずっていうのは?」
「トマクがコウを最初にボロボロにして後残り時間まで待てば勝ちになる。それではコウの実力が図れないだろう」
「実力を測るためなら確かにそうですね」
「あとはいいか?なら映像を一気に流すぞ」
不満そうなルルカを相手にせずボルティスは映像を再生する。
トマクとコウが向き合った映像が始まりここにいる5人全員が黙って映像に集中し始めた。
ルトス相手の時とは全く違うコウの連続した攻撃に最初は一同感心の声を上げていたが、だんだんコウの動きに見入って声を出すことも忘れ
コウが氷漬けになったトマクを切った時には、皆が驚きの声を上げていた。
「これは・・ちょっと、思っていた以上の実力ですね」
「あぁ、それでルルフェリはどうしたらいいと思う?」
「どう、ですか・・」
ボルティスの質問に直ぐに答えられず困ったのか、ルルフェリは下を向きながら考える。
その間にメグロが突然手を挙げボルティスに提案してくる。
「よろしいでしょうか」
「ん?どうした、メグロ」
「いえ、正直彼がここまで優秀だとは思いませんでした。なので今遅れての提案になりますが、彼を我々の軍に招けないかと思いまして」
「軍に招くなんてクエス様が反対するので不可能です。メグロ、貴方ならそれくらいわかるでしょうに」
メグロに意見にルルフェリは怒りながら却下した。
メグロとしてはコウを軍に招聘して自分もぜひ1戦やってみたかったのだが、さすがにそれを言うと戦いに誘うのに失態を演じたトマクと同列になるので
ぐっと堪えてそれ以上の発言は控えた。
「それでルルカ、ルーチェ、お前たちの意見はどうだ?」
「意見といわれましても・・お父様の御めがねにかなう人物だというのは理解しましたわ」
「ル、ルルカ様。彼は相当の人物なんですよ。彼を更に鍛え上げればそれだけで我々の戦力はかなりの強化が見込めます」
「それはわかっています。でもメグロが言うほど必死になるべき人物とは思えないだけです」
メグロの訴えをルルカは一蹴する。
ルルカにとってコウは確かにそこそこすごい魔法使いであり、家の戦力になるのも理解できたが、所詮は有能な一兵士という認識程度しか持っていなかったからだ。
父の思惑はなんとなく理解していたがルルカ本人としてはコウにそこまでの価値を見出していない。
確かにコウは4色使えるというかなり珍しいタイプだ。
だが今日の試合を見た限りコウの使った魔法LVの上限は35程度で、4色持ちといえども魔法LVは高くなく、ルルカにとっては将来の自分の相手には不合格だった。
父の跡を継ぐ候補である自分の相手には、光属性で42以上それ以外の属性ならもっと上の相手がふさわしいとルルカは思っていたからだ。
メグロが黙ってしまったのを見てルーチェが続く。
「お父様、コウはかなり優秀な魔法使いだとわかりました。私としては是非一門にいて欲しいと思います」
「それはそうね。兵士としては欲しい人材よ」
ルルカが間髪いれず同意する。
ルルカは自分が強引に呼ばれた事から、父であるボルティスからコウを自分の相手にどうだと示された為に拒否感を出しているのであって
あくまでコウは価値のある存在だと、ルトスの傷を見た時点から考えを改めている。
なので誤解されないように、ルーチェの発言に自分もコウには価値があると判断はしている、とアピールする為に言葉を続けた形だ。
ルルカの見せる焦りにボルティスは困りつつ、ルルフェリを見る。
「ええ、少なくとも一門からは逃したくありませんね。最悪でも派閥内には欲しい人材です。
うちに来ればベスト、クエス様のところならベターといったところでしょう」
「まぁ、現時点ではそうだな」
「とはいえ無理にクエス様から取り上げようとすれば、現時点ではとてもリスクが高いとしか言えません」
ダメ押しのようなルルフェリの進言にボルティスは静かに頷くだけだった。
コウの状態を詳しく説明すればもっと積極的な意見を出し合う事ができたのだろうが
制限がかけられているコウの情報をここでべらべらと話すわけにも行かず、ボルティスは味方が作れず困っていた。
せめて自分の娘たちがもう少し好印象を持ってくれていたらと思ったが、そこも期待通りには行かない。
「とりあえず事が大きくならない程度に、コウの事は注視し軽く誘いをかけるだけとしよう。
メグロ、ルルフェリ、お前たちはここまでで良い。ルルカとルーチェはもう少しだけ話しがあるから残ってくれ」
その一言にメグロとルルフェリはそそくさと退出する。
残れといわれた事でルルカは少し不満そうに、ルーチェは自分もなのかと不思議そうにしていた。
2人が退出し、部屋全体が再び外部に音が漏れないようになったとき、開口一番ルルカがボルティスに噛み付く。
「お父様、言われなくても意図はわかっています。私に彼を選んで欲しいのでしょう?でも正直言って今の情報ではとてもそんな価値がある人物には見えません。
私はこのギラフェット家を継いで発展させていこうと考えています。あてがいたいなら妹のルーチェかレリアにでも・・」
「いいから少し待て」
ボルティスの圧のある少し低い声に、ルルカは黙ってしまう。
「お前の気持ちはわかった。確かに2人を呼んだのはコウをただ紹介する為だけではない。
よしんばコウを気に入ってもらえればという意図があった」
「で、でしたらなお更私の気持ちも」
「あぁ、ところでルーチェはどうだ?ああいったタイプは嫌いか?」
「いえ、特には。どちらかといえば好感が持てますが、お父様が勧めるのであれば受け入れるつもりです」
「そうか・・」
まぁ、いきなり顔合わせしたコウを気に入るなんて無理があるとは内心思っていたものの、娘たちの返答にボルティスは少しがっかりした。
それと同時にこれはルールを破ってでも手を討っておくべきだと考える。
現在の様々な状況を考えると、コウを放っておくと多くの貴族からアプローチをかけられる可能性が高いからだ。
こうなる事を懸念していたであろうクエスには悪いと思ったが、ボルティスは是非コウを自分の娘と結ばせたかった。
もちろん最高の結果はルルカの元へコウが婿入りし、ルルカがギラフェット家の当主を継ぐことだ。
コウの実力を引き継いだ子供が出来れば、ギラフェット家はさらに安泰になる。
一門のトップである当主には光属性がとても高い者がふさわしいので、当主候補の子を作る点では光が第一属性でないコウはいまいちな存在ではあったが
兄弟に多種多様な属性を扱えるものが複数生まれれば、ギラフェット家の戦力がかなり厚くなるに違いなかった。
「いいか、今から本来は話してはいけない事を伝える」
真剣な顔つきでボルティスが決まりごとを破ると宣言したので、ルルカとルーチェはびっくりして一度互いに顔を見合わせた後
その表情が固まったまま再び父ボルティスを見た。
「お、お父様?」
二人の困惑した声が重なるもボルティスは表情を変えない。
「これはルール破りだ。これが発覚すると色々と面倒な事が増える。2人には決してこの事を決して漏らさぬよう
聞いたことを出来るだけ他に知られないよう努めなければならない。同意できるなら誓いを立てよ」
「その、どういった内容なのでしょうか?」
困惑するルルカを置いてルーチェはボルティスに尋ねる。
「彼、コウの事についてだ」
2人ともそうだろうとは思っていたが、予想が当たった事もあって少しだけ落ち着く。
そして少し悩んだ後、ルーチェが先に、続いてそれを見たルルカも決心して誓いを立てる準備をする。
3人が互いに地面に魔法陣を出し、無色のままの魔力で型を作り魔法を発動させる。
「<誓いの印>」
3人の声が同時に部屋内に響き、周囲が魔力で満たされる。
「これから私が話すことをここにいる以外の者には決して話さず、知っていることを悟られないように努力する。誓えるか?」
「誓います」
「誓います」
ルルカとルーチェが誓うと、一旦3人の魔力が中央に集まり3つに分かれて各人の体の中へ入っていく。
これで<誓いの印>は成立した。
この魔法には先ほど誓った約束が破られた場合に、誓った者全員に誰が破ったのかを通知させる機能がある。
強い拘束力はないものの誓いを破った者が確実に発覚するので、その者に必要に応じて罰を与えられることが出来ることから、貴族内ではよく使われる魔法だ。
「誓いましたよ、お父様。それで、話してもらえませんか?」
「私も誓いました。お父様、そんなに重大な内容なのですか?」
ルルカとルーチェが不安そうに尋ねるが、ボルティスは毅然とした態度を崩さなかった。
うーん、最近筆の速度が・・じゃないな、キーボードをたたくスピードが落ちている気がする。
すらすらと書ける展開じゃないからだろうか?
とは言えこのペースは維持していきます。頑張ります。
魔法紹介
<誓いの印>無:誓いを立て、破られた場合に全員に破った事が伝わる魔法。もちろん複数人で行わないと意味がない。元は奴隷拘束の為の魔法を軽い効果に改造したもの。
ちなみに現在奴隷制度は存在せず、奴隷拘束用の魔法は禁止魔法となっている。




